民法入門 2013年2月1日 明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂

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家族と法律. 婚姻は のみに基づいて 成立し,夫婦が を有す ることを基本として, ○ により,維持されなければな らない。 配偶者の選択,財産権,相続,住居の選定, 離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の 事項に関しては,法律は と両性の ○ に立脚して,制定 されなければならない。 日本国憲法.
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民法入門 2013年2月1日 明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂 2013/2/1 民法入門 第1レベルから始めて 第3レベルへ到達する 2013年2月1日 明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂 2013/2/1 Introduction to Civil Law Introcuction to Civil Law by S. Kagayama

Introduction to Civil Law 民法入門              (★の数は,到達レベルを示す) Ⅰ 民法の全体像 Ⅱ 民法学習法 民法の位置づけと民法の構成 市民生活の基本法 一般法と特別法の組み合わせ 民法の機能 民事紛争の解決の基準 具体例(測量ミス事件)★★★★ I:事実関係と争点 R:適用すべき条文の発見 A:条文が欠けている場合の議論の方法(比較法の効用) C:結論 部分と全体との関係の理解★ 第1問(代金の支払い場所) 全体と部分のジレンマとその克服 条文の真の要件の理解★★ 第2問(離婚原因) 条文の中にある本当の要件を見抜く 判例の理解★★★ 第3問(無断譲渡・転貸と解除) 法原理に基づいて,例文に過ぎない条文とは反対の結論を導く 2013/2/1 Introduction to Civil Law

民法入門 目次 (★の数は,到達レベルを示す) 民法入門 目次               (★の数は,到達レベルを示す) Ⅰ 民法の全体像 Ⅱ 民法学習法 民法の位置づけと民法の構成 市民生活の基本法 一般法と特別法の組み合わせ 民法の機能 民事紛争の解決の基準 具体例(測量ミス事件)★★★★ I:事実関係と争点 R:適用すべき条文の発見 A:条文が欠けている場合の議論の方法(比較法の効用) C:結論 民法の学習★ 第1問(代金の支払い場所) 全体と部分のジレンマとその克服 条文の理解★★ 第2問(離婚原因) 条文の中にある本当の要件を見抜く 判例の理解★★★ 第3問(無断譲渡・転貸と解除) 法原理によって,条文とは反対の結論を導く → まとめの課題 参考文献 2013/2/1 Introduction to Civil Law

Introduction to Civil Law 民法の位置づけ(1/2) 公法と私法との対比 法令の数(総務省「法令データ提供システム」の「お知らせ」による) 憲法…1 その他の法律は何件? 法律…1,882 六法には何件? ポケット六法は,186件を収録 政・省令…5,929 合計では? 全体では,7,812件(2012年) 法の分類 公法 国と市民との関係(縦の関係)を規律する 私法 市民と市民の関係(横の関係)を規律する 民法は,市民生活の基本法 国 公法(憲法,行政法,刑法,訴訟法等) 公法(憲法,行政法,刑法,訴訟法等) 私法 (民法,商法等) 市民 市民 2013/2/1 Introduction to Civil Law

民法の位置づけ(2/2) 刑法(規制法)と民法(救済法)との対比 刑法(罪刑法定主義) 民法(被害の救済) 犯罪類型 暴行 特別類型 暴行 一般不法行為 その他類型外 無罪 刑罰 その他の類型 救済 犯罪類型 傷害 特別類型 傷害 類型論の保持 一般法の承認 2013/2/1 Introduction to Civil Law

民法典の構成(1/4)(総則,物権,債権,親族,相続) 総論と各論の組合せ(パンデクテン方式)→法の目的 私権の体系 民法総則の構成 Ⅰ 総 則 通則 権利の主体 自然人 法人 権利の客体 物 権利の変動 法律行為 意思表示 代理 条件 期限 期間 時効 取得時効 消滅時効 民 法 典 Ⅰ総則 財 産 法 Ⅱ物権 Ⅲ債権 家 族 法 Ⅳ親族 Ⅴ相続 2013/2/1 Introduction to Civil Law

