天体MHD数値シミュレーションの魅力と魔力

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天体MHD数値シミュレーションの魅力と魔力 柴田一成 京大理花山天文台

本講演の内容 1.はじめに 2.天体MHD現象のおもしろさ 3.天体MHDシミュレーションは超困難 4.天体MHDシミュレーションの魅力 5.天体MHDシミュレーションの魔力。はまると危険(落とし穴の数々) 6.むすび:ノーベル賞課題(超難問)に挑戦せよ

1.はじめに 時間に依存する電磁流体(MHD) 方程式を数値的に解くこと。 天体MHDシミュレーションとは? 天体現象への応用を目的として、  天体MHDシミュレーションとは?     天体現象への応用を目的として、     時間に依存する電磁流体(MHD)     方程式を数値的に解くこと。   シミュレーション=数値実験

天体MHDシミュレーションを取り巻く迷信・偏見の数々  1)シミュレーションは何でも解決してくれる  2)シミュレーションは、境界条件をうまく選  べば必ず望む結果を出してくれる  3)シミュレーションは、簡単である。頭が悪い  4)シミュレーションは、きれいな絵やムービー を見せて人をだまそうとする手段である

迷信にまどわされるな 1)MHDシミュレーションは、万能ではない。 2)MHDシミ ュレーションでは、境界条件をコントロールするのは至難のワザ。 3)MHDシミュレーションは、流体シミュレーションの10倍くらい困難。精神力、体力が必要。 4)シミュレーション・ムービーは、実におもしろくて役に立つ。人(または自分)を「だます」のではなく、「教育する」のである。

私の場合 大学院に入りたての頃、コンピュータにも、シミュレーションにも全く興味はなかった。 FORTRANも知らなかった。  FORTRANも知らなかった。 そんな私が、いかにして、天体MHDシミュレーションに、はまっていったか、本日はその魅力と魔力について語りたい

2.天体MHD現象のおもしろさ 天体MHD現象の代表例 宇宙ジェット(AGN、連星系、原始星) 太陽フレア・ジェット    宇宙ジェット(AGN、連星系、原始星)    太陽フレア・ジェット   まずは、魅惑あふれる画像とムービーを見よう

宇宙ジェット (活動銀河核ジェット:電波銀河 Cyg A with VLA)

宇宙ジェット (原始星ジェット: HH1-2 with HST)

宇宙ジェット (連星系ジェット:SS433 with ASCA)

宇宙ジェットと降着円盤 (活動銀河核ジェット)

宇宙ジェットと降着円盤 (原始星ジェット)

太陽ジェット(Hα) (京大飛騨天文台: Kurokawa et al. 1988)

太陽コロナ・フレア・ジェット (ようこう軟X線)

太陽フレアからの衝撃波 (京大飛騨天文台:Hα)

太陽コロナ質量放出 (SOHO/LASCO 白色光) 太陽コロナ質量放出 (SOHO/LASCO 白色光)

かに星雲中の波 (HST)

3.天体MHDシミュレーションは 超困難 (でも、だから、やりがいがある) 3.天体MHDシミュレーションは 超困難  (でも、だから、やりがいがある) 電磁流体力学の方程式がそもそも複雑  8変数の非線形偏微分方程式   cf)流体力学の方程式は5変数 電気抵抗が入るとさらに複雑   磁気リコネクションの物理は未だ解明   されていない

電磁流体(MHD)方程式 未知数8個: 密度(ρ)、速度ベクトル(v)、 磁束密度ベクトル(B)、圧力(p)   未知数8個: 密度(ρ)、速度ベクトル(v)、             磁束密度ベクトル(B)、圧力(p)   方程式8個: 非線形連立偏微分方程式

数値計算の方法 差分法: 微分を差分で近似。 有限の格子点上 で計算 粒子法: 超粒子の運動方程式を解く ラグランジュ法。MHDには不向き。 差分法: 微分を差分で近似。 有限の格子点上      で計算 粒子法: 超粒子の運動方程式を解く         ラグランジュ法。MHDには不向き。         (磁場を解く必要があるので、             格子点はどうしても必要)

電磁流体波(スローモード) も奇妙

天体MHDシミュレーションは どこが難しいか? 境界条件(MHDでは自由境界は、きわめ       て困難) 密度成層(アルフベン速度が大きく変化)    例)太陽光球密度/コロナ密度= 初期条件(初期平衡解を求めることさえ、         大仕事)   =>数値不安定の嵐!

