MRテキストⅡ 疾病と治療(基礎) 2012年度版 第1章 人体の構造と機能 第2章 脳・神経系 第3章 循環器系 第4章 呼吸器系 第1章 人体の構造と機能 第2章 脳・神経系 第3章 循環器系 第4章 呼吸器系 第5章 消化器系 第6章 骨格・筋系 第7章 泌尿器系 第8章 生殖器系 第9章 代謝・内分泌系 第10章 血液 第11章 感覚器系 第12章 小児 第13章 リンパ系と免疫 第14章 炎症 第15章 感染症 第16章 がん
第1章 人体の構造と機能 身体のしくみ 1 2 身体の区分と表記 細 胞 3 組織と器官 4
本項の概要 ヒ卜は、生物学的には多細胞生物として位置づけられ、多くの細胞が集まって個体を形成している。しかしながら、ヒトの身体は単なる細胞の集合体ではなく、互いに情報連絡を行いながら全体(個体)として生命活動を営む社会的な細胞集団である。このため、人体はその構造が精密なだけではなく、生命活動が支障なくスムーズに行われるよう、身体機能や体内環境をコントロールするしくみを備えている。この点で、多数の細菌が集まった細菌巣とはまったく異なる。どんなに多くの細菌(単細胞生物)が集まっても、全体で1つの個体をつくることはないからである。 Self Check ・人体の外観について概説できる。 ・人体を構成する階層構造について概説できる。 ・生命維持活動とホメオスタシスについて概説できる。
1 人体のしくみ ヒトの身体構造 身体の構成成分と大きさ① 肉眼レベル 光学顕微鏡 レベル 電子顕微鏡 気管 個体:1~2m 呼吸器 第1章 人体の構造と機能 身体の構成成分と大きさ① ヒトの身体構造 肉眼レベル 光学顕微鏡 レベル 電子顕微鏡 気管 個体:1~2m 呼吸器 器官:数cm~数十cm 器官系:数kg~数十kg 組織:器官を形づくる細胞の集合体 細胞: 生物の最小単位 数μm~100μm ヒトの身体を構成する成分は、その機能や大きさから、個体・器官・組織・細胞などに区分されます。 細胞は生物としての基本単位であり、細胞が集まって組織をつくり、何種類かの組織が器官を形づくります。 さらに器官は、その機能ごとに器官系(呼吸器系・消化器系など)を構成し、個体としての生物を形成します。 一方、細胞はさまざまな構造(細胞膜・細胞小器官・核など)でできており、いずれも物質としての最小単位である分子から構成されています。 このように、身体は細胞を中心にさまざまな大きさの構造で形成されていますが、医学においては、分子レベルから個体(身体全体)までのすべての構造と機能について理解しておく必要があります。 細胞小器官: 細胞機能を分担する細胞内構造 数μm~1μm(1,000nm) 分子: 生物の機能的最小単位 大きな分子であるDNA などは数nmに達する MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P2~3
1 人体のしくみ 医学領域で使用される単位 身体の構成成分と大きさ② 10n 読み(英語) 記号 漢数字表記 十進数表記 1012 第1章 人体の構造と機能 身体の構成成分と大きさ② 医学領域で使用される単位 10n 読み(英語) 記号 漢数字表記 十進数表記 1012 テラ(tera) T 一兆 1 000 000 000 000 109 ギガ(giga) G 十億 1 000 000 000 106 メガ(mega) M 百万 1 000 000 103 キロ(kilo) k 千 1 000 100 なし 一 1 10-1 デシ(deci) d 十分の一 / 一分 0.1 10-2 センチ(centi) c 百分の一 / 一厘 0.01 10-3 ミリ(milli) m 千分の一 / 一毛 0.001 10-6 マイクロ(micro) μ 百万分の一 / 一微 0.000 001 10-9 ナノ(nano) n 十億分の一 / 一塵 0.000 000 001 10-12 ピコ(pico) p 一兆分の一 / 一漠 0.000 000 000 001 医学生物学領域において、長さや重さを表記する際には通常、その単位として国際単位系(SI:Le Système International d‘Unités )、いわゆるメートル法の拡張版(MKS単位系)が用いられます。 その単位表示は複雑に見えますが、基本的には「10進法を基本に10の3乗ごとに単位表記が変わる」という原則を理解することが大切です。 代表的な単位表示を大きいほうから順に並べると、表のようになります。 なお、これとは別に、長さの単位としてオングストローム(Å)という表記(1Å=10-10m=0。1nm=100pm)があり、たとえば、細胞膜の厚さは、およそ60~80Åと表記されます。 MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P3
1 人体のしくみ 人体を構成する化学物質 A 水: 体重の60%を占め、ホメオスタシス(生命活動の環境維持)にとって重要 B 第1章 人体の構造と機能 人体を構成する化学物質 A 水: 体重の60%を占め、ホメオスタシス(生命活動の環境維持)にとって重要 B 三大栄養素: 生命維持に必須の物質 1.糖質(炭水化物) ①単糖類:グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトース ②二糖類:スクロース(ショ糖)、ラクトース(乳糖) ③多糖類:デンプン、グリコーゲン、セルロース 2.脂質 トリグリセライド:エネルギー源 リン脂質:細胞膜の構成 3.タンパク質 生体内のあらゆる場所に存在し、20種類のアミノ酸を結合して合成 細胞は人体の基本的構成単位であり、細胞やこれを構成する種々の構造もいくつかの化学物質で形成されており、身体には様々な化学物質が含まれてます。 水は身体でもっとも多量に存在する物質で、体重の60%を占めています。 