Post Source Decay: PSDとは? ポストソース分解(Post Source Decay; PSD)は、MALDI-TOF-MSで、レーザー照射後に生成したイオンが、イオン源の加速電場を出た後のDrift Space(無電場領域)で、イオン自身の過剰な内部エネルギーまたは残留ガスとの衝突によって励起分解する現象である。 イオン源 + + + + + + + + + PSDイオン Drift Space
PSDでは、リフレクターモードで測定する理由 + + + + + + + + + + + + Drift Space 飛んでいる間に分解していくので、各イオンの運動エネルギーはバラバラ。 (イオン化したときに、全てのイオンが同じ場所で、同じ速度で飛んでいる訳ではない。) このまま、例えば、リニアモードで測定すると、同じ質量のイオンでも、バラバラに検出器に到達するので、分解能が悪くなる。 分解能を上げるため、イオンの運動エネルギーのバラツキの補正をする必要がある。
+ + よって、PSDでは、イオン反射器を備えたリフレクターモードで解析を行う。 たくさんの電極を並べて、電場勾配をつくるイオン反射器を使うと、イオンの運動エネルギーのバラツキを打ち消すことができる。 + + 高圧電源 運動エネルギーが大きいイオンは速いので、反射器に先に到着して、反射電場に逆らって奥まで入り込み、遠回りしてはね返る。運動エネルギーが小さいイオンは遅く到着するが、奥まで入れず近道をしてはね返る。 はね返ってきたイオンを検出することで、運動エネルギーのバラツキを揃える事ができるので、同じ質量電荷比を持つイオンを揃えて検出でき、分解能が上がる。 よって、PSDでは、イオン反射器を備えたリフレクターモードで解析を行う。
De novo sequencingとは? ・・ Q N A G F ・・ De novo sequencingとは、ペプチドのMS/MSスペクトルから、数学的演算によりアミノ酸配列を算出する技術のことをいう。De novoはラテン語で、「初めから、新たに」を意味する。各アミノ酸のペプチド結合部分で順次切断された(y or b イオン)一連のプロダクトイオンピークが検出されたスペクトルが得られれば、ピーク間の質量差がアミノ酸残基質量に相当するので、演算により推定アミノ酸配列を決定できる可能性が高くなる。 イオン化した 例えば、右のような ペプチドを考えてみる ・・Q N A G F ・・ Q N A G F y5 y4 y3 y2 y1 このように表されるはず y2 y4 y1 y5 よって、ピーク間の質量差より元のアミノ酸配列を決定できる。 (De novo sequencing) y3 F G A N Q ・・ m/z
De novo sequencingの注意点 解析する際、1残基アミノ酸、測定時に生じるその誘導体、2残基アミノ酸などのモノアイソトピック質量 で、質量が非常に近接したものを考慮する必要がある。例えば、ピーク間の質量差が147.0だった場合、この質量差に相当するアミノ酸残基はF(Phenylalanine)であるという予想がされがちであるが、実際は、147.068であればFであるが、147.035であればMet-O(Methionineの酸化物)となる。これを識別するためには、小数点以下の桁数をより多く読み取れる高質量精度(Q-TOF型の質量分析装置による)のスペクトルを得ることが必要となる。 モノアイソトピック質量 1残基アミノ酸同士 1残基アミノ酸と2残基アミノ酸 Lys(K)=128.0949 Trp(W)=186.0793 Gln(Q)=128.0585 AD(GE)=186.0640 etc・・・・ ⊿=0.0153 ⊿=0.0364
PSD(MS/MS解析)でDe novo sequencing リフレクター 検出器 イオン化 特定イオンの選択 + + + + + + + + + + + + イオン化していない分解産物は反射しない 励起分解 PSDイオン m/z m1 m2 m3 m/z m1 m/z m1 PSDイオンの中からy or bイオンを探し、y1、y2、y3、・・・・・と各々のピークの差から順々に並べると、元のm1のアミノ酸配列を決定することができる。 ただし、一般にPSDスペクトルには、通常の生成イオンの他に脱アンモニアや、脱H2Oなどの分解物のピークも観測され、分解が進みすぎて解析が困難になることも多いと言われている。