電磁気学C Electromagnetics C 7/27講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁
点電荷の運動方程式 ここでは、電子のような点電荷によって放射される電磁波のエネルギーを求める。 点電荷 e の電荷密度は、 z(t) +e 軌道 で表される。 ここで、z(t)は、点電荷の軌道関数である。 このとき、電気双極子モーメントは、 で与えられ、従ってその時間微分はそれぞれ、 これを、先週導出した以下の(37)式に代入する。
ラモーアの公式 点電荷から放射される単位時間当たりの電磁波エネルギーは、 で与えられる。 ここで t0 は、 の解として決められる点電荷からの発信時刻 (4)式より、電磁波は、点電荷が加速された時に放射されることが分かる。 ただし、(4), (5)式が成立するのは、点電荷の速度が光速に比べて十分小さい時 このとき、観測点での時刻 t と点電荷の時刻 t0 とはほぼ同一と見なせるので、 この式は、点電荷の単位加速時間当たりの放射エネルギーを与えると解釈することができる。この式をラモーア(Larmor)の公式という。
点電荷からの放射エネルギー いま、質量 m, 電荷 +e の点電荷が、 の運動方程式に従って、角振動数 w0 で単振動をしているとする。 (7)式の解は、 と書くことができる。 このとき(6)式は、 となる。そこで、この単振動の1周期 T=2p/w0 当たりの平均値を求めると、 を得る。これは、点電荷の単位加速時間当たりの平均放射エネルギー
ラザフォード原子模型の寿命 ラザフォードが1911年に提唱した原子模型は、中心に正電荷をもつ重い原子核があり、その周りを負の電荷を有する軽い電子が回っているというもの。 -e 電子 原子核 ところが、原子核の周りを回転している電子は、加速度運動をしているから、それに伴い電磁波が放射される。 +e すると、回転している電子の運動エネルギーは次第に減少し、電子は原子核に向かって落ち込んでいくはず。 ラザフォードの水素原子の模型 即ち、古典物理学の法則に従えば、ラザフォードの原子は不安定で、ある一定の寿命で消滅するはずである。 以下では、古典物理学の法則に基づき、水素原子の寿命を計算してみる。 今簡単のために、電子は陽子とのクーロン力によってのみ引かれて、原子核の周りを回っているものとする。
ラザフォード原子模型の寿命 このとき、質量 m, 電荷 –e の電子の回転半径を r, その速さを v, 回転の角速度を w とする。 v 陽子 ラザフォードの水素原子の模型 m r v w すると、この電子の動径方向の運動方程式は、 また、電子のエネルギー W は、 で表される。ここで v = rw の関係に注意して、(11)式を(12)式に代入すると、 を得る。
ラザフォード原子模型の寿命 一方、単位時間に電子が放射する電磁波のエネルギーは、(6)式と(11)式より、 で与えられる。 従って、単位時間当りに電子の失うエネルギーは、 によって与えられる。 (15)式の左辺に(13)式を代入すると、 となる。 そこで、はじめの時刻 t = 0 における電子の回転半径が a であったとし、それが原子核に落ち込んでしまうまでの時間を t とすると、(16)式を積分することにより、
ラザフォード原子模型の寿命 を得る。 これから、 が得られる。 これに電子の電荷の大きさ e = 1.602×10-19 C, その質量 m = 9.11×10-31 kg および原子半径 a = 5.29×10-11 m の数値を代入すると、およそ となる。 従って、原子は約10 psという非常に短い時間で潰れてしまうことになり、この矛盾から、ボーアの原子模型、さらには量子力学が誕生することとなる。