生物学 第8回 代謝経路のネットワーク 和田 勝.

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食品学とは 食品の成分や成分の変化および食品の特徴について学ぶ学問
脂質代謝.
化学反応式 化学反応:ある物質が別の物質に変化 反応物 → 生成物 例:酸素と水素が反応して水ができる 反応物:酸素と水素 生成物:水
脂質 細胞や組織から無極性有機溶媒で抽出することにより単離される天然有機化合物 エステル結合を有し,加水分解できるもの 脂肪,ワックスなど
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活性化エネルギー.
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脂肪の消化吸収 【3】グループ   ~
外膜 内膜 R- (CH2)n -COOH R-(CH2)n-CO-S-CoA R-(CH2)n-CO-S-CoA CoA-SH
1)解糖系はほとんどすべての生物に共通に存在する糖の代謝経路である。 2)反応は細胞質で行われる。
栄養と栄養素 三大栄養素 炭水化物(糖質・繊維) 脂質 たんぱく質 プラス五大栄養素 ビタミン 無機質.
好気呼吸 解糖系 クエン酸回路 水素伝達系.
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緩衝作用.
塩を溶かした水溶液の液性.
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8章 食と健康 今日のポイント 1.食べるとは 何のために食べるのか? 食べたものはどうなるのか? 2.消化と吸収 3.代謝の基本経路
配糖体生成 + ROH ヘミアセタール アセタール メチルβ-D-グルコピラノシド (アセタール)-oside グリコシド
サフラニンとメチレンブルーの 酸化還元反応を利用
3)たんぱく質中に存在するアミノ酸のほとんどが(L-α-アミノ酸)である。
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福井工業大学 原 道寛 学籍番号____ 氏名________
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好気呼吸 解糖系 クエン酸回路 電子伝達系.
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好気呼吸 解糖系 クエン酸回路 電子伝達系.
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生物学 第8回 代謝経路のネットワーク 和田 勝

生体内での化学反応(もう一度) 異化(catabolism) 代謝(metabolism) 同化(anabolism) 異化:食物を分解し、材料とエネルギー   を得る 同化:材料からエネルギーを使って細   胞構築用の分子を合成

代謝経路 分子A 分子B 分子C 酵素A 酵素B 酵素C ● ● ● ● ● ● のように表すこともできる ●   ●   ●   ●   ●   ●    のように表すこともできる このような経路を代謝経路(metabolic pathway)という。

代謝経路の  全体像 太線の解糖とTCA回路については学んだが、他の経路は?

化学反応のネットワーク ピルビン酸 代謝経路の交差点or乗り換駅 アセチルCoA

グルコースは実際には 食事の後、小腸で吸収されたグルコースは肝門脈を通って肝臓へ運ばれる。 グルコースは、肝細胞でグリコーゲンとして貯蔵。 必要に応じて、グリコーゲンからグルコースを切り離して血中へ。

グルコースの貯蔵 小腸で吸収されたグルコースは肝門脈を通って肝臓へ

グルコースの貯蔵 酵素の働きでグリコーゲンに 6 5 4 1 2 3 教科書54ページ

グリコーゲン 顆粒として貯蔵 ウィキペディアより

グリコーゲンの貯蔵 分子量1×106~1×107 (グルコース6,000~60,000) ヨウ素デンプン反応: 褐色~赤色  (グルコース6,000~60,000) ヨウ素デンプン反応: 褐色~赤色 ヒトの肝臓には約100gのグリコーゲンが含まれ、約600kcalのエネルギーに相当する。 必要に応じて血中へ放出

でんぷん(植物での貯蔵) アミロース(直鎖) 分子量は 5×105 ~ 2×106 (グルコース 3,000~12,000)  分子量は 5×105 ~ 2×106    (グルコース 3,000~12,000)  ヨウ素デンプン反応: 青色 アミロペクチン(枝分かれ)  分子量は 15×106~40×106    (グルコース90,000 ~250,000)  ヨウ素デンプン反応: 赤紫色

でんぷん アミロース アミロペクチン

ヨウ素でんぷん反応 アミロースーヘリックス ヘリックスの巻き数に応じて、赤から紫になる

動物はでんぷんを利用する 光合成のところでも話したが、われわれはどうがんばってもグルコースを合成することはできない。 すべて植物の作った多糖類であるでんぷんを利用している。 工業的にも蔗糖やグルコースは植物から得ている。これを忘れてはならない。

脂肪の代謝 脂肪は、膵臓から分泌されるリパーゼによってグリセロールと脂肪酸に分解されて吸収される。 E E +

グリセロールの代謝 グリセロールは、グリセロール-3-リン酸を経てジヒドロキシアセトンリン酸 になり、解糖の経路に入る(解糖系へ割り込む)。 CH2-OH CH-OH CH2-OH CH-OH CH2-OPO3-2 CH2-OPO3-2 C=O CH2-OH NAD+ NADH+H+ ATP

グリセロールの代謝 CH2-OPO3-2 C=O CH2-OH ジヒドロキシ アセトンリン酸 グリセルアルデヒド3-リン酸 解糖 系へ

脂肪酸の代謝 脂肪酸はCoAと結合した後、ミトコンドリア基質に運ばれた後、β-酸化によってアセチル-CoAにまで代謝される。 CH3CH2CH2CH2----CH2COO- CoA CH3CH2CH2CH2----CH2CO-CoA