民法典の構成(2/4) 総論と各論の組合せ(パンデクテン方式) 物権の構成 債権の構成 Ⅱ物 権 物権 総則 占有権 本権 所 有 権 制 限 物 権 用 益 物 権 地上権 永小作権 地役権 入会権 担 保 物 権 留置権 先取特権 質権 抵当権 Ⅲ 債 権 債権 総論 債権 各論 契約 契約 総論 成立 効力 解除 契約 各論 事務管理 不当利得 不法行為 2013/2/1 Introduction to Civil Law

民法典の構成(3/4) →問題1,問題3 総論と各論の組合せ(パンデクテン方式) 債権総論の構造 契約法各論の構造 債 権 総 論 債権の目的 債権の効力 対内的効力 履行強制 損害賠償 対外的効力 債権者 代位権 詐害行為 取消権 多数当事者 関係 可分・不可分 債権 連帯債務 保証 債権の譲渡 債権の消滅 弁済 相殺 更改 免除 混同 契 約 各 論 財 産 権 移 転 返還不要 無償 1.贈与 有償 2.売買 3.交換 返還必要 4.消費貸借 財 産 権 非 移 転 物の利用 5.使用貸借 6.賃貸借 役務の 提供 従属 7.雇用 独立 8.請負 9.委任 10.寄託 事業 11.組合 12.終身定期金 紛争の解決 13.和解 2013/2/1 Introduction to Civil Law

民法典の構成(4/4) →問題2 総論と各論の組合せ(パンデクテン方式) 親族法の構造 相続法の構造 Ⅳ 親 族 法 総則 婚姻 婚姻の成立 婚姻の効力 夫婦財産制 離婚 親子 実子 養子 親権 後見 保佐及び補助 扶養 Ⅴ 相 続 法 総則 相続人 相続の効力 相続分 遺産の分割 相続の承認・放棄 財産分離 相続人の不存在 遺言 遺言の方式 遺言の効力 遺言の執行 遺言の撤回 取消し 遺留分 2013/2/1 Introduction to Civil Law

Introduction to Civil Law 民法の機能と法の目的 民法の目的と機能 民事紛争を平和的に解決するための基準 法の目的 イェーリング『権利のための闘争』(1872) 「法の目標は平和であり,これに達する手段は闘争(Kampf)である。」 「正義の女神は,一方の手には権利をはかるはかりをもち,他方の手には権利を主張するための剣を握っている。」 「はかりのない剣は裸の暴力であり,剣のないはかりは法の無力を意味する。」 2013/2/1 Introduction to Civil Law

法律家は,闘争よりも論争,すなわち 「議論」を通じて紛争を解決する 法律家とは「『議論』による『問題解決』者」として位置づけられるべきである。 平井宜雄「判例を学ぶ意義とその限界」専修ロージャーナル1号(2006)5頁,『法律学基礎論の研究-平井宜雄著作集Ⅰ』有斐閣(2010) 335-365頁。 しかし,議論によって問題解決を行うことは可能なのだろうか? そもそも,法律家はどのようにして問題解決を図ってきたのだろうか? 2013/2/1 Introduction to Civil Law

Introduction to Civil Law 議論における判断基準 主観主義(憲法76条3項前段) 客観主義(憲法76条3項後段) 良心に従って判断する。 何事にも捕らわれないで,自由に判断する。 ルールに従って判断する。 憲法と法律に拘束されると考える。 それぞれの判断のプロセスを記録し,蓄積をしていくと,両者は次第に接近する。 主観主義の変化 自由に判断しているつもりでも,その結果が記録され,公開されるようになると,似た事件については,似たように判断することが求められるようになり,優れた判断は,ルール化していく(フェスティンガー・認知的不協和の理論)。 客観主義の変化 従来のルールで判断したのでは,社会の発展にそぐわないことが判明すると,立法を通じて,または,裁判所の解釈を通じて,ルール自体が変更されていく(ペレルマン・「当事者,専門家,世論」三者の満足の追求)。 2013/2/1 Introduction to Civil Law

