生物学 第8回 代謝経路のネットワーク 和田 勝
生体内での化学反応(もう一度) 異化(catabolism) 代謝(metabolism) 同化(anabolism) 異化:食物を分解し、材料とエネルギー を得る 同化:材料からエネルギーを使って細 胞構築用の分子を合成
代謝経路 分子A 分子B 分子C 酵素A 酵素B 酵素C ● ● ● ● ● ● のように表すこともできる ● ● ● ● ● ● のように表すこともできる このような経路を代謝経路(metabolic pathway)という。
代謝経路の 全体像 太線の解糖とTCA回路については学んだが、他の経路は?
化学反応のネットワーク ピルビン酸 代謝経路の交差点or乗り換駅 アセチルCoA
グルコースは実際には 食事の後、小腸で吸収されたグルコースは肝門脈を通って肝臓へ運ばれる。 グルコースは、肝細胞でグリコーゲンとして貯蔵。 必要に応じて、グリコーゲンからグルコースを切り離して血中へ。
グルコースの貯蔵 小腸で吸収されたグルコースは肝門脈を通って肝臓へ
グルコースの貯蔵 酵素の働きでグリコーゲンに 6 5 4 1 2 3 教科書54ページ
グリコーゲン 顆粒として貯蔵 ウィキペディアより
グリコーゲンの貯蔵 分子量1×106~1×107 (グルコース6,000~60,000) ヨウ素デンプン反応: 褐色~赤色 (グルコース6,000~60,000) ヨウ素デンプン反応: 褐色~赤色 ヒトの肝臓には約100gのグリコーゲンが含まれ、約600kcalのエネルギーに相当する。 必要に応じて血中へ放出
でんぷん(植物での貯蔵) アミロース(直鎖) 分子量は 5×105 ~ 2×106 (グルコース 3,000~12,000) 分子量は 5×105 ~ 2×106 (グルコース 3,000~12,000) ヨウ素デンプン反応: 青色 アミロペクチン(枝分かれ) 分子量は 15×106~40×106 (グルコース90,000 ~250,000) ヨウ素デンプン反応: 赤紫色
でんぷん アミロース アミロペクチン
ヨウ素でんぷん反応 アミロースーヘリックス ヘリックスの巻き数に応じて、赤から紫になる
動物はでんぷんを利用する 光合成のところでも話したが、われわれはどうがんばってもグルコースを合成することはできない。 すべて植物の作った多糖類であるでんぷんを利用している。 工業的にも蔗糖やグルコースは植物から得ている。これを忘れてはならない。
脂肪の代謝 脂肪は、膵臓から分泌されるリパーゼによってグリセロールと脂肪酸に分解されて吸収される。 E E +
グリセロールの代謝 グリセロールは、グリセロール-3-リン酸を経てジヒドロキシアセトンリン酸 になり、解糖の経路に入る(解糖系へ割り込む)。 CH2-OH CH-OH CH2-OH CH-OH CH2-OPO3-2 CH2-OPO3-2 C=O CH2-OH NAD+ NADH+H+ ATP
グリセロールの代謝 CH2-OPO3-2 C=O CH2-OH ジヒドロキシ アセトンリン酸 グリセルアルデヒド3-リン酸 解糖 系へ
脂肪酸の代謝 脂肪酸はCoAと結合した後、ミトコンドリア基質に運ばれた後、β-酸化によってアセチル-CoAにまで代謝される。 CH3CH2CH2CH2----CH2COO- CoA CH3CH2CH2CH2----CH2CO-CoA
脂肪酸の代謝 CH3CH2CH2CH2----CH2CH2CO-CoA CH3CH2CH2CH2----CH-CH-CO-CoA FAD FADH2 CH3CH2CH2CH2----CH-CH-CO-CoA CH3CH2CH2CH2----CH-CH2-CO-CoA OH NAD NADH+H CH3CH2CH2CH2----C-CH2-CO-CoA O
脂肪酸の代謝 CH3CH2CH2CH2----C-CH2-CO-CoA O CoA CH3CH2CH2CH2----C-CoA O はじめに戻る CH3-CO-CoA + TCA回路へ アセチル-CoA