脂肪酸の代謝 CH3CH2CH2CH2----CH2CH2CO-CoA CH3CH2CH2CH2----CH-CH-CO-CoA FAD FADH2 CH3CH2CH2CH2----CH-CH-CO-CoA CH3CH2CH2CH2----CH-CH2-CO-CoA              OH NAD NADH+H CH3CH2CH2CH2----C-CH2-CO-CoA              O

脂肪酸の代謝 CH3CH2CH2CH2----C-CH2-CO-CoA O CoA CH3CH2CH2CH2----C-CoA O はじめに戻る CH3-CO-CoA + TCA回路へ アセチル-CoA

脂肪酸の代謝 こうしてCoAのついた側から、1サイクルあたり炭素原子2個ずつ、アセチルCoAの形で切り出していく。この過程をβ-酸化と呼ぶ。

ステアリン酸(C18飽和脂肪酸) C18なのでアセチル-CoAが9モル生成 (β-酸化のサイクル数は8回) (β-酸化のサイクル数は8回)   ステアリン酸にCoA付加    -2 ATP  9 アセチル-CoA → 9 × 12  108 ATP  8 FADH2 → 8 × 2         16 ATP  8 NADH2+ → 8 × 3       24 ATP                合計 146 ATP

ステアリン酸のエネルギー収支 C17H35COOH + 26O2 + 146Pi + 146ADP      → 18CO2 + 164H2O + 146ATP C6H12O6 + 6O2 + 38Pi + 38ADP      → 6CO2 + 6H2O + 38ATP と比べると、同じ重さで脂肪のほうがATPを多く得られるのがわかる。また水が必要ないため、貯蔵エネルギー源として好都合である。

炭素数奇数の脂肪酸の代謝 同じように、端から炭素原子2個ずつ、アセチルCoAの形で切り出していく。最後に炭素数3のプロピニルCoAが残る。 → → → サクシニルCoA ↓ TCA回路へ

アミノ酸の代謝 アミノ酸は、必要に応じてそのままタンパク質生合成の材料となる。 すでに述べたタンパク質合成の場へ アミノ酸を代謝する場合は、アミノ基が邪魔になるので、アミノ基とそれ以外の炭素骨格を分離する必要がある。

アミノ酸の代謝 アミノ基は、最終的にすべてグルタミン酸に集められる(アミノ基転移) アミノ酸 α-ケト酸 α-ケト グルタル酸 グルタミン酸

アミノ酸の代謝 次に、グルタミン酸のアミノ基は、酸化的脱アミノ反応によりアンモニアになる グルタミン酸 α-ケトグルタル酸 H2O+ NAD+ アンモニア+ NADH+H+

アンモニアの解毒 アンモニアは生体にとって毒なので尿素回路によって、無毒な尿素になる 腎臓で尿となり膀胱へ アンモニア 尿素 (尿素回路)

尿素回路 最初の2つの酵素は肝臓にしかない

アミノ酸炭素骨格の代謝 アミノ基が除かれた炭素骨格は、 1) TCAサイクルの基質となって ATPを産生 2) 糖新生系に入りグルコースを新生   (糖原性アミノ酸) 3) 脂肪酸合成系で脂肪酸を合成    (ケト原性アミノ酸)

酸素が十分でない場合 筋肉では、ピルビン酸から乳酸を生成してNAD + を再生して解糖の過程を進める。 生成された乳酸は、血中に放出され肝臓に運ばれる。 肝臓で乳酸はピルビン酸になり、糖新生の過程で、グルコースが作られる。

酸素が十分でないと 酸素があると右側へ進める 酸素が無いと左側へ進む

酸素が 無い場合 NADH  ↓↑ NAD+のリサイクル

糖新生 肝臓での糖新生の過程は、解糖の逆反応? この部分は可逆反応ではない。

糖新生 グルコース6-リン酸 グルコース ATP ヘキソキナーゼ

糖新生 グルコース6-リン酸 グルコース H2O Pi グルコース-6-リン酸ホスファターゼ ここは加水分解。ホスファターゼという酵素が加水分解でリン酸を外す。

糖新生 フルクトース フルクトース -1,6-二リン酸 -6-リン酸 H2O Pi フルクトース-1,6-二リン酸ホスファターゼ フルクトース-1,6-二リン酸も同じようにホスファターゼにより、脱リン酸。

糖新生 ホスホエノールピルビン酸 ピルビン酸 ADP ATP この逆反応は、単純ではない。 オキザロ 酢酸 ホスホエノールピルビン酸 ATP+CO2 ADP GTP GDP+CO2

貯蔵グリコーゲンがなくなったら ヒトの肝臓には約100gのグリコーゲンが含まれ、約600kcalのエネルギーに相当する。 必要に応じて血中へ放出するが、使い尽くしてしまったら?脂肪を利用、さらに。 筋肉のタンパク質を分解してアミノ酸を肝臓に運び、アミノ酸からグルコースへ

代謝経路 の ネット ワーク

代謝経路のネットワーク 代謝経路を工場のラインのようだと述べたが、実際にはもっと入り組んだネットワークを形成している。 それぞれのステップに酵素が働いている。 その酵素の働き方を調節したら?異化や同化の進み方に変化が起こるだろう。