Introduction to Civil Law 法の支配と法の解釈(1/2) 法の支配 国のすべての統治機構は,法に基づき法に従って行為しなければならない(法の支配)。 民法のような市民の間の紛争を解決する基準であっても,最終的には,法の適用と執行を必要とするため,国の権力特に,司法権力のバックアップが必要となる。 その際,司法権力が,憲法と法律に拘束されるということは,市民にとって大きな意味を持つ。 法に基づく裁判 憲法82条1項(裁判の公開) 裁判の対審及び判決は,公開法廷でこれを行ふ。 憲法76条3項(裁判官の独立と拘束) すべて裁判官は,その良心に従ひ独立してその職権を行ひ,この憲法及び法律にのみ拘束される。 このように,すべての裁判官は,市民の代表である国会議員が作成した法律に拘束されることになり,かつ,裁判は,原則として,公開の対審によっておこなわれるため,裁判の公正さが担保される。 2013/2/1 Introduction to Civil Law

法の支配と法の解釈(2/2) 公園入口にある「車馬通行止」の解釈 民法入門 2013/2/1 法の支配と法の解釈(2/2) 公園入口にある「車馬通行止」の解釈 結論肯定(禁止) 結論否定(許可) 拡大解釈 縮小解釈 牛 車 馬 車 馬 おもちゃ 木馬 類推解釈 反対解釈 人間 飛行船 車 馬 車 馬 2013/2/1 Introduction to Civil Law Introcuction to Civil Law by S. Kagayama

Introduction to Civil Law 法律家の思考方法の分析(1/3) 法律家の思考方法は,以下の2つから成り立っている。 法的分析の能力(IRACによって実現される) 法的議論の能力(トゥールミン図式で表現される) IRAC(アイラック)で考え,論証する 法的分析の能力 Issue 論点・事実の発見 Rules ルールの発見 A Application ルールの適用 法的議論の能力 Argument 原告・被告の議論 Conclusion 具体的な結論 2013/2/1 Introduction to Civil Law

法律家の思考方法の分析(2/3) 法的分析の能力 2013/2/1 Introduction to Civil Law

法律家の思考方法の分析(3/3) 法的議論の能力→IRAC,議論の図式の応用 三段論法(反論を許さない硬直性が問題) 大前提: 全ての人間は死ぬ。 小前提: ソクラテスは人間である。 結 論:ソクラテスは死ぬ。 トゥールミン図式 議論の構造の提供 全ての議論に通用 ソクラテスは人間である。 誤り おそらく ソクラテスは死ぬ。 データ 蓋然性 蓋然性 主張 論拠 反論 人間は死ぬ。 ソクラテスは哲学の神様である。 裏づけ 万物は流転するが, 真理は生き続ける。 2013/2/1 Introduction to Civil Law

具体例に見る法律家の思考方法(1/5) 《1. 事案と争点》→図1,図2,図3,判決,批評 土地の売買の値段の根拠となる地積測量のミス事件 売主が依頼した測量会社が行った測量にミス(厳密には,測量後の求面計算のミス)があり,売買目的とされた土地の面積が59.86㎡少なく見積もられた。 その結果,売買代金が5,345万800円となり,実測よりも941万5,738円(15万7,296円/㎡×59.86㎡ )も安く算定されてしまった(数量指示売買において,値段以上のものが引き渡された)。 争点 売主は,買主が支払った金額は,本来の売買代金額よりも不足していたとして,上記金額の追加支払いを請求した。 買主は,契約書通りの金額を支払済みであり,ミスは売主側にあったとして,支払を拒絶した。 2013/2/1 Introduction to Civil Law

具体例に見る法律家の思考方法(2/5) 《2. 事案の分析》→事案,判決,批評 数量違い 数量不足 条文あり 受取拒絶 契約解除 受け取る 代金減額 数量超過 条文なし 契約解除? ? 民法 第565条(数量の不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任) 数量を指示して売買をした物に不足がある場合又は物の一部が契約の時に既に滅失していた場合において,買主がその不足又は滅失を知らなかったときは,前2条の規定〔買主には,代金減額請求が認められるほか,買主が善意の場合には,解除と損害賠償請求が認められる〕を準用する。 2013/2/1 Introduction to Civil Law

