3.4 商標権 目的:公正な流通秩序を維持するため。 古くは、刑法・不法行為法の対象だったが、規制が不完全だったため商標法が制定された。

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3.4 商標権 目的:公正な流通秩序を維持するため。 古くは、刑法・不法行為法の対象だったが、規制が不完全だったため商標法が制定された。 登録が必要な標識権(登録の日から10年間独占的使用権。期間更新可能であるため、事実上、半永久権である) 登録した商標を正当な理由なしに3年間継続して使用していないとき、第三者が商標登録取り消しの審判を特許庁に対して行うことができる(商50)。但し、連合商標のうちひとつを使用していれば良い。

3.4.1 商標とは 「商」(あきない)の「標」章 マーク(標章):文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合(商2Ⅰ) 商品商標と労務商標(サービスマーク)がある(前述2.7節)

3.4.2 商標の機能 識別機能 : ある商品・役務を他の商品・役務から識別させる。 出所指示機能 : どの会社の商品・役務であるかを識別させる。 品質保証機能 : マークが付けられた商品に対して、消費者が一定の品質を期待し、マークの所有者はそれに応えようとする。 広告機能 : マーク自体が広告機能を持っている(標章の識別力からの派生)。

3.4.3 商標の登録要件 新規性・進歩性は必要ない(特許との違い)。 他の商品・役務と区別できる力を持っていなければならない(特別顕著性)。

顕著性を欠く商標の例(その1) 商品または役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示したもの わらびだんご(団子),清水焼(陶器),かみなり(おこし),宅急便(輸送)、サラ金(金融)

顕著性を欠く商標の例(その2) 商品・役務の慣用商標 正宗(清酒),プレイガイド(興行場座席の手配),幕の内(弁当),かきやま(あられ)、観光ホテル(宿泊施設の提供)

顕著性を欠く商標の例(その3) 商品の産地・販売地・品質・原材料・効能・用途・数量・形状・価格・生産または使用方法・時期を普通の方法で表示した商標 犬山焼(産地・菓子),パーフェクト(品質・染料),ポケットラジオ(形状・電気用品),肩に貼り薬の図形(使用方法・薬品)

顕著性を欠く商標の例(その4) 労務の提供の場所・質・供用物・効能・用途・数量・態様・価格・提供方法・時期を普通の方法で表示した商標 定期(預金受入),美顔(美容),コードレス(無線呼び出し),エアードーム(建築),サマーレッスン(語学の教授)

顕著性を欠く商標の例(その5) ありふれた氏・名称を普通に用いられる方法で表示した商標 鶴屋(足袋類),モーリ(幼児用自転車),佐藤写真館,長崎屋

顕著性を欠く商標の例(その6) きわめて簡単でありふれた商標 40(ホテル),45(飴),GN(石鹸)、GM(自動車)、他、アルファベットの1字または2字,数字,丸・四角形・三角形

顕著性を欠く商標の例(その7) (その1)~(その6)までにあげるもの以外で、需要者が誰の商品・役務であるか認識できないような標章 サインでOK(被服),召し上がる化粧品(食肉),友の会(布団)、あとくち(酒類)、地模様(繊維),標語,現在の元号・平成,味よし(和風飲食店),エンゼル(喫茶店)

例外: 使用による識別力ないし顕著性 (その3)~(その6)のうち、特定のものが続けて永く使用したり、強力に広告したため、そのものの商標として知られるようになった(識別力が出てきた)と、認められたとき、登録を受けられる。 4711(香水),クボタ(機械),ホンダ(車両),ミルクドーナツ(ドーナツ),BS(タイヤ),東京羊かん(羊羹),三井(保険),大林(建設)

3.4.4 消極的要件・登録障害要件 公益に反するもの。 他人の権利と抵触するもの。

次の標章と同一または類似の商標は登録不可(その1) 国旗・菊花紋章・勲章・褒賞・外国国旗など パリ条約の同盟国の紋章・記章など 国連その他の国際機関の標章など 赤十字の標章または名称 国・地方公共団体・外国の監督用・証明用の印章または記号 国・地方公共団体・非営利公益団体などの標章で著名なもの(オリンピック・都バス・YMCA・JETRO) 公序良俗に反するもの(過激な文字・卑猥な図形・他国の尊厳を傷つけるもの)

次の標章と同一または類似の商標は登録不可(その2) 他人の肖像・氏名・名称・芸名など(出願時標準)(例外:本人の承諾があれば可能) 政府等の開設する博覧会や国際的な博覧会の名称 他人の商品・役務の標章として需要者間に広く認識されているもの(出願時標準) 出願時に他人が同一・類似商品・役務に出願し、登録を受けているもの 他人の登録防護標章(後述)と同一のもの 商標権が消滅した日から1年たっていない他人の商標

