かぐやによるプラズマ観測と 月希薄大気の成因及び構造

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かぐやによるプラズマ観測と 月希薄大気の成因及び構造 齋藤(義)研 D4 田中孝明

重イオンの存在を示唆する アルカリ希薄大気の地上観測 ・ 太陽光による光脱離 : PSD   (photon-stimulated desorption) ・ 太陽風スパッタリング   (ion-induced desorption) ・ 流星物質の衝突による蒸発   (micrometeoroid impacts) ・ 熱脱離   (thermal desorption) Na、K大気の成因として考えられている過程 同様のプロセスでNa+、K+といった重イオンも 生成されていると考えられる。 地上観測ではNa,K元素の発光しか観測されていない。 地上観測で得られた月ナトリウムのD2線の発光の2次元分布。 Potter and Morgan, 1998

熱脱離・光脱離・スパッタリングetc SiO2などの表面に弱く結合した、 NaやKなどを脱離する。 入射粒子の運動エネルギーによって月面付近の元素を反跳させる。 太陽紫外線 入射物質 Na Na K 熱による脱離 O O O Si O Si O Si O O O

Na希薄大気の定常的な構造 Vertical column density atoms/cm2 Latitude degree 基本的に鉛直構造は N×exp(-mgh/kT) Smyth and Marconi, 1995 によるモンテカルロシミュレーション Potter and Morgan, 1998 緯度方向はcos^nに依存して減衰していく

アルカリ元素以外の希薄大気 月面の化学組成を考えると、Ca、Fe、Si、Al、Mgなどの輝線は受かっても良いはずだが実際の光学観測では強度が弱すぎる。(Flynn and Stern[1996])(Stern et al.[1997]) Na+、K+だけが、PSDなどによって選択的に多く希薄大気中に放出されているという間接的証拠。 磁気圏内と、太陽風中でNa大気の発光強度が変わらないという、いくつかの観測結果 (その他、Yakshinsky and Maday[1999]などの実験データなどから、PSDだけで観測のNaのフラックスを満たすことが可能という結果なども、PSDによるNa、Kの放出を支持している。)

スパッタリングはPSDなどに2次的に影響を及ぼしているかもしれない。 Potter et al.,2000 磁気圏内 磁気圏外 ○月が磁気圏に入るとき ●月が磁気圏から出るとき ↑Lunar Phase Angle(LPA)の定義 LPAが約30°以下で磁気圏内 月が磁気圏に入るときと出るときとでsurface densityの増加の仕方が違う。 ヒステリシスがみられる。 太陽風によるスパッタリングがsurface densityの増加に関与している?

月食時の月Na大気観測 左図が月食時のNaD2線の発光2次元イメージを平均したもの、 右図が各月食時の発光強度。1993と2000年の強度が弱い。 Wilson et al. 2006

かぐやによる重イオン観測 Esw=-Vsw×Bsw Lamor radius ~104km Bsw:IMF neutrals 100km Photoionization ions 100km Lunar surface Escape orbit Esw=-Vsw×Bsw Sputtering Photo desorption (Thermal desorption) neutrals Lamor radius ~104km

かぐや搭載用プラズマセンサー エネルギー分析部で粒子の飛来方向とE/q(エネルギー/電荷)を求める。 質量分析部で入射粒子のm/q(質量/電荷)を同定する。

IMA-MA : TOF Mass analysis positive ion Carbon foil 基本的には飛行時間を計って質量分解を行う。 一つのイオンが装置に入射すると、中性粒子、正イオン、負イオンの三種類の信号を測定する事になる。それぞれの比率は入射イオン種によって異なる。 (Stop) Secondary electron Electric Field neutral (Start) Secondary electron Negative ion Detector

かぐやによる太陽風中のイオン観測 (模式図) Yokota et al. 2009 反月方向のセンサー(IEA)が太陽風を主に観測し、月面方向のセンサー(IMA)が月面からの反射粒子や、月大気や月面由来のイオンを観測する。

かぐやによる太陽風中のイオン観測 Yokota et al. 2009 IEAが太陽風観測している時に、IMAが月面からの反射粒子や、月大気や月面由来のイオンを観測している。

Reflected solar wind H+ and He++ The Moon-originating ions 質量分析データ(1ヶ月積算) Reflected solar wind H+ and He++ Energy (keV) The Moon-originating ions Time of Flight (nsec)

TOF profile of Moon-originating ion Least chi-square fitting

Fittingから求められたIon flux

かぐやの軌道(7/01~12/01)

