『エチオピアにおける飢饉の構造』 総合政策学部2年 佐々木牧子
目次 1はじめに 2飢饉の定義 3エチオピアにおける飢饉 4飢饉の原因 4.1旱魃 4.2都市偏重 4.3不適当な政策 4.1旱魃 4.2都市偏重 4.3不適当な政策 4.3.1農業政策の失敗 4.3.2介入の失敗 4.4軍事化及び戦争 5総括
2 飢饉の定義 飢餓: 人間の直接消費に当てられる一人あたり食糧供給が満たされていない状態→栄養不足状態(1720カロリーから1960カロリー以下) 「飢え」の状態、生理的欲求が満たされていない時の状態
2 飢饉の定義 飢饉: ワッツ「飢餓の結果(起こる)広範な死に至る食料不足である。……主食食糧の入手可能性・獲得手段の制度が崩壊することにより、相当数の人に飢餓をもたらす社会的な危機である」 メローとギャビアン「飢饉とは、上の連続上でのもう一方の極端である」 W.パドックとP.パドック「おそらく、一人一人が食物がなくて行き倒れになれば、それは栄養失調と飢餓の境界線として受け取られるだろう。……そしておそらく、幾家族や幾地域者人々が倒れていくとき、飢饉と呼びうるだろう」
2 飢饉の定義 ↓↓↓↓ 被害規模が大きい、「社会性」 2 飢饉の定義 ワッツ→飢饉と飢餓の違いは、飢饉が「広範」であり「相当数」の人に影響を与えるとしている点。 メローとギャビアン→飢饉は比較的広い範囲にわたってかなりの数の人口に影響を与えるもの。飢餓は個人や小集団に被害をもたらすもの。 Wパドック・Pパドック→飢饉と飢餓の区別は影響を受けた人の数 ↓↓↓↓ 被害規模が大きい、「社会性」 飢饉とは比較的長期にわたる食糧の入手不可能性の結果、多数の人々に影響を及ぼす広域な飢餓がおこっている状態である
3 エチオピアにおける飢饉の概要 1983-85年の食糧危機では、エチオピアに限らず多くのアフリカ諸国で食料不足が深刻な問題となった。 3 エチオピアにおける飢饉の概要 1983-85年の食糧危機では、エチオピアに限らず多くのアフリカ諸国で食料不足が深刻な問題となった。 国連の報告では1985年の段階で、アフリカ諸国うち、21ヶ国が飢餓に直面している発表されている。 しかしながらこのようにアフリカの大部分の国が危機に直面しているものの、50万人をこす餓死者を出したのはエチオピア以外には見あたらない。
4飢饉の発生原因 4.1原因Ⅰ:旱魃 旱魃:ある地域での年間降水量が25%の低下することで、結果として農業において作物の生育と生産を維持するのに必要な適度な土壌の湿気が欠如し、通常の農業生産が不可能になること。 旱魃が起こりやすいのは、年間降水量が600mm以上と以下の地域を分ける境界線地帯 ←エチオピアを中心とするアフリカ北東部、西アフリカのサヘル地帯および南部アフリカ エチオピアでは1968年以後15年以上雨量の低下を経験し、特に1983-84年は年間総雨量が過去100年間で最低を記録した。
4飢饉の発生原因 4.1原因Ⅰ:旱魃 食糧危機が飢饉にまで発展する条件 需要がなければ供給も発生しない ①自家生産の減少 ②購買力の低下 4飢饉の発生原因 4.1原因Ⅰ:旱魃 食糧危機が飢饉にまで発展する条件 ①自家生産の減少 ②購買力の低下 ③それによる需要の低下 例)ハラルゲ州の遊牧民の場合 農民の食糧減少 → 食糧交換レートの高騰 ↓ 飢餓の進行 ← 必要量の穀の買い付け不可能 需要がなければ供給も発生しない
4.2原因Ⅱ:都市偏重 原因:経済発展優先→輸入代替工業化 政治基盤の安定 結果:低い生産者価格 →生産性の低下 原因:経済発展優先→輸入代替工業化 政治基盤の安定 結果:低い生産者価格 →生産性の低下 低い農業投資ー国家歳出の10% ( インドで20%) 確かに経済発展は重要だが………
