北大農学部森林科学科 造林学研究室4年 小向愛

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北大農学部森林科学科 造林学研究室4年 小向愛 花を咲かせるホルモンとその遺伝子の研究 北大農学部森林科学科 造林学研究室4年 小向愛

もくじ 遺伝子の研究とは フロリゲンの歴史 花を咲かせるための遺伝子 花を咲かせるメカニズム これから

遺伝子をテーマを選んだ理由:  昔から恐竜に興味があった       →進化や遺伝子 研究テーマ: 「ブナにおける花を咲かせるための遺伝子の                        調節機構」 →なぜ、花を咲かせるための遺伝子を研究する  のか?

遺伝子の研究とは 遺伝子はタンパク質の設計図 遺伝子をもとにつくられたタンパク質は身体の様々な生理現象に関わる   例)酵素、情報を受け取る受容体 生理現象を調べるためにはタンパク質を調べる タンパク質を調べるためには遺伝子を調べる

遺伝子の研究とは ゲノム(genome)研究(~1990年代) =設計図づくり、ピースを集めてパズル ポストゲノム研究  =設計図づくり、ピースを集めてパズル ポストゲノム研究 =タンパク質の機能の研究   タンパク質どうしの反応の研究 genome=gene+ome(ドイツ)

ブナにおけるゲノム研究 ブナのゲノム解読は一昨年、完了! 花を咲かせるホルモン、その遺伝子の研究に取り組む

花を咲かせるホルモンの研究 花を咲かせるホルモン(タンパク質) フロリゲン(Florigen)と呼ばれる ↓    ↓ 日本の植物学者の悲願である幻のホルモン もしくは夢のホルモン

ホルモンとは 生体内で起こる反応に対して、特定の器官で生産され、血液や体液などによって運ばれて標的の器官で作用を起こす物質。 例)インスリン、エストロゲン(女性ホルモン) 動物ホルモン、植物ホルモン フロリゲンは最初に発見された植物ホルモン

フロリゲンの歴史①~フロリゲンとは 「花咲か爺さんの灰」 植物に美しい花と実りをもたらす物質 種から発芽し、茎、枝、葉を伸ばす栄養成長から花を咲かせて種子を作る生殖成長への転換(花成)を促すスイッチ      栄養成長        生殖成長

フロリゲンの歴史①~フロリゲンとは 1937年、ロシアの植物学者によって提唱 何か花芽を作らせる 物質が存在する! =フロリゲン  物質が存在する!  =フロリゲン 葉で作られ、茎→茎頂と長距離輸送 →花芽が作られる

フロリゲンの歴史①~フロリゲンとは フロリゲンが存在しそうなことはわかったが 以降、その正体は謎なまま・・・  以降、その正体は謎なまま・・・ フロリゲンを抽出するこができなかった →植物ホルモンは動物ホルモンより  非常に小さく、網目からすり抜けてしまう 調べようとしても調べられず研究技術の進歩を待つのみ・・・

フロリゲンの歴史②~本当にあるのか? 発見されもしないフロリゲン・・・ →幻のホルモン 研究したけれど、成果は得られない・・・         →幻のホルモン 研究したけれど、成果は得られない・・・ リスキーな研究 存在を否定する研究者 諦めていく研究者が出てくる

フロリゲンの歴史②~本当にあるのか? 日本の研究者によって世界に先駆けて それでも・・・諦めなかった日本の研究者たち!  東京大学、京都大学、奈良先端技術大学 フロリゲンの存在が提唱されてから   70年後!  日本の研究者によって世界に先駆けて  フロリゲンの正体が明らかにされた  →日本はフロリゲン研究をリードしている

フロリゲンの正体とは フロリゲン =FT遺伝子を設計図とするタンパク質 シロイヌナズナから発見 花を咲かせるためには     =FT遺伝子を設計図とするタンパク質         シロイヌナズナから発見 花を咲かせるためには 「花咲か爺さんの灰」のようにふりかければ  花が咲くわけではなく・・・ FT遺伝子が働いてフロリゲンを作る ことで花は咲く

花を咲かせるための遺伝子とは FT遺伝子は常に働いているわけではない ・・・花を咲かせる時期は決まっている  ・・・花を咲かせる時期は決まっている  ・・・FT遺伝子が働く時期も決まっている →FT遺伝子はフロリゲンの設計図だけではなく   花を咲かせるタイミングの調節も担う!

