産業財産権制度 特許権・実用新案権の概要
知的財産権の種類と産業財産権 知的財産権 特許権 実用新案権 意匠権 著作権 回路配置権 育成者権 企業秘密 商標権 商号権 知的創作物についての権利 営業標識についての権利 特許権 実用新案権 意匠権 著作権 回路配置権 育成者権 企業秘密 商標権 商号権 不正競争防止法関連 知的財産権のうち,特許権,実用新案権,意匠権,商標権の四つを「産業財産権」という。 産業財産権 知的財産権は,「知的創造物についての権利」と「営業標識についての権利」に分けられる。 「知的創造物についての権利」には,「特許権」,「実用新案権」,「意匠権」,「著作権」,「回路配置権」,「育成者権」,「企業秘密」がある。 「営業標識についての権利」には,「商標権」,「商号権」,「不正競争防止関連」の権利がある。 このうち,「特許権」,「実用新案権」,「意匠権」,「商標権」の四つを「産業財産権」という。
目次 知的財産権制度 産業財産権 特許権 実用新案権 特許権と実用新案権の比較
知的財産権制度
知的財産権制度とは,知的創造活動によって 生み出されたものを,創作した人の財産として 保護するための制度 知的財産権制度① 知的財産権制度とは,知的創造活動によって 生み出されたものを,創作した人の財産として 保護するための制度 私たちの生活において、土地や車といった所有物(有体物)には財産価値がある。 また、より便利なものを作るために、アイデア等の形のないものから技術価値やブランド価値等を生み出していくような無形のもの(無体物)にも財産価値を認める必要があり、個々で保護されなければならない。その権利を知的財産権という。 知的財産権制度とは,知的創造活動によって生み出されたものを,創作した人の財産として保護するための制度である。 この制度により,知的創作物が人類共通の資産として積み重ねられ,私たちの生活や社会を豊かにしていると考える。 出典:経済産業省 特許庁「知的財産権と産業財産権制度の概要」 参照条文:知的財産基本法第2条
新しいアイデアや表現を他人に模倣されることによる 創作者や企業,社会への弊害や損失 知的財産権制度② 新しいアイデアや表現を他人に模倣されることによる 創作者や企業,社会への弊害や損失 消費者に対するブランドイメージが低下する。 新たな創造活動への意欲が低下する。 販売機会を失い,研究開発費や製造費などが 回収できなくなる。 企業や創作者の知的創造活動によって生み出されたものが,すぐに他人に模倣されてしまうと,企業や創作者の消費者に対するイメージが低下したり,新しいものを創造しようとする意欲が失われたりする。 その結果,社会の発展に悪影響を及ぼすことになる。
<知的財産権の例> 知的財産権制度③ ブランド名(商標法) ロゴマーク(商標法) デザイン(意匠法) CDトレイの構造(実用新案法) 記録媒体の材料(特許法) プログラム(特許法,著作権法) 「知的財産権」によって保護されている身近なものには,どんなものがあるのか。ゲーム機を例に見てみる。 ゲーム機の本体にある知的財産は, ブランド名・・・ゲーム機メーカーの名前 ロゴマーク・・・ゲーム機の商品に関係する名称やマーク デザイン・・・メーカーが独自に開発した外観 組立製造方法・・・メーカー独自の製造方法 画像制御装置・・・映像を映し出すための制御方法や処理,関連技術 などがある。 ほかにも,ゲームの情報が入っているディスクの材料や,ゲームのプログラムそのものも知的財産になる。 さらに,ディスクを入れるためのトレイの構造や,ゲーム機に組み込まれている半導体素子(3Dチップ)なども知的財産である。 組立製造方法(特許法) 3Dチップ (半導体集積回路の回路配置 に関する法律) 画像制御装置(特許法)
コンテンツ 保 護 創 造 資 本 知的財産 活 用 知的財産権制度④ 技術 など <知的創造サイクル> (権利化等) (新技術開発等) 保 護 (権利化等) 創 造 (新技術開発等) 資 本 知的財産 「知的創造サイクル」とは,「有用な技術の研究開発」の成果を特許権などで「権利化」し,これを「活用」して利益を上げ,更なる創造活動につなげていくことである。 このサイクルにより,私たちの生活や社会がより豊かになる。 活 用 (ライセンス契約等) 目次へ
