第3回 建物の耐震設計法 3-1 耐震設計の考え方 3-2 耐震規定の変遷 3-3 新しい構造設計法 3-4 許容応力度計算による耐震設計法 第3回 建物の耐震設計法 3-1 耐震設計の考え方 3-2 耐震規定の変遷 3-3 新しい構造設計法 3-4 許容応力度計算による耐震設計法 3-5 限界耐力計算による耐震設計法
建築防災工学のスケジュール 第1回 地震の発生 第2回 地震動と建物応答 第3回 建物の耐震設計法 第4回 鉄骨造建物の地震被害と耐震設計 第1回 地震の発生 第2回 地震動と建物応答 第3回 建物の耐震設計法 第4回 鉄骨造建物の地震被害と耐震設計 第5回 RC造建物の地震被害と耐震設計 第6回 木質建物の地震被害と耐震設計
3-1 耐震設計の考え方 (1)耐震設計の目標 建物の耐用年数中に遭遇する中地震動 平均再現期間:30~50年,震度5強(6弱)程度 3-1 耐震設計の考え方 (1)耐震設計の目標 建物の耐用年数中に遭遇する中地震動 平均再現期間:30~50年,震度5強(6弱)程度 目標:建物にほとんど被害を生じさせず, 建物の使用性を確保,損傷しても回復できる きわめて稀に遭遇する大地震動 平均再現期間:500~1000年,震度6強~7(弱) 目標:多少の被害は許容するが倒壊などの 重大な損傷を生じさせず人命の安全性を確保
(2)地震応答解析法 動的解析 ①時刻歴応答解析:塑性域も考慮し最良の方法 ②応答スペクトル法:1~3次の振動モードに (2)地震応答解析法 動的解析 ①時刻歴応答解析:塑性域も考慮し最良の方法 ②応答スペクトル法:1~3次の振動モードに 分解し,最大応答値を求めて合成する 等価静的解析: 水平震度法:地震力を動的効果が反映された 静的水平力とし,床重量に対する比で与える
動的解析と静的解析 床重量 W i 0.2× W i 時刻歴応答 解析法 水平震度法 新耐震設計法
3-2 耐震規定の変遷 (1)水平震度規定 1891年濃尾地震:最大級の内陸型地震(M8.0) 死者:7,273人、全壊建物:約14万棟 3-2 耐震規定の変遷 (1)水平震度規定 1891年濃尾地震:最大級の内陸型地震(M8.0) 死者:7,273人、全壊建物:約14万棟 震災予防調査会(1892年):地震研究の開始 1891年濃尾地震の翌年に文部省内に設置 家屋耐震構造論(1914年):佐野利器が地震力を層重量の比で求める水平震度法を提案
濃尾地震(1891年) 最大級の内陸型地震(M8.0) 死者数:7,273人、全壊建物:約14万棟 根尾谷に巨大な断層が出現 西欧文化を象徴する煉瓦造建物の崩壊 <その後の影響> 翌年文部省内に震災予防調査会が設置
濃尾地震の根尾谷断層 1893年小藤文次郎が英文で紹介 左横ずれ 縦ずれ逆断層
根尾谷断層の縦ずれ 上下変位 :最大6m
根尾谷断層の左横ずれ 水平変位:最大8m
名古屋市内のレンガ造建物の倒壊
名古屋市熱田区の木造住宅の被害
長良川鉄橋の倒壊 1889年東海道線の開通直後
震災予防調査会の活動(1892~1924) (1)地震や津波の古い記録を調べる → 大日本地震史料(1904年) (2)地震計の製作 → 大日本地震史料(1904年) (2)地震計の製作 → 大森式水平振子地震計(1898年) (3)地震や火山噴火による地下変動を調べる (4)地震に関係する物理現象の調査(地震予知) (5)建造物の耐震構造の調査 → 洋風レンガ造建物の耐震法に関する基準
(1-2)水平震度規定(1924年) 1923年関東地震:プレート境界地震(M7.9) 死者:10万人以上 全壊建物:約13万棟 死者:10万人以上 全壊建物:約13万棟 1924年水平震度 0.1:1923年関東地震の翌年に市街地建築物法施行規則に規定 → 0.1の根拠:設計用地震の水平震度を 0.3 として,長期許容応力度の材料安全率を3倍 として 0.3/3 = 0.1 とした
関東大震災(1923年) 相模トラフ沿いのプレート境界地震(M7.9) 史上最大の死者数:10万人以上 神奈川を中心に全壊建物:約13万棟 東京などで41箇所で火災 東京大学で 330gal の水平動が記録 <その後の影響> 1924年 水平震度0.1の耐震規定が公布 1925年 東京大学に地震研究所が設立
地震前の東京丸の内付近 大通りの幅は15間(27.3m)
地震直後の東京銀座通り
地震直後の日比谷交差点付近 震度6
地震直後の上野広小路
地震後の火災旋風
