医療報道はどこに向かうのか                   2009年5月23日                読売新聞医療情報部                       田中秀一             

Slides:



Advertisements
Similar presentations
医療重視から暮らし重視に 転換したスウェーデンの認知症ケア 次世代にどんな社会を残すか ホスピタリティ☆プラネット 藤原瑠美 ©RUMI Fujiwara Hospitality 2013 All Rights reserved.
Advertisements

08/04/26 医療崩壊の真実 1 金沢大学病院産婦人科講師 医療の良心を守る市民の会・発起人 打出喜義.
いのちが産まれる場所 Ⅰ.いのちはどこで産まれる? Ⅱ.日本の周産期事情 Ⅲ.長崎の事情と対策 長崎大学医学部産婦人科 増崎英明.
第 13 章 制度設定の変更が必要な 社会保障制度. 社会保障制度の重要性と それに対する根強い不安感 不景気の一因 不景気の一因 1997 年以降 かつてない不況 原因 ① 消費税率の引き上げ 原因 ① 消費税率の引き上げ ② タイや韓国を中心とした アジアの通 貨危機 アジアの通 貨危機 ③ 山一證券の経営破綻に代表さ.
健診時血圧 160/100 以上 ⑨ 市町村主催の 健康教室等へ の勧誘 健診時血圧 160/100 以上 健診時血圧 160/100 以上 健診時血圧 160/100 未満 かつ未治療 のもの 汎用性の高い行動変容プログラ ム 高血圧対策(案)
カウンセリングナースによる 新しい治療システム -ストレスケア病棟での治療体験と カウンセリングナースの導入- 福岡県大牟田市 不知火病院 院長 徳永雄一郎.
日本産科婦人科学会 産婦人科医療提供体制検討委員会 の活動概要
急病になって救急車を呼んだら 日本では 救急隊が病院をみつけて運んでくれる 病院ではすぐに診てくれる 受ける医療は差別なく平等
~国民経済的な視点から見た社会保障~ 2000/6/14 木下 良太
1.高齢者の健康とその支援 2.保健・医療・福祉の連携
1. 動脈硬化とは? 2. 動脈硬化のさまざまな 危険因子 3. さまざまな危険因子の 源流は「内臓脂肪」 4. 動脈硬化を防ぐには
医学ジャーナリストを問う 衰退する検証力と発信力 編集ジャーナリスト 有限会社 秋編集事務所 秋元 秀俊.
ドイツの開業医定員制 このスライドは未発表です。日本では医師の偏在が問題になっていますが、ドイツでは定員制による開業制限があるので偏在を生じません。日本では参考にならないと思いますが、興味がありましたらこのスライドをご利用ください 東京医科歯科大学名誉教授 岡嶋道夫 岡嶋道夫.
たばこを1000円に引き上げるべきである。 ~肯定側~.
医療事故 2002.6.7.
周産期医療の崩壊をくい止める会 ー佐藤 章先生 追悼ー 医療改革の現在
H28改定後の全国の届出動向 2167施設が届出 1 愛知256 2 広島199 3 兵庫
平成26年度 診療報酬改定への要望 (精神科専門領域) 【資料】
当施設における       尿路感染の現状報告 介護老人保健施設 恵仁荘    看護師 木下 孝一.
ケニアで見たもの ~アフリカ、HIV/AIDS,女性~
The seminar of policy science
がんと就労 資料1 山内班計画 がん診療連携拠点病院等 【課題】 【課題】 就労や職場の現状、法律に関する知識なし
9.医療制度と医療費 1.医療の供給と医療保険       2.医療費  .
英国の小児医療提供体制から学ぶこと 森 臨太郎.
ドイツの医師職業規則 から学ぶもの 東京医科歯科大学 名誉教授  岡嶋道夫.
3.さまざまな保健活動 母子保健活動 日本赤十字社の写真 素材集-保健活動 「室蘭市役所ホームページ」 UNICEFの写真 素材集-保健活動
平成26年度拡大医療改革委員会 兼 産婦人科医療改革 公開フォーラム
健康・医療の知識とメディア                  林 剛生.
