基礎ゼミ 林分動態部門 光を受ける 植物のかたち 担当者:飯島
はじめに 個体の成長と光 今日のお話 ・光:植物の生残・成長を制限する最も重要な資源のひとつ ・光を獲得するために植物が行う工夫 光を受ける植物のかたち (個体レベルでの生残成長) はじめに 個体の成長と光 ・光:植物の生残・成長を制限する最も重要な資源のひとつ ・光を獲得するために植物が行う工夫 →形態的な順応 (光を受ける工夫) →生理的な順応 (光の利用の工夫←生理生態部門のゼミで) 今日のお話 0. 光が葉に届くまで:前段として *地下部は今回紹介しません 1. 葉と炭素獲得:炭素獲得の最前線 2. 葉の足場としての茎:The 裏方 3. 植物の成長とモジュール構造:器官の空間的配置と相対関係
0. 光が葉に届くまで -前段として-
光が葉に届くまで 光の降り注ぎかた 光をさえぎるもの ・1日の変異:太陽の方位 ・季節の変異:太陽高度 光を受ける植物のかたち (光が葉に届くまで) 光が葉に届くまで 光の降り注ぎかた ・1日の変異:太陽の方位 ・季節の変異:太陽高度 ・場所 (緯度) の変異:太陽高度、季節変異の大きさ 光をさえぎるもの ・雲←何かにぶつかった光は、散乱光として降り注ぐ 晴れた日は10-30%が散乱光、曇りの日は100%が散乱光 ・他個体の葉っぱ←特定の波長域を選択的に吸収、波長の変化 落葉樹林では、落葉期と着葉期で林内の光環境に大きな違い (シーズナルギャップ)
受光量の評価 -個体ベース- 全天空写真 光量子センサー ・半球体の魚眼レンズを上に向けて撮影。画像から白い部分を開空度として算出 光を受ける植物のかたち (光が葉に届くまで) 受光量の評価 -個体ベース- 全天空写真 ・半球体の魚眼レンズを上に向けて撮影。画像から白い部分を開空度として算出 光量子センサー ・光のうち、植物が利用可能な波長域 (400-700nm) の光粒子が単位時間で通過した量 (PPFD) を測定 ・通常、目的とするところと一切上空がさえぎられていないところで同時測定し、相対値として算出 ・照度と測りかたは同じだが、植物が利用可能な光の量で表現する方が適切なため、よく用いられる
受光量の評価 -個葉ベース- 光量子センサー コンピューターシミュレーション ・センサーを多量に準備し、個葉の上に取り付ける 光を受ける植物のかたち (光が葉に届くまで) 受光量の評価 -個葉ベース- 光量子センサー ・センサーを多量に準備し、個葉の上に取り付ける コンピューターシミュレーション ・対象植物の3次元の構造を コンピューター上で再現 ・ソフト上で自己被陰の程度や光源の位置、強度を変え、個葉の光環境を推定 ・3次元構造の測定に尋常でない 時間がかかるが、様々な条件を 仮想して計測ができる Y-plantによる植物の3次元構造の再構築
1. 葉と炭素獲得 -炭素獲得の最前線-
葉と炭素獲得 葉の機能 葉の諸形質と炭素獲得機能 ・唯一の炭素獲得器官 ←内樹皮や種子も光合成をしているらしいがほとんど誤差程度 ・葉の厚さ 光を受ける植物のかたち (葉と炭素獲得) 葉と炭素獲得 葉の機能 ・唯一の炭素獲得器官 ←内樹皮や種子も光合成をしているらしいがほとんど誤差程度 葉の諸形質と炭素獲得機能 ・葉の厚さ ・葉の展開時期と展開方法 (特に落葉樹で) ・葉の角度と配置 ・葉の寿命 ・葉の生理機能
葉の厚さ 葉の厚さ 葉の強度 葉の光の透過 ・強度、光の透過に影響 資源が不足する暗い環境で特に重要 炭素を葉という形で保持できる 光を受ける植物のかたち (葉と炭素獲得) 葉の厚さ 葉の厚さ ・強度、光の透過に影響 葉の強度 資源が不足する暗い環境で特に重要 炭素を葉という形で保持できる ・厚い葉: 強度が高い→長く維持できる ・厚い葉: 強度が高い→生成コストがかかる 簡単には付け替えられない 葉の生産能力は加齢とともに低下する 葉の光の透過 ・厚い葉: 強光阻害を防ぐ