生体内の化学反応(生命活動)はすべて水中で起こるため、水は生体にとって必要不可欠の物質で、水は生命活動の環境維持(ホメオスタシス)にとっても重要な物質です。 生命維持のためには、エネルギー源となったり身体を形づくる物質が必要であり、それらの物質は三大栄養素と呼ばれる糖質(炭水化物)・脂質・タンパク質の3種です。 糖質は細胞のエネルギー源として使われる重要な物質で、その構造から単糖類・二糖類・多糖類に区分されます。 単糖類は、糖質のうちでもっとも小さく、摂取された糖質は最終的にグルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトースに消化・分解されます。 二糖類はスクロース(ショ糖)やラクトース(乳糖)が、多糖類はてデンプン、グリコーゲン、セルロースが代表的なものです。 トリグリセライド(中性脂肪)は、身体に含まれる脂質としてもっとも多くエネルギー源として使われ、余剰分は肝臓や脂肪組織に貯えられます。 リン脂質は、細胞膜を構成します。 タンパク質は、多数のアミノ酸が結合してできる高分子化合物であり、酵素・受容体・ホルモン・細胞内線維・コラーゲン・抗体などの形で生体内のあらゆる場所に存在し、生命活動を支えています。 体内では20種類のアミノ酸を結合して合成されます。 タンパク質を形成している単位構造をドメインと呼び、それぞれ固有の機能を持っています。 MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P3~4
1 人体のしくみ 植物機能と動物機能 ヒトの身体構造 A 植物機能:生命維持にかかわる機能、基本的に無意識下で機能(内臓) 呼吸器系 第1章 人体の構造と機能 植物機能と動物機能 A 植物機能:生命維持にかかわる機能、基本的に無意識下で機能(内臓) 呼吸器系 消化器系 泌尿器系 気管 歯 喉頭 腎臓 咽頭 肺 食道 膀胱 肝臓 胃 生殖器系 免疫系 十二指腸 膵臓 小腸 大腸 男性 女性 人体で営まれている生命活動(生理機能)は、2つのグループに大別されます。 1つは、植物機能と呼ばれる呼吸、血液循環、消化・吸収、代謝、内分泌など生命維持にかかわる機能であり、基本的に無意識下で働きます。 もう1つは、感覚や運動といった身体活動を担う動物特有の機能であり、動物機能と呼ばれます。 なお、植物機能を示す器官(内臓)に分布する神経を臓性神経系(内臓神経)と呼び、心筋、平滑筋(内臓・血管など)および外分泌腺を支配する自律神経(一般臓性神経)と顔面筋・阻噛筋・咽頭筋などの内臓骨格筋を支配する特殊臓性神経とに区分されます。 血管 直腸 乳腺 白血球 肛門 赤血球 乳頭 リンパ球 精管 卵管 ヒトの身体構造 精嚢 卵巣 前立腺 子宮 精巣 腟 MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P4~7 7
1 人体のしくみ 植物機能と動物機能 A 植物機能:生命維持にかかわる機能、基本的に無意識下で機能(内臓) 循環器系 第1章 人体の構造と機能 植物機能と動物機能 A 植物機能:生命維持にかかわる機能、基本的に無意識下で機能(内臓) 循環器系 リンパ系 静脈 動脈 腋窩 リンパ節 頸リンパ節 総頸動脈 上大静脈 リンパ本幹 肺動脈 肺静脈 乳び槽 下大静脈 総腸骨動脈 図は循環器系の器官の位置です。 大腿静脈 鼠径リンパ節 大腿動脈 膝下動脈(後) ・:脈拍をふれる部位 MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P4~7 8
1 人体のしくみ 植物機能と動物機能 身体の機能と支配する神経の作用 A 植物機能: 生命維持にかかわる機能、基本的に無意識下で機能(内臓) 第1章 人体の構造と機能 植物機能と動物機能 A 植物機能: 生命維持にかかわる機能、基本的に無意識下で機能(内臓) 身体の機能と支配する神経の作用 器官系 器官(内臓) 機能 臓性神経系 (内臓神経) 呼吸器系 気管、肺など 酸素の確保 自立神経系 (一般臓性神経): 心筋、平滑筋、 外分泌腺を支配 特殊臓性神経: 内臓骨格筋を支配 (顔面筋・咀嚼筋・咽頭筋など) 消化器系 消化管、肝臓、腎臓など 消化と栄養吸収 泌尿器系 腎臓、膀胱など 尿の生成と排出 生殖器系 精巣、卵巣など 生殖細胞の生成と種族の保存 免疫系 免疫細胞 侵襲に対する防御 循環器系 心臓、血管など 栄養、老廃物の輸送 呼吸器系は、鼻から始まる気道と、血液との間でガス交換を行う肺から構成されます。 細胞がエネルギーをつくる際には酸素が必要であり、呼吸器系はその酸素確保に働く器官系です。 消化器系は、口から肛門に至る消化管と肝臓や膵臓などの付属腺から構成され、消化器系の主たる目的である消化と栄養吸収は、主に小腸で行われます。 泌尿器系は、血液を濾過して尿をつくる腎臓とその尿を体外に排出する尿路に区分されます。 生殖器系は、生殖細胞(配偶子)を生成し、子孫を残す役割をもちます。 精巣や卵巣は、それぞれ性ホルモンを分泌しており、内分泌器としての役割も有しています。 免疫系は感染や腫瘍などの侵襲に対する防御に働くシステムであり、リンパ組織や血液、組織液に含まれるリンパ球、白血球、マクロファージなどの免疫細胞が中心となります。 循環器系は、呼吸器・消化器・泌尿器と全身の末梢組織との間を連絡し、栄養や老廃物を輸送するシステムであり、血液が流れる心血管系(血液循環系)とリンパ液が流れるリンパ管系(リンパ循環系)とに区分されます。 MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P4~7 9