スペイン財政支援の是非 <否定派> 田中・棚倉・川村・石塚.
疫学概論 診療ガイドライン Lesson 22. 健康政策への応用 §B. 診療ガイドライン S.Harano, MD,PhD,MPH.
脳性麻痺による損害賠償請求の現状について
金融の基本Q&A50 Q41~Q43 11ba113x 藤山 遥香.
わが国の産婦人科医の現状 平成26年医師歯科医師薬剤師調査の結果を踏まえて
汎用性の高い行動変容プログラム 特定健診の場を利用した糖尿病対策(非肥満を含む)
書評 生活保護VSワーキングプア ~若者に広がる貧困~ 大山典宏 PHP新書
汎用性の高い行動変容プログラム 特定健診の場を利用した糖尿病対策(非肥満を含む)
経和会サロン 第3回 セミナーのご案内 ~がんの早期発見とがん治療最前線~
アンケート調査結果よりわかった主なポイント・協議会での委員の意見
基調報告 「産婦人科勤務医の就労環境の実態 ー日本産婦人科医会調査から」
北海道東部地域における 産科医療危機への取り組み 釧路赤十字病院  米原 利栄.
メタボリック シンドローム.
010_ /7/2018 4:28:52 AM × MedPeer朝日ニュース 媒体資料 2018年4月.
2017年度 立命館大学法学会 後期学術講演会 事前学習会
特定健診・特定保健指導と 医師会の役割    平成18年12月20日 日本医師会常任理事        内田健夫.
がん検診受診率向上のための 情報提供の工夫
はじめに 当院は“メディカルトリートメントモデル”という 診療プロセス取り入れることによって患者さんの
『前立腺がん検診』診療計画表(患者用) 精密検査医療機関 かかりつけ医 かかりつけ医 千葉県共用がん地域医療連携パス〈前立腺がん〉
勤務医の労働環境改善と ドクターフィーについて
「誰が医療崩壊を止めるのか」 1.医療崩壊の主因は? 2.医療崩壊に責任がある内閣は?
平成26年1月26日 日本産科婦人科学会 拡大医療改革委員会 兼 産婦人科医療改革公開フォーラム 議事次第
衛生委員会用 がん対策討議用スライド.
医師のキャリアパスの観点からみた 医師養成数の考え方
研究の背景 教育環境の変化 臨床研修必修化 国立大学独法化 診療環境の変化 国立病院独法化 医療費抑制政策 少子高齢化 いわゆる“医療崩壊”
40歳未満にも メタボリックシンドローム基準の適用を
日本産科婦人科学会 年度別入会者数(産婦人科)の推移 ー最新データからー Ver. 3
消化器内科研修カリキュラム 2年間 初期臨床研修 3年間 消化器専門関連施設での研修 6年目以降 更に専門病院での技術習得
外来化学療法室におけるSTAS‐Jの活用と今後の課題
特定健診・がん検診等の保健事業の場における禁煙支援
日本家庭医療学会の具体的戦略 法人化による組織強化 研修機能の強化 研究活動の支援 海外交流 国内学会、団体との協調
医療活動訓練 ~小児周産期医療~ 資料3 ・発災:平成30年2月16日午後11時 ・震源地:大阪府北部 M7.5 最大震度7
吹田研究(2009年発表分) (対象:4694人、期間11.9年)
石川勤労者医療協会 金沢 城北病院 ~地域に求められるホスピタル~
新医師確保総合対策のポイント 【医師数に関する全体状況】 【 対 策 】 短期的対応 19年度概算要求への反映
がん地域連携パスについて (連携医療機関向け) 連絡先・お問合せ先 徳島大学病院 がん診療連携センター 担当:宮越・兼子
目 次 第1章 大阪府保健医療計画について 1.医療計画とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
秋田の現状 離れられない、学べない 平成23年度「拡大医療改革委員会」兼 「産婦人科医療改革 公開フォーラム」
「産婦人科医療における格差是正に向けて」
衛生委員会用 がんの健康講話用スライド.
~「依存症対策のあり方について(提言)」(平成29年3月)と府の対応~
33事件 精神障害者の自殺 (東京高判平13・7・19) 事実概要
Presentation transcript:

医療報道はどこに向かうのか                   2009年5月23日                読売新聞医療情報部                       田中秀一             

医療事故報道の盛衰 1999年 横浜市大での患者取り違え事故 同年   都立広尾病院での点滴事故 これを契機に医療事故報道が激増

「医療事故」記事件数の推移 読売新聞データベース

潮目が変わった医療報道 医療事故・医療ミス報道で、加害者として扱われた医師・医療界 「医療崩壊」「医療危機」報道の急増 医師不足・過重勤務に苦しむ医師。被害者としての医師・医療界に 「医師たたき」から「医師を救おう」へ 転機になったのが「大野病院事件」

大野病院事件への医療界の反応 帝王切開手術で妊婦死亡。福島県立大野病院の産婦人科医を逮捕 「逮捕は不当」「リスクの高い手術をする医師がいなくなる」「産科の崩壊を招く」 「一生懸命に診療している医師を逮捕するとは許せない」 過失があれば、飛行機パイロット、バス・タクシー運転手も刑事責任を問われる。医師だけが免責される理由はない この事件後、「医師たたき」は医療崩壊を招く、という雰囲気が広がる。医師を批判しにくい空気に?

医師批判しにくい雰囲気 空気を読めない?人も・・・

首相発言に批判集中 医師会の猛烈抗議に首相は陳謝に追われた あたかも、社会常識が欠落した医師はいないかのような事態に・・・

患者を笑いものにする医師 (2009年3月27日読売新聞)

冷たい一言を言い放つ医師 (2009年1月23日読売新聞)

「たらい回し」に医師から反発 続発する救急患者の「たらい回し」   続発する救急患者の「たらい回し」 たらい回し報道に、医師から抗議。「たらい回し」「受け入れ拒否」は不適切な表現。「受け入れ不能」などに言い換えるべきだ、と主張 これを受け入れる記者も しかし、病院から見れば「受け入れ不能」でも、そういう病院ばかりなら、患者から見れば 「たらい回し」にほかならない 「たらい回し」言い換え論は患者の視点欠落

医療は患者の不安に基づく産業 世界一の健康大国ニッポン ▽平均寿命は世界一 ▽健康寿命(寝たきり、認知症を除いた期間)   ▽平均寿命は世界一   ▽健康寿命(寝たきり、認知症を除いた期間)     男性71.4歳  女性75.8歳     ともに世界一  それなのに、健康への不安感が強い    「健康への不安がある」68%(厚労省調査)

健康なのに、なぜ不安なのか 検査で異常を指摘される人が増加 高コレステロール患者 1980年代に8% 2002年に24% 高血圧患者     1980年代に8% 2002年に24% 高血圧患者     1990年代に10% 2002年14%   なぜ患者が増えたのか? 

高コレステロールの診断基準 かつては総コレステロール240ー250以上 1997年に「220以上」に変更 基準値と高コレステロール罹患率    240以上では男性12% 女性16%    220以上では男性20% 女性33%    本当に高コレステロールは危険か?

コレステロール値と死亡リスク 大阪府八尾市での研究

診療ガイドラインの問題点 診断基準値を少し変更するだけで、患者数が 激増する 患者数を増やす方向で診断基準を改定 診断基準値を少し変更するだけで、患者数が 激増する 患者数を増やす方向で診断基準を改定    健康な人が病人に仕立てられる 薬を安易に使える診療ガイドライン ガイドラインを作成する医師は、大学教授ら学会の権威。製薬企業との関係は?

医師と製薬企業

診療指針作成医師と製薬企業 メタボリックシンドローム診療指針 作成委員の国公立大医師11人全員に 製薬企業から3年間で計14億円の寄付   作成委員の国公立大医師11人全員に       製薬企業から3年間で計14億円の寄付 高血圧治療指針   9人の委員全員に3年で8億2000万円 動脈硬化(コレステロール)治療指針   4人の委員全員に3年で6億円

「画期的新薬」の真価

「延命効果わずか」は問題? 情報の発信側と受け取る側の認識ギャップ 研究者・製薬企業(情報発信側)にとって  前立腺がん化学療法で延命効果の証明は初  「画期的成果」と言いたい気持ちはわかる 一方、患者(情報を受け取る側)は  治ることを望んで治療を受ける  「2か月延命」を「画期的」と言われても・・・

提言報道

医師不足問題 現状 2004年以降、全国で500医療機関が診療科を閉鎖 大学医局の70%が、3000医療機関への医師派遣を減員または中止 医師不足問題               現状 2004年以降、全国で500医療機関が診療科を閉鎖 大学医局の70%が、3000医療機関への医師派遣を減員または中止                  (日本医師会調査)

医師配置システムのイメージ

「医師計画配置」に医師反発 「医師を強制配置するのはおかしい」 「職業選択の自由を奪う」

医師計画配置の妥当性 厚生労働省「医療における安心・希望確保のための専門医・家庭医のあり方に関する研究班」は今年3月、医師を適正配置するための第三者機関を創設するよう求める報告書 欧米では医師を適正配置する仕組みがある 日本のように診療科や勤務地を自由に選べるのでは、医師の適正配置はできない 専門医教育を行う「卒後医学教育認定機構」設立を提案 診療科・地域ごとに必要な医師数を算定し、配置

GDPに占める公共事業費 (OECDデータ 単位%) GDPに占める公共事業費       (OECDデータ 単位%)

各国の公共事業費 カナダ 2兆2300億円 イタリア 3兆3100億円 英国 3兆5000億円 ドイツ 4兆3500億円 カナダ   2兆2300億円 イタリア    3兆3100億円 英国     3兆5000億円 ドイツ     4兆3500億円 フランス   4兆4400億円 日本    28兆4000億円 米国    28兆4500億円  国土面積比では、日本は米国の25倍!

社会保障費抑制を転換 診療報酬を抜本的に引き上げる 中でも病院には手厚くする必要がある 社会保障費の自然増分2200億円の抑制はやめるべきだ   中でも病院には手厚くする必要がある 社会保障費の自然増分2200億円の抑制はやめるべきだ 医療費財源として消費税を社会保障目的化税率10%へ引き上げを提唱

医療報道の課題 「医師=加害者」から「医師=被害者」 報道スタンスの振れが大きすぎる   報道スタンスの振れが大きすぎる 医療側の情報(診療ガイドライン、新薬情報など)を吟味せずに報道 医療側への批判だけでなく、患者の視点で 改革へ提案を