TMT可視分光観測のサイエンス <太陽系外惑星の光と影の観測>

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TMT可視分光観測のサイエンス <太陽系外惑星の光と影の観測> 光赤外研究部 成田 憲保

内容 系外惑星からの反射光探索 Transmission Spectroscopy ロシター効果の測定

惑星からの反射光 可視領域では惑星の発する光は 主星の反射光>熱輻射 惑星の速度分だけ波長がずれた 位置に主星の光のコピーが重なる 惑星がどんな大気を持っているか によって、反射光の強さが変わる 反射光の強さを決める物理量 geometric albedo p(λ) の決定が 目標

反射光成分の強さ Rp : 惑星の半径、 a : 軌道長半径 p(λ) : geometric albedo (惑星の反射率) a = 0.05 AU, Rp = 1 RJup とすると、最初の項は 10-4 となる Rp : 惑星の半径、 a : 軌道長半径 p(λ) : geometric albedo (惑星の反射率) Φ(α, λ) : phase law (光って見える部分の割合) α : 公転の位相と軌道傾斜角 i の合成角 典型的にはhot Jupiterで 10-4 ~ 10-5 のレベル

一般に岩石では小さく、雲や氷があると大きくなる アルベドについて 可視領域でのアルベドの典型的な値 ・雪氷:~0.8 ・白い雲:~0.7 ・水星/月:~0.1 ・地球:0.2~0.4 (土壌は小さく、海は大きい) ・火星:~0.15 ・金星:~0.65 ・木星/土星/天王星:~0.5 一般に岩石では小さく、雲や氷があると大きくなる

これまでの研究 明るい (V~5) hot Jupiterの系(upsilon And. や tau Boo. など)でイギリスのチームが過去に何晩も観測 VLT/UVES, Keck/HIRES, Subaru/HDS などを使っている 2σでの検出を報告した (Leigh et al. 2003) 3σにするには膨大な夜数が必要で休止中 特に明るいトランジット惑星系(V~7.7)でプリンストンなどのチームがすばるで観測中 結局、まだ惑星からの反射光は検出されていない

すばる望遠鏡の場合 1晩のHDS観測で達成できる観測精度 V ~ 7.7, SNR ~ 3000 /pix, R ~ 90000 (S08A-080 実績) 観測波長領域にあるlineの反射光を積分 line 1本あたり 50 pix ある領域で使える line が 100本とすると SNR ~ 2×104 程度 精度がシグナルを若干上回る程度 (3σは1晩では厳しい) 8m級ではこれがほぼ限界

TMTの場合 アップグレードでおよそ4倍のSNRが期待できる 多くのhot Jupiterで反射光の検出が可能になる 望遠鏡の大きさ (高速読み出し、容量の深いCCD) 多くのhot Jupiterで反射光の検出が可能になる V~8 以下の潜在的ターゲットは既に十分(10個以上)ある アルベド p(λ)の測定によって hot Jupiterのエネルギー吸収率がわかる 言い方を変えると、hot Jupiterの色がわかる hot Jupiterの多様性/普遍性を調べることができる

Transmission Spectroscopy 主星 惑星および 外層大気 主星元素の 吸収線 主星の光 惑星元素による 追加吸収 まずは惑星の大気吸収を検出することが目標

吸収の理論スペクトル (雲がない木星型の場合) Seager & Sasselov (2000) Brown (2001) -1.71% (peak) -1.53% (base) -1.47% (base) -1.70% (peak) 最大のシグナルは可視のNa D線で 0.15%程度の追加吸収

追加吸収の強さの特徴 惑星による吸収が起こるのは惑星の外層大気のopacityが小さい円環部分 この領域の面積は惑星の半径に比例し、軌道長半径にはよらない 吸収比は (Rp / Rs) に比例 主星から離れた惑星や、木星より小さい惑星でもシグナルはそれほど落ちない 惑星の高層に雲があるかどうかで吸収量が大きく変わる

2つのトランジット惑星においてNa追加吸収が検出されている これまでの地上望遠鏡での結果 2つのトランジット惑星においてNa追加吸収が検出されている HET/HRS Redfield et al. (2008) 2005年に発見された新しいターゲットHD189733を36晩観測 11回のトランジットを観測して0.067%の追加吸収を検出 Subaru/HDS Snellen et al. (2008) Narita et al. (2005)のHD209458のデータを再解析 HDSのCCDのnon-linearityを経験的に補正 1晩の観測で0.056%の追加吸収を検出 Subaru/HDS Narita et al. in prep (HD189733での新しい結果)

すばる望遠鏡の場合 1晩のHDS観測で達成できる観測精度 SNR ~ 10000 程度が達成可能 (S07A-007実績) V = 7.7 1時間のトランジット観測で SNR ~ 1000 /pix R ~ 120000 (地球の大気吸収を取り除くのに必要) 吸収線は約100pixの幅 V~8 までの明るい木星型惑星なら雲がある場合でもナトリウムが検出可能 M型星なら長周期の海王星型惑星も期待できる

TMTでどこまで可能になるか? 達成できるSNRは最大で1トランジットあたり ~105 この精度でナトリウムの検出が期待できる惑星系 すばるで ~104 photon limit のSNRは約4倍 主星が明るい、トランジット継続時間が長いなどの場合は、さらに数倍が期待できる この精度でナトリウムの検出が期待できる惑星系 V~11 あたりまでの恒星にあるJupiter V~9 あたりまでの恒星にあるNuptune 残念ながら地球型惑星は1トランジットでは不可能

検出できると次は何ができるのか? 1トランジットでナトリウムが検出できるなら、複数回の観測で吸収量の変動を調べることができる 特に大きな変動の要因は雲の有無 惑星の大気が定常的なら変動はなく、雲の量が変化すればナトリウムの吸収量に変動が見える トランジットをモニターすることで、その惑星の天気を調べられる 超短周期(P~1day)や長周期の惑星 軌道離心率の大きな惑星 などが面白そうなターゲット

ロシター効果 = 惑星がトランジット中に主星の自転を隠す効果 近づく側を隠す → 遠ざかって見える 遠ざかる側を隠す → 近づいて見える 惑星 恒星 ロシター効果 = 惑星がトランジット中に主星の自転を隠す効果

惑星がどのような軌道を通ったかでロシター効果の形が変わる

これまでの研究 既に多くのトランジット惑星系(V<13)でロシター効果が測定されている 惑星形成理論とのつながりが議論されている TMTではヨードセルがあればV~16 くらいまで可能となるが、その拡張だけではややサイエンスとして弱い すばるではできないことは何か? シグナルが小さく、短いタイムスケールのイベント

惑星の衛星・リングの探索 惑星には衛星やリングが付随している可能性がある 太陽系では水星・金星以外の全てに衛星かリングがある 衛星やリングによる追加のシグナルは非常に小さく、タイムスケールが短い 数m/s 以下、10分以下 (Ohta, Taruya, & Suto 2006) 現状では宇宙望遠鏡による測光の方が感度が高い Keplerでの測光で先に発見される可能性もあり TMT(+Astro-comb)では宇宙望遠鏡による発見の追試や独自にサーベイができる

まとめ TMTではすばるでは難しかったサイエンスとして などの性質を調べられるようになると思われる 系外惑星の色 系外惑星の天気変動 系外惑星の衛星・リングの有無 などの性質を調べられるようになると思われる

そのために必要なもの R ~ 100000 のモード 視線速度測定装置 反射光探索とTransmission Spectroscopy ヨードセル (ロシター効果のターゲット拡張) Astro-comb (衛星・リングの探索)