地震後の 京橋付近
地震後の浅草付近 浅草凌雲閣 「十二階」
日本橋の丸善ビルの倒壊
(1-3)水平震度規定(1947年~80年) 1947年水平震度0.2:地震荷重が短期荷重となり材料安全率が半分(1.5)に減ったため 1950年水平震度:動的効果や地域や地盤の影響を考慮→①高さ16m以上は4mごとに0.01を加える(Ai) ②地域別低減係数 Z(0.8~1.0) ③地盤・構造種別係数 Rt(0.6~1.5) 1963年建築基準法改正:建物高さ31m以下の制限が撤廃→1968年霞ヶ関ビルが竣工
(2)地震力規定(1981年以後) 1981年建築基準法施行令改正: 新耐震設計法と呼ばれ地震動を2つに分ける →1次設計:中地震動に対して,弾性内に納まる ように許容応力度設計を行い断面算定する →2次設計:大地震動に対して,保有水平耐力 と塑性変形を考慮して安全性を確認 1998年建築基準法改正:建築構造に性能規定が導入,耐震等級を1~3(1.5倍)で選べる
3-3 新しい構造設計法 (1)仕様規定から性能規定へ 3-3 新しい構造設計法 (1)仕様規定から性能規定へ 仕様規定: 使用材料,許容応力度,応答計算法,応答制限 値などが仕様的に規定→例外建物は38条認定 性能規定: 建物に要求される性能項目と性能基準を明確に規定し,性能の適合性を検査 →要求性能を達成するための設計方法や仕様の詳細は構造設計者の判断に委ねる
構造安全性の照査法の比較
(2)性能規定導入後の構造計算の枠組 ・ 従来の設計法: 許容応力度等計算法:性能規定は満たすので 選択できる計算法の一つになる 許容応力度等計算法:性能規定は満たすので 選択できる計算法の一つになる 新しい設計法: 限界耐力計算法 :最新の方法, 説明が容易 時刻歴応答解析法:最良な方法,地震波が問題 エネルギー法 :制震構造や免震構造に限定
新しい構造設計体系
3-4 許容応力度等計算による 耐震設計法 (1)許容応力度等計算の手順 3-4 許容応力度等計算による 耐震設計法 (1)許容応力度等計算の手順 地震層せん断力 Qi Q i = C i×Σ( j= i,N) W j 地震層せん断力係数 C i C i = Z×Rt×Ai×C 0 対象の層 i より上の層重量の和
地震層せん断力と地震水平力 C i = Z×Rt×Ai×C 0
地震地域係数 Z:地震危険度の地域的な差を 最大値1に基準化して示したもの(0.7~1) 振動特性係数 Rt:加速度応答スペクトルの形状 を表層地盤の影響を含めて示したもの 高さ方向分布係数 Ai:多層建物の1次振動 モードを1階が1で基準化して示したもの 標準層せん断力係数 C 0: 1次設計では 0.2,2次設計では 1.0 とする
100年再現期待値と地震地域係数 特例
振動特性係数(加速度応答スペクトル)
高さ方向 分布係数 (Ai 分布) αi :i 層より上の重量比 αi = 0:最上階 αi = 1:1階
(2)高さ31 m 以下の建物の 2次設計(安全性の確認)(ルート②) ・ 層間変形角の確認:外壁や仕上材の落下防止 1次設計用地震力に対して, 全ての階で層間変形角が1/200以下 ・剛性率の確認:ピロティー階の倒壊の防止 各階の剛性率が全階の平均剛性率の0.6倍以上 ・偏心率の確認:ねじれ振動による倒壊の防止 各階各方向で剛心を求め,重心と差(偏心距離)に対応する偏心率が0.15以下
1次設計のフローチャート ルート①
2次設計 のフロー ルート③ ルート②
S造の水平耐力条件:1次設計用地震力を1.5倍して 断面設計,接合部は保有耐力接合 RC造の水平耐力条件:①を満足,②または③満足 ①柱梁の接合部で,梁が最大曲げ耐力に達した時に 柱はせん断と曲げ破壊しない ②壁の断面積 Awが多い場合: Σ25 Aw +Σ7 Ac ≧0.75×Z×Ai×Σ( j=i,N) W j ③柱の断面積 Acが多い場合: Σ18 Aw +Σ18 Ac ≧1.0×Z×Ai×Σ( j=i,N) W j
SRC造の水平耐力条件:①を満足し,②または③を満足する ①柱梁の接合部で,梁が最大曲げ耐力に達し た時に柱はせん断と曲げ破壊しない ②壁の断面積 Awが多い場合: Σ25Aw+Σ10 Ac≧0.75×Z×Ai×Σ(j=i,N) W j ③柱の断面積 Acが多い場合: Σ20Aw+Σ20 Ac ≧1.0×Z×Ai×Σ(j=i,N) W j