産業財産権
知的財産権 産業財産権① 産業財産権 知的財産権のうち,特許権,実用新案権,意匠権,商標権の四つを 「産業財産権」という。 ※ 特許庁が所管 知的創作物についての権利 営業標識についての権利 特 許 権 商 標 権 実用新案権 意 匠 権 産業財産権 産業財産権は,知的財産権のうち,「特許権」,「実用新案権」,「意匠権」,「商標権」の四つを指す。 産業財産権は特許庁が所管している。 知的財産権のうち,特許権,実用新案権,意匠権,商標権の四つを 「産業財産権」という。 ※ 特許庁が所管
産業の発展を目指す 新しいアイデアや表現に独占権を付与する ・模倣の防止 ・研究開発の奨励 ・商取引の信用を維持 産業財産権② なぜ? 産業財産権には,新しいアイデアや表現に独占権を付与する目的がある。 それはなぜか? ・新しいアイデアや表現を簡単に模倣されることを防ぐ。 ・新しいアイデアや表現を広めることにより得られる利益から,更なる研究開発の意欲を生む。 ・企業やブランドの信用を維持する。 このことにより,更なる産業の発展を図ることを目指している。 産業の発展を目指す
◆特許権 ◆実用新案権 ◆意匠権 ◆商標権 <例> 産業財産権③ 特 許 権 実用新案権 意 匠 権 商 標 権 ※ 特許庁が所管 → 液晶技術 実用新案権 → ボタンの配置や構造 世の中には,工業製品が数多くある。 身近な工業製品の中にも,複数の産業財産権が適用されている。 スマートフォンを例に挙げると, 特許権が適用されているのは,「液晶技術」 実用新案権が適用されているのは,「ボタンの配置や構造」 意匠権が適用されているのは,スマートフォン本体の「デザイン」 商標権が適用されているのは,スマートフォンを製造している企業の「ブランド名」や「商品名」 である。 意 匠 権 → デザイン 商 標 権 → ブランド名 目次へ
特許権
技術の進歩や産業の発達が目的 ◆発明者の研究成果の保護(→独占権の付与) ◆優れた技術情報を公開 特許権① <特許制度とは> ◆発明者の研究成果の保護(→独占権の付与) ◆優れた技術情報を公開 技術の進歩や産業の発達が目的 発明が社会的制度やルールにより適切に保護されなければ,発明者や企業は,その発明が盗まれないように個々で秘密にしておこうとし,発明が有効に使われない可能性がある。 また,別の人や企業が同じような研究や開発をするようになり,産業の発展を考える上で,非効率である。 そうならないように,発明者には,一定期間,一定の条件の下に発明を保護し,権利を与えている。 特許権は,発明の保護を図り,発明を公開して利用を図ることで,技術の進歩を促し,産業の発達に寄与しようというものである。 <特許法第1条> この法律は,発明の保護および利用を図ることにより,発明を 奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とする。
日 本…自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの 特許権 発明の定義 日 本…自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの 米 国…人間が作った新規かつ有用な製品・プロセス 欧 州…技術的なもの 発明の定義は国によってことなる。 日 本…自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの 米 国…人間が作った新規かつ有用な製品・プロセス 欧 州…技術的なもの
① 自然法則を利用していること ② 技術的思想であること ③ 創作であること ④ 高度であること 特許権② <特許法上の「発明」とは> ① 自然法則を利用していること ② 技術的思想であること ③ 創作であること ④ 高度であること 特許法上の発明とは, 自然法則を利用していること 技術的思想であること 創作であること 高度であること である。 <特許法第2条> この法律で「発明」とは,自然法則を利用した技術的思想の 創作のうち高度のものをいう。
