筑波大学社会経済特別講義 アフリカ経済発展の諸問題 2004年秋 第5講: アフリカ農業 (国際開発高等教育機構・政策研究大学院大学)

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筑波大学社会経済特別講義 アフリカ経済発展の諸問題 2004年秋 第5講: アフリカ農業 (国際開発高等教育機構・政策研究大学院大学) 筑波大学社会経済特別講義 アフリカ経済発展の諸問題 2004年秋 第5講: アフリカ農業 山野 峰 (国際開発高等教育機構・政策研究大学院大学)

もくじ アフリカ農業発展: Overview 問題点 アフリカ版“緑の革命”は可能か? アフリカの土地制度と農業生産 ウガンダ・ケニアの例

なぜ農業か? 貧しい人々の大半 (ほぼ80%の貧しい人)は農村地域に住んでいる (Sahn et al. 1997) ほぼ 70 % の労働者は農業関係の仕事に従事している そして、貧しい人々は、農業製品に費やす消費の割合が高い では、アフリカで農業生産はどのように変化してきたか?

Figure 1. 一人当たり食糧生産の推移: 熱帯アジアとサブサハラ・アフリカ, Index (1961=100)

Problems in African Agriculture 輸出農業作物への依存 耕作地の減少 低い農業生産性 投入財の使用量が低い 灌漑システムが多くの場所で存在しない 土地の肥沃度低下 穀物収量の 低下

アフリカ: 輸出農作物への依存 植民地時代、主に原料と農作物をヨーロッパにすることを目的に政府は投資をおこなった 独立後、多くのアフリカの政府は植民地時代の政策を継承し、輸出農作物から得られる外貨に政府の予算を頼った しかし、1970年代のオイルショック以降、農作物の国際価格は下降を続け、アフリカ政府の財政は悪化する 結果、世銀・IMF主導による構造調整へと進む

Source: Deaton (1999) Journal of Economic Perspective vol. 13: 23-40

Source: Deaton (1999) Journal of Economic Perspective vol. 13: 23-40

アフリカ: 輸出農作物への依存 植民地時代、主に原料と農作物をヨーロッパにすることを目的に政府は投資をおこなった 独立後、多くのアフリカの政府は植民地時代の政策を継承し、輸出農作物から得られる外貨に政府の予算を頼った しかし、1970年代のオイルショック以降、農作物の国際価格は下降を続け、アフリカ政府の財政は悪化する 結果、世銀・IMF主導による構造調整へと進む

一人当たり耕作地は減少し、いまやアジアと同じレベル (Arable Land/ Rural Population) ha / person Ethiopia Uganda Kenya Indonesia Philippines

しかし、肥料投入量はアジアと比べ格段に低い Total Fertilizer (kgs) / Arable Land (ha) kgs / ha East & South-East Asia Sub-Saharan Africa

[Land under Irrigation (ha) / Arable Land (ha)] x 100 灌漑施設もアジアと比べ格段に低い [Land under Irrigation (ha) / Arable Land (ha)] x 100 % East & South-East Asia Sub-Saharan Africa

土壌の侵食が激しいエチオピア高地の耕作地(1)

土壌の侵食が激しいエチオピア高地の耕作地(1)

エチオピ北部の高地にある村落

エチオピの高地では、水不足解消のため池(Water Catchment)を掘っている。はたしてうまくいくか?

北部と違い、まだ木があるエチオピア南部の村落

アフリカ農業の課題 耕作地の減少により、アフリカの農業をもっと集約的にする必要が高まっている しかし、灌漑施設の欠如、高価な化学肥料、などによりアジア型緑の革命型の農業技術はアフリカでは広まっていない そこで、アフリカの現状に適した集約的農業生産システムを見つける必要がある また、単一の輸出産品の生産から、他の高価値農産物に多角化していく必要がある

復習:アジア型“緑の革命” アジア型“緑の革命”とは何か? 1960年代に開発された、化学肥料によく反応する高収量品種の熱帯アジアでの普及 品種はまず、国際稲研究所(IRRI)と国際トウモロコシ・小麦改良センター(CIMMYT)によって開発され、その後各国の農業試験場によって改良され普及した 過去30年の間に、稲作の生産は三倍になり、価格は三分の一に低下した

Figure 3. 近代品種(Modern Variety)の収量と肥料投入量の関係 単収(Yield/Ha) MV2-3 (後期近代品種) より地域の特性にあった品種に改良 MV1 (初期近代品種) 品種改良 TVs (ローカル品種) Fertilizer/Ha Figure 3. 近代品種(Modern Variety)の収量と肥料投入量の関係

Figure 2. 一ヘクタール当たり稲の収量 ton / ha Indonesia India Sub Saharan Africa Cambodia Figure 2. 一ヘクタール当たり稲の収量

Figure 3. 一ヘクタール当たりメイズ(トウモロコシ)の収量 kg/ha Figure 3. 一ヘクタール当たりメイズ(トウモロコシ)の収量

Figure 6. インド・バングラデシュの各地域における 稲の単収の変化

しかしアフリカでは、… 単収(Yield/Ha) MV1 (初期近代品種) TVs (ローカル品種) Fertilizer/Ha アフリカでの肥料投入量は、近代品種の効果を引き出すには低すぎる 単収(Yield/Ha) アフリカの特性にあった品種の改良に成功していない MV1 (初期近代品種) 品種改良:アジア向きの品種 TVs (ローカル品種) Fertilizer/Ha

なぜアフリカで緑の革命が起きないのか?(まとめ) 近代品種は灌漑設備が整い(つまり水の供給が安定)、化学肥料を多量に投入することのできる環境で高収量を実現するが、アフリカの多くの地域ではこのような環境は整っていない アフリカの現状に適した品種を改良するためには、アフリカの研究組織は資金・人材の両方で力不足

可能性はあるか? アフリカの経済的状況・環境に適した農業システムの特定と支援 (Organic Green Revolution) Green から Gene Revolution へ

“Organic Green Revolution” 飼料作物(ネピア・グラスなど) 飼料 有機肥料 改良乳牛 有機飼料 作物生産 作物の残りかす

改良牛 in Kenya

改良牛から有機肥料となる糞尿を集める 糞尿を作物の残滓などとまぜ、数ヶ月寝かせ醗酵させ、堆肥ができるのを待つ。

Organic Green Revolution: 調査結果(1) サンプル 家計数 有機肥料を使っている 農家数 牛一頭あたり有機肥料 1エーカーあたり有機肥料 % Kgs/頭 Kgs/acre ケニア 改良牛のいる家計 59 85 1,060 1,159 いない家計 41 65 333 525  差        +20 +727 634 ウガンダ 8 25 192 174 92 15 66 +10 +107 +106

主な作物に対する有機肥料投入割合 ケニア ウガンダ ケニア

調査結果(2):メイズの収量 回帰分析による結果 Kgs/エーカー

Organic Green Revolution(まとめ) 灌漑率の非常に低いアフリカで作物生産性を向上するにはどうすればいいか? 肥料の使用量増加は必ず必要 しかし、化学肥料は高価でリスク高い 多くの農家は有機肥料を使用 特に改良牛を持つ農家は改良牛からの糞尿を活用 OGR 改良牛から得た牛乳を売り所得安定 有機肥料を使い作物生産向上 問題点: 改良牛高価、飼料の獲得、市場へのアクセス、労働力の確保(マクロではプラス: 労働者の賃金上昇)

Green から Gene Revolution へ 次の講義で、所有権の話と一緒