1 人体のしくみ 植物機能と動物機能 身体の器官と機能 B 動物機能: 身体運動と調節にかかわる機能 第1章 人体の構造と機能 植物機能と動物機能 B 動物機能: 身体運動と調節にかかわる機能 温度覚や触圧覚、痛覚などの意識にのぼる感覚や身体運動に働く システム中心的役割:皮膚感覚や骨格筋収縮を支配する神経系 身体の器官と機能 器官系 器官 機能 中枢神経系 脳、脊髄、交感神経、 副交感神経など 感覚情報を身体運動指令に変換 末梢神経系 皮膚、腱、関節など 感覚情報 (温度覚・触圧覚・痛覚・振動覚) などの取り込み 運動器系 (骨格・筋) 骨、骨格筋など 骨:身体の支持、内臓保護 骨格筋:身体運動 動物機能とは、温度覚や触圧覚、痛覚などの意識にのぼる感覚や身体運動に働くシステムです。 動物機能の中心的役割を担うのは、皮膚感覚や骨格筋収縮を支配する神経系であり、脳・脊髄からなる中枢神経系とそこから全身に広がる神経からなる末梢神経系に区分されます。 中枢神経系は、頭蓋腔内にある脳と脊柱管内の脊髄から構成され、感覚神経(求心性末梢神経)を通って入ってきた感覚情報を身体運動指令に変え、運動神経(遠心性末梢神経)を通して送り出す役割を担っています。 脳および脊髄に出入りする神経線維の束を末梢神経といい、頭蓋の孔から出入りする脳神経と脊柱の椎間孔を通る脊髄神経から構成されます。 これらの末梢神経を構成する神経線維には、信号を脳に伝える求心性線維(感覚神経線維)と末梢に送る遠心性線維(運動神経線維)があります。 皮膚や腱、関節などで感じとられた感覚情報(温度覚・触圧覚・痛覚・振動覚など)は、感覚神経線椎によって中枢神経系に伝えられ、骨格筋収縮の指令は運動神経線維によって末梢へと送られます。 骨は、身体の支持、内臓の保護や関節運動にも働きます。 また、全身の細胞で利用されるカルシウムの貯蔵部位としての役割も担っています。 骨格筋は、脳からの指令によって身体運動に作用します。 MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P4~7 10
1 人体のしくみ 植物機能と動物機能 B 動物機能: 身体運動と調節にかかわる機能 第1章 人体の構造と機能 第1章 人体の構造と機能 植物機能と動物機能 B 動物機能: 身体運動と調節にかかわる機能 橋 大脳 骨格系 筋系 前頭筋 神経系 小脳 側頭筋 頭蓋 頸髄 眼輪筋 椎骨 延髄 鎖骨 胸髄 口輪筋 頸神経叢 肩関節 筋皮神経 胸骨 肩甲骨 三角筋 腕神経叢 胸鎖乳突筋 肋骨 胸郭 正中神経 上腕二頭筋 橈骨神経 上腕骨 大胸筋 肋間神経 尺骨神経 肘関節 寛骨 腹直筋 腕橈骨筋 腰髄 橈骨 仙髄 仙骨 尺骨 腰神経叢 臍 大腿神経 手の骨 図は、身体運動と調節にかかわる機能です。 股関節 大腿骨 大腿四頭筋 仙骨神経叢 坐骨神経 縫工筋 膝蓋骨 伏在神経 膝関節 膝蓋靭帯 腓骨神経 前踁骨筋 脛骨 腓骨 足の骨 MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P4~7
1 人体のしくみ 植物機能と動物機能 C ホメオスタシス:体内環境の恒常性 体内環境を調節してすべての細胞・組織がスムーズな活動ができる 第1章 人体の構造と機能 植物機能と動物機能 C ホメオスタシス:体内環境の恒常性 体内環境を調節してすべての細胞・組織がスムーズな活動ができる 状態を維持 ①体温・血圧の調節維持 ②体内の水分出納 ③体液の浸透圧やpH調節 ④創傷治癒機構 ⑤感染防御や異物排除 ①物理的因子(高温・寒冷・放射線) ②化学的因子(毒物) ③生物学的因子(細菌・ウイルス) ④遺伝的要因、栄養障害・酸素欠乏・老化 神経系・内分泌系・免疫系 ホメオスタシス破綻原因 個体がその生命を維持するためには、体内環境を調節してすべての細胞や組織がスムーズに活動できる状況を保つ必要があります。 この体内環境の恒常性をホメオスタシスと呼び、体内環境に影響する因子が作用した際にこれを相殺する反応を起こします。 ホメオスタシスには、全身の器官系のうち、とくに神経系・内分泌系・免疫系が重要な役割を担います。 これらの器官系は、神経伝達物質・ホルモン・サイトカインなどの情報伝達物質を介して連携しており、体温や血圧の調節維持、体内の水分出納、体液の浸透圧やpH調節、創傷治癒機構、感染防御や異物排除などに働いて体内環境を正常に保つ働きを行います。 このため、何らかの原因でこれらの器官系のいずれかに機能障害が生じると、体内環境の変化に対応できない状態を起こします(ホメオスタシスの破綻)。 たとえば、神経系の障害がある場合には疾病で生じる症状を知覚できず、内分泌系に障害がある場合には血圧や体液調節異常によって体内環境の過剰変動が起こります。 これらのホメオスタシスを破綻させる原因としては、高温・寒冷・放射線などの物理的因子、毒物などの化学的因子、細菌・ウイルスといった生物学的因子に加え遺伝的要因や栄養障害・酸素欠乏、そして老化などがあげられます。 MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P8
第1章 人体の構造と機能 身体のしくみ 1 2 身体の区分と表記 細 胞 3 組織と器官 4 13
本項の概要 ふだんの生活でも「頭が痛い」とか「肩が凝る」というように、人体の各部分にはそれぞれ名前がついている。これは医学領域でも同様で、人体はいくつかの部分に分けられ、それぞれ名称がつけれている。おおまかにいえば、人体は頭頸部・体幹・体肢に分けられるが、頭頸部はさらに頭(狭義の頭+顔)と頸(項を含む)、体幹は胸(背を含む)と腹(腰骨盤部を含む)、そして体肢は上肢(肩・上腕・肘・前腕・手)と下肢(殿部・大腿・膝・下腿・足)に区分される。