次の標章と同一または類似の商標は登録不可(その3) 種苗または類似商品・役務については農産種苗法の品種登録名称 他人の業務にかかる商品・役務と混同を生ずるおそれのあるもの(例:「わかもと」(石鹸)大判昭和14年6月28日)(出願時標準) 商品の品質・役務の質の誤認を生ずるおそれのあるもの(例:「HOLLYWOOD」(化粧品)東京高判昭和37年6月19日) ワイン・スピリッツの地理的表示に誤認を生ずるおそれのあるもの(原産地保護)

3.4.5 商品・役務の類似と商標の類似 商標権侵害は、他人が権限なしに「同一の商品・役務」に「同一の商標」を使用したとき適用される。 他人が権限なしに「類似の商品・役務」に「類似の商標」を使用したときも適用される。 「商品・役務」区分は、商標法施行令別表で分類。

(1) 商品・役務の区分 商品34分類(第1類:工業用,科学用又は農業用の化学品、第34類:たばこ,喫煙用具及びマッチ) 役務8分類(第35類:広告,事業の管理又は運営及び事務管理、第42類:飲食物の提供,宿泊施設の提供,医療,衛生及び美容……電子計算機のプログラムの作成,その他の他の類に属しない役務)

(2) 商品・役務の類似 登録出願は、それぞれの類の中で、1つまたは2つ以上の商品・役務を指定して、商標ごとに行う。 但し、商品・役務区分は、類似の範囲を定めたものではない(商6Ⅱ)。両商品に同一の商標を用いた場合に出所混合誤認が生じるかどうかの社会通念で決まり、時代によって変化する。 基準として、「商品・役務類似審査基準」(特許庁商標課編・発明協会)がある。実務は、この基準で処理されるので、無視はできない。

(3) 商標の類似 外観類似 : 商標の見た目が同じかどうか 呼称類似 : 商標を口で発音したときの音 が同じよ うであるかどうか 呼称類似 : 商標を口で発音したときの音 が同じよ うであるかどうか 観念類似 : 商標の持つ意味が同じかどう か

商標類似の例 「キスミー」と「キスミ」,「テイオン」と「ライオン」(外観) 「シンガー」と「SINKA」(呼称) 「キング」と「王」,「タイガー」商標と「虎」の図形(観念) 「橘正宗」(清酒)と「橘焼酎」(焼酎)。(観念は離れているが、出所誤認のおそれを勘案)

色々な考え方 「氷山」と「しょうざん」は非類似とされた(最判昭和43年2月27日) ラジオ全盛期には、外観類似より呼称類似が重視されるべきだとの主張があった。 商標類比の判定は、外観と呼称は類似で良いが、観念は同一でなければならない(大判昭和2年6月7日) 結局、全体的・離隔的観察で決定。

3.4.6 連合商標 自己の登録商標と同一または類似の商標を、指定商品・労務と同一または類似の商品・役務に使用する商標について、別個に商標登録を受けること(商7) 例:「タイガー」という基本商標がある場合に、「ゴールドタイガー」という商標に、連合商標を登録する。

3.4.7 著名商標の不当利用 商標のただ乗り(Free Ride) :商標権が指定または類似の商品・役務にのみ禁止権が及ばないことを利用して、指定または類似でない商品・役務に使用すること。 商標の希釈化(Dilution) :商標のただ乗りの結果、その商標の広告力が弱くなり、企業・商品・役務を表現するイメージが薄められること。 商標イメージの損傷(Pollution) :他人の名声を不当に利用して商標が持つ良いイメージを損傷すること(商標の希釈化のひとつ)

商標希釈化・イメージ損傷の例 商標希釈化 ロールスロイスせんべい,ロールスロイス理容店,ソニー・コーヒー 商標イメージの損傷 ディズニー・ノーパン喫茶,ニナ・リッチ・ポルノランド

3.4.8 防護標章 登録商標が需要者の間に広く知られて著名である場合において、その商品・役務に登録商標を使用されると混同を生ずるおそれがある場合に防護商標の登録ができる(商64) 商標権の指定商品・役務とは非類似の商品・役務であっても適用される。

防護商標の例 ナショナル PORA化粧品 武田薬品(ウロコ印) 石鹸・化粧品・香料類(4類),織物・編物等(16類),被服等(17類),日用品(19類),装身具等(21類)等 PORA化粧品 工業用油脂(5類),マークで手動利器(13類) 武田薬品(ウロコ印) 金属・ナトリウム(6類),原料繊維(14類)