脂肪酸の代謝 こうしてCoAのついた側から、1サイクルあたり炭素原子2個ずつ、アセチルCoAの形で切り出していく。この過程をβ-酸化と呼ぶ。
ステアリン酸(C18飽和脂肪酸) C18なのでアセチル-CoAが9モル生成 (β-酸化のサイクル数は8回) (β-酸化のサイクル数は8回) ステアリン酸にCoA付加 -2 ATP 9 アセチル-CoA → 9 × 12 108 ATP 8 FADH2 → 8 × 2 16 ATP 8 NADH2+ → 8 × 3 24 ATP 合計 146 ATP
ステアリン酸のエネルギー収支 C17H35COOH + 26O2 + 146Pi + 146ADP → 18CO2 + 164H2O + 146ATP C6H12O6 + 6O2 + 38Pi + 38ADP → 6CO2 + 6H2O + 38ATP と比べると、同じ重さで脂肪のほうがATPを多く得られるのがわかる。また水が必要ないため、貯蔵エネルギー源として好都合である。
炭素数奇数の脂肪酸の代謝 同じように、端から炭素原子2個ずつ、アセチルCoAの形で切り出していく。最後に炭素数3のプロピニルCoAが残る。 → → → サクシニルCoA ↓ TCA回路へ
アミノ酸の代謝 アミノ酸は、必要に応じてそのままタンパク質生合成の材料となる。 すでに述べたタンパク質合成の場へ アミノ酸を代謝する場合は、アミノ基が邪魔になるので、アミノ基とそれ以外の炭素骨格を分離する必要がある。
アミノ酸の代謝 アミノ基は、最終的にすべてグルタミン酸に集められる(アミノ基転移) アミノ酸 α-ケト酸 α-ケト グルタル酸 グルタミン酸
アミノ酸の代謝 次に、グルタミン酸のアミノ基は、酸化的脱アミノ反応によりアンモニアになる グルタミン酸 α-ケトグルタル酸 H2O+ NAD+ アンモニア+ NADH+H+
アンモニアの解毒 アンモニアは生体にとって毒なので尿素回路によって、無毒な尿素になる 腎臓で尿となり膀胱へ アンモニア 尿素 (尿素回路)
尿素回路 最初の2つの酵素は肝臓にしかない
アミノ酸炭素骨格の代謝 アミノ基が除かれた炭素骨格は、 1) TCAサイクルの基質となって ATPを産生 2) 糖新生系に入りグルコースを新生 (糖原性アミノ酸) 3) 脂肪酸合成系で脂肪酸を合成 (ケト原性アミノ酸)
酸素が十分でない場合 筋肉では、ピルビン酸から乳酸を生成してNAD + を再生して解糖の過程を進める。 生成された乳酸は、血中に放出され肝臓に運ばれる。 肝臓で乳酸はピルビン酸になり、糖新生の過程で、グルコースが作られる。
酸素が十分でないと 酸素があると右側へ進める 酸素が無いと左側へ進む
酸素が 無い場合 NADH ↓↑ NAD+のリサイクル
糖新生 肝臓での糖新生の過程は、解糖の逆反応? この部分は可逆反応ではない。
糖新生 グルコース6-リン酸 グルコース ATP ヘキソキナーゼ
糖新生 グルコース6-リン酸 グルコース H2O Pi グルコース-6-リン酸ホスファターゼ ここは加水分解。ホスファターゼという酵素が加水分解でリン酸を外す。
糖新生 フルクトース フルクトース -1,6-二リン酸 -6-リン酸 H2O Pi フルクトース-1,6-二リン酸ホスファターゼ フルクトース-1,6-二リン酸も同じようにホスファターゼにより、脱リン酸。
糖新生 ホスホエノールピルビン酸 ピルビン酸 ADP ATP この逆反応は、単純ではない。 オキザロ 酢酸 ホスホエノールピルビン酸 ATP+CO2 ADP GTP GDP+CO2
貯蔵グリコーゲンがなくなったら ヒトの肝臓には約100gのグリコーゲンが含まれ、約600kcalのエネルギーに相当する。 必要に応じて血中へ放出するが、使い尽くしてしまったら?脂肪を利用、さらに。 筋肉のタンパク質を分解してアミノ酸を肝臓に運び、アミノ酸からグルコースへ
代謝経路 の ネット ワーク
代謝経路のネットワーク 代謝経路を工場のラインのようだと述べたが、実際にはもっと入り組んだネットワークを形成している。 それぞれのステップに酵素が働いている。 その酵素の働き方を調節したら?異化や同化の進み方に変化が起こるだろう。