Adaptive Optics(AO) “宇宙をより鮮明にうつし出す” ~補償光学~ 補償光学系:これまでの成果! 天体望遠鏡で星を詳しく観測すると星の像が点にならないで少しぼやけながら動いているのがわかります。これは途中にある空気が「かげろう」をおこしているからです。夏の暑い日に遠くの景色がゆらいで見えるのも同じ原因です。このせいで望遠鏡の結像性能(人間でいう視力)が十分に発揮できません。ちなみに人間の目は視力1.0で空間角度分解能が1分角(角度1度の1/60)ですが、すばる望遠鏡は0.1秒角(角度1度の1/36000)以下の細かいものを見分ける能力(空間分解能という)を持っています。しかし、すばる望遠鏡があるマウナケア山頂(標高約4200m)の空気のうすいところでさえそのゆらぎのために空間分解能が0.5秒角程度になってしまいます。日本では平均3秒角です。 補償光学系は、刻々と変化する空気の影響をガイド星を利用して高速で測定し、リアルタイムでその影響を補正し、シャープな像を得る装置です。この装置とすばる望遠鏡を組み合わせて、近赤外線(波長2ミクロン)で0.06秒角の分解能が達成されます。 2000年の12月、すばる望遠鏡に補償光学系をとりつけて最初のテストをおこないました。現在は性能テストと試験的な観測を続けています。また、今年の4月からは共同利用装置としても公開しています。さらに、今年度からは大気のゆらぎをもっと細かく測ることのできる新しいAOシステムの開発と、ガイド星が天体のそばに見つかる頻度を多くするためにレーザーガイド星という人工星を高度90kmにあるナトリウム層につくる計画を進めています。 補償光学系概念図 側面図 上面図 (計画中) ←波面センサー ←制御システム 可変形鏡→ 可変形鏡 可変形鏡の裏面とその働きを示す概念図: 36本の電極に電圧を与えることで鏡を右図の用に変形させ空気のゆらゆらの影響で歪んだ光を元に戻します。 補償光学系:これまでの成果! 2000年12月にすばる望遠鏡と補償光学系を組み合わせた初観測に成功した後、私たちは近赤外線の撮像および分光装置を使ってテスト観測をしてきました。ここでは得られた成果のいくつかを紹介します。空間分解能が5~10倍よくなると(視力0.1だった人が視力0.5~1.0になったことと同じ!)別世界が見えてくることがわかると思います。 補償光学系を使って、近赤外線撮像分光装置(IRCS)で観測された0.12秒角(角度で約1/30000度)離れたの褐色矮星連星系候補の近赤外線スペクトル。補償光学系なしにこのような近接連星を別々に分光することはできません。離角の非常に小さな褐色矮星連星系は、それぞれの星の動き(固有運動)から星の重さ(質量)を求めることができるという点でたいへん貴重です。一方、分光されたスペクトルから星の温度を決定することができます。このように星の質量と温度がそれぞれ決められるので、星の進化モデルを直接検証することがはじめて可能になるのです。補償光学系を使った分光は褐色矮星の進化を理解するために強力な研究手法といえるでしょう。 補償光学系を用いたときの星像の違い。図中の左側が補正無し、右側が補正ありの時の同じ星の星像を表す。補償光学系を働かせることにより、補正前の星像サイズ0.33秒角が0.07秒角に改善され、観測している波長と主鏡の口径で決まる望遠鏡の理論的性能の限界 (回折限界) に近い所まで達しています。観測波長は2.2ミクロンです。 左:AOなし、右:AOあり 褐色矮星連星系:HD130948 ハッブル宇宙望遠鏡(HST)の近赤外観測装置NICMOSを用いて波長1.87ミクロンの画像(左)と、補償光学系とコロナグラフ撮像装置(CIAO)を用いて得られた画像(右)。 右側の画像は、近赤外線J、H、K(1.25、1.65、2.2ミクロン)の3波長の撮像データを合成して作った擬似カラーで表しています。視野は10×10秒角で、検出器の1ピクセルが0.0217秒角となるモードで観測しています。 補償光学系と近赤外線撮像カメラ(IRCS)で得られたM71の高分解能撮像(右)。視野は1×1分角で、検出器の1ピクセルが0.058秒角となるモードで観測しています。 左の図はAOがない場合にどの様に見えるかをシミュレートしたものです。(空間分解能を10倍悪くしてある) AOを使うことで、球状星団の中心の密集した領域の星を鮮明に分離して観測することができるようになりました。 HST 1.87ミクロン CIAO J,H,K (W.B. Latter et.al) AOなし(シミュレーション) AO+IRCS 惑星状星雲:BD+303639 球状星団:M71