公衆衛生学 疫学デザインと健康指標 2008.7.15
今日の担当 藤井良宜 宮崎大学教育文化学部 専門 生物統計学 質問事項など 数学教育講座 現在の研究テーマ 宮崎大学教育文化学部403号室 今日の担当 藤井良宜 宮崎大学教育文化学部 数学教育講座 専門 生物統計学 現在の研究テーマ コホート内症例対照研究の解析方法とデザイン 質問事項など 宮崎大学教育文化学部403号室 E-mail : yfujii@cc.miyazaki-u.ac.jp Webページ:http://www.miyazaki-u.ac.jp/~yfujii/ Homepage/ph/publichealth.html
今日のテーマ 疫学研究のデザイン 介入研究 コホート研究 ケースコントロール研究 健康指標 死亡率,有病率 年齢調整死亡率とSMR 罹患率
疫学とは? 明確に規定された人間集団の中で出現する健康関連のいろいろな事象の頻度と分布およびそれらに影響を与える要因を明らかにして,健康関連の諸問題に対する有効な対策樹立に役立てるための科学 (日本疫学会1996年)
人間集団 因果関係? 一つの要因だけで 説明できない場合が多い 頻度や分布 どれくらいの頻度で病気が発生しているのか? どこで病気が発生しているのか? いつ病気は発生しているのか? 病気の要因は何か? どのような対策を採ればよいのか? 因果関係がわからなくても 対策は可能
ジョン・スノー 19世紀半ば 英国のビクトリア女王時代の麻酔医 コレラの対策を考える 死亡した人の共通点を探る 水道の汚染が原因と推測 ヒント コレラ多発地域から離れた地域の住民でコレラで死亡していた者がいた その人たちは,汚染地域に水を買いに来ていた
原因は一つか? 初期の疫学 複雑な要因が絡み合った疾患は? 病原菌の発見,ウイルスの発見 原因が特定できた 環境要因 遺伝要因 複雑に要因が絡み合っている? その中で対策を立てたい 生活習慣病
原因追求のための 研究法 介入研究 コホート研究 患者対照研究 ある種の介入を行った集団と、そうでない集団を比較する ある集団をいろいろな調査を行いながら追跡していく。途中の状況の違いと疾病状況の比較をする 患者対照研究 実際に疾病の発生した患者とそうでない人を比較して、その特性の違いを明らかにする。
研究の難易度と信憑性 基本的には、 難しさ 介入研究>コホート研究>患者対照研究 信憑性 ある程度、患者対照研究で狙いを絞る必要がある。
介入研究例(仮想) ある薬が効果があるかどうか,を調べたい。 投与群 追跡 患者群 回復に向かった割合 非投与群 スタート時点 終了時点
コホート研究例(仮想) 内科の看護師と外科の看護師の間である疾病の発症率が異なるのかどうか、を調べたい。 内科の 看護師 追跡 疾病発生率を比較する スタート時点で集団や交絡因子を特定する 外科の 看護師 もちろん、交絡因子への対処が必要 交絡因子や原因因子は できるだけ反復測定 スタート時点 終了時点
基本的な分析 現実には、 交絡因子の対処が必要 最後まで、みんな観測されたか? 他の疾患での死亡 追跡不能例はないか? 罹患割合で比較すると、 外科 6.7% 内科 5.0% 外科のほうが罹患割合は高そうであるが、 明確に言うには、統計的検定が必要
観測期間の違いへの対処 他の疾患での死亡や追跡不能の人の対処をどうするか 総観測期間を調べる 3.2+4.5+3.8+4.3+5.0 3.2年 4.5年 × 総観測期間を調べる 3.2+4.5+3.8+4.3+5.0 =20.8 (人年) 3.8年 × 4.3年 × 死亡数を調べる 3人 5.0年 脱落 死亡 20.8 3 = 0.14 × この値を罹患率という
患者対照研究例(仮想) 乳児の疾患の原因として、妊娠期間中の母親の行動等を考えたい。 疾患を ある因子 持つ乳児 の分布 さかのぼって調査する 比較する ある因子 の分布 疾患を 持たない 乳児 妊娠期間 研究スタート
データ例(仮想) 乳児の疾患とある薬の服用の関連を調べたい。 疾患ありの乳児と疾患なしの乳児を比較して、薬の服用の有無を調べた。 患者の方が、薬の服用した乳児の割合が高い。