4.2原因Ⅱ:都市偏重 人口の約89%が農民 依然として農業を根幹産業とする社会 ↓ ↓農業生産性を無視した政策? 国家財政の圧迫 ↓ ↓農業生産性を無視した政策? 国家財政の圧迫 1973年から83年の人口増加率:2.8% 1973年から84年の農業の成長率:1.2% 穀物輸入:1974年から84年にかけて118千トンから506千トンへ(食料援助分除く)
4.3原因Ⅲ:不適当な政策 4.3.1農業政策の失敗 1974年12月に社会主義宣言、そのもとで各分野での国有化 1974年の布告 4.3原因Ⅲ:不適当な政策 4.3.1農業政策の失敗 1974年12月に社会主義宣言、そのもとで各分野での国有化 1974年の布告 ①全農地のエチオピア人民の共有財産化 ②農地私有の禁止 ③無補償による農地、森林、果樹、コーヒー樹の公有化 ④性別に関わらず、自己とその家族に必要な農地割り当て ⑤農地への割り当ては10ヘクタールを上限とする ⑥雇用労働の原則的禁止 ⑦土地配分実施までは小作人・雇用労働者は耕作地に占有権を有する ⑧小作人は地主の農具及び二頭の耕作牛を保持でき、地主は3年以内に補償を支払われる ⑨大規模農場の国営農業・共同農業への組織化、
4.3原因Ⅲ:不適当な政策 4.3.1農業政策の失敗 改革前のエチオピアの土地制度 伝統的土地保有制度(リスト制)/北部州 伝統的土地保有制度(リスト制)/北部州 封土制(ガルト制)/南部州 1974-75年の段階で、一耕地を成す農家はゴンダール、ゴジャム、ティグレの場合、それぞれ19%, 26%,16%、逆に4つ以上に細分化されている農家の比率はそれぞれ29%,24%,39% ガモゴッツァ、ハラルゲ、シダモの南部諸州では単一耕地の農家比率はそれぞれ47%,40%,65%
4.3原因Ⅲ:不適当な政策 4.3.1農業政策の失敗 改革後 北部:ゴッジャム州アデット 南部:ショア州マナ 0.26ha-0.50ha / 2=>5 3.00ha-3.90ha / 17=>6 0.51ha-0.99ha / 4=>8 4.00ha- / 14=>2 1.00ha-1.99ha / 8=>12 2.51ha-2.99ha / 2=>4 南部:ショア州マナ -0.25 ha/ 16=>11 0.26ha-0.50ha / 29=>26 0.51ha-0.99ha / 16=>35 1.00ha-1.50 ha/ 22=>25
4.3原因Ⅲ:不適当な政策 4.3.1農業政策の失敗 土壌侵食の被害 エチオピアの耕地:ラテライト層の受食性が高く土壌浸食を受けやすい土地 ↓農地の細分化 耕地の拡大無理 →焼き畑農業の休閑期の短縮 ↓ 土壌の侵食 生産物収量の減少 (ヘクタールあたりの小農生産は1979年から1985年の6年間の間に12.79キログラムから8.57キログラムに減少)
4.3原因Ⅲ:不適当な政策 4.3.1農業政策の失敗 州間の穀物移動の禁止 農業規制:①農業流通公社の設立 公社の設立 ↓ ↓ 穀物の市場流通量低下 政府の食糧供給能力の限界 食糧不足地域が出た場合に食糧の輸送が困難 ↓ 飢餓の進行 州間の穀物移動の禁止
4.3原因Ⅲ:不適当な政策 4.3.1農業政策の失敗 農業規制:②州間の穀物移動の禁止 穀物移動の禁止 ↓ ↓ 州ごとの自由市場での価格の格差が増大 ●余剰州では生産者価格が押さえられる ●不足地域では食糧価格の上昇 食糧危機の際に農民に対して不利に働き、飢饉を誘発させる要因に成る。
4.3原因Ⅲ:不適当な政策 4.3.2介入の失敗 定義:政府が食糧危機に有効に対応できないか、または対応することを拒否したために、防げたはずの飢饉を事実上起こしてしまうこと 1983-84年に旱魃と凶作が起こったガボヴェルデ、ジンバブエ、ボツワナ、ケニア、スーダンと比較 →ガボヴェルデ、ジンバブエ、ボツワナ、ケニアでは公的介入が存在した。