葉の展開時期と展開方法 一斉開葉型 順次開葉型 ・1-2週間で全ての葉を展開 ・冬芽に展開する全ての葉を用意←枚数は前年度の稼ぎに依存 光を受ける植物のかたち (葉と炭素獲得) 葉の展開時期と展開方法 一斉開葉型 ・1-2週間で全ての葉を展開 ・冬芽に展開する全ての葉を用意←枚数は前年度の稼ぎに依存 ・耐陰性が高い種に多い戦略 (安定的な成長) 順次開葉型 ・生育期間中長い間葉を展開 ・環境条件に依存して新しい葉を形成 ・耐陰性が低い種に多い戦略 (積極的な資源獲得) これらの中間的な性質を示す種も (一斉開葉+順次開葉)
葉の角度と配置 葉の角度 葉の配置 ・強い光: 光阻害を引き起こす→葉を垂直に傾けて光を避ける ・弱い光: 光の多い方向に葉を向ける 光を受ける植物のかたち (葉と炭素獲得) 葉の角度と配置 葉の角度 ・強い光: 光阻害を引き起こす→葉を垂直に傾けて光を避ける ・弱い光: 光の多い方向に葉を向ける 葉の配置 輪生させる 左右交互に配置 葉柄の長さを変える 自己被陰を避ける
葉の寿命 -落とすか落とさざるか?- 常緑性と落葉性 常緑性と落葉性を決めるもの 寒帯林 生育不適期 (冬季) (稼ぎ) (生成コスト) 光を受ける植物のかたち (葉と炭素獲得) 葉の寿命 -落とすか落とさざるか?- 常緑性と落葉性 寒帯林 生育不適期 (冬季) (稼ぎ) (生成コスト) (維持コスト) ・常緑樹: 決まった落葉期がないだけ、葉の寿命は1年より短い場合も 常緑性 生育適期 ・落葉樹: 生育不適期に集中的に落葉 (稼ぎ) < (生成コスト) (維持コスト) 常緑性と落葉性を決めるもの 季節性のある温帯林 生育不適期 (乾季、冬季) ・(葉の稼ぎ) - (葉の生成コスト) - (葉の維持コスト) で考える 落葉性 (稼ぎ) (生成コスト) (維持コスト) ←葉をつけていても意味がない 季節性がない熱帯林 (稼ぎ) (生成コスト) (維持コスト) 常緑性
2. 葉の足場としての茎 -The 裏方-
茎の役割 縁の下の力持ち 支持器官としての機能 通導器官としての機能 ・支持器官であり通導器官 ←茎なしでは葉は何もできない 光を受ける植物のかたち (葉の足場としての茎) 茎の役割 縁の下の力持ち ・支持器官であり通導器官 ←茎なしでは葉は何もできない 支持器官としての機能 ・葉を持ち上げる&横に広げる (よりよい光環境の獲得) 通導器官としての機能 ・水分、養分の供給 (光合成に必須)
へたり込まない茎 -垂直方向- 曲がりやすい植物の形 座屈しないために 光を受ける植物のかたち (葉の足場としての茎) へたり込まない茎 -垂直方向- 曲がりやすい植物の形 ・棒状の物体 (幹) の上に重いもの (葉群) = 曲がりやすい (座屈) 形 ・樹高の増加→幹自身の重さも座屈の原因 座屈しないために ・2 * H = 20.5 * D ・幹自身の重さを考慮すると 2 * H = 21.5 * D ・実際の幹はこの限界の3-5倍の余裕を持つ →が、被陰下ではそれ以下の細長い幹 光環境の改善と強度のトレードオフ ・周囲個体の増加→植物に光が反射→ (緑色と近赤色が残るので) 光の波長の変化→フィトクロムで検知
高さと広がりのバランス 上か横か 種による違い 環境による違い ・上:○他個体の競争に有利 ×受けられる光の量は少ない 光を受ける植物のかたち (葉の足場としての茎) 高さと広がりのバランス 上か横か ・上:○他個体の競争に有利 ×受けられる光の量は少ない ・横:○受けられる光の量は多い ×他個体との競争中では不利 種による違い ・高木種は高さ優先、低木種は広がり優先 ・耐陰性が高い種:広がり優先 環境による違い ・暗い環境:広がりを優先し、その高さでの受光量を増やす