オッズ比 患者対照研究では,オッズ比が関連性の指標として用いられる オッズ比
オッズ比の解釈 コホート研究の場合 患者 非患者 400人 薬を服用した乳児 2000 罹患割合20% 1600人 患者 非患者 300人 薬を服用していない乳児 3000 罹患割合10% 2700人
オッズ比の解釈 患者対照研究の場合 患者対照研究では、患者はすべて調べて、対照者は非患者の中からサンプルを取ることが多い。 患者 400人 服用していない乳児 服用した乳児 患者 400人 300人 そのまま 患者 400人 300人 サンプリング 非患者 非患者 1600人 2700人 1600a人 2700a人 サンプリング率 a とする。
オッズ比の解釈 コホート研究と患者対照研究 オッズ比は、 この値は、 服用した乳児の中での罹患割合をp 服用していない乳児の中での罹患割合をq とすると、 と一致する。 例では、p=0.2, q=0.1より =2.25
オッズ比の解釈 数の表す意味 オッズ比の値によって、次のように解釈する。 1より大きいとき、 薬を服用した乳児の ほうが罹患しやすい 薬を服用した乳児の ほうが罹患しやすい 1のとき 薬の服用は罹患に 影響しない 1より小さいとき 薬を服用していない乳児 の方が罹患しやすい 正確には、観測値はバラツキがあるので、信頼区間や検定の考え方が必要
患者対照研究は 特殊な考え方か? 意外に、日常生活ではこのような考え方を用いているのではないか? 長生きの人たちの生活を調べる お金持ちと普通の人の違いを調べる 受験で成功した人と失敗した人の違いを見る など ただし、多くの場合対照のとり方について深く考えられていない。(時には自分自身)
対照の選択 患者対照研究では、対照をどのように選択するのか、という点が一番難しい。 原則的には、 患者集団を特定する。 病気を発症したら、患者集団に入ったであろう人々の集団を考える。 その集団の中で患者集団に入っていないひとの中から無作為に抽出する。
交絡 病気の原因を探る場合には、一つの要因だけが原因となるわけではない。 本当の原因ではなくても、見かけ上原因のように見える場合もある。このような現象を交絡といい、交絡をもたらす因子を交絡因子という。 飲酒 喫煙 疾病発生
仮想例 疾病発生 多量飲酒 多量飲酒 喫煙 喫煙 疾病発生 多量飲酒と喫煙には 関連がある 喫煙は疾病発生に影響する
喫煙で層別してみよう 疾病発生 多量飲酒 喫煙群 非喫煙群
交絡因子の特徴 交絡因子は、その存在を意識しないと調べることはできない。 見かけ上の関連だけが観測される できるだけ、交絡因子となりうるもの(潜在的な交絡因子)は、研究においては対処したい 観測して調整する マッチングを行う ランダム割付によって、影響を除去する 観察研究 患者対照研究 介入研究
患者対照研究での 交絡因子の調整 対照をサンプリングする際には、 マッチングとは、できるだけ患者と条件が同じ人を選ぶ。 交絡因子で層別してサンプリングをする。 交絡因子でマッチングをする。 マッチングとは、できるだけ患者と条件が同じ人を選ぶ。 たとえば、年齢、性別、居住地などをあわせていって、対象を選ぶ。 マッチングを行うと,その因子の影響は推定できないなどの問題もある。
交絡因子をどう取り扱うか、 それが研究の大きなポイントとなる 背景をしっかり把握しておく。 潜在的交絡因子をピックアップする。 どのような対処するかを考える。
健康指標 死亡率,有病率 年齢調整死亡率とSMR 罹患率
病気の発生を どのようにつかむのか? たとえば,宮崎県での病気発生を知りたい はっきりわかるのは,死亡率 死亡率を調べる 粗死亡率 年齢調整死亡率 SMR 有病率や罹患率は,集団を特定する必要がある
宮崎県の死因順位 (平成11年の統計) 1) ? 2)心疾患 3)脳血管疾患 4)肺炎 5)不慮の事故 6)? 7)老衰 8)腎不全 悪性新生物 1) ? 2)心疾患 3)脳血管疾患 4)肺炎 5)不慮の事故 6)? 7)老衰 8)腎不全 9)慢性閉塞性肺疾患 10)肝疾患 たとえば、悪性新生物での死亡率はなぜ高いのだろうか? 自殺 他の死因に比べたら高い 全国的な傾向と比べると?
