業務拡大は何をもたらすか -特定看護師(仮称)と介護職員の医行為について-

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在宅医療をご存じですか? 編集:○○○○○ 訪 問 診 療 往 診 在宅医療を利用できる方(例) 在宅医療で受けられる主なサービス
目 次 第1章 大阪府保健医療計画について 1.医療計画とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
在宅医療をご存じですか? 編集:○○○○○ 訪 問 診 療 往 診 在宅医療を利用できる方(例) 在宅医療で受けられる主なサービス
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業務拡大は何をもたらすか -特定看護師(仮称)と介護職員の医行為について- 神戸市看護大学 基盤看護学領域 看護管理学分野  助教  益 加代子

おさらい ~ 現在の法制度① 保健師助産師看護師法 第5条(看護師の業務) 第31条(業務独占) 第37条(医行為の禁止) この法律において「看護師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじょく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう。 第31条(業務独占) 看護師でない者は、第5条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法又は歯科医師法(昭和23年法律第202号)の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。 第37条(医行為の禁止) 保健師、助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があった場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。ただし、臨時応急の手当をし、又は助産師がへその緒を切り、浣腸を施しその他助産師の業務に当然に付随する行為をする場合は、この限りでない。

おさらい ~ 現在の法制度② 医師法 その他の医療従事者法 (ex.理学療法士及び作業療法士法) 第17条(医業) 医師でなければ、医業をなしてはならない。 その他の医療従事者法 (ex.理学療法士及び作業療法士法) 第15条(業務) 理学療法士又は作業療法士は、保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)第31条第一項及び第32条の規定にかかわらず、 診療の補助として理学療法又は作業療法を行なうことを業とすることができる。

おさらい ~ 現在の法制度③ 絶対的医行為 相対的医行為 療養上の世話 診療の補助 医行為 看護行為 介護行為 (他の医療職の業務も含む) 医行為のうち医師(又は歯科医師)が常に自ら行わなければならないほど高度に危険な行為 絶対的医行為 相対的医行為 療養上の世話 診療の補助 (他の医療職の業務も含む) 医行為 看護行為 介護行為 絶対的医行為以外の医行為 「医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は及ぼす虞のある行為」 (昭和39.6.18 医事44の2)

看護師の業務拡大

看護師の業務拡大の議論の背景① H19.12「医師及び医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進について」 厚生労働省医政局長通知(平成19年12月28日 医政発第1228001号) 「良質な医療を継続的に提供していくために、各医療機関に勤務する医師、看護師等の医療関係者、事務職員等が互いに過重な負担がかからないよう、医師法等の医療関係法令により各職種に認められている業務範囲の中で、各医療機関の実情に応じて、関係職種間で適切に役割分担を図り、業務を行っていくことが重要」 医師の事前指示やクリティカルパスの活用(在宅等での薬剤の投与量の調整)、静脈注射、救急医療等におけるトリアージ、療養生活上の生活指導等

看護師の業務拡大の議論の背景② H20.6「安心と希望の医療確保ビジョン」 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/06/dl/s0618-8a.pdf 医師不足、それによる病院勤務医の過重労働の解消のためにチーム医療を促進する。 各職種に認められている業務範囲の下での業務を普及する。 現場の看護師が専門看護師、認定看護師の取得を促進する。 H21.3.31「規制改革推進のための3か年計画(再改定)」(閣議決定) http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/publication/2009/0331/item090331_02-01.pdf 専門性を高めた新しい職種(慢性的な疾患・軽度な疾患については、看護師が処置・処方・投薬ができる、いわゆるナースプラクティショナーなど)の導入について、医療機関等の要望や実態等を踏まえ、その必要性を含め検討する。 H21.5.19「経済財政諮問会議」 看護師の役割の拡大は、「経済危機克服のための有識者会合」や「社会保障国民会議」の提言でもある。厚生労働省においては、専門家を集め、日本の実情に即して、どの範囲の業務を、どういう条件で看護師に認めるか、具体的に検討していただきたい。

特定看護師(仮称)の議論のもとになった ナースプラクティショナー(アメリカ) 高度実践看護師(APN:Advance Practice Nurse) 看護師(RN)の資格を持ち、臨床経験を有する看護師が2年間の大学院修士課程を修了し、資格試験に合格すると得られる資格 NP(Nurse Practitioner)、CNS(Clinical Nurse Specialist)、CNM(Certified Nurse-Midwife)、CRNA(Certified Registered Nurse Anesthetist)を総称してAPNとしている アメリカの看護師(RN)の8.3%が修士号以上の臨床教育を受けたAPNであり、そのうちNPは51.1%(約14万人)、CNSは23.7%