花を咲かせるための遺伝子とは 花を咲かせる時期の調節 温帯植物の多くは季節の変化を読み取っている 温度(冬の低温) + FT遺伝子     花を咲かせる時期の調節 温帯植物の多くは季節の変化を読み取っている 温度(冬の低温)      +              FT遺伝子 日長の変化=光+時間     葉

花を咲かせるための遺伝子とは 冬の低温、日長の変化などの情報が FT遺伝子が働く条件となり、FT遺伝子が働く →フロリゲン生産→花が咲く  FT遺伝子が働く条件となり、FT遺伝子が働く →フロリゲン生産→花が咲く 様々な外界からのシグナル(情報)を集めて、  花を咲かせるかどうかの総合的な判断を  行っている遺伝子!  ナズナ、トマト、ダイズ、ポプラ、ブナ等 他の研究ではジャガイモの形成にも関わっている・・・

花を咲かせるための遺伝子とは フロリゲンの研究が始まってから、70年 FT遺伝子の研究とともに、それに関わる  様々な植物の生理現象を解き明かす鍵 様々なことがわかったが、未解明なことも多い これからも、日本の研究者がフロリゲンの研究を昔の粘り強さとともにリードしていく

花を咲かせるメカニズム 花を咲かせるメカニズムは植物によって異なる Chailakhyanも全ての植物に共通するとまでは 言及せず  言及せず            日長変化を葉で感受→フロリゲン生産→花芽 このメカニズムが全ての植物で共通するならば、「どんぐりの木」など、豊凶をもつ樹木の花成のメカニズムは説明ができない。

花を咲かせるメカニズム 一年生草本 :寿命が一年 「花を咲かせる」こと 一生に一度 子孫を残せるかどうかが係る FT遺伝子だけ?  一年生草本  :寿命が一年         「花を咲かせる」こと 一生に一度 子孫を残せるかどうかが係る                   FT遺伝子だけ? ・・・FT遺伝子欠損した物も花成が確認    花を咲かせるために複雑なメカニズム    (中には、4つの経路を隠しもつ物も)

花を咲かせるメカニズム 樹木 :寿命は数十年~数百年 開花・結実が可能な樹齢(10年~70年) に達すれば、 一生の間に多回、花を咲かせ  樹木 :寿命は数十年~数百年  開花・結実が可能な樹齢(10年~70年)  に達すれば、 一生の間に多回、花を咲かせ そのうち、一つ種子が生き残れば 子孫を残すことができる  ・・・花成がルーズな樹木も    豊凶が小さい木、豊凶が大きい木   シラカンバ、リンゴなど・・・               ドングリの木(ブナ、ミズナラ)

花を咲かせるメカニズム 樹木 生存戦略の違いによって、花成への積極性はことなるが、長い寿命の中で、移動できるのは種子を飛ばす時だけ! →花成がルーズな樹木でも、花成は重要!     しかし・・・ 樹木の花を咲かせるメカニズムに関する研究例が非常に少なく、未解明なことが多い!

花を咲かせるメカニズム 環境保護の高まりから植林事業の増加・・・ 郷土の木である、ブナやミズナラを植えることも   豊凶が大きい樹木は種子生産が不定期で   種子の供給が不安定・・・ 植林したくても、種が少ないので苗ができない! 結実しても、シイナ(不稔性種子)だったり・・・

花を咲かせるメカニズム 豊凶が大きい樹木における、花を咲かせる メカニズムの解明が期待されている!  メカニズムの解明が期待されている! 樹木はゲノムサイズが大きいため、ゲノム研究がなかなか進まない 開花結実までに何十年もかかるため、遺伝子欠損体をつかった研究ができない・・・

これから・・・ブナの花成研究 栽培植物(イネ、アサガオ等)、ゲノムサイズが小さいモデル植物の先行研究をお手本にして、ブナと照らし合わせてみるしか方法はない 途方もない研究・・・ 豊凶が大きいけれど、調査木が結実しないと  何も研究が進まない! 一昨年から研究をしている先輩のときに  何十年に一回くらいの大豊作!

これから・・・ブナの花成研究 先輩の研究によってわかったこと ブナの花成にもFT遺伝子から作られる フロリゲンが関係していることがわかった!  先輩の研究によってわかったこと ブナの花成にもFT遺伝子から作られる  フロリゲンが関係していることがわかった!   植物の進化の流れ・・・ 裸子植物    獲得・喪失 (イチョウ等) 被子植物    獲得・喪失           (ブナ)  草本類(モデル植物)

これから・・・ブナの花成研究 FT遺伝子が存在し、その機能を発揮している どうして、ブナの開花・結実は不定期なのか? FT遺伝子に外界の環境シグナルを伝える因子が欠如?もしくは、働いていない? 働いているけど、シグナルが弱くて、うまく  FT遺伝子をつかえていない?

これから・・・ブナの花成研究 一方で、ブナの開花・結実に春先の低温が関係しているという生態的知見から 近年、FT遺伝子の制御に関わることが明らかにされたエピジェネティクス研究に注目