通導器官としての茎 水分通導機能 パイプモデル ・水分通導性: 仮道管 < 道管 光を受ける植物のかたち (葉の足場としての茎) 通導器官としての茎 水分通導機能 ・水分通導性: 仮道管 < 道管 ・水分通導性: 太い径 > 細い径 (通導速度は半径の4乗に比例) ・水柱の切れやすさ: 太い径 > 細い径 (太い径のほうが水の占める割合が大きく、表面張力や毛細管現象の働きが弱くなる) パイプモデル ・ (経験則として) 2倍の量の葉は2倍の断面積の茎に 支えられている ある一定量の葉を力学、生理的に支えるには 一定の太さの茎が必要である
シュートの中の茎と葉の配置 短枝と長枝 全て長枝だったら…? ・短枝: 1cm未満の短い枝 光を受ける植物のかたち (葉の足場としての茎) シュートの中の茎と葉の配置 短枝と長枝 ・短枝: 1cm未満の短い枝 ・長枝: 長い枝であり、空間を獲得する機能を持つ 短枝よりも形成にコストがかかる 全て長枝だったら…? ・長い枝がたくさん→葉の自己被陰が起こりやすくなる 長枝と短枝の組み合わせ:ある投資量に対して光獲得を 効率よく行える ・明確に使い分けていなくても、実は多くの種で似たような枝が形成されている
3. 植物の成長と モジュール構造 -器官の空間的配置と相対関係-
成長解析 各器官の総和と炭素獲得能力 成長解析 ・これまでは器官別の形態と炭素獲得能力 ・これらの総和と獲得炭素能力との関係? 光を受ける植物のかたち (植物の成長とモジュール構造) 成長解析 各器官の総和と炭素獲得能力 ・これまでは器官別の形態と炭素獲得能力 ・これらの総和と獲得炭素能力との関係? →成長解析が有効 成長解析 ・個体重増加を要素に分解 ・要素: 植物の形態、炭素固定能力 etc… ・どうやって分解するか?→RGRの導入
成長の指標としてのRGR RGR RGR (W2 – W1) = (T2 – T1) × W1 × = (W2 – W1) 光を受ける植物のかたち (植物の成長とモジュール構造) 成長の指標としてのRGR RGR RGR (W2 – W1) = (T2 – T1) × W1 × = (W2 – W1) (T2 – T1) × LA LA W1 NAR × LAR = W, 成長の程度を示すもの, 通常個体重 T, 時間 LA, 個体の葉面積 NAR: Net Assimilation Rate, 単位葉量あたりの稼ぎ LAR: Leaf Area Ratio, 個体重あたりの葉面積
成長の指標としてのRGR2 RGR RGR (W2 – W1) = (T2 – T1) × W1 × = (W2 – W1) 光を受ける植物のかたち (植物の成長とモジュール構造) 成長の指標としてのRGR2 RGR RGR (W2 – W1) = (T2 – T1) × W1 × = (W2 – W1) (T2 – T1) × LA LA W1 (W2 – W1) (T2 – T1) × LA LA LW LW W1 = × × = NAR × SLA × LMR SLA: Specific Leaf Area, 重量あたりの葉面積、葉の厚さ LMR: Leaf Mass Ratio, 個体重あたりの葉重、葉への投資率
各要素の意味 「重量」と「面積」 ・重量は、コスト (作るのに投資した量) ・面積は、効率 (資源を受ける部分の量は面積) 光を受ける植物のかたち (植物の成長とモジュール構造) 各要素の意味 「重量」と「面積」 ・重量は、コスト (作るのに投資した量) ・面積は、効率 (資源を受ける部分の量は面積) NAR: (稼ぎ) / (葉面積) →生産効率 稼ぎ LAR: (葉面積) / (個体重) →受光器官生成効率 SLA: (葉面積) / (葉重) →葉の生成コスト LMR: (葉重) / (個体重) →葉への投資率
