有限温度QCD計算と 摂動・HTL計算との比較 斎藤卓也、中村純、酒井淳 内容 はじめに(遮蔽質量について) 格子QCD計算と摂動・HTL計算(熱力学的量) 遮蔽質量の格子QCD計算 計算結果 まとめ
はじめに
QGPの研究 重イオン衝突実験がまもなく(すでに?)十分高温度でQGP相を生成するであろうと期待されている。(CERN,RHIC,LHC) メソン、重クォーク束縛状態: J/ψ、ウプシロン、・・・ 遮蔽質量: 熱QCDにおける基本量 現象論的モデルへの応用上重要 ジェットクエンチング?
有限温度QCD摂動論 熱場のQCD摂動論において遮蔽効果を考える際には、赤外発散の効果に注意する必要がある。 電場的遮蔽質量:摂動論的に定義可能。 磁場的遮蔽質量:摂動論的に定義は難しい。しかし赤外発散のカットオフとして働くことが期待されている。 電場的 磁場的(非摂動的) 1次摂動論 3次元縮減理論 硬熱ループ再加算法
格子QCDでの計算 今までに格子QCDの計算においては、 相転移温度、相転移の特徴、状態方程式、重クォークポテンシャルの計算 相転移温度、相転移の特徴、状態方程式、重クォークポテンシャルの計算 これからはさらに、 QGPの遮蔽効果! これまでの遮蔽質量に関連した主な研究 有限温度での計算(83x4):Mandula, Oglive,PLB201,117,1988 Polyakov loopsから計算:Gao,PRD41,1990 : Kaczmarek, PRD62,034021 SU(2)の場合:U.M.Heller, et al. PLB355,511,1995, Cuchieri et al. PLB497,80,2001: Petreczky,1996-1999. 3D-QCDの場合:K.Kajantie,M.Lanie,K.Rummukainen and M.Shaposhnikov, Nucl. Phys. B503, 357(1997)
格子QCDでの計算方法 ①ポリヤコフループ相関による計算 ②グルーオン伝播関数から計算 (ユークリディアン)
目的 QGPの遮蔽効果についての格子QCDでの結果と摂動計算またはHTL近似(計算)との比較をする ポリヤコフループ相関とグルーオン伝播関数 実験で実現されるT=Tc~6Tc(RHIC,LHC)温度領域を検討 格子QCDで計算された電場質量および磁場質量と、摂動論もしくはHTL計算の表式との比較をする
HTL近似と格子計算
熱場摂動論とHTL近似 1980ごろ、熱場摂動論や赤外発散の議論。 (A.D. Linde, PLB 96, 289; D.J.Gross, R.D.Pisarski and L.G.Yaffe, Rev. Mod. Phys. 53,43) 1989、硬熱ループ予加算法。(Braaten and R.D. Pisarski, PRL. 64, 1338) 1993、理論の2次近似の電場(デバイ)質量の計算。 (A.K. Rebhan, PRD.48,3967, NPB 430, 319) 1999、自由エネルギーなどの格子ゲージシミュレーションとHTLとの比 較を行い、よい結果を得ている (J.-P.Blaizot, E.Iancu,A.Rebhan, PRL 83,2139. , J. O. Andersen, E. Bratten, M. Strickland.,PRL 83,2906.) 2002、2ループでのHTL計算は収束性がよくない。(J.O.Andersen, E.Braaten, E. Petitgirard and M.Strickland PRD66, 085016.)
格子QCD計算とHTL近似 1)自由エネルギー 摂動論 2ループβ関数: 収束が悪い 繰り込み点に関数依存性が大きい J.O.Andersen, E.Braaten, and M. Strickland PRL,83,2139 (1999) 摂動論 2ループβ関数: 収束が悪い 繰り込み点に関数依存性が大きい HTL摂動理論(1ループ) 2ループβ関数: (mgはデバイ質量) T/Tc=1~5において格子計算の結果と同じ符合を示し、その違いはそれほど大きくはない。 繰り込み点に関する依存性もそれほど大きくはない。 次の次数での計算に期待? 白抜き:もともとの摂動 塗りつぶし:HTL自由エネルギー ひし形の点:格子シミュレーション
2) エントロピー・圧力 J.-P Blaizot, E. Iancu, A. Rebhan, PRL,83,2906(1999)、PLBB470,181(1999) HTL再加算法 T/Tc>2において格子計算の結果を再現している。RHICやLHCで実現されるであろう温度領域でよい結果となっている。 先のJ.O.Andersen, et al.の結果よりも格子計算に近い値がでている。(計算方法が違う) J.O.Anderson, et al (圧力)
3)2ループでのHTL計算 J.O.Andersen, E.Braaten, E.Petitgirard, HTL摂動理論(2ループ) M.Strickland, PRD66,085016(2002) HTL摂動理論(2ループ) 2ループβ関数: 薄いグレー:LO HTLpt 濃いグレー:NLO HTL.pt 収束性と繰り込み点依存性はよい 格子計算との違いが大きい 格子計算による
4) 3次元縮減理論 デバイ質量の3D格子QCD計算 4D格子QCDとの比較 4) 3次元縮減理論 デバイ質量の3D格子QCD計算 4D格子QCDとの比較 K. Kajantie, et al., PRL. 79 (1997) 3130 K. Kajantie, et al., PRL. 86 (2001) 10 収束性は良くない 4DQCDとは一致しない
