牛白血病の概要 牛白血病は一旦罹患すると治療方法がなく、母子間の垂直感染を起こすため、畜産農家に大きな被害をもたらすことから届出伝染病に指定されている。この問題の解決に際しては、「家畜防疫対策要綱」に記載されている指導項目を念頭に検討する必要がある。 牛白血病は食品の安全性とは全く関係しないが種々の風評がある。 病原体は、レトロウイルス科、オルソレトロウイルス亜科、デルタレトロウイルスに属する牛白血病ウイルスで、ウイルス核酸は一本鎖RNAである。セントラル・ドグマによる「DNA→RNA→タンパク」という遺伝情報の流れが、レトロウイルスの場合「RNA→DNA→RNA→タンパク」となっており、RNA→DNAという逆の流れがあることから「逆」という意味のレトロ(retro)と命名されている。逆転写酵素という特殊な酵素をもっていることがこのウイルスの特徴である。
レトロウイルス科 アルファレトロウイルス属 イプシロンレトロウイルス属 ベータレトロウイルス属 スプマウイルス属 ガンマレトロウイルス属 ウイルスが細胞膜上の受容体と結合し、RNAと逆転写酵素が細胞内に放出される。逆転写酵素が作用し、一本鎖RNAを鋳型として二本鎖DNAが合成される。 アルファレトロウイルス属 トリ白血病ウイルス ラウス肉腫ウイルス 藤波肉腫ウイルス イプシロンレトロウイルス属 ウォールアイ皮膚肉腫ウイルス ベータレトロウイルス属 マウス乳ガンウイルス スプマウイルス属 ヒトフォーミウイルス サルフォーミーウイルス ガンマレトロウイルス属 マウス白血病ウイルス ネコ白血病ウイルス モルモットC型癌ウイルス ブタトC型癌ウイルス レンチウイルス属 ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1) ネコ免疫不全ウイルス サル免疫不全ウイルス ウマ免疫不全ウイルス ウシ免疫不全ウイルス デルタレトロウイルス属 ウシ白血病ウイルス(BLV) ヒトT 細胞白血病ウイルス(HTLV-1)
BLV : Bovine leukemia virus HTLV-1 : Human T-lymphotropic virus-1 HTLV-2 : Human T-lymphotropic virus-2
レトロウイルス科は7属に別れ、各種の腫瘍および免疫不全を起こすことが明らかになっているが、ウイルスが宿主細胞に吸着する際、細胞膜上の特定の受容体と結合すること等から、宿主特異性が高い。 発癌ウイルスは、ウイルスRNA中に発癌遺伝子を持つ急性白血病群ウイルスと発癌遺伝子を持たない慢性白血病群ウイルスに大別されるが、BLVは後者である。後者の発癌機序については未解明の部分が多いが、全ての動物細胞のDNA中にある発癌遺伝子を活性化することによると考えられている。 BLV感染牛の60~70%は無症状キャリアーとなり、約30%は持続性リンパ球増多症を呈すが、臨床的には正常とされる。数ヶ月~数年の無症状期を経て、0.2~0.5%の感染牛はBリンパ球性白血病/リンパ腫を発症する。好発年令は4~8歳である。
実験的には、牛に<大量の>ウイルスを接種すると4~12日目にウイルス血症が認められるが、中和抗体の出現とともに血中からウイルスは消失する。それに代わって、ウイルス感染したリンパ球が血液中に出現し、一生を通して末梢血中に存在するとされている。自然感染牛の場合は、少量のウイルスであり実験感染のようなウイルス血症が起こるかどうか判らないが、抗体陽性牛のリンパ球からは高率にウイルスが分離されると報告されている。