太陽ジェットの磁気リコネクション・ モデル(Yokoyama and Shibata 1995) 密度分布

4.天体MHDシミュレーションの 魅力 とにかく、ムービーはおもしろい。 「人をだます」などと言わずに、素直に感動しよう。 4.天体MHDシミュレーションの 魅力   とにかく、ムービーはおもしろい。 「人をだます」などと言わずに、素直に感動しよう。 1) 横山: 太陽フレア・ジェットの磁気リコネ       クション・モデル(天文学会奨励賞) 2)  林:  原始星フレアの磁気リコネクション・ モデル(SGI コンピュータグラフィックス賞) 3) 工藤: 宇宙ジェットのMHDモデル 4) 田沼: 銀河における磁気リコネクション 

太陽ジェットの磁気リコネクション・ モデル(Yokoyama and Shibata 1995) 温度分布

太陽コロナX線ジェット 足元でマイクロ・フレア 長さ=数万ー数10万km 速度=10-  1000km/s (X線/ようこう)

原始星フレアのMHDモデル (Hayashi et al. 1996)

宇宙ジェットのMHDモデル (Kudoh et al. 2000)

銀河フレア: 超新星によってトリガーされたリコネクション(Tanuma et al 2000)

天体MHDシミュレーション の効用 1) 定性的物理が良くわかる。教育的効果。 1) 定性的物理が良くわかる。教育的効果。 2) 天体物理学的モデリングを可能にする。観測と理論の橋渡し。(e.g., Yokoyama and Shibata 1995) 3) 解析的手法では発見困難な物理の 発見の道具。シミュレーションは数値実験。 理論のカンニング(!)   例)相似解 (Shibata et al. 1989) scaling law (Yokoyama and Shibata 1998)

フレア温度の scaling law の 発見(Yokoyama and Shibata 1998)

フレアの温度は何で決まっているか? 磁気リコネクション加熱=熱伝導冷却の バランスで決まる(Yokoyama and Shibata 1998)

5. 天体MHDシミュレーションの魔力。はまると危険 その1 5. 天体MHDシミュレーションの魔力。はまると危険 その1 魅力的なシミュレーション・ムービーが、いくらでも作れるし、また、そのようなムービーは人からもほめられるので、計算結果の解析、理論作り、論文執筆が、ついおろそかになる。 =>禁シミュレーションの期間を意識的に作り、ちゃんとサイエンスをやる

天体MHDシミュレーションの 魔力。はまると危険 その2 天体MHDシミュレーションの 魔力。はまると危険 その2 MHDシミュレーションは、とにかく、計算が難しいので、満足できる結果を出そうとするあまり、コードの改善、計算法の改良に、泥沼的にのめりこんでゆく恐れがある。 =>その方面(数値流体力学)で飯を食う自信があれば別だが、そうでなければ、天文学や宇宙物理学の成果を出すべく、適当なところでシミュレーションをうち切って論文を書く勇気が必要。

6.むすび:ノーベル賞課題(超難問)に挑戦せよ その1 6.むすび:ノーベル賞課題(超難問)に挑戦せよ その1 1) 太陽(恒星)フレア:      ミクロとマクロの物理の融合:  電気抵抗の起源や粒子加速機構を  self-consistent に含むマクロなシミュレーション。   拡散領域のサイズはどれくらいか?       粒子はいかにして加速されるか?   イオンのラーモア半径100cm              << フレアのサイズ 1万km   (7桁の空間スケールのギャップをいかに        乗り越えるか? )

ノーベル賞の課題(超難問) に挑戦せよ その2 ノーベル賞の課題(超難問) に挑戦せよ  その2 2) 太陽(恒星)ダイナモ:     激しい密度変化があり(圧縮性気体)、かつ、 乱流状態にある対流を矛盾なく解き、かつ、    生成された磁場の反作用(磁気浮力や磁気    張力)を正しく含むダイナモのモデル(シミュレー  ション)は、はたして可能か? 理論が予言す  る磁場の強さはいくらか?       対流層の底の密度=0.1g/cc       光球の密度=      g/cc      (6桁の密度のギャップ,      5桁の時間スケールのギャップ)

ノーベル賞の課題(超難問) に挑戦せよ その3 ノーベル賞の課題(超難問) に挑戦せよ  その3 3)宇宙ジェット   ジェットの足元の降着円盤から、ジェットの先端までセルフコンシステントに含む、ジェットのMHDシミュレーション。降着円盤活動(フレア、コロナ)の非定常性はジェット(の内部構造)と関係しているか? ジェットの収束や安定性は?     原始星ジェットの足元の降着円盤の     内縁の半径=0.1AU    ジェットの長さ=1光年=10万AU     (7桁の長さのスケールのギャップ)

おわりに:若者たちへの メッセージ 理論    MHDシミュレーション 観測データ解析 この3分野に通じた幅広い研究者を目指してほしい