具体例に見る法律家の思考方法(3/5) 《3. 法の解釈》→事案,条文,判決,批評         類推解釈?                              原理に立ち返った解釈? 反対解釈? 数量違い 本旨に従っていない弁済 数量超過 増額請求 条文なし 数量不足 減額請求 民法565条 適正数量 本旨弁済 減・増額請求ともに認められない 民法1条2項 民法415条 2013/2/1 Introduction to Civil Law

具体例に見る法律家の思考方法(4/5) 《4. 法の適用(判決)》→図1,図2,図3,批評 最高裁の判決 最判平13・11・27民集55巻6号1380頁 民法565条にいういわゆる数量指示売買において数量が超過する場合,買主において超過部分の代金を追加して支払うとの趣旨の合意を認め得るときに売主が追加代金を請求し得ることはいうまでもない。 しかしながら,同条は数量指示売買において数量が不足する場合又は物の一部が滅失していた場合における売主の担保責任を定めた規定にすぎないから, 数量指示売買において数量が超過する場合に,同条の類推適用を根拠として売主が代金の増額を請求することはできないと解するのが相当である。→〔安易すぎる反対解釈?〕 2013/2/1 Introduction to Civil Law

具体例に見る法律家の思考方法(5/5) 《5. 法的議論》→図1,図2,図3,事案,判決 比較法 判例批評 CISG 第52条【期日前の履行,数量超過の引渡】 (1)売主が定められた期日前に物品を引き渡す場合には,買主は引渡を受領するか引渡の受領を拒絶するかの自由を有する。 (2)売主が契約で定めるよりも多量の物品を引き渡す場合には,買主は引渡を受領するか超過分の引渡の受領を拒絶するかの自由を有する。 買主が,超過分の全部又は一部の引渡を受領した場合には,契約価格の割合でその対価を支払わなければならない。 数量指示売買であることが明らかな本件売買契約においては,正しい面積に基づいた代金を基準にして考えると,買主の代金支払は,支払不足の状態にある。 したがって,具体的な紛争の解決としては,売主の錯誤の主張があれば,それを認め,売買交渉を仕切りなおすのが妥当である。 買主があえて面積超過の土地の受領を望むのであれば,面積が超過した部分に相当する金額について,買主が不当な利得をすることを妨げるためにも, 売主の代金増額請求を認め,買主に不足分を支払うよう命じるべきであった。 2013/2/1 Introduction to Civil Law

反対解釈が危険な理由 減額請求の否定は増額請求の否定を意味しない →事案,判決,批評     反対解釈が危険な理由 減額請求の否定は増額請求の否定を意味しない →事案,判決,批評 減額請求も増額請求も否定すべき(反対解釈) 減額請求は否定されるが,増額請求を 肯定すべき(条文の趣旨の類推解釈) × 数量不足でない場合 ×(事案) 数量超過の場合 ↓ 増額請求 条文にはないが,信義則上,または,比例原則上認められる可能性がある。 数量不足の場合 ↓ 減額請求 (民法565条) ここは,数量適正の場合であり,この場合には, 確かに,減額請求も増額請求も認められない。 2013/2/1 Introduction to Civil Law

全体を知らないと 部分の位置づけが分からない 全体を知るには, 部分を理解しなければならない 民法学習法 学習のジレンマとその克服 全体を知らないと 部分の位置づけが分からない 全体を知るには, 部分を理解しなければならない 民法95条によれば,法律行為の要素に錯誤がある場合には意思表示は無効となる。 それでは,法律行為の要素に錯誤がなければ意思表示は有効か? 法律行為の要素に錯誤がなく,動機の錯誤に過ぎない場合でも,意思表示が無効となる場合がある(民法96条2項参照)。 錯誤以外にも,民法90条,93条,94条で,意思表示が無効となる場合があるので,一概に有効になるとはいえない(安易な反対解釈は危険)。 全体を知るためには,部分,部分を丁寧に理解していくほかない。 しかし,部分を理解するためには,全体の理解が不可欠である。 そうすると,学習者はジレンマに陥ることになる。どうすればよいのか? このジレンマから脱出するためには,不完全ながらも,部分の理解を積み重ねながら,全体像を知る努力を怠らないようにすることが重要である。 自分のノートに,これまで理解した段階での,体系図を記入していくことが,全体を理解する上で役に立つと思われる。 2013/2/1 Introduction to Civil Law