発症牛では、削痩、元気消失、眼球突出、下痢、便秘がみられ、末梢血液中には異形リンパ球が出現する。野外の臨床診断では、体表リンパ節や骨盤腔内の腫瘤の触診による。 腫瘍は全身リンパ節を中心に、全身諸臓器に広く認められるが、特に心臓、前胃、第4胃、子宮に顕著である。組織学的にはいずれも著しい腫瘍細胞のびまん性増殖があり、激しい組織崩壊をもたらす。 (1) ウイルスが感染した後、2~3週間は血液中にウイルスが存在するが、その後は白血球に入り、血漿中には観察されなくなる。 (2) 抗体が検出されることと、血漿中にウイルスが存在することとは別である。 (3) 約4年の潜伏期間を経てリンパ系組織、胃や子宮等の諸臓器に病変を形成したものを「牛白血病」とする。 (4) ウイルスの感染例の約0.2%~0.5%が発病するとされており、大半は主症状で終わる。 (5) 「牛白血病」の診断は、剖検に基づく肉眼および組織学的病理検査に基づくのであり、ウイルスに感染したことを示す抗体陽性ではない。 (6) 家畜伝染病予防法に基づく届出は「牛白血病」であり、ウイルス感染ではない。
一般的感染様式 感染牛における垂直伝播 感染の危険性 感染要因 高 輸血、汚染注射器具 中 除角、断尾を同一器具で実施 直腸検査を同一手袋で実施 低 吸血昆虫による伝搬 イアータッグ 殆どなし 人工授精、受精卵移植 感染牛における垂直伝播 伝搬様式 感染率(%) 精液・卵を介する感染 0% 子宮内・産道感染 4%以下 初乳、常乳による感染 6~16%
針に付着した血液が乾かない数メートル範囲内でしか感染は起きない 群間の感染と群内の蔓延を区別する必要がある 放牧地に預託された牛 アブ等の吸血昆虫 感染牛 未感染牛 針に付着した血液が乾かない数メートル範囲内でしか感染は起きない 預託農家に帰ってからの群内の蔓延 汚染注射器具、直腸検査、初乳による感染 群間の感染と群内の蔓延を区別する必要がある
農場における牛白血病の届出数 全国 鹿児島県 年 戸数 頭数 1998 90 96 4 1999 168 169 6 2000 157 159 13 2001 193 194 21 2002 238 247 10 2003 381 407 14 15 2004 413 468 11 2005 587 22 23 2006 627 772 34 35
食肉センターにおける 腫瘍による牛の処分頭数 全国 鹿児島県 年 と殺禁止 全部廃棄 一部廃棄 2001 242 786 13 5 2002 213 841 21 14 2003 2 375 1,676 32 24 2004 450 729 17 2005 518 788 35 外貌からは牛白血病の診断はできない。農場段階では健康と判断されても、食肉センターにおける解体後検査で摘発され、廃棄処分される場合もある。
「と畜検査員(獣医師)」による「と畜検査」の流れ 解体後の検査 検印 内臓検査 解体前の検査 生体検査 枝肉検査 頭部検査 肉眼で判定できない場合 合格 精密検査 「と畜検査員(獣医師)」による「と畜検査」の流れ
朝日新聞の記事内容に間違い 1. 見出しが「牛白血病を放置、拡大」(鹿児島県内)、「牛白血病の感染放置」(福岡県内)、「牛白血病 感染を放置」(佐賀県内)とされており、「牛白血病」の発生があり拡大したという表現です。この点については、昨日の取材において、ウイルスの感染と「牛白血病」の発病とは異なることを下記のように説明したにもかかわらず、あえて、センセーショナルな表現にしたものであります。 2. 記事の最後の部分に、「動物衛生研究所によると、牛白血病を発症した牛の肉を食べても人へは感染しない」という表現があるが、動物衛生研究所に確認したところ、それに続いて「しかし、実際的にはそれらの肉はと畜禁止となっており市場へ出回ることはありません」とコメントしているとのことだった。朝日新聞の記事は発症牛の肉が市中に出回っていることを臭わせるものであり、動物衛生研究所の回答を歪めている。牛白血病を発病している個体については食肉センターで法的検査に基づく廃棄処分されることから市中に出回ることはない。
リスク・コミュニケーションの要点 リスクアナリシスの構造 1.事前に問題点を整理しておく 2.関係機関との齟齬が起きないような連携 3.誤報道があった際に、迅速に糾す 4.第一現場で、風評拡大を阻止する リスクアセスメント リスクマネージメント リスクコミュニケーション リスクアナリシスの構造