ナースプラクティショナー(アメリカ)② アメリカでNPが誕生した背景には、医師不足、地方でのプライマリケアの不十分さ、保険医療費の高騰があった。 「ケアとキュアの両方を重要視し、治療のほかに健康促進、予防医学、患者教育とカウンセリングに焦点をあてる」(米NP学会)、全人的アプローチに基づき、看護哲学に基づいた診療行為を行う。 CNSとNPとの違いは、CNSは、チーム医療の中で看護職との連携を基本にして業務を実施するのに対し、NPは、個人でクリニックなどを開業することができ、CNSには認められていない薬物の処方、検査のオーダー等の裁量権が与えられている。 医師とNPとの違いは、NPは、看護モデルと医学モデルの両者を組み合わせてケアにあたること、患者の抱えている病気そのものを診るだけではなく、心理的・精神的な側面も含め全人的(holistic)な視点から、患者および家族と関わりを持ちながらケアにあたること。

ナースプラクティショナー(アメリカ)③ NPに支払われる診療報酬は、医師の85%と規定されている。 小児NPが1965年に誕生して以降、プライマリケアだけでなく急性期の領域にもおよび、2000年代には11領域にも広がった。これに伴うサブスペシャリティも多岐となり、細分化・高度化のデメリットが指摘され、2008年に「NPはプライマリケアと急性期を担う専門職」と定義され、対象範囲を6領域(家族、成人・老年、新生児、小児、女性、精神保健)に統一するコンセンサスモデルがつくられた。 ※ NPとは別にPhysician assistant(PA)という資格もある。

「チーム医療の推進に関する検討会」報告書から読みとる 看護師の役割拡大① チーム医療の基本的な考え方 チーム医療とは、「医療に従事する多種多様な医療スタッフが、各々の高い専門性を前提に、目的と情報を共有し、業務を分担しつつも互いに連携・補完し合い、患者の状況に的確に対応した医療を提供すること」 チーム医療の効果 疾病の早期発見・回復促進・重症化予防など医療・生活の質の向上 医療の効率性の向上のよる医療従事者の負担の軽減 医療の標準化、組織化を通じた医療安全の向上 チーム医療推進のために 各医療スタッフの専門性の向上 各医療スタッフの役割の拡大 医療スタッフ間の連携・補完の推進

「チーム医療の推進に関する検討会」報告書から読みとる 看護師の役割拡大② 看護師は『チーム医療のキーパーソン』 看護師の役割拡大 看護基礎教育の大学化に伴う教育水準の向上、水準の高い看護ケアを提供しうる看護師(専門看護師・認定看護師等)の増加、看護系大学院の拡大による専門的な能力を備えた看護師の増加といった背景 看護師の能力・経験の差や行為の難易度等に応じ、その能力を最大限に発揮できる環境整備が必要。 看護師の役割拡大の方針 看護師が自律的に判断できる機会を拡大する 「包括的指示」の積極的活用(これが成立する具体的要件が不明確であり、ガイドラインが必要) 看護師の実施可能な行為の拡大・明確化 「診療の補助」の範囲にあたる行為を拡大する方向で明確化 これらの実態把握のために「看護業務実態調査」を実施した(ここでは、「看護師ができること」と「さらに専門的な看護師(特定看護師)ができること」を分けて調査している)。 ・・・かといって、現在の看護基礎教育、新人看護師の現状は??

「チーム医療の推進に関する検討会」から読みとる 「特定看護師(仮称)」像① 特定看護師(仮称) 特定看護師とは、専門的な臨床実践能力を有する看護師が、医師の指示を受けて、従来一般的には「診療の補助」に含まれないものと理解されてきた一定の医行為(特定の医行為)を実施できる資格であり、新たな枠組みとしての構築をめざしている。 当面は、現行法下において特定の医行為について試行し、それを検証した上で、医療安全の確保の観点から法制化を視野に入れた措置を講ずる。 特定看護師の要件 看護師として一定の実務経験を有する 特定看護師の養成を目的とするものとして第三者機関が認定した大学院修士課程を修了する 第三者機関による知識・能力・技術の確認・評価を受ける 看護師の免許を有すること 実務経験5年以上であること(養成課程への入学・入所前) 厚生労働大臣の指定を受けた養成課程を修了すること 厚生労働大臣から知識・能力・技術の確認・評価を受けること 第13回チーム医療推進のために看護業務検討ワーキンググループ資料(2011.4.27)