2 人体の区分と表記 人体の区分 人体の位置の表記 前面 後面 第1章 人体の構造と機能 MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P9 頭 頭 頸 第1章 人体の構造と機能 人体の位置の表記 人体の区分 前面 頭 後面 頭 頸 項 肩 肩 胸部 上腕 (二の腕) 背部 腕 肘 上肢 前腕 腰部 腹部 手根 手 殿部 手背 手掌 手指 手指 大腿 医学領域において、人体について記載したり表現したりする場合、そこには一定の決まりがあります。 各自が勝手な表現を用いると誤解が生じやすく、医療現場では大きなミスにつながりかねないからです。 たとえば、患者がどのような姿勢(体位)をとっていても、人体の位置や部分は決まった姿勢を基準として表現されます。 決まった姿勢とは、直立したまま手掌を開いて前に向けた状態をいい、解剖学的正位と呼ばれます。 頻繁に用いられる上・下(頭側・尾側)、前・後(腹側・背側)などの用語も解剖学的正位を基本としており、患者が仰向け(医学領域では背臥位・仰臥位)や腹ばい(腹臥位)になっても変わることはありません。 人体の位置を表す代表的な用語はこの通りです。 膝 脚 下肢 下腿 下腿 足根 足背 足 足底 足指 MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P9
第1章 人体の構造と機能 身体のしくみ 1 2 身体の区分と表記 細 胞 3 組織と器官 4 16
本項の概要 ヒ卜の身体を構成する細胞(体細胞)は成人で60兆個ともいわれ、その種類は、おおまかに分類しても200種類に及ぶ。しかしながら、その始まりはたった1個の細胞(受精卵)であり、人体が営む多くの複雑な働きも、その起源は「卵子と精子の出会い」、すなわち受精にまでさかのぼることができる。 このように、1個の受精卵は身体を構成するすべての細胞を形成する能力(多分化能)をもっており、子宮内で細胞分裂を繰り返すことで胚子(受精8週以前)、そして胎児(受精9週~出産)へと発育する。すなわち、1個の受精卵こそがすべての体細胞の母細胞であると同時に最初の体細胞ということになる。 Self Check ・細胞の構造と機能について概説できる。 ・遺伝子の構造と機能について概説できる。 ・細胞の増殖と分化について概説できる。
3 細 胞 体細胞と生殖細胞の主な相違点 体細胞と生殖細胞 ① 生殖細胞以外すべて ② 分化して身体をつくる ③ 体細胞分裂を行う 細 胞 第1章 人体の構造と機能 体細胞と生殖細胞 体細胞と生殖細胞の主な相違点 ① 生殖細胞以外すべて ② 分化して身体をつくる ③ 体細胞分裂を行う ① 精子および卵子 ② 遺伝情報を次世代へ伝える ③ 減数分裂を行う 体細胞 生殖細胞 受精卵が分裂を繰り返すにつれ、分裂で出現した細胞はそれぞれ役割の異なる体細胞へと変化します。 この変化を分化と呼びます。 形成された体細胞は一定の役割ごとに集まって組織を形成し、さらに何種類かの組織が集まることで独立した形態と機能をもつ器官をつくります。 たとえば、胃は1つの器官ですが、その壁は粘膜・筋層・外膜という3種類の組織で構成されており、それぞれの組織は粘膜上皮細胞、平滑筋細胞、外膜の上皮細胞などによってできています。 このように、分化した体細胞はバラバラに分かれるのではなく、必要に応じて集まり、互いに連携して身体をつくりあげています。 身体を構成する体細胞に対して、遺伝情報を次の世代に伝える細胞を生殖細胞(配偶子)と呼び、精子や卵子がこれに相当します。 一般に、細胞の核には遺伝情報を含む染色体(染色質)があり、ヒトの体細胞は46本の染色体をもちますが、配偶子の染色体は体細胞の半分(23本)です。 これは精子と卵子の染色体が合わさって受精卵が形成されるためで、両親から半分ずつの遺伝情報を受け取るしくみとなっています。 MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P10
3 細 胞 減数分裂 細胞分裂:体細胞分裂と減数分裂 母 父 体細胞分裂: 受精卵から始まる細胞分裂 母細胞 娘細胞 娘細胞 細 胞 第1章 人体の構造と機能 細胞分裂:体細胞分裂と減数分裂 減数分裂 母 父 体細胞分裂: 受精卵から始まる細胞分裂 母細胞 44+XX 44+XY 娘細胞 娘細胞 22+X 22+X 22+X 22+Y ①核分裂:染色体が複製されて2倍になる 受精 受精 受精卵に始まる体細胞の分裂様式を体細胞分裂といい、1個の細胞(母細胞)から同じ染色体(遺伝子)をもつ2個の細胞(娘細胞)ができます。 体細胞分裂は核分裂と細胞質分裂の2段階からなり、核分裂の段階で染色体が複製されて2倍になったのち、細胞質分裂によって等分されるため娘細胞は母細胞と同じ染色体を与えられます。 これに対し、生殖細胞(配偶子)の分裂様式を減数分裂といい、1個の細胞から染色体が半数だけの細胞が形成されます。 ②細胞質分裂:母細胞と同じ染色体を等分して娘細胞に与える 女子 男子 MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P10
3 細 胞 細胞の構造 細胞の概念図 細胞膜: 細胞の内外を隔てる生体膜。 2層のリン脂質によって構成されている。 核: 細 胞 第1章 人体の構造と機能 細胞の構造 細胞膜: 細胞の内外を隔てる生体膜。 2層のリン脂質によって構成されている。 核: 遺伝情報の保存と伝達を行う。 細胞により異なる形状(球形~分葉形、多核など)をもつ。 細胞質: 細胞膜と同様の生体膜によって包まれた細胞小器官(ミトコンドリア、小胞体、ゴルジ体、リソソームなど)によって構成されている。 身体を構成する細胞は、さまざまな役割から多様な大きさと形状を示します。 ほとんどは直径10μm前後であるが、卵子では約200μmもの直径をもち、神経細胞には長さ数十cmに及ぶ突起をもつものもあります。 また、その形もさまざまで、多くの細胞はほぼ球形ですが、表皮の扁平上皮細胞や細長い骨格筋細胞(このため骨格筋線維とも呼ばれる)などのように独特の形を示すものも多い。 細胞は、脂質でできた細胞膜で包まれた袋のような形を示しますが、内部には生命活動を営むうえで必要な種々の構造(核および細胞小器官)が含まれています。 このうち、細胞膜は細胞内と細胞外とを隔てるための構造で、2層のリン脂質によって構成されています。 一方、核は生命活動に必要な物質の合成や次世代に伝える遺伝情報の保管に働く構造で、細胞によって異なる形状(球形~分葉形、多核など)を示します。 また、核を取り囲む細胞質には、種々の細胞小器官や細胞骨格がみられます。 細胞小器官の多くは、細胞膜と同様の膜によって包まれています。 細胞の概念図 MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P11