4.4原因Ⅳ:軍事化及び戦争 4.4.1軍事化 定義:政府が政府が自国の外貨準備高に不相応な金額を軍備や、防衛に支出する傾向 4.4原因Ⅳ:軍事化及び戦争 4.4.1軍事化 定義:政府が政府が自国の外貨準備高に不相応な金額を軍備や、防衛に支出する傾向 エチオピアの軍事化の状況 軍隊率 10.5%(1970-84) 人口増加率 2.8% (1973-84) 軍事支出 年率 14%(1974-80) 軍事費の国内総生産にしめる割合 2.8%から8.6%に膨張(同上) 歳出に占める割合 30.0%から34.6%に増加(1980-1985)
4.4原因Ⅳ:軍事化及び戦争 4.4.1軍事化 軍事化が飢饉を誘発する理由 ①増大した軍事支出が民生部門への支出を阻害する。 4.4原因Ⅳ:軍事化及び戦争 4.4.1軍事化 軍事化が飢饉を誘発する理由 ①増大した軍事支出が民生部門への支出を阻害する。 ②外貨準備を枯渇させ、対外債務を悪化させる。 ③軍部の力を増強することによって、さらなる軍事支出への衝動を生み、問題が自己増殖的になる。
4.4原因Ⅳ:軍事化及び戦争 4.4.2紛争 飢饉の被災地と紛争地帯の一致 紛争が飢饉を誘発する理由 4.4原因Ⅳ:軍事化及び戦争 4.4.2紛争 飢饉の被災地と紛争地帯の一致 紛争が飢饉を誘発する理由 ①社会の脆弱な人にさもなくば届いていたであろう食糧供給を遮断してしまう。 ②反政府軍の拠点はたいていの場合農村部にあるので、農民は直接的に戦いに巻き込まれてしまう。 エチオピアの紛争の特徴
5総括 仮説の検証 仮説:『エチオピアにおける飢饉は、直接的な原因としての旱魃と、政府による農業政策の失敗、そして紛争によって食糧への道をたたれることによって起こった』 慢性的な要因:農業生産性が低下 きっかけとなる要因:旱魃 飢餓を深刻化させる要因:政府の救済措置の欠如 ←軍事化←東西冷戦構造
参考文献 1アフリカの土地慣習法の構造 アジア経済研究所 1960年 2アフリカの食糧問題 アジア経済研究所 1996年 アジア経済研究所 1960年 2アフリカの食糧問題 アジア経済研究所 1996年 3アフリカ 二つの革命 朝日新聞社 1983年 4現在アフリカの悩み NHKブックス 1986年 5アフリカ 自由国民社 1996年 6アフリカ 大月書店 1999年 7アフリカ入門 新書館 1999年 8現代アフリカと開発経済学 日本評論社 1999年 9アフリカ現代政治 東京大学出版社 1989年 10「飢餓」と「飽食」 講談社 1994年 11飢饉の理論 東洋経済出版社 1999年 12アフリカ経済 世界思想社 1998年 13アフリカ危機の構造 世界思想者 1987年 14現代アフリカへの接近 三峰書房 1989年 15週刊朝日百科世界の地理 特集編[食糧と飢餓] 朝日新聞社 1985年 16Dreze,Jean, and Amartya Sen [1989],Hunger and Public Aaction,Oxford:Clarendon Press 17Mellor,Jand Gavian,S.[1987],Famine: causes, prevention, and relief :Science 18Paddock,W. and Paddock, P. [1967]Famine-1975! Weidenfeld and Nicolson 19Watts,M. [1983]Silent Violence: Food, Famine, and Poverty. Frances Pinter