Belle実験の電子ー陽電子対消滅でのハドロン生成に おける破砕関数の研究 東京工業大学 基礎物理学専攻 柴田研究室 博士課程1年 小林慶鑑 Contents 1. クォークのハドロンへの破砕 (フラグメンテーション) 2. 破砕関数 とは 3. Belle実験 4. Belleのデータの解析 5. まとめ これから「HERMESのリングイメージングチェレンコフ検出器のエアロジェル屈折率長期安定性の評価」という題で修士論文の発表をします。 私は理工学研究科基礎物理学専攻柴田研究室の小林と申します。 本発表ではドイツのHERMES実験で使用した粒子識別装置について説明します。 HEREMESではハドロンの粒子識別にリングイメージング型チェレンコフ検出器を使用しました。 この研究の目的はそのチェレンコフ発光体であるエアロジェルの長期的な安定性を評価しました。
1. クォークのハドロンへの破砕 (フラグメンテーション) 1. クォークのハドロンへの破砕 (フラグメンテーション) ハドロンとは強い相互作用 をする粒子の総称である (p, n, π …) クォークはカラーの閉じ込 めにより単独で存在せず、 ハドロンとして観測される。 最初にできたクォークから 多数のグルーオンが放出さ れ、さらにそれがクォーク対 に変化する過程が複雑に 絡み合って最終的にハドロ ンに変わる。この過程は、 破砕過程 (フラグメンテーシ ョン) と呼ばれる。 h ハドロン 破砕過程 (フラグメンテーション) …
ジェット 電子-陽電子衝突では、クォークは最終的に 反対方向を向く二つのハドロン粒子群 (ジェット)になる 「カラーの紐」模型 高エネルギーで反対方向に飛ぶクォーク 対 ( )はカラー力線をのばし、ポテンシャル エネルギーを蓄える。 距離が1 fmを超えると、カラー力線に蓄えられる エネルギーはクォーク対の質量エネルギーより も大きくなる。このため、より低いエネルギー状 態になるため新たなクォーク対を生成する。 各種のハドロンが元の を結ぶ線上に多く出 現する。 これらが元のクォークに引きずられて反対方向 に集中して放出され、ジェットとして観測される。 ジェット カラー場によるポテンシャル > 1 fm R R R
Belle実験で測定されたジェット イベント
2. 破砕関数 (Fragmentation Function) とは クォーク qは単独では存在せず、ハドロン h として観測される 電子-陽電子対消滅 電子-陽子深非弾性散乱 にも関係がある ハドロン化 ハドロン化 (Semi-Inclusive) (Inclusive) クォーク qとハドロン h を対応づける量が必要とされる NPC-meeting
破砕関数 (Fragmentation Function) とは 破砕関数とはパートン q (クォーク, 反クォーク, グル ーオン) がハドロン化したときのハドロンhの運動量分 布関数である 運動量の保存から次の 条件に従う: p: パートンqの運動量 ph: ハドロン hの運動量
e- 電子陽電子対消滅における破砕関数 Process: e+ e- h X 実際の実験では、zはこのように決定される Multiplicity z~z+dz の間のハドロンhのyield
3. Belle 実験 B中間子崩壊の研究によるCP対称性の破れの観測 2. 多彩なフレーバーを用いた新しいハドロン物理の探求 Nobel prize at 2008 Kobayashi and Maskawa ・非対称衝突型加速器実験 8 GeV Electron beam + 3.5 GeV Positron beam ・非常に高いルミノシティ 電子 (8GeV) 陽電子 (3.5GeV) ルミノシティ L Υ(4S) Y:単位時間あたりに起こる 反応の回数 [s-1] σ:反応断面積 [cm-2] World Record(2009) Luminosity of 2.11 x 1034 cm-2 s-1 HERMS実験で使用した検出器群の図を示します。 これはビーム軸に対し横側面から見た図です。 