(3)高さ31 m 以上またはルート2を 満足しない建物の2次設計(ルート③) ・保有水平耐力の検討: 塑性変形を考慮した建物崩壊時の保有水平耐力が必要保有水平耐力より大きい ・必要保有水平耐力: Qun = Ds×Fes×Qud Qud = Z×Rt×Ai×C 0×Σ( j= i,N) W j
構造特性係数 Ds 建物崩壊時の塑性エネルギーによる地震力の減少率 塑性率大 S造 RC造 塑性率小
形状係数 Fes = Fe×Fs Fe:偏心率による増大係数(1.0~1.5) Fs:剛性率による増大係数(1.0~)
(4)高さ20 m 以下のRC造または高さ 13m以下のS造の2次設計(ルート①) ・S造の水平耐力条件: 標準層せん断力係数 C 0= 0.3で短期で設計, 接合部は保有耐力接合 ・RC造の水平耐力条件: Σ25 Aw+Σ7 Ac≧1.0×Z×Ai×Σ( j=i,N) W j
3-5 限界耐力計算による耐震設計法 (1)要求性能項目と性能水準 3-5 限界耐力計算による耐震設計法 (1)要求性能項目と性能水準 安全性:人命保護が目的で,床の崩落や建物 の崩壊を防止する ←大地震動 修復性:修復や補修が容易で軽微な損傷以下 損傷性:部材の応力が弾性限界や許容応力度を超えず地震後に原状回復できる ←中地震動 使用性:建物の日常的な使用に対する 機能障害を防止する
要求耐震性能と地震動レベル
(2)構造性能の検証法 ・地震力の与え方: 加速度応答スペクトルとして,建物固有周期は塑性変形を考慮し,等価剛性で長くさせる ・地震力の入力位置: 工学的基盤上面として,表層地盤の増幅効果と地盤-建物の相互作用は別に加算
地盤ー構造物系と地震荷重
工学的基盤の最大加速度応答 大地震動 最大800 (cm/s2) 中地震動 最大160 (cm/s2)
限界状態設計 のフロー
(2-1)損傷限界耐力計算 ・ i 階での地震力(中地震動): P di = m i×B di (Td )×S ad (Td )×Z×Gs(Td ) ・ 損傷性の評価式: Q di ≧ Σ( j=i,N) P dj かつ層間変形角が1/200以下 ・ 表層地盤の加速度増幅率Gs(Td ):地盤種別による評価式がある Gs =1.35~2.7倍
i 階の損傷限界せん断耐力 Q di: 短期許容せん断耐力に相当 m i: i 階の質量(t) B di (Td ) :高さ方向分布係数 Sad (Td ):工学的基盤の最大加速度 Sad (Td )≦1.6(m/s2) = 160(cm/s2) ← Gs=1.35で地表面上は216 (cm/s2)
(2-2)安全限界耐力計算 ・ i 階での地震力 (大地震動): P si = m i×B si (Ts )×F h×S as (Ts )×Z×G s(Ts ) ・安全性の評価式: Q si ≧ Σ( j = i , N) P sj Q si:安全限界せん断耐力≒保有水平耐力
粘性減衰による加速度低減係数 F h: F h = 1.5/(1+10×h) h=0.05 を1として算定 S as (Td ):工学的基盤の最大加速度 S as (Td )≦8.0(m/s2) = 800(cm/s2) ← Gs=1.35で地表面上は1080 (cm/s2)
(4)損傷性検討用地震力の計算 ・ 等価1質点系モデル(中地震動):多層建物を 1次振動モード{δd }のみでモデル化 ・有効質量:等価1質点系が多層建物の1層せん断力と同等のせん断応答を示す時の質量 ・損傷限界固有周期:多層建物の1次固有周期に,地盤の相互作用の効果で少し伸びる
損傷性の検討用地震力評価モデル 代表変位 有効質量 1階の せん断力
(5)安全性検討用地震力の計算 ・荷重増分解析法:多層建物に水平力を増分させながら作用させ,弾塑性領域まで含めて安全限界状態に達した変位{δs }を求める ・等価1質点系モデル(大地震動):塑性変形を 考慮して安全限界時振動モード{δs }で表現 ・安全限界固有周期:安全限界状態に達した 変位{δs }が大きいので,かなり長くなる
安全性の検討用地震力評価モデル 接合部が塑性化 代表変位も増大 変形が増大
安全性検討用の弾塑性モデル 等価剛性 塑性化
(6)限界耐力計算の特徴 ・性能水準の明確化:耐震設計用地震動を平均再現期間で表現して分かりやすくさせる ・入力地震動の明確化:工学的基盤面で地震力を与え,表層地盤の効果を個別に評価 ・大地震時の変形計算を導入:弾塑性変形計算を導入して,各層の変形を地震力に反映