国際医療福祉大学 総合教育センター 齋藤智恵 abchie@iuhw.ac.jp 多様化する日本の言語景観 2012年5月14日 熊本学園大学 国際医療福祉大学 総合教育センター 齋藤智恵 abchie@iuhw.ac.jp
1.言語景観とは
言語景観 The landscape of public road signs, advertising billboards, street names, place names, commercial shop signs, and public signs on government buildings combines to form the linguistic landscape of a given territory, region, or urban agglomeration. Landry and Bourhis (1997)
多言語景観 「公共の場においてさまざまな形で知覚される、外国語が複合的に形成する景観」 文字以外に場内アナウンスなどの音声情報も含む 日本語以外の言語を含む表記は多言語表記とする 庄司他(2009)
言語選択の要因 言語 時代 場所 目的 発信者 受信者
時代による変化 【経済的、政治的、文化的背景の影響】 外国人観光客の交通事故(1982) 東京サミット(1986) 東京サミット(1986) バブル景気(1986-1991) エスニックブーム(1988-1989) 韓流ブーム(2003‐現在) ビジットジャパンキャンペーン(2003‐2010)
時代による変化 【継時変化による多言語化】 Backhaus(2007) 正井(1967) 場所: 山手線28駅周辺 場所: 新宿駅周辺 対象: 建物、施設の名称 総数3000件 結果: 漢字→2315件(77%) カタカナ→1002件(33%) ローマ字→647件(22%) ひらがな→609件(20%) Backhaus(2007) 場所: 山手線28駅周辺 対象: あらゆる表記 総数11834件 結果: 多言語表記→2444件(20.7%) 日本語→1674件(72.1%) 英語→2266件(97.6%) 中国語→62件(2.7%) 韓国語→40件(1.7%) フランス語→20件(0.9%) ポルトガル語→12件(0.5%) ・・・・ 【継時変化による多言語化】
場所による変化 東京圏のデパートでの言語景観調査 23区内:多言語使用傾向⇔東京近郊:単言語使用傾向 新宿の「日英中韓」化の進行⇔銀座・有楽町・日本橋・東京の「日英中韓」+西欧言語 東京近郊における大宮・立川・吉祥寺の多言語化の萌芽 田中他(2007)
場所による変化 観光地を対象とした調査 兼六園での多言語表示 159件中日本語のみ70%、日英47%、日英中韓+台湾語22% (Hirano et. al, 2009) 熊本県の観光地における多言語表示 都市部でも地方でも日英中韓での表示がみられた (Yoneoka, 2009) 関東地方を対象とした調査では栃木県の観光地で日英中韓+αの多言語表示がみられた (Saito, 2009)
目的による変化 1. 装飾 2. メッセージの伝達 1. 公共の言語サービス(自治体の施設、交通機関など) 2. ビジネス(会社、商店、飲食店など) 3. 言語の保持 1. 道案内 2. 商品や施設の説明 3. 警告 4. 告知 5. 取扱い方法 6. 宣伝 etc...
装飾
装飾+メッセージの伝達
公共の言語サービス
公共の言語サービス
ビジネス
商品説明
警告
使用方法
使用方法
発信者と受信者による変化 【日本人→日本人】 装飾としての外国語表示 英語・フランス語(欧米文化への憧れ) ↓ アジアの言語(エスニックブーム) 韓国語(韓流ブーム)
発信者と受信者による変化 【日本人→外国人】 日・英 ↓ 日・英・中・韓 日・英・中・韓+α (田中他、2009) 公共施設(交通機関・役所など)、商業施設(観光)を中心に多言語化が進行している 日・英 ↓ 日・英・中・韓 日・英・中・韓+α (田中他、2009)
発信者と受信者による変化 【外国人→外国人】 90年代から出現 目的が限定されている(違法金融・国際テレフォンカードの譲渡など) 庄司(2006)
外国人受信者数の増加
外国人受信者数の増加 14位 28位
発信者と受信者 発信者と受信者の組合せ(関係)の広がり 受信者である外国人の数の増加 受信者である外国人の多様化
言語景観の多言語化 多言語化が進む日本の言語景観には、時代背景、地理的背景、どんな目的で多言語表示をするか、また発信者と受信者の関係や数などが要因となっている その要因は単体ではなく複数が関係しあい多言語化が進んでいる 言語 時代 場所 目的 発信者 受信者
参考文献 Backhaus, P. (2007). Linguistic Landscapes ―A Comparative Study of Urban Multilingualism in Tokyo―. Clevedon: Multilingual Matters LTD. Hirano, K., Oyabu, T., & Nambu, H. (2007). Trend of Foreign Visitors and the Linguistic Landscape in Kenrokuen Garden. Society for Tourism Informantics, 3(1), 45-54. Honna, N. (2008). English as a Multilingual Language in Asian Contexts: Issues and Ideas. Tokyo: Kuroshio Publisher. Laudry, R., & Bourhis, R. Y. (1997). Linguistic landscape and ethnolingustic vitality. Journal of Language and Social Psychology, 16(1), 23-49. Radtke, L. O. (2007). Chinglish: Found in Translation. Utah: Gibbs Smith Publisher. Saito, C. (2009). A Study of Diversity in Japan’s Linguistic Environment: Focusing on the Language in the Kanto Region. Asian Englishes, 12(1), 46-72 Saito, C. (2012). A Study of Linguistic Auditing in Japan’s Linguistic Environment. 2010 ICIC book II. Manuscript accepted for publication. Yoneoka, J. (2009). The Role of Linguistic Auditing and English as an International Language in the East Asian Tourist Industry: A Case Study of Kumamoto, Japan. Research Report Volume 100. The Institute of Economic and Business Kumamoto Gakuen University.
参考文献 齋藤智恵. (2012). 平易な日本語. 第3回国際言語研究会にて口頭発表 庄司博史. (編). (2006). まちかど多言語表示調査報告書. 多言語化現象研究会. 庄司博史. (編). (2009). 日本の言語景観. 三元社 田中ゆかり他. (2007). ネット上の“言語景観”-東京圏のデパート・自治体・観光サイトから. 言語, 36(7), 75-80. 田中ゆかり他. (2007). 東京圏の言語的多様性ー東京圏デパート言語景観調査からー . 社会言語科学, 10(1), 5-17. 正井泰夫. (1969). 言語別・文字別にみた新宿における諸設営物の名称と看板広告. 立教大学史学会, 29(2), 44-116.