3 細 胞 細胞膜の構造 細胞の構造 A 細胞膜 細胞膜 リン脂質二重層 親水性 疎水性 細胞膜タンパク質 第1章 人体の構造と機能 細 胞 第1章 人体の構造と機能 細胞の構造 A 細胞膜 細胞膜の構造 細胞膜 リン脂質二重層 親水性 細胞膜は、2層のリン脂質によって構成されています。 リン脂質には水となじみやすい親水性の部分と、水となじまない疎水性の部分があり、細胞膜では疎水性の部分を中に挟んで並ぶ二重層をつくります。 すなわち、親水性の部分は細胞膜の外表面では細胞外液に、細胞膜内面では細胞内液に触れています。 このため、水にも油にも溶けやすい酸素や電解質は細胞膜を自由に透過できますが、水には溶けても油に溶けない物質(ブドウ糖など)は、細胞膜が障壁となって透過できません。 細胞膜がもつこの性質を選択的透過性と呼び、細胞内外の環境を一定に保つのに役立っています。 また、細胞膜には、リン脂質の二重層のところどころにタンパク質塊が認められ、細胞膜タンパク質と呼ばれます。 細胞膜タンパク質は、その役割から細胞膜通過物質の輸送担体(トランスポーター)・受容体・酵素に分類されます。 疎水性 細胞膜タンパク質 MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P11
3 細 胞 細胞の構造 DNAの構造 染色体 B 核 ループ 1.核の内部構造と役割 クロマチン 線維 T A C G A T G T C 細 胞 第1章 人体の構造と機能 細胞の構造 染色体 B 核 ループ 1.核の内部構造と役割 クロマチン 線維 DNAの構造 T A C G A T G T C ヒストン A C 多くの場合、1個の細胞には1個の(細胞)核が備わっています。 ほとんどの核はほぼ球形ですが、白血球のように分葉核をもつものもあります。 核の表面は内・外2葉の核膜で覆われており、ところどころに核膜孔と呼ばれる構造があります。 核膜孔は、核内と細胞質との間の物質輸送に関与するとされていますが、その細かいしくみについては不明の点も多いです。 一方、核の中には網状構造を示す球形の核小体と、遺伝情報を含む染色質が含まれます。 核小体はタンパク質合成にあずかる細胞小器官リボソームを生成する部位とされ、通常1~数個認められます。 染色質には、細胞の設計図ともいわれる遺伝情報がデオキシリボ核酸(DNA:deoxyribonucleic acid)の形で貯えられています。 染色質内のDNAはヒストンというタンパク質と結合しており、通常は散在しているため、その姿は認められませんが、細胞分裂時には凝集し、染色質がこん棒状の塊を形成するため、染色体として明瞭に区別できるようになります。 DNAは糖(デオキシリボース)・リン酸・4 種類の塩基(アデニン〈A〉・グアニン〈G〉・チミン〈T〉・シトシン〈C〉)からなる鎖状の構造で、通常2本のDNAが対になって結合し、ねじれた梯子のような二重らせん構造を呈します。 G A T T G A C C G DNA二重らせん MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P11~12
3 細 胞 細胞の構造 ヒト染色体(男性) 常染色体 →第1番~第22番染色体 B 核 染色体 23対46本の染色体 (ヒトの場合) 細 胞 第1章 人体の構造と機能 細胞の構造 常染色体 →第1番~第22番染色体 B 核 染色体 23対46本の染色体 (ヒトの場合) 1.染色体と遺伝子 性染色体 →XおよびY染色体 第1番 第2番 第3番 第4番 第5番 第6番 第7番 第8番 第9番 第10番 第11番 第12番 第13番 第14番 第15番 第16番 第17番 第18番 第19番 第20番 第21番 第22番 X/Y 相同染色体 : 父由来と母由来の染色体のペア ほぼ同じ塩基配列を示す 対立遺伝子 : 相同染色体の同じ位置にある 遺伝子 ヒトの体細胞の核には23対46本の染色体が含まれます。このうち、男女共通の22対44本を常染色体と呼び、大きさの順に1~22の番号が付されています。 各組とも父由来と母由来の染色体のペアで相同染色体と呼ばれ、ほとんど同じ塩基配列を示します。 これに対し男女で異なる1対2本のものを性染色体と呼び、大きなX染色体と小さなY染色体から構成されています。 これらの染色体が対をなすのは、受精時に精子と卵子から半分ずつ染色体を受け取るためです。 それぞれの染色体は1本の長いDNAでできており、そこに遺伝子が含まれています。 1個の細胞がもつ23対46本の染色体には、生命活動に必要なすべての遺伝子が2セット備わっており、このセットをゲノムと呼びます。 1セットのゲノムをつくるDNAをつなぎ合わせた長さは1mにも達します。 遺伝子とは、同種の生物がもつ基本的形質を親から子に伝える(遺伝)ための設計図にあたる物質であり、その具体的な役割は「細胞がタンパク質を合成する際にアミノ酸の配列を指定する」ことです。 とくに、相同染色体の同じ位置にある遺伝子は同じ形質に対する遺伝情報を有するため、対立遺伝子と呼ばれます。 対立遺伝子は同じタンパク質の合成にかかわる設計図ですが、その塩基配列は微妙に異なり、どちらの設計図(遺伝子)が採用されるかで発現する形質が異なります。対立遺伝子が一方にあれば発現する形質を優性、両方になければ発現しない形質を劣性といいます。たとえば、右巻きのつむじは優性、左巻きは劣性といわれています。 優性・劣性遺伝 : たとえば、A型とB型の対立遺伝子をもつヒトが、A型の場合は、AはOに対して優性を示すと表現され、AB型の場合は共優性を示すと表現される。 ヒト染色体(男性) MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P11~12 23