時系列データ(7/01~12/30) Na+ Sub-solar point K+

Na+,K+ ionの観測データに関する より詳細な解析 yokota et al. 2005のシミュレーションで見積もられていた、大気由来のフラックスと、月面由来(PSDやSputteringなどで放出されると思われるもの)のフラックスの観測との比較 観測データから、月面起源のイオンを分離 シミュレーションから予測されるSolar Zenith Angle依存と観測のSZA依存の比較

シミュレーションの設定1 観測によるsurfaceからのPSD(Smith and Marconi 1995)(Mendillo et al. 1991)による放出から、散乱断面積の比Na+/Na、K+/Kを元に計算。 実験で求められたSputteringによるionのflux(Elphic et al 1991) このデータをもとに、月表面から放出するイオンのフラックスを見積もった (Yokota et al. 2005)。

シミュレーションの設定2 観測を元に大気から電離するのNa・Kイオンの生成量を見積もる 中性大気の数密度 高度による重力変化の効果 観測で求められた効果を考慮 Sub solar pointでの Apparent scale height 中性粒子のライフタイム Yokota,2005

Surface-originated ions シミュレーションとデータ比較の概要 Exospheric ions Surface-originated ions Esw=-Vsw×Bsw Bsw:IMF Solar Wind (Vsw) UV Solar zenith angleが下がり、 太陽直下点に近づくほどPick up ionの Fluxが高くなる。

月面起源のイオンの分離 ぼんやりとした反射SWと重なって、Self pick up acceleration により加速する 反射イオンと、希薄大気中、あるいは月表面からピックアップされる、より重い イオンが見える Solar zenith angleが下がり、太陽直下点に近づくほどPick up ionの vxB電場での加速距離が長くなる。

SZA dependence of the Na+ ion flux 表面密度 120/cm^3 約3倍 表面密度を35/cm^3 Apparent Scale Heightを510km PSD flux 3.5x10^3 Sputtering flux 2.4x10^3 Simulationはyokota et al. 2005で為された物と同等

SZA dependence of the K+ ion flux 表面密度 420/cm^3 約42倍 表面密度を10/cm^3 Apparent Scale Heightを85km PSD flux 1.2x10^3 Sputtering flux 9.5x10^2

SZA依存についての考察 Na+,K+イオンのfluxが見積もりよりも高い。 シミュレーションのセットアップの元となった観測が低高度の情報が考えられていないので低高度ではもっと密度が濃いのではないか? SZA依存に関して高いSZAと、低いSZAでシミュレーションのモデルと傾向が異なる。(特にK+で顕著) K+の場合は朝夕非対称性が影響しているのではないか? また、sub-solar point付近と、SZAが高いところでの大気生成のプロセスは、異なっているのではないか?

標準的な希薄大気構造の描像 Suprathermal desorption (PSDによるものと思われる) かぐやによる観測での SZA依存を説明できない

観測を説明する希薄大気の描像の例 Suprathermal desorption Thermal desorption Sub-solar pointの付近とSZAが 高い所で主要な大気の生成プロセス が切り替わる?

まとめ 一日毎に、TOFプロファイルデータにフィッティング解析を行い、Na+及び、K+のフラックスの時系列変化を求めた。(K+イオンの朝夕非対称性を発見) Na+,K+イオンについて、観測フラックスのSZA依存をyokota et al. 2005でのシミュレーションによる見積もりと、比較を行ったところ、観測のフラックスが多い事と、SZAの大きい場所と小さい場所で、シミュレーションのモデルと異なった傾向が見られた。 観測を説明するような、大気構造のモデルを考察中

Future Works 観測のSZA依存と合うような、シミュレーションモデルを構築する。 Na+,K+以外のイオンに関しての解析結果を考察する。 エネルギー分布から、大気の高度分布を算出し、地上観測との比較を行う。

Orbit 20081001-1010

Experimental TOF profile compared with computed one. O+ ions’ TOF profile TOF profile is changed with incident ion energy count TOF(nsec)

Comparison of the two data sets in flux ノイズを数えてしまっていることによって 若干オーバーエスティメイトしていると 思われる

Potter & Morgan 1998 False color images of sodium d2 emission from lunar exosphere observed by Evans coronagraph [Potter and Morgan, 1998]

典型的な太陽風によって輸送される 月面周辺でのNa+ Picked-up ion(Na+)の軌道 pointAは高度100km天頂角30° Yokota&Saito,2004   Elphic et al.[1991]のパラメータ、光学観測による希薄大気の密度等を元に、月周辺(100km高度)でのイオンのフラックスを見積もった。 Yokota and Saito [2004]