B型慢性肝炎のウイルスマーカーについて 福山市民病院 肝臓内科 辰川匡史 2012年10月01日
B型肝炎ウイルス B型肝炎ウイルス(HBV)は、人の肝臓に住みつくウイル スです。 普通の風邪のウイルス・ばい菌と違って、一度体内に 入ったら、排除されにくく 長く体内にとどまります。 B型肝炎ウイルスが肝臓に住みつき、長年肝炎が続くと、 肝臓の機能が消耗します(これを肝硬変といいます)。 また、肝臓癌を引き起こすこともあります。 ただし、B型肝炎ウイルス感染の人のすべてが 癌に なったり肝炎になったりするわけではありません。
B型肝炎ウイルス ウイルスが体の中でどんな状態か ――人によってかなり差があります。 ――人によってかなり差があります。 体内のウイルスと、我々の体の免疫力=防御 力との間の力関係によって、現在の状態が決 まります。 ウイルスが体の中に入ってどれくらい経つのか ウイルスと自分の体が戦っているのかどうか ウイルスが勝っているのか、自分の体が勝っているのか
トランスアミナーゼ AST (GOTともいいます) 基準値34以下 ALT (GPTともいいます) 基準値37以下 肝臓の細胞の中に含まれています。 細胞が障害を受けると壊れます→細胞の中のAST・ALT が血液の中にでてきます。 従って、AST・ALTが高いということはコンスタントに肝臓 の細胞が(今現在も)壊れているということを示します。
血小板 血小板は出血などが起 こったときに、血を止める 役割を果たしているもので、 骨髄でつくられています。 話せば長くなるのですが、 肝臓が消耗すると血小板 は減少する傾向にありま す。
> ウイルスマーカー=ウイルスの状態を表す 抗原 抗体 さまざまなウイルスマーカーがあり、わかりにくいですが … HBs抗原 HBs抗体 HBe 抗原 HBe 抗体 HBc 抗体 HBV-DNA量 HBcAr コア関連抗原 抗原 抗体 > 病源が出す 自分の体が出す
ウイルスの方が強い 宿主の方が強い HBs抗原 HBs抗体 HBe抗原 HBe抗体 血液の中のウイルスの量(HBV-DNA) かなり多い ウイルスの方が強い 宿主の方が強い HBs抗原 HBs抗体 HBe抗原 HBe抗体 血液の中のウイルスの量(HBV-DNA) かなり多い (5以上) 中くらい (3-5程度) かなり少なめ (2.1-3) 消失 ①ウイルスと自分の体が喧嘩をしていない ウイルスは体内に大量 母子感染もしくは幼少期の感染 ②ウイルスと自分の体が戦っている ③自分の体がウイルスをほとんどおさえている ウイルスが優勢 自分の体が優勢 セロコン (セロコンバージョン) いわゆるキャリア状態
キャリア状態 B型肝炎ウイルスが体内に侵入すると、体は防御体勢をとる。 普通は。 ただし、自分の防御体勢=免疫 が不十分な胎生期~幼少 期にウイルスが侵入した場合、免疫反応が起こらない。 免疫反応がないので、肝臓に炎症は一切ない。そのかわり ウイルスは大量に存在。 この状態が続いた時に… 30代までに多くは免疫反応が生じる(キャリア発症。遅れて 来た反抗期)ことが多い。それまでは治療は保留。 肝硬変になるリスク…かなり低い 肝癌になるリスク…まれではあるが発生する事あり 他人に(性行為などで)うつしてしまうリスク…ものすごく高い
慢性肝炎 セロコン前 肝内でウイルスは活発に増殖し、肝内で免疫とウイルスとの 戦いが生じている状態 e抗原(+)e抗体(-) ウイルスがどんどん増殖し、肝臓内で炎症が持続している。 ウイルスがやや優勢の状態です。 この状態が続いた時に… もっとも治療を行なうべき状態。何もしなければ肝臓がだん だん荒廃して肝硬変になってしまう危険がある。 治療は若い方ならインターフェロン(週1の注射)。 もしくは バラクルードという内服薬(ウイルスを抑える飲み薬) 肝硬変になるリスク…高い 肝癌になるリスク…あり。肝硬変になるにつれてリスクは上昇 他人に(性行為などで)うつしてしまうリスク…高い
慢性肝炎 セロコン後 (DNAは陽性) 肝内でウイルスは増殖し、肝内で免疫とウイルスとの戦いが 生じているが、若干自分の免疫力が優勢となっている。炎症 はやや落ち着いた状態となっている。e抗原(-)e抗体(+) 自分の体が優勢には違いないが、ウイルスを完全に抑え込 む、とまではいかない状態。 この状態が続いた時に… 治療は状態による。ALT31以上、血小板15万以下は治療が 推奨される。治療はバラクルードという内服薬(ウイルスをお さえる飲み薬) 肝硬変になるリスク…それほど高くはないが、AST/ALTが高ければ若干あり 肝癌になるリスク…あり。肝硬変になるにつれてリスクは上昇 他人に(性行為などで)うつしてしまうリスク…ウイルス量によるが、かなり低くなる
慢性肝炎 セロコン後 (DNAは陰性) ウイルスの残滓は若干あるものの自分の免疫力がかなり優 勢となり、ウイルスはほとんど増殖できない。 自分の体が優勢で、ウイルスの増殖を完全に抑え込んでい る状態。 この状態が続いた時に… 基本的に治療の必要はない。ただし発癌のリスクはあるの で、定期的に画像検査をうける必要はある。 肝硬変になるリスク…ほぼゼロ。ただしすでになっていなければ。 肝癌になるリスク…あり。肝硬変に近ければリスクは上昇 他人に(性行為などで)うつしてしまうリスク…ほぼゼロ
HBs抗原消失後 現在ウイルスの活動はほぼなく自分の免疫力が完全勝利し た状態。B型肝炎の経過としては理想の状態。 この状態が続いた時に… 治療は不要。ただし、ウイルスは「種」のような形で肝臓内に 残っています。 自分の免疫力を弱める治療(癌に対する化学療法・免疫抑 制療法、ステロイド)などを受けた時に、ウイルスが再燃する 可能性があるので注意。 肝硬変になるリスク…ほぼゼロ。すでになっていなければ。 肝癌のリスク…かなり低いがゼロにはならない。肝硬変になるにつれてリスクは上昇 他人に(性行為などで)うつしてしまうリスク…ゼロ