決議の瑕疵.

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決議の瑕疵

決議の瑕疵 株主総会決議 存在 不存在 瑕疵なし 瑕疵あり 手続的瑕疵 内容的瑕疵 有効 決議取消(831) 決議無効(830Ⅱ) 招集手続・決議方法の法令・定款違反 著しく不公正な招集手続・決議方法 特別利害関係人の議決権行使による著しく不公正な決議 決議内容の定款違反 決議内容の 法令違反 裁量棄却 有効 決議取消(831) 決議無効(830Ⅱ) 決議不存在(830Ⅰ)

提訴株主の悪意を疎明して担保提供申立て可能 決議取消 決議無効 決議不存在 事由 (1)手続的瑕疵 ①招集手続・決議方法の法令違反 ②著しく不公正な決議方法 ③特別利害関係人の議決権行使による著しく不公正な決議 (2)内容的瑕疵 ④決議内容の定款違反 決議内容の 法令違反 決議の不存在 主張方法 決議取消を本案とする形成訴訟のみ 制限なし 主張権者 株主、取締役、監査役*、清算人、執行役(決議取消により地位に復帰する者、権利義務役員となる者を含む) 提訴期間 総会終結の日から3か月以内 判決の効力 遡及効・片面的対世効 裁量棄却制度 ①の事由についてのみあり なし 担保提供制度 提訴株主の悪意を疎明して担保提供申立て可能 * 監査役は業務監査権限を有する監査役のみ(828Ⅱ①、2⑨参照)

決議取消し 決議取消の訴えの趣旨  瑕疵ある株主総会決議は本来なら無効(強行法規違反の行為は原則無効)だが、重大ではない瑕疵でたびたび決議が無効とされると周囲への影響が大きい  ⇒瑕疵として軽微な場合には、決議はとりあえず有効とし、一定の利害関係を有すると認められる者が、定められた期間内に限り取消請求を行えるようにした

決議取消事由 ※裁量棄却の可否に差異があるので、手続の法令・定款違反と著しい不公正は区別して覚える 招集手続・決議方法の法令・定款違反 招集手続・決議方法の著しい不公正 決議内容の定款違反 特別利害関係人の議決権行使による著しく不公正な決議 ※裁量棄却の可否に差異があるので、手続の法令・定款違反と著しい不公正は区別して覚える 決議内容には問題なし 身内の問題にすぎない

決議方法の法令・定款違反 招集手続の瑕疵 議事に係る瑕疵 決議に係る瑕疵 取締役会決議欠缺 ※代表権のない者の招集は決議不存在 招集通知漏れ 取締役会決議欠缺 ※代表権のない者の招集は決議不存在 招集通知漏れ 招集通知期間違反 招集通知記載不備 議事に係る瑕疵 説明義務違反 株主等による議事進行妨害 議長権限の裁量逸脱 決議に係る瑕疵 決定された議題以外の決議(取締役会設置会社) 議決権のない者の議決権行使、代理権欠缺 議決権行使の妨害(会場からの締め出し含む) 投票カウント間違い

招集手続・決議方法の著しい不公正 出席困難な時刻・場所への招集 着席位置の不平等 不公正な議事運営 ※実際には、法令違反とも著しい不公正とも言える事案も多い

特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議 現在は「著しく不当な決議」という要件で絞りがかかるので比較的広く解してよい 〔該当例〕 事業譲渡、組織再編の相手方(相手方の支配株主も同様) 新株発行決議における引受人となる者 責任の一部免除決議(会425)における免除対象者 役員の報酬決議(会361)における役員 〔該当しないとされる場合〕 役員の選任・解任決議における対象者 ※相対による自己株式取得決議における譲渡人は議決権行使が禁じられる(会140Ⅲ、160Ⅳ、175Ⅱ) ⇒議決権行使があった場合には会831Ⅰ①で処理

著しく不当な決議 ・・・特別利害関係人が票を投じなければ可決されないような不当な内容の決議

裁量棄却制度 要件 効果 決議の瑕疵が招集手続・決議方法の法令・定款違反 違反の事実が重大でなく、かつ決議に影響を及ぼさない 瑕疵の重大性と決議への影響は別個の要件であり重畳適用される(〔重大でない+影響なし〕ではじめて裁量棄却が可能)〔最判S46.3.18百-42〕 ※裁判例には必ずしも両者を区別しない、あるいは一方にのみ言及するものもあるが、最高裁判例に限ってみればいずれもS56改正前の事案である点に留意 効果 裁判所は、決議取消請求を棄却できる(会831Ⅱ)