問題1 (わが国の民法のパンデクテン方式に慣れる) Yさんは,Xから,通信販売でiPadを購入した。 代金は,1週間使ってみて,不具合がないかどうか確かめてから支払うことになっている。 Yさんは,忙しい日が続いて,銀行に行く暇がないので,集金に来て欲しいと思っているが,集金に来るように請求できるか? 代金の支払場所について規定している条文を見つけた上で,Yさんは,どこで支払うべきかを明らかにしなさい。 2013/2/1 Introduction to Civil Law

関連条文の対比 「各論(特別法)でダメなら,総論(一般法)に戻る」 代金の支払場所(売買) 弁済の場所(債権総論) 第574条(代金の支払場所) 売買の目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきときは,その引渡しの場所において支払わなければならない。 問題1では,代引きで支払うのではなく,目的物の引渡しから1週間後に支払うことになっているので,この条文は使えない。 では,どうすればよいのか? 「各論でダメなときは,総論に戻る」という原則に従って,「弁済の場所」の規定を検討する。 第484条(弁済の場所) 弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは,特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において,その他の弁済は債権者の現在の住所において,それぞれしなければならない。 債権総論では,誰が債権者で誰が債務者かが重要 売買代金の場合は,債権者は誰か? 売主。ただし,引渡し関しては,買主が債権者なので,場合によっては,注意が必要。 問題1の場合,代金債務の債務者である買主は,債権者である売主の現在の住所で弁済しなければならないことがわかる。 2013/2/1 Introduction to Civil Law

各論でダメなら総論に戻る 第1原則:特別法は,一般法に優先する。 第2原則:一般法は,特別法を補充する。 代金支払場所 弁済の場所 (民法574条)  目的物の引渡しと同時に支払う場合に限定されている。 ↓ 問1は,代金後払いの問題なので,この条文は適用できない。 弁済の場所 (民法484条) 目的物の引渡しと同時でない場合の弁済の規定がある。 ↓ 適用できる。             債権総論             の規定 売買契約 の規定 第1原則:特別法は,一般法に優先する。 第2原則:一般法は,特別法を補充する。 2013/2/1 Introduction to Civil Law

Introduction to Civil Law 代金支払場所の比較法 わが国の規定の仕方 (パンデクテン方式) CISG(国際動産売買条約)の規定 (売買契約に特化) 第484条(弁済の場所) 弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは,特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において,その他の弁済は債権者の現在の住所において,それぞれしなければならない。 第574条(代金の支払場所) 売買の目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきときは,その引渡しの場所において支払わなければならない。 CISG 第57条〔支払の場所〕 (1)買主は,次の(a)又は(b)に規定する場所以外の特定の場所において代金を支払う義務を負わない場合には,次のいずれかの場所において売主に対して代金を支払わなければならない。 (a) 売主の営業所 (b) 物品又は書類の交付と引換えに代金を支払うべき場合には,当該交付が行われる場所 (2)売主は,契約の締結後に営業所を変更したことによって生じた支払に付随する費用の増加額を負担する。 2013/2/1 Introduction to Civil Law

問題2 (列挙された中から本当の要件は何かを見抜く) Xは,夫Yから度重なる暴力を受けており,離婚したい。 しかし,Yは,暴力をふるった後は,反省の意を表し,Xからの離婚請求には応じようとしない。 Xは,裁判上の離婚を請求しようとしているが,条文上の根拠は何であろうか。 憲法によれば,裁判官は,憲法と法律にのみ拘束されるとされている(憲法76条3項)。 2013/2/1 Introduction to Civil Law

民法学習に最も適した条文 一般法と特別法の組み合わせ(パンデクテン方式)を知る 第770条(裁判上の離婚) ①夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起することができる。  一 配偶者に不貞な行為があったとき。  二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。  三 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。  四 配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込みがないとき。  五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。 ②裁判所は,前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても,一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは,離婚の請求を棄却することができる。 民法770条の真の要件は何か? 1号~5号は,制限列挙か例示か? 異質なものの組み合わせか? 2項にそのヒントが書かれているので,よく考えてみよう。 2013/2/1 Introduction to Civil Law

