タイタン探査の魅力 関根康人(東京大学 ・ 新領域) 杉田精司 ・ 石丸亮 ・ 今中宏 ・ 松井孝典

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タイタン探査の魅力 関根康人(東京大学 ・ 新領域) 杉田精司 ・ 石丸亮 ・ 今中宏 ・ 松井孝典 S. Lebonnois, B.N. Khare, C.P. McKay 1月28日 国際共同木星総合探査計画LAPLACE・WG会合

タイタンとは? 土星系最大の衛星(半径=2600km)⇔ 火星:3400km 窒素とメタン(数%)の大気(地表1.5 bar) オレンジ色の有機物エアロゾル ⇒ 地表の様子不明 Cassini/Huygens探査 (2004–) Cassini Orbiter: レーダー, VIMSによる地表マッピング Huygens probe: 地表面着陸    ⇒ 明らかになってきた地表状態

タイタンの地表:赤外マッピング(VIMS) ③液体の湖の発見 n i g h t ⑤低温火山? ④氷の砂丘 ①河川地形 Huygens 着陸地点 X a n a d o ②南極・巨大雲の発生 (Barnes et al. in press) ・水氷の高地(大陸) ・全球的な海はない ・若い地表 (Lorenz et al. in press) (Porco et al. 2005) (Lorenz et al. 2007)

① 河川地形:Huygens着陸機 ・かつて(<100万年)液体が大規模に流れた? ・高地の侵食と低地への堆積 ・メタンの湿地 ● 着陸地点付近(上空 10km, 6.5km) ● 着陸地点 河川地形 15cm 雲 昔の海岸線? 2.5 km 丸石 (Tomasko et al. 2005) ・かつて(<100万年)液体が大規模に流れた? ・高地の侵食と低地への堆積 ・メタンの湿地 (Niemann et al. 2005)

② 南極(夏極)の巨大雲(メタン) ・夏極で大規模な雲(活発なメタンの蒸発) ・中緯度に集中した流水地形 ⇔ 大気大循環モデル ・地上望遠鏡による赤外観測 ・Cassini探査機のレーダー観測 メタンの雲 (Brown et al. 2002) 大規模な流水地形 (Porco et al. 2005) ・夏極で大規模な雲(活発なメタンの蒸発) ・中緯度に集中した流水地形 ⇔ 大気大循環モデル (Rannou et al. 2006)

③ 北極域(冬極)のメタンの湖 400 km

⇔ ④ 赤道域の氷の砂丘 ・赤道域の暗い領域の多くは 砂丘・乾燥地域 ・風向も推定 tidal wind zonal wind zonal wind ナミブ砂漠(地球) 90 S ⇔ 100 km ・赤道域の暗い領域の多くは  砂丘・乾燥地域 ・風向も推定 (Lorenz et al. 2006)

⑤ 低温火山(?) カルデラの ような地形 大気・地表の メタンを供給? 筋状にのびる雲 (Sotin et al. 2005; Lopes et al. 2007; Lunine et al. in press) 大気・地表の メタンを供給? 筋状にのびる雲

地表環境のまとめ タイタンは、人類がようやく見つけた “生きている(物質循環のある)”天体である 地表環境のまとめ タイタンは、人類がようやく見つけた “生きている(物質循環のある)”天体である 火成活動?  メタンの凝縮(湖) 大気循環 メタン循環 乾燥地域+湿地 (堆積物・砂丘) 水氷の大陸 (風化・浸食) メタンの蒸発

タイタンに関する重要な問題 地表環境の安定性・進化 大気の起源・進化 有機分子はどこまで複雑化しているのか?  ・タイタンは45億年間、今の姿だったのか? 大気の起源・進化  ・窒素大気の起源  ・メタンの源は?  ・液体メタンの総量はどれくらいか? 有機分子はどこまで複雑化しているのか?  ・エアロゾルの組成、構造は?  

地表環境の安定性 (正のフィードバック) 地表温度決定 太陽光 ・メタンの温室効果 ・エアロゾルの反温室効果 90%をカット 全球凍結状態?   (正のフィードバック) 地表温度決定 メタン枯渇 低温火山(メタン供給) 太陽光度上昇 太陽光度上昇 全球凍結状態?  温度 ~ 60K 湿潤な現在の  タイタン 暴走温室状態? (McKay et al. 1999) (Lorenz et al. 1997)

土星磁気圏の重要性 土星磁場(太陽風)変動によって、 タイタン地表環境は大きく影響を受ける ・長期進化(10億年スケール) ・大気へのエネルギー源の比較 ・土星磁気圏とタイタン タイタン                                                                                                                                  土星磁気圏の 荷電粒子 土星磁場(太陽風)変動によって、 タイタン地表環境は大きく影響を受ける ・長期進化(10億年スケール) ・中期変動(100年スケール) (Sagan & Thompson 1984)

H C4H2 H2 C4H10 地表環境の安定性:エアロゾルの役割 がない 水素原子(H)の行方 CH4 エアロゾル表面反応 エアロゾル (Sekine et al. 2008a, b) 水素原子(H)の行方 C4H2 気相3体反応 H H2 エアロゾル 紫外線、荷電粒子 CH4 C4H10 エアロゾル表面反応 (Yung et al. 1984; Bakes et al. 2003) ⇒ 実験データ   がない

1-D光化学モデル 実験装置 H2(HD)生成率 ガス分析 赤外分光分析 ・カッシーニの観測(C4H2)と調和的 模擬タイタン エアロゾル (CxHyNz) 低温ポンプ (150-300K) ガス分析 Diffusion pump D2 gas D atom irradiation 赤外分光分析 Cold plasma (D2 → 2D) H2(HD)生成率 ・カッシーニの観測(C4H2)と調和的 ・エアロゾルの材料分子が増加 (Sekine et al. 2008a, b)

エアロゾル生成がメタンの 正のフィードバックのブレーキ? メタン濃度増加、地表温度増加 エアロゾル密度上昇 水素原子の除去、不飽和分子増加 さらにエアロゾル密度上昇 地表温度低下、メタン濃度低下 (Sekine et al. 2008a, b)

堆積物の量/有機物生成率 ⇒ 形成時間(~大気の存在時間) 砂丘が語る?大気の歴史 90 N インターデューン   基盤岩 アメリカ デスバレー H2O-rich crust CH4-C2H6 地下湖? 有機物氷+エアロゾル 堆積物 レーダーサウンダー ⇒ 堆積物層の厚さ(量) 90 S 100 km 堆積物の量/有機物生成率 ⇒ 形成時間(~大気の存在時間) ・砂丘の粒子:有機物多、水氷少 ・基盤岩:高地に近い組成 (Barnes et al., in press)

ポスト・ホイヘンス:着陸機のねらい 砂丘に堆積した“砂”を採取 ⇒有機物氷、エアロゾル組成・構造は? 大陸地殻の組成は?  ⇒有機物氷、エアロゾル組成・構造は? 大陸地殻の組成は?  ⇒初期分化、材料物質 湖の組成は? 低温火山の活動は?メタンフラックス 2012 – Back to Titan

まとめ:タイタン探査の魅力 タイタンは生きている(物質・大気循環や 気候のある)天体である その地表環境の形成・進化・安定性を知る  気候のある)天体である その地表環境の形成・進化・安定性を知る  ことは面白い、またそれらは惑星気象学  (陸惑星、ハビタビリティー)、  惑星システム進化学の理解にもつながる