「違反が重大でない」、「決議に影響を及ぼさない」 従来の議論(岩原) まず決議への影響の有無で絞る 票の数え違い、議決権のない者の決議参加は、是正しても決議結果が変わらなければ「決議に影響を及ぼさない」 招集手続の瑕疵(たとえば招集通知漏れ)は厳密にいえば「決議に影響を及ぼさない」とは言い切れない(会社は立証不可能) ※厳密な証明は不要との見解もある 次に違反が重大でないといえるかどうかで絞る 「軽微」とは、瑕疵が全く取るに足らず、その主張が権利濫用に近い場合を言う ※岩原によれば、S56改正前の裁判例には、①bを②として(決議に影響しないとは言い切れない⇒瑕疵は軽微とはいえない)評価するものもある

従来の議論の問題点 検討 招集通知漏れの事案 少数派株主に招集通知漏れがあった場合には、1議決権のみであっても裁量棄却は認められない(最判S46.3.18の趣旨参照) 招集通知期間不足だが少数派株主が総会開催を熟知しつつあえて欠席した場合には裁量棄却(最判S55.6.16) 多数派株主に対する招集通知の瑕疵があった場合には裁量棄却を認める(たぶん通説) ⇒「決議に影響がない」と言えるかどうかについては、広く解すればどれも影響はないといえるし、厳格に解すればどれも決議に影響がないことの立証は困難。なぜ結論が分かれるのか? 検討 S56改正まで、裁判所は文字通り「裁量」で取消請求を棄却可能 S56改正後においても、決議取消を認めるに足る瑕疵であるかどうかを裁判所は評価しているのではないか ⇒「決議取消に足る瑕疵」かどうかは、結局は決議が民主的に成立したと言えるかどうかで決まるのではないか?

具体的な裁量棄却事由 裁量棄却が認められたもの 株主提案にかかる取締役候補者の提案理由の参考書類への不記載(会社提案の賛成94%)(東京地判H27.3.26) 監査役会の同意を欠く(ただし監査役の過半数は明示的に同意し、他の監査役も異論を唱えなかった)監査役選任決議(東京地判H24.9.11) 定時総会における事業報告の欠缺(事業の全部譲渡後で報告すべき事項なし。東京地判H24.4.18) 僅少な代理人の議決権行使の不算入(東京地判H22.7.29) 多数派株主の親族に対する招集通知漏れ(高松高判H4.6.29) 架空監査による監査報告書による決算承認(当該名目的監査役兼株主が原告。東京地判H60.3.26)

裁量棄却が認められなかったもの 基準日設定公告の欠缺(東京高判H27.3.12) 総会の目的である事項以外の決議(取締役会設置会社。東京地判H25.8.27、名古屋高決H25.6.10〔仮処分〕) 全会一致ではない書面決議(東京地判H24.2.20) 定足数不足(会社法制定時に定款変更を怠り定足数緩和対象外。京都地判H20.9.24) 計算書類備置義務違反(宮崎地判H12.7.21) 会計監査人監査を欠く決算の承認(東京地判H1.8.22) 計算書類不添付でなされた決算承認(大阪地堺支判S63.9.28)

決議取消の訴えに関する論点 訴えの利益 原則として訴えの利益は肯定されるが、例外的に訴えの利益が消滅する場合がある(特段の事情があれば別) 役員選任決議取消訴訟係属中に対象となる全役員が退任または適法に再任(百-40)  新株発行決議取消訴訟係属中に株式発行 ⇒決議を取り消しても結果(在職中の職務)を無効にはできないから訴えの利益はない(特段の事情があれば別) 計算書類承認決議取消訴訟係属中に次年度以降の決算承認(百-41) ⇒前年度の決算が未確定になると次年度以降の決算も未確定になる △ 否決された決議(○山形地判H1.4.18、×東京地判東京高判H23.9.27)  ←H24司法試験論点

原告適格の範囲 決議取消によって地位に復帰できる株主等 当該総会で議決権行使ができない株主 ⇒明文で原告適格が認められる(権利義務役員についても同様) 当該総会で議決権行使ができない株主 基準日後株主、決議後株主については原告適格肯定 無議決権株主については見解が分かれる 名義書換未了株主について通説は原告適格否定 ※①~③とも、決議取消事由(決議内容の定款違反かどうか)で結論が変わる可能性もある