「チーム医療の推進に関する検討会」から読みとる 「特定看護師(仮称)」像② 絶対的医行為 相対的医行為 療養上の世話 診療の補助 (他の医療職の業務も含む) 医行為 看護行為 介護行為  「特定の医行為」 特別な教育を受けた特別な人にしかできない行為 (=グレーの部分の議論ではなく、黒い部分)を明確化する

看護業務として実施される際に特定看護師(仮称)によって実施されるべき業務・行為(例) 急性期 抗不整脈剤の投与、一時的ペースメーカーの操作・管理、経口・経鼻挿管チューブの挿管・抜管、経皮的気管穿刺針の挿入、腹腔ドレーンの穿刺・抜去、中心静脈カテーテルの挿入・抜去、直接動脈穿刺による採血、皮下膿瘍の切開・排膿、電気凝固メスによる止血、医療用ホッチキスの使用、麻酔薬の投与・・・・・・等 慢性期・在宅 胃ろう・腸ろうのチューブ・ボタンの交換、腹腔ドレーンの穿刺・抜去、中心静脈カテーテルの挿入・抜去、皮下膿瘍の切開・排膿、体表面創の抜糸・抜鉤、褥瘡の壊死組織のデブリードマン、苦痛症状のための薬剤の投与、副腎皮質ステロイドの投与(局所注射) ・・・・・・等 第13回チーム医療推進のための看護業務検討ワーキンググループ資料(2011.4.27)

特定看護師(仮称)をめぐる課題① 見えない専門看護師、認定看護師との違い・役割分担 新たな資格創設の意義 現在、専門的な高度実践を行っている専門看護師や認定看護師の活動評価が不十分なまま、新たな資格創設により混乱が生じる。 法改正を必要としない「包括的指示」で実践するのならば、専門看護師との役割の違いがますます見えにくい。 新たな資格創設の意義 優秀な看護師のキャリアオプションになるというメリットがある一方で、准看護師問題すら解決していない現状で、看護職のなかでの差別化、ヒエラレルキーが生じるおそれがある。 職能団体認定の専門看護師・認定看護師 ⇔ 国が認定する(!?)特定看護師(仮称)

特定看護師(仮称)をめぐる課題② 想定されている「特定の医行為」 は“看護ケア” だといえるのか、その実施は看護職でないといけないのか?  → 看護の専門性の揺らぎ 特定看護師(仮称)とともに働く時代はいつくるのか? 1995年に専門看護師制度が創設され、約15年経過した現在、養成課程は154課程、認定者数は612名(2011.5.9 JNA) うち、石川県は専門看護師5名(がん1名、急性・重症1名、老人3名) 特定看護師(仮称)が全国の医療機関に浸透するには相当の年月を要する 離職率が高く、職場移動の多い看護職であるがゆえに、一定の職場でスペシャリストを育成していくことに困難がつきまとう。 このような特定看護師(仮称)の行う「特定の医行為」は、特別な教育を受けた、特別な人のみできる行為だといえ、それが医行為であるゆえに、特別な“医学”に関する教育が必要になります。 極端な言い方をすれば、看護系大学院で医行為を行えるようになるために“医学”を学ぶことになるのではないでしょうか。 こう考えると、特定看護師(仮称)が行う「特定の医行為」は、果たして“看護サービス”だといえるのか、そして「特定の医行為」を行う職種は、看護師でなければならないのかという疑問がわいてきます。 CNS、CNであっても、多くの病院では「何する人ぞ?」という状態。 ・・・・・・・・ CNSコースを例にとれば、初めて創設された1995年(認定は1996年)から約15年経た2010年段階で、コースは154課程に増加したものの、認定者数は612名です。 今後、特定看護師を創設するにしても、教育面の課題からみるとその人数が急増するとは考えられず、全国の医療機関に浸透するには相当の年月を要すると考えられます。 もちろん、看護師は離職率が高く、職場移動が多い職種ですので、スペシャリストを一定の職場で育成していくことには困難がつきまとうことも予測されます。

