アストロメトリ:歴史と展望 岡村定矩 (東京大学大学院理学系研究科)
・木曽観測所のシュミット乾板用精密位置 測定システム(PDSP) 1980 - シュミットシンポジウムなどで報告、多くの人に使われた ・天文学会発表 1991年秋期年会(水戸市民会館) 「ACRS星表の位置精度」 ・PDSPを使った学部学生の観測実習 (1991年から現在まで)
古代のアストロメトリ(?) 古代エジプト: シリウスの日出直前出現 (ヘリアカル・ライジング, Heliacal rising) ナイル川の氾濫 中国: 冬至の時期 棒の影 1太陽年~365.24日 1朔望月~29.53日
暦法から想像する古代アストロメトリの精度 太陰太陽暦と置閏法 1朔望月 = 29.53059日 1太陽年=365.24220日 ・メトン周期(紀元前433年): 19太陽年 = 235朔望月 19×365.24220日 = 6939.6018日 235×29.53059日 = 6939.6886日 差 0.09日/19年 ・カリポス周期(紀元前330年): 76太陽年 = 940朔望月 = 27759日 76×365.24220日 = 27758.407日 940×29.53059日 = 27758.754日 差 0.35日/76年 ・ヒッパルコス周期(紀元前150年頃?): 304太陽年 = 16x235朔望月 = 111035日
サモスのアリスタルコス(~310?-230? BC) 太陽中心説の始祖 原著(失われた)の写本(Wikipedia) α~87度 (実際は89度50分) 地球は月の~3倍
天動説から地動説へ プトレマイオス(2世紀中頃活躍) コペルニクス (1473-1543) 導円 と 周転円 http://csep10.phys.utk.edu/astr161/lect/retrograde/copernican.html レギオモンタヌス(1436-1476)による アルマゲストのラテン語訳初版本 (ヴェネツィア, 1496年) http://www.kanazawa-it.ac.jp/dawn/149601.html 「天体の回転について」 http://en.wikipedia.org/wiki/Copernicus#Biography
チコ・ブラーエ:最高の眼視観測者 位置観測精度 チコ・ブラーエ (1546-1601) 平均で1分(角度) 最大で2秒(角度)!!? ケプラー (1571-1630) ウラニボルグ城 http://www.nada.kth.se/~fred/tycho/index.html
チコ・ブラーエとケプラー ブラーエがケプラーを助手としてプラハに招聘 (2006/8 第26回IAU総会時に撮影)
年周視差の測定: 1838 (~0.3秒) 1830’sは年周視差観測の先陣争いの時期 シミュレーション 年周視差の測定: 1838 (~0.3秒) 1830’sは年周視差観測の先陣争いの時期 固有運動の最も大きな61 Cygをターゲット 0.3136秒 (Hipparcos 0.28547秒) 0.314秒 6ヶ月 シミュレーション 1秒 http://ircamera.as.arizona.edu/NatSci102/text/bessel.htm F.W. Bessel (1784 - 1846) Konigsberg 天文台長 Astronomische Nachrichten No.365 .366
"Modern Astrometry" by J. Kovalevsky (2nd edition, 2001, Springer) 1.1 Astrometry in Astronomy Astrometry is the application of certain techniques (astrometric techniques) to determine the geometric, kinematic, and dynamical properties of the celestial bodies in our Universe. アストロメトリとは、我々の宇宙にある天体の形状的、運動学的、力学的な性質を決定するために、ある種の技術(アストロメトリ技術)を適用することである。 Astrometry is to astronomy what metrology is to physics: an essential basis without which science loses part of its quantitative rigour. 天文学にとってのアストロメトリは、物理学にとっての度量衡学と同じである。すなわち、それ無しでは学問が定量的な厳密さを持たなくなるような本質的な基盤である。
1.2 Goals of Astrometry 観測プログラムを始めるときには、その観測が何の役に立つのか、どのような疑問にその観測が答えを出すかを自らに問わなければならない。 アスロメトリのプラグラムもこの原則に従うべきである。しかし、アストロメトリは長年必ずしもこの原則に従って来なかったので、その発展のために必要な手段が得られなかったし、天文学の他の分野の急速な発展から事実上切り離されていた。 そして、アストロメトリは、いくらかほこりくさい、過去を向いた身内だけの活動という評価を受けていた。 しかし、ここ30年間でそれは事実ではなくなり、現代のアストロメトリが進歩を始めた。 以下、Extragalactic Objects, Stars, Objects in the Solar System, Earth-Moon System と続く
12. Future of Astrometry まえがき アストロメトリはその目標をどれだけ達成したか、また、アストロメトリのさらなる発展を要求する天文学および天体物理学の課題は何か? 結論を要約すれば、アストロメトリに対する要求は増大している。近年のアストロメトリ、特にヒッパルコス衛星の大成功によって、天体物理学者が、彼らのサイエンスに対するアストロメトリの大きなインパクトを認識し、より多くの星に対してアストロメトリがより高精度な結果を出せば、彼らにとってどれほどの利益があるかを想像できるようになった。