自然界において経験的に見いだされる科学的な法則 特許権③ <①自然法則の利用> 自然法則とは・・・ 自然界において経験的に見いだされる科学的な法則 ★該当しないもの(例) ・ゲームのルール(自然法則でないもの) ・永久機関(自然法則に反するもの) ・万有引力の法則(自然法則自体) 自然法則の利用 自然法則とは,自然界において経験的に見いだされる科学的な法則をいう。 例えば,水が高いところから低いところへ流れることなどがある。 ゲームのルールや永久機関など,自然法則でなかったり,自然法則に反したりするものは該当しない。 ※自然法則を利用しないものは,該当しない
・フォークボールの投球方法(個人の技能) ・機械操作のマニュアル(単なる情報の提示) ・絵画・彫刻など(美的創作物) 特許権④ <②技術的思想> 技術的思想とは・・・ 一定の目的を達成するための具体的手段 実際に利用できるもの 知識として伝達できるもの ※個人の熟練によって得られる技能とは異なる ★該当しないもの(例) 技術的思想 技術とは,一定の目的を達成するための具体的手段である。 実際に利用でき,知識として伝達できるものを指す。 例のように フォークボールの投球方法や機械操作のマニュアルなどは, 特許法上の発明にはならない。 ・フォークボールの投球方法(個人の技能) ・機械操作のマニュアル(単なる情報の提示) ・絵画・彫刻など(美的創作物)
特許権⑤ <③創作> 新しいことを創り出すこと 単なる発見は「発明」にならない! ★該当しないもの(例) ・ベンゼン環の構造の解明 創作とは・・・ 新しいことを創り出すこと 単なる発見は「発明」にならない! ★該当しないもの(例) ・ベンゼン環の構造の解明 創作 創作とは,新しいことを作り出すことである。 何も作り出さない単なる発見とは区別される。 該当しないものの例のように,天然物の発見などは発明にならないが,天然物から人為的に作り出した化学物質は発明に該当する。 ・エックス線の発見
◆産業に大変革をもたらすものに限られるものではない 特許権⑥ <④高度> ◆産業に大変革をもたらすものに限られるものではない ◆従来にない新しい機能や優れた効果を発揮する ◆改良品でも特許になり得る 高度 特許権として認められるものは,自然法則を利用した技術的創作であっても,高度なものでなければならない。 しかし,従来にない新しい機能や優れた効果を発揮するなら,改良品でも立派な特許になり得る。 自然法則を利用した技術的創作であっても,特許として,認められないことがある。 この場合,実用新案として改めて出願すると,実用新案として認められることもある。なお、実用新案権については後ほど説明する。
特許権⑦ 特許として権利化できない発明 YES NO <特許として権利化できる発明とは> 特許として権利化できる発明 特許法上の発明であるか 産業上の利用性を有しているか YES 新しいかどうか NO 容易に考え出すことができないか 先に出願されていないかどうか 公序良俗に反する発明でないか 発明を特許庁に出願し,その発明が特許として権利化されるためには,いくつかの条件をすべてクリアしなければならない。 はじめに,特許法上の発明であるかどうか。 これに当てはまらなければ,その時点で特許としては権利化されない。 この他に ・産業上の利用性を有しているか ・新しいかどうか ・容易に考え出すことができないか ・先に出願されていないかどうか ・公序良俗に反する発明でないか ・明細書の記載は規定どおりか これらの条件がすべて満たされる場合に,特許として権利化できる発明と認められる。 明細書の記載は規定どおりか 特許として権利化できる発明 目次へ 出典:経済産業省 特許庁「産業財産権 標準テキスト 特許編」
実用新案権