看護業務として実施される際に 看護師一般が実施可能な業務・行為(例) 医療現場等で一定のトレーニングを積み重ねた看護師による実施が望まれる業務・行為 心停止患者への電気的除細動の実施、創傷被覆材(ドレッシング材)の選択・使用、酸素投与の開始・中止・投与量の調整の判断、12誘導心電図検査の実施の決定、尿道留置カテーテルの挿入及び抜去の決定、経管栄養用の胃管の挿入・入れ替え、感染症検査(インフルエンザ・ノロウイルス等)の実施の決定・・・・・・等 現行の看護基礎教育で対応可能であり看護師の更なる活用が望まれる業務・行為 12誘導心電図検査の実施、低血糖時のブドウ糖投与(経口又は静脈内投与)、動脈ラインからの採血、末梢血管静脈ルートの確保と輸液剤の投与、導尿の決定と実施、尿道カテーテルの挿入の実施、創部洗浄・消毒、感染症検査(インフルエンザ・ノロウイルス等)の実施、動脈ラインの抜去、圧迫止血、予防接種の実施、心肺停止患者への気道確保・マスク換気、浣腸の実施の決定……等 第13回チーム医療推進のための看護業務検討ワーキンググループ資料(2011.4.27)

看護師の業務拡大という名の業務シフト 今の人員配置のままでは・・・ 絶対的医行為 相対的医行為 療養上の世話

看護師以外の医療スタッフの役割拡大 「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」 薬剤師 リハビリテーション関係職種 厚生労働省医政局長通知(平成22年4月30日 医政発0430第1号) 薬剤師 現行制度下で実施できる業務(プロトコールに基づいたオーダー、副作用等の薬学的管理、抗がん剤等の無菌調製等)の明確化 リハビリテーション関係職種 理学療法士、作業療法士、言語聴覚士による喀痰等の吸引を実施可能な行為として明確化(それぞれの法律の業務範囲とする。ただし、教育・研修の整備を要する) 作業療法の範囲の明確化 管理栄養士 現行制度下で実施できる業務(一般食の内容や形態の決定・変更、特別食の提案、栄養指導の実施)の明確化 臨床工学技士 人工呼吸器装着患者の喀痰等の吸引および動脈留置カテーテルからの採血を実施可能な行為として明確化(臨床工学技士法の生命維持管理装置の操作とする。ただし教育・研修の整備を要する) 診療放射線技師 現行制度化で実施できる業務(読影の補助、検査に関する説明・相談)の明確化

介護職員の業務拡大

介護職員の位置づけ 資格の多様性 介護福祉士の業務 社会福祉士及び介護福祉士法(1987) →心身の状態に応じた介護等(2007.11改正) 医療保険適応の病院:看護補助者(資格は問わない) その他の病院、施設:介護福祉士、ホームヘルパー、無資格者など 介護福祉士の業務   社会福祉士及び介護福祉士法(1987) 第2条第2項 専門的知識及び技術をもって、身体上又は精神上の障害があることにより日常生活を営むのに支障がある者につき入浴、排せつ、食事その他の介護を行い、並びにその者及びその介護者に対して介護に関する指導を行うことを業とする者をいう。 →心身の状態に応じた介護等(2007.11改正)  理由)介護現場では、心理的・社会的支援の側面も重要であり、これを明示する。

介護福祉士の現状 介護保険事業に従事する介護職員128万人中、介護福祉士は40.6万人で31.7%(平成20年度) 近年は、1年間で8~9万人増加している。 しかし、介護福祉士登録者数は81.1万人 看護師と同様に潜在介護福祉士が多く、25.2万人いるとされている。 背景には、介護職員をとりまく労働環境の問題がある。 平成37年には200万人以上の介護職員が必要という推計があり、安定的な介護人材の確保、介護職として働き続けられるキャリアパスが必要  → 「今後の介護人材養成の在り方に関する検討会」

介護職員等への医行為解禁の流れ 「ALS患者の在宅療養の支援について」2003年7月17日 医政局長通知(第0717001号) 一定の条件を満たしていれば、家族以外の者によるたんの吸引の実施は「当面のやむを得ない措置として許容」された。 「盲・聾・養護学校におけるたんの吸引等の取扱いについて」 2004年10月20日 医政局長通知(第1020008号) 一定の条件を満たしていれば、看護師が配置されていることを前提に、所要の研修を受けた教員が「たんの吸引」「経管栄養の注入」「導尿の補助」を行うことを許容した。 「在宅におけるALS以外の療養患者・障害者に対するたんの吸引の取扱いについて」 2005年3月24日 医政局長通知(第0324006号) 家族の負担を緊急に軽減する、ALS患者と同様の状態にある者との平等性を保つため、ALS患者の場合と同様の条件下で、家族以外の者によるたんの吸引の実施は「当面のやむを得ない措置として容認」された。 家族以外の者が行うたんの吸引の範囲は、口鼻腔内吸引及び気管カニューレ内部までの気管内吸引を限度とする 「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」 2005年7月26日 医政局長通知(第0726005号) 原則として医行為ではない11の行為を列挙した。 「特別養護老人ホームにおけるたんの吸引等の取扱いについて」 2010年4月1日 医政局長通知(0401第17号)

たんの吸引は医行為 患者の状態が安定している 技術的に難しくない 手技による危険性も低い しかし、 危険性はゼロではない(たんの吸引は必要な時に吸引しないと生命にかかわるために行う) 危険性の程度は誰がどう判断するのか とはいうものの、 介護職員でこれを可能にするため「実質的違法性阻却事由」(法律上の整備ではなく、行政上の措置が先行している) 生活援助行為ではないか? 医行為!