死因の分類 WHO 日本では、上の分類に準拠した 詳しくは、国民衛生の動向を参照せよ。 疾病及び関連保健問題の国際統計分類 疾病、傷害及び死因分類表 詳しくは、国民衛生の動向を参照せよ。
死亡率の計算 粗死亡率(悪性新生物) 11年度の死亡数 2758人 総人口 1175006人(平成11年10月1日現在) 全国でも、悪性新生物が死亡率1位 粗死亡率(悪性新生物) 11年度の死亡数 2758人 総人口 1175006人(平成11年10月1日現在) ただし、死亡率計算では、1174000人を用いている 死亡率=2758 / 1174000=0.0023492… =234.9 (人口10万人当たり) 全国の死亡率は、231.6 (人口10万人当たり) 全国平均に比べると、少し高いがそれほどの差ではない
他の死因は 心疾患 脳血管疾患 宮崎県 134.4 全国 120.4 宮崎県 125.2 全国 110.8 宮崎県 134.4 全国 120.4 脳血管疾患 宮崎県 125.2 全国 110.8 この2つの死因は、前年度よりも増加している。 原因は何だろう?
原因を探る ある程度、死亡率の高い集団を特定するために、次のようなことを考える。 年齢別で調整する。 性別で分ける。 地域ごとに分ける。 年齢分布の違いによって死亡率の違いが出ていないか? 性別で分ける。 地域ごとに分ける。 年齢調整死亡率 死亡率の高い集団が特定されれば、 その集団の特徴を探っていく。 より細かい分析へ
年齢調整死亡率 全体的な傾向を知る上で、年齢分布を調整した死亡率が使われる。 2つの年齢調整死亡率 直接法 間接法 対象集団が、基準集団と同じ人口分布である場合の死亡率を計算する。 間接法 年齢別死亡率が基準集団と同じであると仮定をした場合の死亡数と、実際の死亡数を比較する。 間接法は、対象集団の年齢別死亡率は必要としない。
年齢調整死亡率(直接法) を計算するには 準備すべきもの 計算方法 基準集団をどうするのか? 基準集団の年齢階級別人口 対象集団の各年齢階級別死亡率 計算方法 「昭和60年モデル人口」が使われることが多い 対象集団の 年齢階級死亡率 × 基準集団の 年齢階級別人口 の和 基準集団の人口総数
昭和60年モデル人口 昭和60年の国勢調査人口をもとに、ベビーブームなどの極端な増減を補正し、1000人単位の概数として、「昭和60年モデル人口」が基準人口として使われることが多い
例 平成11年度宮崎県男性 悪性新生物による死亡 例 平成11年度宮崎県男性 悪性新生物による死亡 基準人口×年齢階級別死亡率 ÷100 注)100で割るのは、死亡率が10万人当たりだから 粗死亡率 302.7 年齢調整死亡率(直接法)
年齢調整死亡率(間接法) を計算するには 準備すべきもの 計算方法 基準集団をどうするのか? 対象集団の年齢階級別人口 基準集団の各年齢階級別死亡率 対象集団での死亡数(年齢階級別である必要はない) 計算方法 対象集団の観察死亡数 × 基準集団の死亡率 対象集団の期待死亡数
対象集団の 期待死亡数とは 間接法では、基準集団として日本全国のデータが使われることが多い。 基準集団の 年齢階級死亡率 × 対象集団の 年齢階級別人口 の和 注)直接法の期待死亡数と似ているが、基準集団と対象集団が入れ替わっている 間接法では、基準集団として日本全国のデータが使われることが多い。 この場合、対象集団については年齢階級別人口と死亡数がわかれば計算可能
間接法の場合には、 SMRも用いられる SMR(標準化死亡比) 対象集団の観察死亡数 × 100 対象集団の期待死亡数 小さければ、死亡率が低い。 基準集団との比較だけでなく、いろいろな集団について、 SMRを計算して比較する場合が多い。
例 平成11年度宮崎県男性 悪性新生物による死亡 例 平成11年度宮崎県男性 悪性新生物による死亡 宮崎県男性人口 ×年齢階級別死亡率 ÷100000 注)ここでは、宮崎県の人口はH12.10のデータを用いている 死亡数 1680 全国死亡率 294.3 年齢調整死亡率(間接法)
SMRの計算 老衰、男性、保健所別 SMRの高い地域では,年齢調整後の死亡率が高い
有病割合と罹患割合 ある期間の間に,新規に発生した患者の割合 コホート集団 有病割合は,1時点での 有病者数の割合を表す 新規発生した 患者 追跡 ある期間の間に,新規に発生した患者の割合 コホート集団 有病割合は,1時点での 有病者数の割合を表す
観測期間と罹患率 他の疾患での死亡や追跡不能の人の対処をどうするか 総観測期間を調べる 3.2+4.5+3.8+4.3+5.0 3.2年 4.5年 × 総観測期間を調べる 3.2+4.5+3.8+4.3+5.0 =20.8 (人年) 3.8年 × 4.3年 × 罹患数を調べる 3人 5.0年 脱落 罹患 20.8 3 = 0.14 × この値を罹患率という