条文は完全とは限らない DV夫に対して妻は離婚請求できるか? 夫の言い分 妻の言い分 順位 夫からの離婚申立て 当てはめ 妻からの離婚申立て 1 性格の不一致 - 2 親族との折り合いが悪い 暴力をふるう 3 異性関係 1号 4 浪費 生活費を渡さない 5 異常性格 精神的虐待 6 同居に応じない 7 家族を捨てて省みない 2号 8 性的不満 9 酒を飲みすぎる 10 司法統計年報:離婚の申し立ての動機別割合 -平成10年- 2013/2/1 Introduction to Civil Law

民法770条の改正提案 構造的な理解の後は,改正案を作る 民法第770条の改正私案(構造化)①:要件,②:例示(推定の前提) ①夫婦の一方は,婚姻を継続し難い重大な事由があるときに限り,離婚の訴えを提起することができる。 ②以下の各号に該当する場合には,婚姻を継続し難い重大な事由があるものと推定する。 一 配偶者に不貞な行為があつたとき。 一の二 配偶者から虐待を受けたとき。 二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。 二の二 配偶者が,第752条の規定に違反して,協力義務を履行しないとき。 二の三 配偶者が,第760条の規定に違反して,婚姻費用の分担義務を履行しないとき。 三 配偶者の生死が3年以上明かでないとき。 三の二 夫婦が5年以上別居しているとき。←民法改正要綱案参照 四 配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込がないとき。 2013/2/1 Introduction to Civil Law

問題3 (条文に書かれていない真の要件を発見する) YはXから甲土地を借りているが,自らの建物を建てて住んでいたが,海外出張することになり,その間父親に甲土地を転貸した。 そのことを知ったYは,無断で転貸することは許さないとして,民法612条2項に基づいて契約を解除し,Yに対して建物収去,土地明渡しを請求した。 Xの請求は認められるか? 2013/2/1 Introduction to Civil Law

Introduction to Civil Law 民法612条の解釈 →パンデクテン方式 民法の条文 判例 第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限) ①賃借人は,賃貸人の承諾を得なければ,その賃借権を譲り渡し,又は賃借物を転貸することができない。 ②賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは,賃貸人は,契約の解除をすることができる。 最二判昭28・9・25民集7巻9号979頁 賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用収益をなさしめた場合においても,賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情があるときは,本条に基づく解除権は発生しない。 最一判昭41・1・27民集20巻1号136頁 土地の賃借人が賃貸人の承諾を得ることなくその賃借地を他に転貸した場合においても,賃借人の右行為を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは,賃貸人は民法612条2項による解除権を行使し得ない。 しかしながら,かかる特段の事情の存在は土地の賃借人において主張,立証すべきものと解する。 2013/2/1 Introduction to Civil Law

民法612条の 適用範囲の図解→解釈の方法 原則 無断譲渡・転貸が背信行為に該当する 信頼関係が保たれている =解除不可能 信頼関係の破壊   =解除可能 無断 譲渡・転貸 無断譲渡・転貸 例外 無断譲渡・転貸が背信行為に該当しない特段の事情がある 2013/2/1 Introduction to Civil Law

Introduction to Civil Law 判例法理に従った 民法612条の改訂 現行民法 判例法理に従った改訂 第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限) ①賃借人は,賃貸人の承諾を得なければ,その賃借権を譲り渡し,又は賃借物を転貸することができない。 ②賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは,賃貸人は,契約の解除をすることができる。 第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)(民法改正私案) ①賃借人が契約の目的に違反して使用又は収益をしたため,賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されるに至ったときは,賃貸人は,契約の解除をすることができる。 ②賃借人が,賃貸人の承諾を得ないで,その賃借権を譲り渡し,又は賃借物を転貸したときは,信頼関係が破壊されたものと推定し,賃貸人は,契約の解除をすることができる。 ただし,賃借人の行為が,賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があることを賃借人が証明したときは,賃貸人は,契約の解除をすることができない。 2013/2/1 Introduction to Civil Law