検出器群は全長約8mで、上下に2対同じ検出器が設置されています。上半分をtop、下半分をbottomの検出器とよびます。 独立な2つの検出器群を用意することで系統誤差を比較することができます。 電子ビームは図左方向から入射し、ここの気体標的と散乱し後部の検出器で検出されます。 赤い装置がトラッキングシステム、緑がスペクトロメータマグネット、青が粒子識別装置を表します。 ハドロンを識別するRICH検出器はここに設置されます。RICHはそれまでの閾値型検出器に変わり1998年から導入されました。 他の粒子識別装置は、ハドロンとレプトンの分離を行います。 2 x 108 B meson pairs per year
Belle 検出器 KLM Magnet SVD ECAL 崩壊点検出: SVD TOF 飛跡・運動量検出: CDC KEK B-factory KLM Mt.Tsukuba Magnet KEKB Ring SVD 電子 Positron 陽電子 Injection Linac ~1 Km ECAL Electron 崩壊点検出: SVD 飛跡・運動量検出: CDC 粒子識別: CDC, ACC, TOF, KLM エネルギー測定: ECAL TOF チェレンコフ検出器とは、チェレンコフ放射を利用した検出器です。 チェレンコフ放射とは荷電粒子が屈折率n物質中を運動する時、荷電粒子の速度vがその物質中の光速度c/nよりも速い場合に光が出る現象です。 このとき、荷電粒子の速度とチェレンコフ光の伝搬方向のなす角度θは、次式を満たします。 ここで他の検出器から粒子の運動量がわかると、チェレンコフ角θの測定により粒子の質量が決定され、粒子識別が可能になります。 ただし、チェレンコフ光はv>c/nという条件を満たす必要があるため、発光媒質の選定が重要な課題です。 CDC ACC 7.24 m (Beam axis) x 7.70 m (diameter )
e+ e- → π+ π- e+ e- → π +K-, π –K+ 4. Belle 実験のデータを用いた解析 を解析 今後の破砕関数の解析の準備として、2つのハドロンの不変質量の解析を行っている 2つのハドロンの不変質量の解析: エネルギー保存からハドロンの不変質量 (invariant mass) を解析 粒子識別は、 ・ 電子ーハドロン分離:ECAL, CDC, ACC, TOF ・ ミューオン分離: KLM ・ π , K 中間子の識別: CDC, ACC, TOF を用いて行う。 e+ e- → π+ π- e+ e- → π +K-, π –K+ を解析 10
π+ π- invariant mass K0 K0 → π+ π- f0
π+ K-, π- K+ invariant mass D0 → π+ K- D0 → π- K+ D0
K* → π K D0 → π K 5. まとめ ? ハドロンとは強い相互作用をする粒子の総称である (陽子、中性子、中間子等)。 クォークはカラーの閉じ込めにより単独で存在せず、ハドロンとして観測される。 電子-陽電子衝突では、対消滅により仮想光子ができ、クォーク・反クォーク対に崩壊し、 反対方向に向かう2つのジェットとなる。 生成されたクォークと最終的なハドロンは、破砕関数により対応づけられる。 破砕関数とはパートンがハドロン化したときのハドロンの運動量分布を表す関数である。 破砕関数は、パートンとハドロンの運動量の比 zで記述できる。 Belle実験は電子-陽電子衝突型実験であり、新しいハドロン物理の探求が目的の一つ である。 今回は破砕関数の解析の準備として、Belle実験のデータを用いて π+ π- , π+ K- , π- K+の 不変質量解析を行った。 π+ π- の不変質量分布からは、 K0 粒子をのピークが見られた。 π+ K-, π- K+ の不変質量分布からは、 K*, D0粒子を見つけることができた。 今後、ジェットの運動量軸の相関について解析を行う。 K* → π K D0 → π K ?
