ラッサ熱 アレナウイルスに起因するウイルス性出血熱である 齧歯類から人に感染する 1969年ナイジェリアで最初に発見された 流行地域は西アフリカである 雨期の終わりから乾期の始めにかけて多く発生する 年齢および性別による発症の差はない
原因ウイルス アレナウイルスの名前の由来は、電子顕微鏡でウイルス粒子を観察したときの形状からラテン語でアレナは砂のようなことを意味する。 エンベロープを有する球形もしくは多形性のウイルスで、直径は 50-300 nm である。 遺伝子は一本鎖のRNAで小と大の2分節に分かれる。:小 (~3.4 kb) 大 (~7.1 kb) 分節した二つの遺伝子は独特な両側性配向により、コードする5種類の蛋白を整列する。 ウイルスは 56oCおよびpH5.5 以下もしくはpH8.5以上、紫外線およびγ線そして消毒薬では逆性石鹸により不活化される。
アレナウイルス属 人の疾病に関係するアレナウイルス ウイルス名 名前の由来 発生年 分布 ウイルス名 名前の由来 発生年 分布 Lassa Town, Nigeria 1969 West Africa Junin Town, Argentina 1957 South America Machupo River, Bolivia 1962 South America Guanarito Area, Venezuela 1989 South America Sabia Town, Brazil 1990 South America LCMV Clinical disease 1933 Worldwide
ラッサ熱の発生疫学 流行地域はナイジェリア、リベリア、シエラレオンおよびギニアを含む西アフリカである MASTOMYS DISTRIBUTION LASSA 1969 流行地域はナイジェリア、リベリア、シエラレオンおよびギニアを含む西アフリカである 毎年300,000-500,000名が感染し、5000名の死者が出ている 齧歯類から人への感染(多乳房ラット; Mastomys species-complex) 病院内感染を主とした二次的な人から人への感染で、効率に致死的な 症状を伴う
自然宿主の齧歯類 Mastomys species complex 分類は未だ確立されていない M. huberti: 主に人家周辺に生息 M. erytholeucus: 主に草原に生息 その他
感染経路Ⅰ 齧歯類から人へ: 空気中に浮遊するウイルスの吸入 感染した齧歯類の排泄物で汚染された食物もしくは食材の摂取 Mastomys を食用として捕獲し調理する時に感染
感染経路Ⅱ 人から人へ: 感染した人の血液、組織、分泌物もしくは排泄物への接触 注射針による刺突、切り傷などから 空中に浮遊したウイルスの吸入による
病理 血管内皮細胞の損傷/毛細血管からの漏出 血小板の機能障害 心機能の抑圧 サイトカインおよびその他の可溶性伝達物によるショックおよび炎症
臨床症状 潜伏期は5-21日である。 段階的な発熱, 頭痛, 倦怠およびその他の非特異的な症状を示す。 咽頭炎, 筋痛症, 胸骨後部の疼痛, 咳および胃腸症状が典型的にみられる。 古典的な症状である出血、首/顔面の浮腫およびショックも希にみられる。 入院患者の致死率は15-20%である。 妊婦および新生児に対しては特に病状が激しい。 難聴は続発症として普通にみられる。
臨床症状の頻度 頻度(%) 発熱 頭痛 関節痛/筋肉痛 胸骨後部の疼痛 衰弱 眩暈 のどの痛み/咽頭炎 発咳 嘔吐 腹痛/脆弱 下痢 結膜炎/結膜下の出血 悪寒 難聴 リンパ腺症 出血 錯乱 頸部もしくは顔面の浮腫 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 頻度(%)
妊婦におけるラッサ熱の病態 妊娠後期(200日前後)の妊婦に対しては致死率が高い (>30%) 胎児に対する致死率は高い(>85%) 妊婦ではウイルス血症の割合が増加する 胎盤感染する 子宮の摘出は母体の生存率を改善する手段である
ラッサ熱における聴覚の障害 回復期の始めに通常みられる 病勢の強さには関係しない 1/3の患者に発生する 両側もしくは片側の耳でみられる 聴覚の障害を来した患者の最大1/3に生涯 この症状がみられる
小児および幼児におけるラッサ熱 西アフリカのある地域では、小児科入院の重要な原因である。 臨床症状はだいたい成人のものと同様である。 “幼児浮腫症候群” - 浮腫/全身浮腫 - 腹部膨満 - 出血 - 予後不良
ラッサ熱の類症疾患 アルボウイルス感染症 マラリア 無黄疸性の肝炎 チフス熱 エンテロウイルス感染症 連鎖球菌性咽頭炎 細菌性もしくはウイルス性結膜炎 マラリア チフス熱 連鎖球菌性咽頭炎 レプトスピラ症 細菌性敗血症 細菌性髄膜炎
診断法 臨床症状による診断はだいたい困難である ELISA法 (Enzyme-linked immunosorbent assays) による抗原, 血清中のIgMおよびIgGの検出 実験室内診断法として: ウイルス分離 免疫組織化学法(死亡後の診断法として) RT-PCR (Reverse transcription-polymerase chain reaction)によるウイルス遺伝子の検出
治療法 対症療法 リバビリン投与 発症から6日以内では最も効果的な治療法である。 主な副作用: 軽度の溶血および赤血球造血の抑制 双方の症状とも可逆性である。 現在は妊婦に投与することは禁忌であるが、母体の生命に危険が及ぶ場合は是認される。 難聴の程度や発生率を減少させることは出来ない。
ラッサ熱の予後不良に関わる要因 高ウイルス血症 血清中の AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ) レベルが150 IU/L以上 出血 脳炎 浮腫 妊娠後期(200日前後)
予防制御法 村単位の齧歯類の制御および回避計画 院内感染を防ぐための病院における 研修: 感染防除看護マニュアルの徹底 診断法の技術移転 研修: 感染防除看護マニュアルの徹底 診断法の技術移転 抗ウイルス薬療法 (リバビリン)
齧歯類の制御 齧歯類の進入を防止する蓋のついた適当な食料保管庫に食料を保管する。 家の周囲を清掃する。 適当で安全な死体処理法を組合わせた齧歯類の捕獲および駆除を行う。 齧歯類を食材とすることをやめる。