アロメトリー 器官間の相互関係 y = bxa ・ある器官の重量yとある器官の重量xの間には通常以下の関係が成立する 光を受ける植物のかたち (植物の成長とモジュール構造) アロメトリー 器官間の相互関係 ・ある器官の重量yとある器官の重量xの間には通常以下の関係が成立する y = bxa ・これをアロメトリー (allometry, 相対成長) という ・アロメトリー式: 測定が物理的or量的に困難な状況で有用 ex) 成木の根の重量・樹幹体積
モジュール構造 植物の成長様式 モジュール成長の利点 ・付け足し型 (モジュール様式): すでにある体の上に次々と器官を足していく 拡大型 光を受ける植物のかたち (植物の成長とモジュール構造) モジュール構造 植物の成長様式 ・付け足し型 (モジュール様式): すでにある体の上に次々と器官を足していく 拡大型 付け足し型 ←人間などの動物は、すでにある体を、形を維持しながら拡大 モジュール成長の利点 ・固着性の植物: いやな環境でも逃げられない ・周囲環境: 他個体の存在で簡単に変わる (被圧されるなど) ・好きな方向だけに器官を足せるほうが有利 ・いらないところは捨てればよい
生活史とモジュール構造 1年生草本 多年生草本 クローナル植物 ジェネット ・1年で生命が終わり、器官は積み上がらない ラメット 光を受ける植物のかたち (植物の成長とモジュール構造) 生活史とモジュール構造 1年生草本 ジェネット ・1年で生命が終わり、器官は積み上がらない ラメット 多年生草本 ・地上部は毎年交換、積み上がらない ・地下部は年々拡大、積みあがる クローナル植物 ・多年生草本の根系や倒れた植物体から新たに発生する ・外見上独立している1個体をラメットという ・根系でつながったラメット間では養分のやり取りがある
樹木のアーキテクチャ 木本植物のモジュール構造 アーキテクチャ ・一度作った器官は (基本的に) 残り、積み上がる 光を受ける植物のかたち (植物の成長とモジュール構造) 樹木のアーキテクチャ 木本植物のモジュール構造 ・一度作った器官は (基本的に) 残り、積み上がる →年々古い器官の負担が増す アーキテクチャ ・(個体全体の) 分枝構造 ・遺伝的にある程度決定 ・設計デザインが存在する点でStructureと異なる ・周囲環境の影響も受ける ←資源の多い部分: 積極的な器官の生成 ←資源の少ない部分: 器官の切捨て
耐陰性を高めるには? 耐陰性 ・明確な定義なし →生残or成長? ・生残と成長 →生育初期: 負の相関 →初期以降: 正の相関 光を受ける植物のかたち (植物の成長とモジュール構造) 耐陰性を高めるには? 耐陰性 ・明確な定義なし →生残or成長? ・生残と成長 →生育初期: 負の相関 →初期以降: 正の相関 (Sack and Grubb 2001) 生残と成長が正の相関を持つ段階で (とりあえず) 考える
RGRから耐陰性を考える RGRを最大化する RGR = NAR × SLA × LMR LAR NARを最大化する 光を受ける植物のかたち (植物の成長とモジュール構造) RGRから耐陰性を考える RGRを最大化する RGR = NAR × SLA × LMR LAR ・光資源は恒常的に少なく、資源保持型が有利 NARを最大化する ・(常緑樹なら) 葉寿命の長期化 ・樹幹を細長くする ・水平方向へ枝を伸長
RGRから耐陰性を考える2 LARを最大化する Dotch? -常緑樹と落葉樹の相対関係- ・SLAを大きくする = 薄い葉 光を受ける植物のかたち (植物の成長とモジュール構造) RGRから耐陰性を考える2 LARを最大化する ・SLAを大きくする = 薄い葉 ・LMRを大きくする→葉へ大きな投資 Dotch? -常緑樹と落葉樹の相対関係- ・常緑樹: SLA小 & LMR大 ←1年で葉を落とす必要がないなら、頑丈な葉をたくさん 作るほうがよい ・落葉樹: SLA大 & LMR小 ←必ず1年の最後に葉を落とすなら、コストがかからない薄い葉を少なく作るほうが良い +LMRが大きいと生成コストも大きくなる