決議取消事由 他の株主についての決議取消事由主張 ・・・たとえば、自らは適法な招集通知を受領した株主が、他の株主に対する招集通知漏れを理由に決議取消を主張できるか 判例・多数説  ・・・(831条は総会の適正な運営を担保する制度であるから、)他の株主に対する招集手続の瑕疵を理由として決議取消を主張できる(最判S42.9.28百-38) 少数説  ・・・831条は個々の株主の利益保護の規定であるから自己に対するもの以外の取消事由は主張できない

・・・総会終結から3か月以内に提訴し、3か月経過後に決議取消事由を追加できるか 決議取消事由の追加 ・・・総会終結から3か月以内に提訴し、3か月経過後に決議取消事由を追加できるか 判例・多数説  ・・・追加は認めない(会831は民訴156以下の特則。最判S51.12.24百-39) 有力説  ・・・追加は可能(会831は出訴期間の制限であって攻撃防御方法の制限ではない) ※決議取消訴訟の訴訟物  新訴訟物理論 ・・・当然に決議ごとに1つ  旧訴訟物理論 ・・・取消事由ごとに1つ、となりそうだが一般的には決議ごとに1つと考えている

決議無効 基本事項 論点 決議無効の訴えの決議取消訴訟への変更 無効原因=決議内容の法令違反 決議は本来的に無効 →訴えは確認訴訟 決議は本来的に無効 →訴えは確認訴訟 主張方法、提訴期間、提訴権者に制限なし 判決には遡及効・片面的対世効 論点 決議無効の訴えの決議取消訴訟への変更 ・・・主張されている決議無効事由が決議取消事由に該当し、主張時期や主張権者が決議取消訴訟の要件を満たすのであれば、決議は取り消される(最判S54.11.16百-45)

決議不存在 基本事項 決議不存在事由 基本的に決議無効と同じ(無効事由が不存在に置きかわるのみ) 決議の事実が存在しないのに登記や議事録に決議が存在したかの如き虚偽の記載がある場合(物理的不存在) 一応、総会や決議と目すべきものは事実上存在するが、成立過程の瑕疵が著しく、法律上決議があったとは存在できない場合(評価的不存在) ※②の不存在事由の下限は決議取消事由と接近

決議取消と決議不存在の境界 基本的な考慮要素 権限者により構成員全員に対して総会開催の告知がなされ、これにより構成員が参集したと言えるか否か 決議の効力を争う者に決議取消訴訟の制限を課すことが適当であるか否か

具体的決議不存在事由(特に評価的不存在) 代表取締役でない取締役が取締役会決議を経ず招集 ※代表取締役選定(または前提となる取締役選任)決議の瑕疵の場合には、たとえば不実登記(会908Ⅱ)等を用いて有効 懇談会名義で招集された集会の決議 (継続会で)有効に会場が変更されたのに当初の会場に一部株主が残留して行った決議 総会直前に正当な理由なく会場を変更し議決権の47%の株主が移動を拒絶を拒む状況下でその出席なく行われた決議 総会が有効に修了した後に一部株主が残留して行った決議 著しい招集通知漏れ(どの程度で決議不存在となるかには争いあり)

決議不存在確認の訴えの濫用 〔問題意識〕 決議不存在確認の訴えの舞台の多くは中小零細企業であり、従前から株主総会不開催であり、オーナー社長が独断で決定。しかし、後日株主間(あるいは株主・経営者間)の紛争が生じると、当該(元)オーナー社長が総会決議の不存在を主張するケースが多い 〔考え方〕 判例は訴権の濫用として処理するが(最判S53.7.10。賛成、谷口、新堂)、訴権の濫用というのは対国家の問題であること、事案の本質は実体法上の問題(信義則違反)、あるいは訴えの利益の欠如であるとの見解もある。

各種訴訟相互間の関係 取締役選任決議の取消・不存在確認と当該取締役の退任 決議取消訴訟 役員選任決議取消訴訟係属中に対象となる全役員が退任または適法に再任されれば、特別の事情のない限り決議取消訴訟は訴えの利益を失う(最判S45.4.2百-40) ⇒対象取締役の在任中の職務執行(特に対外的業務執行)については、法的安定性や取引の安全の確保の視点から、選任決議が取り消されてもその効力は原則として覆らないから

決議不存在確認訴訟 決議取消の場合とは異なり、当該取締役の退任・再任によっても決議不存在確認の訴えの利益は失われない 〔理由〕 存在しない決議に基づいて選任された取締役の行為が有効に会社に帰属してはまずい 決議取消の場合は、会社の内部的な手続の瑕疵だから、選ばれた取締役の行為を対外的に有効と考えることは一般的に正当化される 決議不存在の場合には、会社とは無関係の者が選任決議をでっち上げて取締役を名乗るケースがありうるから、当該「取締役」の行為を無効にしなくてはならないため、退任しても不存在確認の利益はある