HTL resummationと HTL perturbation theory(?) が出発点 スタート地点は、HTL伝播関数、mD Screened pertubation theory スタート地点は、HTL伝播関数、mD オーダー毎でゲージ依存性を示す 熱力学的物理量やQGPに関するさまざまな量を計算することができる。 そもそもの摂動論と同様な制限を持つ。 Φ-derivativeよりもやりやすい。しかしΣの計算の仕方が大変? がゲージ依存性をもつ 2-loop Φ-derivativeがやりにくい をスタート地点にしているので熱力学的量の計算には良い。しかし、他の量は計算できない。
遮蔽質量の格子QCD計算
格子QCDでの計算方法 ①ポリヤコフループ相関による計算 ②グルーオン伝播関数から計算 ポテンシャルの振る舞いがわかりやすい 比較的シミュレーションはやりやすい。 フィットが難しい。 磁場遮蔽質量の計算? ②グルーオン伝播関数から計算 電場・磁場遮蔽質量両方を計算できる。 伝播関数から閉じ込め非閉じ込めを議論。 伝播関数自体はゲージに依存し計算は大変。 格子シミュレーションでゲージ固定は大変。
③ 主な過去の計算 ポリヤコフ相関からの計算。Gao,PRD41,1990, Kaczmarek, PLB543, 41, 2002. SU(3)グルーオンからの計算(83x4):Mandula, Oglive, PLB201, 117, 1988 SU(2)グルーオンからの計算:U.M.Heller, et al. PLB355,511,1995, Cuchieri, et al. PLB497,80,2001
重クォークポテンシャル O.Kaczmarek, et al., PRD62,034021(2000) 電場遮蔽質量の温度依存性 ポテンシャルの温度依存性 フィッティング関数: 摂動論と一致している? フィッティング関数のあいまいさによる偶然と考えられる。Gao,PRD41,626,1990においても同様の結果が得られている。 予想されたようなポテンシャルの温度変化がみられる
U.M.Heller, F.Karsch, J.Rank, PRD57,1438(1998) SU(2)グルーオン伝播関数 U.M.Heller, F.Karsch, J.Rank, PRD57,1438(1998) 摂動 HTL再加算法 摂動に比べてHTL再加算法による結果はより格子QCD計算の値に近い。 零ではない値を持つ電場(me)・磁場(mm)遮蔽質量 me=cg(T)T, mm=cg2(T)Tでフィットができる。
グルーオン伝播関数 1)伝播関数の定義 2)遮蔽質量 ◎ゲージポテンシャル ◎空間的な相関関数 ◎電場部分 ◎磁場部分 媒質中の遮蔽効果は長距離的なもの。 z>1/T. 距離
計算結果(1):グルーオン 伝播関数(我々の計算)
シミュレーションパラメター ウイルソンゲージ (最も単純な格子作用) クエンチ近似( クォークの効果を無視) 格子サイズ:Nx ×Ny×Nz×Nt=20×20×32×6 温度:T/Tc = 1.0 ~ 6.0 統計 :200k~400k ランジュバンステップ間隔 :Δτ= 0.03~0.05 ゲージ因子 :α=1
電場部分の伝播関数 有限の遮蔽質量を持つ 閉じ込め相と非閉じ込め相での違い
磁場部分の伝播関数 有限の遮蔽質量を持つ 閉じ込め相と非閉じ込め相での違い 長距離においては揺らぎが大きい 短距離において上に凸となっている。
ゲージ依存性 両方ともゲージ依存性は小さいことがわかる。
計算結果(2):摂動・HTL計算との比較
温度依存性と摂動論との比較 領域T/Tc=1.0~6.0で計算(RHIC、LHC)。 磁場質量は有限質量を持つ。 gT, g2Tのスケーリングはよさそう。 HTLの結果は、LOPを大きく改良している。 HTL LOP FIT
データのフィット フィッティング 他の計算との比較 スケーリング 結合定数 LOP HTL (Rebhan,1993) Self inclusion technique (Alexanian and Nair, 1995)
電場的遮蔽質量の比較 グルーオン伝播関数から ポテンシャルから ○ 相転移近傍での振舞いは良く似ていて、急激な減少がみられる。 ○ 相転移近傍での振舞いは良く似ていて、急激な減少がみられる。 ○ 両者は一致しない! ポテンシャルのフィッティング関数のあいまいさによるものと考えられる。仮定が摂動論に依存しないグルーオン伝播関数からの値がより正しいと思われる。
計算結果(3):より大きい格子での計算(preliminary)
より大きな格子での計算 ウイルソン作用 クエンチ近似 格子サイズ:NxNyNzNt=32×32×48×6 温度 :T/Tc = 6~ 16.0 統計量 :200k~400k ランジュバンステップ間隔 :Δτ= 0.03~0.05 ゲージ因子 :α=1
温度依存性(より高温領域まで ) 領域T/Tc=1.0~16.0 T/Tc=16.0 ほどでもLOPの収束はよくない。 磁場質量は有限サイズ効果を受けやすい。
まとめ
まとめ 閉じ込め領域/非閉じ込め領域におけるグルーオン伝播関数の振る舞いは興味深い HTLに基づいた熱場摂動論の改良が行われており、熱力学的量に関して格子QCD計算との比較ができるようになった。しかし、グループ間での計算手法の違いによる不一致がある。またより高次の計算においてはわからない。 RHIC, LHCに対応する温度領域 T/Tc =1~6 において、格子QCDによる非摂動敵な遮蔽質量の計算が進んでいる。 ポリヤコフループ相関関数とグルーオン伝播関数から求めた遮蔽質量は一致していない。 フィッティング関数の不定性? 電場質量に関して、LOPにくらべてHTL(1ループ)の結果は、大変よい結果となっている。 より高次では? 特に磁場質量については零ではない値を持つことを確認した。 閉じ込め領域/非閉じ込め領域におけるグルーオン伝播関数の振る舞いは興味深い