3 細 胞 細胞の構造 細胞の構造 リソソーム 中心小体 C 細胞小器官 核 1.小胞体 ゴルジ装置 リボソーム 粗面小胞体 滑面小胞体 細 胞 第1章 人体の構造と機能 細胞の構造 リソソーム 中心小体 C 細胞小器官 核 1.小胞体 ゴルジ装置 リボソーム 細胞の構造 細胞を形づくっている内容のうち、核を除いた残りの部分を細胞質と呼び、サイトゾルと呼ばれる基質内に、さまざまな役割をもつ各種の細胞小器官と細胞の形の保持などに働く細胞骨格が認められます。 代表的な細胞小器官としては次のようなものがあります。 小胞体は、さまざまな形(扁平状・小管状・小胞状など)の袋状構造をしており、互いに連絡しながら細胞質内に広がります。 形態上の特徴から、表面に多数のリボソームが付着した粗面小胞体と、リボソームをもたない滑面小胞体に分類されます。 粗面小胞体は、糖タンパク質の合成を担う小器官で、消化酵素を分泌する膵臓の腺房細胞や、コラーゲンを生成する線維芽細胞、免疫グロブリンを産生する抗体産生細胞(形質細胞)などで発達します。 一方、滑面小胞体は、細胞膜のリン脂質を合成する役割を担いますが、同時に細胞によっては特化した機能も有しています。 たとえば、副腎皮質細胞の滑面小胞体は、ステロイド合成に必要な酵素を含み、肝細胞のものはある種の毒物の解毒に働く酵素を含みます。 また、筋細胞にみられる小胞体(筋小胞体)はCa2+(カルシウムイオン)を貯蔵し、その放出を調節することで筋収縮に関与します。 粗面小胞体 滑面小胞体 ミトコンドリア MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P12~14
3 細 胞 細胞の構造 細胞の構造 リソソーム 中心小体 C 細胞小器官 核 2.リボソーム ゴルジ装置 リボソーム 粗面小胞体 滑面小胞体 細 胞 第1章 人体の構造と機能 細胞の構造 リソソーム 中心小体 C 細胞小器官 核 2.リボソーム ゴルジ装置 リボソーム 細胞の構造 リボソームは、直径20~30nm(1nm=100万分の1mm)の顆粒状を示す細胞小器官であり、粗面小胞体に付着する付着リボソームと、細胞質内で遊離している遊離リボソームとがあります。 リボソームでは、核から遺伝情報を運んできたRNA(ribonucleic acid:リボ核酸)を鋳型としてタンパク質が合成されます。 おおまかにいえば粗面小胞体では細胞膜タンパク質や分泌物の合成が行われ、遊離リボソームでは細胞質内で使われるタンパク質が生成されます。 粗面小胞体 滑面小胞体 ミトコンドリア MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P12~14 25
3 細 胞 細胞の構造 細胞の構造 リソソーム 中心小体 C 細胞小器官 核 3.ゴルジ装置 ゴルジ装置 リボソーム 粗面小胞体 滑面小胞体 細 胞 第1章 人体の構造と機能 細胞の構造 リソソーム 中心小体 C 細胞小器官 核 3.ゴルジ装置 ゴルジ装置 リボソーム 細胞の構造 ゴルジ装置は、何層にも重なった嚢状構造と、これに付随する小胞からなる複合体であり、核周囲領域に認められる粗面小胞体で生成されたタンパク質に糖をつけ加え、細胞表面に輸送する役割を担います。 粗面小胞体 滑面小胞体 ミトコンドリア MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P12~14 26
3 細 胞 細胞の構造 細胞の構造 リソソーム 中心小体 C 細胞小器官 核 4.中心小体 ゴルジ装置 リボソーム 粗面小胞体 滑面小胞体 細 胞 第1章 人体の構造と機能 細胞の構造 リソソーム 中心小体 C 細胞小器官 核 4.中心小体 ゴルジ装置 リボソーム 細胞の構造 中心小体は、1対の中心子から構成されています。 中心子は、3本1組の微小管が9組集まってできており、短い円筒構造を示しています。 細胞分裂の際には、中心小体は細胞の両極に分かれ、紡錘糸によって染色体を引き寄せます。 中心子は、細胞内の運動に関係した構造と考えられ、気管粘膜上皮細胞の線毛などの基部にも類似の構造が認められます。 粗面小胞体 滑面小胞体 ミトコンドリア MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P12~14 27
3 細 胞 細胞の構造 細胞の構造 リソソーム 中心小体 C 細胞小器官 核 5.ミトコンドリア ゴルジ装置 リボソーム 粗面小胞体 細 胞 第1章 人体の構造と機能 細胞の構造 リソソーム 中心小体 C 細胞小器官 核 5.ミトコンドリア ゴルジ装置 リボソーム 細胞の構造 ミトコンドリアは、0.5~1μmの球形~糸状の小器官です。 電子顕微鏡で見ると二重の膜(内膜・外膜)でできた袋状構造を示し、内部には内膜がつくるひだ(クリスタ)がみられます。 ミトコンドリアには、糖や脂肪を分解する酵素が含まれており、TCA回路や電子伝達系と呼ばれる代謝過程によって細胞エネルギーであるATP(adenosine triphosphate:アデノシン三リン酸)を産生します。なお、ミトコンドリアは独自のDNAを備えていますが、すべて母親のミトコンドリアから受け継がれたものです。 受精時に精子のミトコンドリアが卵子に進入できないため、父親のミトコンドリアDNAが子に受け継がれることはないと考えられています。 粗面小胞体 滑面小胞体 ミトコンドリア MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P12~14 28