防護商標の限界 他人が防護商標を使用すると商標権の侵害となるが、同一のものに限られ、類似のものには及ばない。 登録が難しい(登録不成立の審決が出たこともある)わりには侵害防止に役立たない(侵害事件の際、そっくり同一で使われることが少ない)。 著名商標の異業種間での不当使用の場合、防護商標による訴えより、不正競争防止法に基づく訴えが多い。

3.4.9 不正競争防止法による保護 周知商品等表示の保護(不2・1・1号) 著名商品等表示の保護(不2・1・2号) 需要者に知られた他人の商品表示・営業表示と同一・類似の表示を使用して、他人の商品や営業と「混同」を生じさせる行為を禁止。 著名商品等表示の保護(不2・1・2号) 他人の著名な商品表示と同一・類似の商標を、自己の商品等表示に使用する行為を禁止。 いずれも差止請求権と損害賠償請求権が認められる(不3・4)

商品等表示とは 「表示」は、商品商標,役務商標,商号等を含む広い概念。 「商品表示」と「営業表示」の2つからなり、「人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業であることを表示する」すべてを指す。

周知商品等表示の保護 現実に混同を生じていなくても、そのおそれがあれば侵害行為として認められる。 周知度が低い場合、表示の特徴が少ない場合、業種・商品間が遠く離れている場合、表示の所有者があまり多角的に業務を行っていない場合等は認められない。 スーパーの名称など地方的に知られた表示も周知表示にあたる(全国的に知られている著名商標も周知表示にあたる)

周知商品等表示の例 三菱グループ以外による「三菱建設株式会社」(昭和41年) 住友グループ以外による「住友地所」(昭和41年) カメラのヤシカによる化粧品の「ヤシカ」という商標(昭和41年) ジョニーウォーカーの図形マークを鏡の意匠に使用(昭和57年)

著名商品等表示の保護 全国的に著名であることが必要。 周知表示の保護と異なり、他人の商品・営業と混同を生じさせる行為である必要はない。 広義の混同(両者間にいわゆる親会社,子会社の関係や系列関係などの密接な営業上の関係が存するものと誤信させる)が生じる場合、表示の希釈化をきたす場合、著名表示のイメージを損なう場合、他人の名声を不当に利用する場合に、2号が適用できる。

3.4.10 商標の普通名称化 商標もあまり有名になりすぎると、同種製品の代表名となり、普通名称化することがある(シャープペン,セロファン(デュポン社),エスカレータ,六神丸)。 普通名称化すると、商標権の効力は普通名称には及ばない(商26Ⅰ)ので、有名または良い商品ほど対策を講じる必要がある。

商標の普通名称化への対策例 コマーシャル等で「○○は××の登録商標です」と宣伝する。 一般名の言葉の宣伝に力を入れる(「味の素」の「家庭化学調味料」、「仁丹」の「口中芳香薬」等)。 普通名詞として記載した辞書発行者に対して修正要求を出す(ベネルックス統一商標法の辞書発行者に対する修正要求権)。

3.4.11 登録商標の使用義務 登録主義(登録して権利発生)と使用主義(商標使用で権利発生)がある。 日本は登録主義。 出願時に使っていない商標でも使用意志のみで登録できる国(日本、ドイツ、フランス、イギリス等)と使用していないと(出願はできる)登録できない国がある。 使用意志だけで登録できるので、思い付いた商標を登録し、希望者に売りつける弊害が発生。

商標売却行為の是正 正当な理由なしに、3年間継続して使用していないとき、第三者は特許庁に対して商標登録取消の審判請求ができる(使用強制:商50) 自分が使用しなくても、実施権者が使用していれば良い。 連合商標の場合、その一つを使用していれば良い。

商標の使用強制の強化 商標の不使用による登録取消をやりやすくするため、使用の立証責任を権利者にあることを明確にした(昭和50年改正)。 更新登録の出願3年以内に、商標権者等が正当な理由なく商標を使用していないとき更新登録は認められない(商19Ⅱ・Ⅲ)。 更新登録出願のとき、商標使用証明を提出っしなければならない(商20の2)。 商標出願にあたっての出願人の業務を記載するよう商標法施行規則を改正。

3.4.12 役務商標(サービスマーク)保護 第3次産業の発展に伴い、重要となってきた。 1946年米国で登録制度で保護して以来、フィリッピン、韓国、フランス、ドイツ、イギリス、日本(1991年:平成3年4月)で登録制度採用。 役務商標を出願していなくても、不正競争の目的がなければ、平成4年10月までに使用していたものには、継続的使用権(先使用権)がある。 未登録の場合は、不正競争防止法で、登録の場合は、不正競争防止法と商標法の重複的保護がなされる。