組織再編無効の訴えとの関係 〔例〕合併契約承認決議取消訴訟係属中に合併 組織再編行為の効力発生と同時に決議の効力を争う訴訟は訴えの利益を欠き不適法却下 その後は組織再編無効の訴え(会828Ⅰ⑦~)のみが提訴可能となり、その訴訟の中で決議の瑕疵を合併無効事由として主張する。 ※決議取消事由も例外的に別訴の中で主張できる。ただし取消事由の主張は総会の日から3か月以内に限られる(通説)。

決議無効確認から取消への切替(百-45) 〔例〕H23.6.25総会開催 → H23.8.25決議無効確認訴訟提起 判例 ・・・決議無効確認と決議取消は決議の効力を否定する点で共通するから、決議無効確認の訴えが総会会日から3か月以内に提訴されていれば、決議取消の訴えが3か月以内に提訴されていたものとして扱う ※決議不存在確認の訴えから決議取消訴訟への切り替えについても同様に考えて良い(山形地判H1.4.18)

総会決議のない会社の行為 株主総会の決議が要求されているにもかかわらず、総会決議なして会社が行為をした場合、行為の効力をどう考えるかはケースバイケース 基本的に有効とされる行為 新株発行(有利発行)、新株予約権発行(有利発行) 〔理由〕流通の安全、既存株主の損害は損害賠償でまかなえる、差止の機会がある 基本的に無効 事業譲渡(判例)、組織再編、役員報酬 相手方が善意(・無重過失)なら有効 事業譲渡(有力説)、自己株式取得

種類株主総会

種類株主総会 趣旨 種類株主総会の分類 種類株式(108条1項各号)が発行された場合に、それぞれの種類の株式の株主だけで構成される株主総会 法定種類株主総会(会322等) 任意種類株主総会(会321)

法定種類株主総会 開催事由 ある種類の株主に損害を与えるおそれがある場合(会322Ⅰ) 拒否権付株式の拒否権対象事項(会323) 取締役・監査役選任の種類株式についての選任・解任決議(会347) 譲渡制限・全部取得条項付加の定款変更 譲渡制限種類株式についての募集株式募集 譲渡制限株式の割当てのある組織再編等の承認 ※①については、会322Ⅰ①(単元株式数の変更を除く)以外の事項については、定款に定めを置けば種類株主総会を不要にできる(同ⅡⅢ)。ただし、定款変更には当該種類株主全員の同意必要(同Ⅳ)

任意種類株主総会 種類株主総会の決議 議決権 決議要件 定款で種類株主総会の決議事項を拡張可(321)。 ※種類株主の利害に密接な関係がある事項に限られると解すべき 種類株主総会の決議 議決権 議決権者は当該種類株主(議決権のない株主を除く) ※拒否権付株式については議決権行使可能な種類株主がいなければ当該種類株主総会の承認は不要(会323) 決議要件 原則は通常の株主総会と同じ。ただし、322Ⅰ各号については原則特別決議(会324Ⅱ④)

種類株主総会決議が必要な場合 根拠規定 決議要件 ① ある種類株主に損害を与えるおそれ 322Ⅰ 特別決議 324Ⅱ④ ② 拒否権対象事項 323 普通決議 ③a 取締役・監査役選任の種類株式 347 341条の 347Ⅰ,341  ③b 監査等委員である取締役*及び監査役の解任 特別決議* 324Ⅱ⑤, 347ⅠⅡ,344の2Ⅲ,343Ⅲ ④a 譲渡制限付加 112Ⅱ 特殊決議 324Ⅲ① ④b 全部取得条項付加 324Ⅱ① ⑤a 譲渡制限種類株式の募集 199Ⅳ,200Ⅳ 324Ⅱ② ⑤b 上記⑤aに係る新株予約権の募集 238Ⅳ,239Ⅳ 324Ⅱ③ ⑥a 譲渡制限株式を割り当てる組織再編等(存続会社側) 785Ⅳ 324Ⅱ⑥ ⑥b 譲渡制限株式を割り当てられる組織再編(消滅会社側) 783Ⅲ,804Ⅲ 324Ⅲ② *監査役は、347Ⅱで343Ⅲ(特別決議)を準用せず324Ⅱ⑤で特別決議化。監査等委員である取締役は347Ⅰで344の2Ⅲ(特別決議)を準用せずかつ324の手当なし(?)