3 細 胞 細胞の構造 細胞の構造 リソソーム 中心小体 C 細胞小器官 核 6.リソソーム ゴルジ装置 リボソーム 粗面小胞体 滑面小胞体 細 胞 第1章 人体の構造と機能 細胞の構造 リソソーム 中心小体 C 細胞小器官 核 6.リソソーム ゴルジ装置 リボソーム 細胞の構造 リソソームは、球形の小体で、中に高分子物質を加水分解する酵素を含むことから水解小体とも呼ばれます。 細胞内の老廃物や取り込まれた異物を分解・処理する小器官であり、食作用をもつマクロファージではとくに発達しています。 粗面小胞体 滑面小胞体 ミトコンドリア MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P12~14 29
③ ① ② 3 細 胞 たんぱく質の合成過程 細胞の基本的役割:タンパク質合成 細 胞 第1章 人体の構造と機能 細胞の基本的役割:タンパク質合成 たんぱく質の合成過程 ①細胞核に含まれる遺伝子(DNA)の塩基配列がコピーされる(転写) ②不要部分が切り取られて必要な部分だけが情報(mRNA)として細胞質に送られる ③ ① ② タンパク質は、もっとも主要な生体構成物質であり、酵素やホルモンなど、生命活動において重要な役割を担う物質でもあります。 その合成は、細胞に与えられたもっとも基本的な役割とされ、細胞核内のゲノムすなわち遺伝子によって規定されています。 タンパク質は細胞核内にある遺伝子をもとに合成されますが、その際、アミノ酸の配列を決定する設計図となるのが遺伝子を構成するDNAの塩基配列です。 実際にタンパク質が合成されるのは細胞質のリボソームにおいてですが、ここに至るまでには2つの過程(転写・翻訳)を経ます。 まず、細胞核に含まれる遺伝子(DNA)の塩基配列がコピーされ(転写)、不要部分が切り取られて必要な部分だけが情報(メッセンジャーRNA;mRNA)として細胞質に送られます。 mRNAには、遺伝子から転写された塩基配列が記されており、リボソームではこれに応じてアミノ酸が並べられ(翻訳)、タンパク質の合成が起こります。 ③mRNAには、遺伝子から転写された塩基配列が記されており、リボソームではこの情報にしたがいアミノ酸が並べられ(翻訳)、 タンパク質の合成が起こる MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P14
第1章 人体の構造と機能 身体のしくみ 1 2 身体の区分と表記 細 胞 3 組織と器官 4 31
本項の概要 ヒトの身体は会社組織にたとえられることが多い。すなわち、会社には全体方針に沿って運営を分担する部(総務部・営業部・人事部など)があるが、これらはヒトの身体では器官系(消化器系・呼吸器系など)に相当する。また、各部(器官系)はその中での役割によっていくつかの課(秘書課・経理課など)に区分され、それぞれプロジェクト担当渉外担当などの係からなる。これらの部署は、人体では器官(心臓・肝臓・腎臓など)、およびこれを構成する組織(筋組織・骨組織など)に当たる。そして、それぞれの係には、役割分担された社員(細胞)が配されている。このように、会社組織における構成単位である社員に対し、細胞は「個体(生体)を構成する最小単位」として定義されている。 Self Check ・組織について簡潔に説明できる。 ・器官と器官系について簡潔に説明できる。
3 組織と器官 臓性部と体性部 器官の分類:臓性部と体性部 臓性部 体性部 ① 体腔(胸腔・腹腔・骨盤腔)に収まっている内臓器官 ② 第1章 人体の構造と機能 器官の分類:臓性部と体性部 臓性部と体性部 臓性部 体性部 ① 体腔(胸腔・腹腔・骨盤腔)に収まっている内臓器官 ② 臓性神経系に支配されている ③ 臓性神経系は「身体内部の調節」に働く ① 体腔を囲む壁をなす脳・神経・骨・骨格筋などの器官 ② 体性神経系に支配されている ③ 体性神経系は「外界への対応」に働く神経 一般に、内臓(臓性部)と呼ばれる器官群は、体腔すなわち体内の空所(胸腔・腹腔・骨盤腔)に納まっており、この体腔を囲む壁をなす器官群を体性部(脳・神経・骨・骨格筋)と呼びます。 これら体性部および臓性部(内臓)を支配する神経を、それぞれ体性神経系、臓性神経系と呼びますが、機能的には体性神経系は「外界への対応」に働く神経であり、臓性神経系は「身体内部の調節」に働く神経を意味します。 ただし、内臓と内臓を保護する体壁は場所によって完全に分けられるものではなく、体壁内にあっても立毛筋や血管は内臓に分類されます。 MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P15
3 組織と器官 器官を構成する 器官をつくる組織 4種類の組織 上皮組織 支持組織 線維成分 細胞成分 扁平上皮細胞 細胞間質 神経細胞 第1章 人体の構造と機能 器官をつくる組織 上皮組織 支持組織 線維成分 細胞成分 器官を構成する 4種類の組織 扁平上皮細胞 細胞間質 神経細胞 支持細胞 人体には、心臓・肺・肝臓・骨・筋などのように、肉眼で確認できる形をもち、からだの構成部品に相当する器官が数多くあります。 これらの器官は、臓性部にあるか体性部にあるかにかかわらず、いずれも何種類かの組織によって構成されています。 通常、組織は上皮組織・支持組織・筋組織・神経組織の4種類に分類され、それぞれ特徴的な構造をしていますが、基本的には細胞と細胞間質(細胞外基質)によって構成されます。 筋線維 (筋細胞) 筋組織 神経組織 MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P15