12. Future of Astrometry 12.1 Achievements of Present Astrometry Extragalactic Objects ICRF (International Celestial Reference Frame) 212 radio sources all over the sky five VLBI networks (accuracy < 0.6 mas) + 294 sources (less accurate; candidates) + 102 sources ICRS: International Celestial Reference System ・クエーサーに準拠 ・1998年からIAUにより採用 ・原点は太陽系の重心 ・赤道面及び赤経の原点は、 J2000.0の平均赤道面及び 平均春分点とほぼ一致。 Ma et al. 1998, AJ, 116, 516
12. Future of Astrometry 12.1 Achievements of Present Astrometry Stars Hipparcos Catalog (119,755 entries) median s.d. of uncertainty: 0.97 mas distance: <10% 20,000 stars (<100 pc; 全体の20%以下) Mignard 1997, Proc. ESA Symposium ‘Hipparcos - Venice '97’
Hipparcos and Tycho Catalogues Vol.1 – Vol.17 http://www.rssd.esa.int/Hipparcos/catalog.html http://cdsweb.u-strasbg.fr/hipparcos.html ICRS: International Celestial Reference System ・クエーサーに準拠 ・1998年からIAUにより採用 ・原点は太陽系の重心 ・赤道面及び赤経の原点は、 J2000.0の平均赤道面及び 平均春分点とほぼ一致。
Hipparcos以前 誤差(σ/ π)が10%以下の 星はわずか500個未満(<20pc) σ: 観測誤差 π: 年周視差 (σ/ π)=10% A.Heck 1978, Vistas in Astronomy, 22, 221
12. Future of Astrometry 12.1 Achievements of Present Astrometry Solar System Objects The Sun 位置測定には進歩なし。 アストロラーブによる 直径の変化 (精度<0.1") Major Planets, Planetary Satellites, Asteroids and Comets, Earth-Moon system(地球の自転パラメータなど)
12. Future of Astrometry 12.2 Need for Better Astrometry ・ 太陽系天体については、精度の桁をすぐ上げたいという 要望は弱い。 ・ 一方、天体物理関連(星と系外天体)では、現状より桁違 いに高精度のデータが欲しい。(0.01-0.001 mas 必要) 12.5 Prospects of Ground-Based Astrometry 地上からのアストロメトリの役割は、スペースからの観測では不可能あるいは不十分な領域で、スペースからの観測を補完することである。 (長期モニター観測、見かけの大きな天体など)
12. Future of Astrometry 12.6 As a Conclusion この20年間に実現した莫大な進歩にもかかわらず、アストロメトリはその目標からはまだまだ遠い段階にある。 過去20年間に、可視光域では2桁、電波域では3桁の精度向上があった。宇宙とその構成天体、銀河、星、太陽系天体などに関する新しい大量のデータがもたらされた。しかしながら、天文学の要求に応えられているとはとても言えない。技術的には、過去20年間と同じ程度の精度向上は達成されるであろうし、多くの天体物理学者がそれを待望している。 最近の成果が、アストロメトリのための新しいより高精度の装置に投資し続けることを天文学のコミュニテイに説得し、より多くの若い天文学者が、この有用でやりがいのある分野を選ぶことを期待しようではないか。
アストロメトリの展望を示す1例 ‘Absolute Proper Motion of the Fornax Dwarf Spheroidal Galaxy from Photographic and Hubble Space Telescope WFPC2 Data’ Dinescu et al. 2004, AJ, 128, 687. 写真乾板とCCDの組み合わせ タイムスパン ~50年 μαcos δ = 0.59 ± 0.16 mas/yr μδ = - 0.15 ± 0.16 mas/yr du Pont CTIO Hale WFPC2 ~90 arcmin http://www.astrosurf.com/antilhue/fornax_dwarf.htm
基準天体(△: 銀河、○:QSO; 塗りつぶしたものだけを最終的に採用)
Fornax LMC 10 Gyr 現在 200 Myr 500 Myr 銀河面 太い黒線は最近の1 Gyr 黒線は最近の1Gyr 今回の結果 以前の結果 Fornax LMC 10 Gyr 現在 200 Myr 500 Myr Sculptor dSph 銀河面 太い黒線は最近の1 Gyr 黒線は最近の1Gyr
+ Local Group Galaxies の軌道の再現 星形成史と質量集積の歴史 (内部運動) 「銀河群規模の集団」の形成史 宇宙大規模構造の形成史
アニメーション
この20年間に実現した莫大な進歩にもかかわらず、アストロメトリはその目標からはまだまだ遠い段階にある。 最近の成果が、アストロメトリのための新しいより高精度の装置に投資し続けることを天文学のコミュニテイに説得し、より多くの若い天文学者が、この有用でやりがいのある分野を選ぶことを期待しようではないか。