民法612条の改訂 トゥールミン図式に基づく議論 賃借人が無断で 賃借物を転貸した。 賃貸人は,賃貸借契約を解除する。 誤り おそらく データ 蓋然性 蓋然性 主張 論拠 反論 背信行為と認めるに足りない特段の事由がある。 賃借人は,民法612条1項に違反しており,2項に基づいて契約を解除できる。 裏づけ 無断譲渡・転貸の場合に賃貸借契約を解除できるかどうか: 継続的契約関係の当事者が,信頼関係を破壊したときは,契約を解除できる(原則)。 賃借人が無断譲渡・転貸を行ったときは,信頼関係の破壊が推定される(推定規定)。 信頼関係を破壊したと認められない事由があるときは,契約は解除できない(例外)。 2013/2/1 Introduction to Civil Law

文章をIRACで書く IRACで書く訓練は,どんな試験にも通用する 問題提起 I:重要な問題を発見したことの経緯を述べる R:その問題を解決する視点と仮説を提示する 本論 A:問題をいくつかのブロックへと分割する A:ブロックごとに問題を展開しすべてを解明する 結論 C:問題を展開して得られた答えを1つにまとめる I:残された問題に対する展望を行う 2013/2/1 Introduction to Civil Law

Introduction to Civil Law 講義のまとめと復習課題 民法とは何か? 民法の学習方法とは? 市民生活の基本法とは? 民事紛争の平和的な解決はどのようになされるのか? 法律家は,どのような思考方法によって,紛争の平和的な解決を図ることができるのか? トゥールミン図式は,法廷弁論をヒントにして,あらゆる議論に通用する議論のレイアウトを考案した。そのレイアウトとはどのようなものか? 以上の問いについて,答えをすべてIRACによって文章化してみよう。 全体を知らずに部分だけを知ったときに陥る誤りにはどのようなものがあるか。 問題解決のプロセスにおいて,条文の根拠を示す必要があるのはなぜか? 民法に条文が欠けている場合に,それを補う方法にはどのようなものがあるか? 民法の学習の到達レベルを3段階に分けた場合,第1レベル,第2レベル,第3レベルの到達目標は何か? 以上の問いについて,答えをすべて,IRACによって文章化してみよう。 2013/2/1 Introduction to Civil Law

Introduction to Civil Law 参考文献 法律家の思考方法 イェーリング(小林孝輔=広沢民生 訳)『権利のための闘争(原著1872年)日本評論社(1978) カイム・ペレルマン(江口三角 訳) 『法律家の論理―新しいレトリック』木鐸社(1986) フィッシャー=ユーリー(金山宣夫,浅井和子訳)『ハーバード流交渉術』三笠書房(1990) 加賀山茂『現代民法 学習法入門』信山社(2007) 平井宜雄『法律学基礎論の研究-平井宜雄著作集Ⅰ』有斐閣(2010) ヒトの本質に迫る レオン・フェスティンガー(末永俊郎監訳)『認知的不協和の理論』誠信書房(1965) シーナ・アイエンガー(櫻井祐子訳)『選択の科学(The Art of Choosing)』岩波書店(2010) NHKスペシャル取材班『ヒューマン-なぜヒトは人間になれたのか-』角川書店(2012) 議論の方法 福澤一吉『議論のレッスン』NHK生活人新書(2002) 岩田宗之『議論のルールブック』新潮新書(2007)206頁 スティーヴン・トゥールミン(戸田山和久,福澤一吉訳)『議論の技法(The Uses of Argument(1958, 2003)) トゥールミンモデルの原点』東京図書(2011) 学習方法論 井上尚美『言語論理教育入門-国語科における思考-』明治図書(1989) フリチョフ・ハフト/平野敏彦訳『レトリック流法律学習法』〔レトリック研究会叢書2〕木鐸社(1992年) 市川伸一『考えることの科学』中公新書(1997) 戸田忠雄『教えるな!-できる子に育てる5つの極意』NHK出版新書(2011) 2013/2/1 Introduction to Civil Law