鉄ミョウバンを用いた 磁気冷凍に関する研究 宇宙物理実験 中村圭佑
目的 TES型X線検出器マイクロカロリーメーターが高い分解 能を得るためには0.1K以下の極低温環境が必要 ↓ 断熱消磁冷凍機によって極低温を作り出す 断熱消磁冷凍の冷媒となる磁性体カプセルを 鉄ミョウバンを使用して作成する ↓ 冷却試験を行う 0.1K以下の極低温を目指す
冷却原理 最低到達温度を決める要因 ・消磁開始の温度と磁場 ・冷媒の内部磁場 ・熱流入 (B:磁場、T:温度) 断熱消磁過程において 断熱消磁の冷却原理について説明します。 断熱消磁冷却は磁性体カプセルを冷媒とし、磁場制御により極低温を作り出す冷却システムです。 以下の冷却過程での磁性体と温度のエントロピーのグラフを用いて説明します。 等温過程で熱浴と熱平衡状態にある磁性体に少しずつ磁場をかけていくことにより、磁性体のエントロピーは減少します。 断熱消磁過程では磁性体を熱浴と切り離し断熱状態を作り出すことにより、エントロピーは保存されます。ここでだんだん磁場を減少させていくことで磁性体の温度も減少していきます。このような方法で極低温を作りだす方法が断熱消磁冷却です。 (B:磁場、T:温度)
断熱消磁冷凍機(ADR) ADR概略図 首都大ADR 50cm 断熱消磁冷却機の概略図は以下のようになっています。 熱浴として減圧した液体ヘリウムを使用します。 磁性体と熱接触させることにより熱平衡状態をつくりだします。 磁場の制御は超伝導マグネットにより行います。 等温状態、断熱状態はヒートスイッチの熱接触のオン、オフにより作り出します。
磁性体カプセル(ソルトピル) ソルトピルケース断面図 鉄ミョウバン(FAA) FAA結晶充填量 38g (充填率56%) ケースへの溶液注入 135mm 熱リンク(Cu) FAAと7%硫酸を38℃設定の恒温槽で撹拌 溶液を38℃設定の恒温槽内でろ過 ろ過した溶液をケースに注入 15℃設定の恒温槽で再結晶化 ケースから廃液を除去 張り板 (ガラスエポキシ) 外筒(SUS) 2時間 溶液注入口 金線160本 20回程度繰り返し 今回の冷却試験では磁性体として鉄ミョウバン(FAA)を使用しました。 FAAは他の磁性体に比べ比較的保持時間が長いという特徴があります。 結晶の作成方法について説明します。 10時間 FAA結晶充填量 38g (充填率56%) ケースへの溶液注入
冷却試験 冷却試験中の時間に対する磁場、温度の変化 Heat Switch off 消磁開始磁場B0=1.9T 消磁開始温度 T0=2.45K 等温磁化 断熱消磁 等温磁化 断熱消磁 最低到達温度 Tmin=297mK 残留内部磁場 Bmin= (Tmin/T0) B0 = 0.139T 通常は~0.08T 結晶の問題?
熱流入の見積もり P1 = C dT1/dt P1 + Pヒータ = C dT2/dt 熱容量 C = 0.2 J/K ② 熱容量 C = 0.2 J/K 流入熱 P1 = 9 μW ヒータ on (40μW) dT2/dt = 230 μK/s 温度 ① 熱伝導度 G = 0.17 mW/K ヒータ off dT1/dt = 42 μK/s 温度勾配の最大値 ΔT = P1/G = 53 mK その他SUSによる熱損失分~40mK 磁場の不均一性の影響~30mK 時間 内部磁場を0.08(T)仮定すると予想最低到達温度は103 mK ⇒ 80 mK程度の説明のつかない分が存在する
まとめと考察 ・鉄ミョウバンを冷媒にしたソルトピルを作成 →結晶充填量 38g (56%) ・断熱消磁冷凍機に組み込み冷却試験を行った ・最低到達温度は297 mK。予想より80 mK 程度高い →流入熱でも説明できない →実測した熱容量は予想の倍ぐらい ・充填率が悪い→ピル内の結晶の分布にばらつきがあり、熱伝導性 が低下しているという可能性が考えられる ・鉄ミョウバンが正常にできていない可能性がある ↓ 磁性体の作成法を見直す必要がある