早期登録制度の採用 ◆技術的には高度ではない小発明「考案」を保護 ◆実体審査が無く,必要とされる一定の要件を満たして 実用新案権① ◆技術的には高度ではない小発明「考案」を保護 自然法則を利用したもので,物品の形状や構造の 変更又は組み合わせなどにより,少しの工夫を加 えたもの。 早期登録制度の採用 ◆実体審査が無く,必要とされる一定の要件を満たして いることのみを判断して権利付与を行う。 日用品や玩具のような分野において,ちょっとした工夫を加えただけでヒット商品になるようなものがある。 このように,技術的には高度ではない小発明を保護するのが実用新案権である。 例えば、六角断面状を有する鉛筆やバックミラーの折りたたみ構造、消しゴムつきの鉛筆などが該当する。 詳細は後ほど。 技術的には高度でない小発明は「考案」と言う。 実用新案権は早期登録制度を採用している。 実体審査が無く,必要とされる要件を満たしていれば権利化される。 そのため,市場において短いライフサイクルの製品に対する早期権利保護が可能である。 短いライフサイクル製品に対する早期権利保護
保護対象となる考案 ① 物品の形状 ② 物品の構造 ③ 物品の組み合わせ ※「方法」や「材料」などは,保護対象にならない 実用新案権② <実用新案法の保護対象> 保護対象となる考案 ① 物品の形状 ② 物品の構造 ③ 物品の組み合わせ ※「方法」や「材料」などは,保護対象にならない 実用新案法の保護対象は,①物品の形状,②物品の構造または③物品の組み合わせにかかる考案に限定している。 方法や材料など,特許法で保護されるようなものは実用新案の保護対象とはならない。
形状とは,外部から観察できる物品の形状をいう 実用新案権③ <①物品の形状にかかる考案> 形状とは,外部から観察できる物品の形状をいう <例> 六角断面形状を有する鉛筆 紡錘形状の歯型を有する歯車 物品の形状にかかる考案 形状とは,外部から観察できる物品の形状をいい,六角断面形状を有する鉛筆や紡錘形状の歯型を有する歯車などがこれにあたる。
構造とは,物品の機械的構造を意味する 実用新案権④ <②物品の構造にかかる考案> ※化合物の結晶構造のようなものは含まない <例> バックミラーの折りたたみ構造 物品の構造にかかる考案 構造が指すものは,物品の機械的構造である。 バックミラーの折りたたみ構造やインスタントやきそばなどの蓋に開けられた水抜き穴などがこれにあたる。 インスタントやきそばの蓋に開けられた水抜き穴の構造
組み合わせとは,単独の物品を組み合わせて使用価値を 生み出したもの 実用新案権⑤ <③物品の組み合わせにかかる考案> 組み合わせとは,単独の物品を組み合わせて使用価値を 生み出したもの <例> 消しゴム付きの鉛筆(鉛筆+消しゴム) 釘抜き付きのハンマー(釘抜き+金槌) 物品の組み合わせにかかる考案 単独の物品を組み合わせて使用価値を生み出したものがこれに含まれる。 消しゴムつきの鉛筆は,鉛筆を消しゴムを組み合わせたもの。 釘抜き付のハンマーは,釘抜きと金槌を組み合わせたもの。 目次へ
特許権と実用新案権の比較 特許権 実用新案権 保護対象 発明 考案 出願手続 図面は必要なときのみ添付 図面は必ず添付 実体審査 平成28年4月1日現在 特許権 実用新案権 保護対象 発明 (自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの) 考案 (自然法則を利用した技術的思想の創作で物品の形状,構造又は組み合わせにかかわる考案に限る) 出願手続 図面は必要なときのみ添付 図面は必ず添付 実体審査 実体審査あり 無審査 権利存続期間 出願日から20年 出願日から10年 出願時費用 出願手数料 15,000円 出願手数料 14,000円 登録時費用 特許料(3年分一括納付) (2,300円+1請求項につき200円)×3 登録料(出願時に3年分一括納付) (2,100円+1請求項につき100円)×3 その他の費用 出願審査請求手数料 168,600円+1請求項につき4,000円 実用新案技術評価の請求手数料 42,000円+1請求項につき1,000円 特許権と実用新案権の比較 特許権は,出願の際,実体審査があるが,実用新案権はない。 権利存続期間は,特許権が20年間だが,実用新案権は,10年間である。 費用の面では, 特許権,実用新案権ともに,出願時に審査や評価をしてもらうための手数料がかかるほか,特許料や登録料を納付しなければならない。 目次へ 出典: 産業財産権指導カリキュラムと指導マニュアル 独立行政法人 工業所有権情報・研修館 発行