K* → π K D0 → π K 5. まとめ ? ハドロンとは強い相互作用をする粒子の総称である (陽子、中性子、中間子等)。 クォークはカラーの閉じ込めにより単独で存在せず、ハドロンとして観測される。 電子-陽電子衝突では、対消滅により仮想光子ができ、クォーク・反クォーク対に崩壊し、反 対方向に向かう2つのジェットとなる。 生成されたクォークとハドロンは、破砕関数により対応づけられる。 破砕関数とはパートンがハドロン化したときのハドロンの運動量分布を表す関数である。 破砕関数は、パートンとハドロンの運動量の比zで記述できる。 クォークとハドロンのスピン関係は、IFF (Interference Fragmentation Function)によって表される。IFFは、zのみならず生成されたハドロンペアの不変質量に 依存する。 Belle実験は電子-陽電子衝突型実験であり、新しいハドロン物理の探求が目的の一つであ る。 今回は破砕関数の解析の準備として、Belle実験のデータを用いて π+ π- , π+ K- , π- K+の不 変質量解析を行った。 π+ π- の不変質量分布からは、 K0 粒子をのピークが見られた。 π+ K-, π- K+ の不変質量分布からは、 K*, D0粒子を見つけることができた。 今後、ジェットの運動量軸の相関について解析を行う。 K* → π K D0 → π K ?
K* → π K D0 → π K 今後の展望 ? クォークはカラーの閉じ込めにより単独で存在できず、ハドロンとして観測される。 生成されたハドロンはクォークのフラグメントであると理解される。 破砕関数 (Fragmentation Function)とはクォークがハドロン化したときにパートンに対して運動量比 z をもったハドロンをパートンの破砕群中に見いだす確率である。 Belle実験は電子陽電子衝突型実験であり、CP対称性の観測、新しいハドロン物理の探求を目的とする 今回はBelle実験のデータを用いて(π+ π- )、(π K )の不変質量解析を行った。 π+ π- の不変質量分布からは, K0s 粒子を見つけることができた。 π K の不変質量分布からは, K*・ D0粒子を見つけることができた。 K* → π K D0 → π K ?
Back Up Basics of CP Violation Drift Chamber Bete Broho dE / dx
時間配分 研究の動機 (2分) クォークのフラグメンテーション (3分) 研究の動機 (2分) クォークのフラグメンテーション (3分) 破砕関数 (Fragmentation Function)とは (3分) Belle実験 (2分) Belleのデータを用いた解析 (3分) まとめと展望 (2分) HERMS実験で深非弾性散乱におけるsemi-inclusive測定を行いました。 左図が電子ビームと核子標的の散乱の様子です。電子ビームは核子との間で仮想光子を交換しハドロンを生成します。 反応によって散乱された粒子のみを測定する方法をinclusive測定といい、その変数は運動量移行Q2、ビヨルケンxで表されます。 HERMESでは散乱されたレプトンと生成されたハドロンの一部を同時に測定するsemi-inclusive測定を行います。 その運動学的変数はハドロンのエネルギーと仮想光子のエネルギーの比zで表現されます。 この測定では生成ハドロンを測定するため、粒子識別が重要な役割を果たします。
発表内容 研究の動機 (2分) 電子-陽電子対消滅でのクォークのハドロン化 (3分) 研究の動機 (2分) 電子-陽電子対消滅でのクォークのハドロン化 (3分) e+e- 消滅のクォークのハドロン化過程、ハドロンジェットについて 破砕関数とは (3分) 破砕関数とは何か、e+e- ->hX過程での破砕関数について Belle実験 (2分) Belle実験の背景、加速器、検出器について Belleのデータを用いた解析 (3分) 解析したパイオンの不変質量について まとめと展望 (2分) HERMS実験で深非弾性散乱におけるsemi-inclusive測定を行いました。 左図が電子ビームと核子標的の散乱の様子です。電子ビームは核子との間で仮想光子を交換しハドロンを生成します。 反応によって散乱された粒子のみを測定する方法をinclusive測定といい、その変数は運動量移行Q2、ビヨルケンxで表されます。 HERMESでは散乱されたレプトンと生成されたハドロンの一部を同時に測定するsemi-inclusive測定を行います。 その運動学的変数はハドロンのエネルギーと仮想光子のエネルギーの比zで表現されます。 この測定では生成ハドロンを測定するため、粒子識別が重要な役割を果たします。
ジェット 高エネルギーで逆方向に飛ぶ 対 カラー力線 高エネルギーで逆方向に飛ぶ 対はカラー力線をのばし、ポテンシャルエネ ルギーを蓄える 高エネルギーで逆方向に飛ぶ 対 カラー力線 ジェット R R R R R R ハドロン化 ジェット 高エネルギーで逆方向に飛ぶ 対はカラー力線をのばし、ポテンシャルエネ ルギーを蓄える 力線は、余分に の質量をつくりつつ、より低いエネルギーを持つ2つの短 い線に切れていく 対は運動エネルギーをもつ限りさらに力線をのばし 対を生成する クォークは最終的に反対方向を向く二つのハドロン粒子群 (ジェット)になる