実質的違法性阻却事由 ある行為が処罰に値するだけの法益侵害がある場合に、その行為が正当化されるだけの事情が存在するか否かの判断を実質的に行い、正当化されるときには、違法性が阻却される。 違法性阻却事由の要件 目的の正当性(客観的な価値があるかどうか) 手段の相当性(決められた条件を確保すれば、医療の安全が確保される) 法益衡量(医療が必要な人でも入所できる利益と、介護職員がたんの吸引を行った場合の不利益を比較すれば、利益の方が大きい) 法益侵害の相対的軽微性(決められた条件下で行うことで危険性を低くする) 必要性・緊急性(現在の人員配置では介護職員が行わざるをえない)

「特別養護老人ホームにおける たんの吸引等の取扱い」通知 特別養護老人ホームにおいて、医療的ケアを必要とする入所者が増加しており、その対応が困難であることが入所の限界となっている。 モデル事業において、口腔内のたんの吸引と胃ろうによる経管栄養を看護・介護の連携のもと介護職員が行った。 その結果、「口腔内のたんの吸引等は概ね安全に行うことができたと評価できる」(報告書)として、今回の通知が出された。 全国125施設で4か月実施 ヒヤリハット、アクシデント件数は267件(報告は施設の基準に任せていたため、施設によって基準が異なる。救命救急を要するような事故はなく、手順の忘れや確認もれが多かった) 「たんの吸引は医行為であり、本来、特別養護老人ホームにおける看護職員の適正な配置を進めるべきである。しかし、今後も口腔内のたんの吸引等が必要な高齢者が増加する中で、特に夜間において口腔内のたんの吸引等のすべてを担当できるだけの看護職員の配置を短期間のうちに行うことは困難である。(略)こうした方式を特別養護老人ホーム全体に許容することは、医療の安全が確保されるような一定の条件の下では、やむを得ない。」 「特別養護老人ホームにおける看護職員と介護職員の連携によるケアの在り方に関する検討会」報告書

介護職員による医行為 今後の方向性 「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方について 中間まとめ」(平成22年12月13日) 特養だけでなく、一定の基準を満たす施設、事業所等(医療機関は対象外)で、看護職員との連携のもと、一定の研修を修了した介護職員が実施できる。同時に介護福祉士養成カリキュラムに研修内容を追加する。 実施可能な医行為の範囲 たんの吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部) 経管栄養(胃ろう、腸ろう、経鼻経管栄養) 今後は「実質的違法性阻却」の範囲ではなく、法整備の方向性も?

介護職員の医行為実施における課題 今まで看護職員の人員配置基準を見直してこなかった = 体制整備を後回しにしてきたことが、介護職員が医行為をせざるを得ない状況をつくりだしている。 「私がやらなきゃ現場はまわっていかない」という声 「医行為を介護職員に認めないということは、現実の社会情勢や利用者のニーズにそぐわない」という、定義よりも実践を重視している理由 「やむを得ない」状況からの脱却できない、つまり体制整備の議論が全く前進していない。→ 真の国民の安全性確保を無視 利用者の本来の利益を考えるならば、必要な時に、本来の有資格者から必要な医療を受けることができる体制を整えることが重要。 さまざまな矛盾を抱える介護職員の医行為 資格(それに伴う教育)が担保する安全性 or 研修が担保する安全性 場によって実施できたり、できなかったり 場によって異なる実施範囲(在宅では鼻腔・口腔・気管カニューレ内、特養では口腔内だけ)

業務拡大は何をもたらすか → あらためて問われる専門職性 人員配置基準の見直し(人員増)のない業務拡大が現場に与える影響 業務の多忙化・複雑化の加速 → … → …… 安全性が脅かされる ケアの優先順位の変化 → ケアの質の低下 法的整備のないままの業務拡大のもたらす混乱 医療と福祉のボーダーレス化のなか、看護師・介護職員ともに業務拡大していくことで、それぞれの専門職性が揺らいでいく。 専門職志向 << 患者志向 → あらためて問われる専門職性