クォークの閉じ込め クォークに働く強い力 クォークはカラー電荷を持ち,強い相互作用をする 自然界で観測される粒子状態は、カラーが白色となる組み合わせに限 られる 強い相互作用は,グルーオン(膠粒子)によって媒介される 強い力はカラー電荷間に働く 電磁場と異なり、自己を閉じ込めるような力場を形成する クォークと反クォーク間の距離が大きくなると,線形ポテンシャルが働く 電磁相互作用による クーロンポテンシャル カラー場によるポテンシャル カラー力線 R
「多彩なフレーバーでさぐる新しいハドロン存在形態の包括的研究」 世界をリードする素粒子原子核分野の実験・理論研究者が、「ハドロン」という共通のキーワードを 得て結集、その境界領域に新しいハドロン物理学を創成する。 E01(理論研究) QCDに基づく統一的な理解+実験への予言 クォークがどのように質量を獲得し、どのような形態でハドロンに閉じ込められるのかを探る 多彩なフレーバーと密度を変数とした(マルチ)クォーク物質の豊富なデータ e+ e– A01(Bファクトリー) B01(LEPS) 質量生成機構の解明 C01(J-PARC E16) e+ e- c, b -クォーク q q q q q q q q q u c g ハイブリッド クラスター Mqの変化 u, d, s -クォーク u d s u c テトラクォーク d X Z u b Yb q 原子核 D01(検出器):将来の加速器増強に向けて必要となる検出器共同開発
Fragmentation Functions (FF) Fragmentation of a parton i (quarks, antiquarks, gluons) with energy Ei into a hadron h with a fractional energy z=Eh/Ei . Similar to parton distribution functions (PDFs) in the nucleon, but only one sum rule: 2010/10/6 NPC-meeting 22
カラーの閉じ込め クォーク qに働く力 電磁相互作用による クーロンポテンシャル
Belle実験で測定された2ジェットと3ジェット 3-ジェットイベント 2-ジェットイベント
クォークの閉じ込め クォークのカラー クォークは光の三原色に対応する自由度“カラー”を持つ カラーは の種類がある 自然界で観測される粒子状態は、カラーが白色となる組み合わせに限 られる。すなわち、 バリオン メソン R B R G
Response of PID detectors S.Nishida , Software festa 2007 2010/10/6
Fragmentation function of two unpolarised hadrons observed in the same quarkjet Interference Fragmentation Function H∢1 transversity parton hadron Spin direction of parton Interference fragmentation function (IFF) H∢1 describes the fragmentation of a quark with transverse spin into a pair of unpolarized hadrons IFF depends on z and hadron pair of invariant mass Mh → Stduy of two mesons invariant mass is important
S.Nishida , Software festa 2007 ATC PID NPC-meeting S.Nishida , Software festa 2007 2010/10/6
World data and motivation for precise FFs Most data obtained at LEP energies, At lower CMS energies very little data available 3-jet fragmentation to access gluon FF theoretically difficult Gluon fragmentation from evolution not yet well constrained Higher z FFs (>0.7) hardly available NPC-meeting 2010/10/6
Why is fragmentation into two hadron interesting? They can be used for TRANSVERSITY MEASUREMENT (the relative transverse momentum of the two hadrons can replace in single-pion production) They reveal SPIN TRANSFER EFFECTS IN HADRONIZATION (the angular distribution of two hadrons can be sensitive to the spin of the quark) A. Bacchetta - Dihadron fragmentation functions 14.10.2004