3 組織と器官 器官をつくる組織 上皮組織の分類 A 上皮組織 単層扁平上皮 多列(線毛)円柱上皮 単層立法上皮 重層扁平上皮 単層円柱上皮 第1章 人体の構造と機能 器官をつくる組織 A 上皮組織 単層扁平上皮 多列(線毛)円柱上皮 単層立法上皮 重層扁平上皮 上皮組織は、体表面や管腔臓器内膜および体腔内面を覆っており、細胞がシートのように並ぶほか、腺上皮と呼ばれる分泌細胞もみられ、単独で存在する杯細胞や集まって分泌腺を形成するものもあります。 通常、上皮組織は細胞の配列と形状から、重層扁平上皮(例:皮膚)、単層立方上皮(例:甲状腺)、単層円柱上皮(例:胃粘膜)、多列線毛上皮(例:気管)、移行上皮(例:膀胱、尿管)などに分類されます。 上皮組織の分類 単層円柱上皮 重層円柱上皮 MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P15
3 組織と器官 器官をつくる組織 支持組織とその概要 B 支持組織:隣り合う組織を連結したり、器官や身体を支える組織 第1章 人体の構造と機能 器官をつくる組織 B 支持組織:隣り合う組織を連結したり、器官や身体を支える組織 ほかの組織に比べて細胞間質と線維に富み、その性状が組織の物理的な性質(硬さ・弾力性など)に反映される 支持組織とその概要 組織 概要 結合組織 線維を産生する線維芽細胞を主体とする組織で 全身に存在する 軟骨組織 軟骨小腔に納まった軟骨細胞、ムコ多糖に富む ゲル状基質、およびE型コラーゲン線維により 弾力性を示す細胞間質から構成される 骨組織 Ⅰ型コラーゲンからなる線維にリン酸カルシウムが 沈着した硬い基質で構成される 血液 血漿と呼ばれる液体の細胞間質をもつ特殊な組織 支持組織とは、隣り合う組織を連結したり、器官や身体を支える組織のこと、結合組織・軟骨組織・骨組織・血液などに分類されます。他の組織に比べて細胞間質と線維に富み、その性状が組織の物理的な性質(硬さ・弾力性など)に反映されます。 たとえば、血液の細胞間質が液状であるのに対し、軟骨組織ではゲル状、骨組織では固体です。 また、腱などは豊富な線維をもちますが、細胞間質は比較的少なくなっています。 結合組織は、線維を産生する線維芽細胞を主体とする組織で全身に存在します。線維芽細胞に加え、アレルギーに関連するヒスタミンを遊離する肥満細胞や、免疫細胞であるマクロファージなども含まれます。 軟骨組織は、2~3個ずつ軟骨小腔に納まった軟骨細胞と、ムコ多糖に富むゲル状基質とE型コラーゲン線維により弾力性を示す細胞間質から構成されます。 血管分布のない無血管組織であるため、損傷すると修復困難となります。 骨組織は、Ⅰ型コラーゲンからなる線維にリン酸カルシウムが沈着した硬い基質をもちます。 基質内には骨細胞が納まる骨小腔がみられます。 骨組織には血管が進入しており、栄養供給やカルシウムの出し入れ、損傷時の修復に働きます。 なお、骨は骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収により、常にリモデリング(再改築)されています。 血液は、血漿と呼ばれる液体の細胞間質をもつ特殊な組織です。 血漿の90%は水ですが、フィブリノゲンやアルブミンなどのタンパク質も含む血液の細胞成分は血球(赤血球・白血球・血小板)と呼ばれ、血球は血液の容積の約45%を占めます。 MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P16~17
3 組織と器官 器官をつくる組織 C 筋組織:収縮性をもつ細長い筋細胞(筋線維)からなる組織 ・ 第1章 人体の構造と機能 器官をつくる組織 C 筋組織:収縮性をもつ細長い筋細胞(筋線維)からなる組織 ・ 収縮装置は、細胞内線維であるアクチンおよびミオシンフィラメントから構成される。 骨格を動かす骨格筋、心拍動に働く心筋、内臓や血管壁の 平滑筋に大別され、骨格筋と心筋は筋線維にみられる縞模 様から横紋筋と呼ばれる。 体性運動神経の骨格筋は、意識的に収縮できる随意筋だが、自律神経支配の心筋と平滑筋は意識的に収縮できない不随意筋に属する。 筋組織は、収縮性をもつ細長い筋細胞(筋線維)からなる組織です。 収縮装置は、細胞内線維であるアクチンおよびミオシンフィラメントから構成されます。 骨格を動かす骨格筋、心拍動に働く心筋、内臓や血管壁の平滑筋に大別され、骨格筋と心筋は筋線維にみられる縞模様から横紋筋と呼ばれます。 また、体性運動神経の骨格筋は、意識的に収縮できる随意筋ですが、自律神経支配の心筋と平滑筋は意識的に収縮できない不随意筋に属します。 MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P17
3 組織と器官 器官をつくる組織 D 神経組織:神経組織は、脳や脊髄の組織 ・ 第1章 人体の構造と機能 器官をつくる組織 D 神経組織:神経組織は、脳や脊髄の組織 ・ 細胞成分として神経細胞(ニューロン)と、それを支える支持 細胞から構成される。 神経細胞は、細胞体とそこから伸びる神経突起から構成され、とくに長いものは軸索と呼ばれる。 神経細胞の形状はさまざまであり、細胞体は直径数μm~l00μm、神経突起の長さは数μm~1mにも達する。 神経組織は、脳や脊髄の組織であり、細胞成分として神経細胞(ニューロン)と、それを支える支持細胞から構成されます。 神経細胞は、細胞体とそこから伸びる神経突起からなり、とくに長いものは軸索と呼ばれます。 神経細胞の形状はさまざまであり、細胞体は直径数μm~l00μm、神経突起の長さは数μm~1mにも達します。 MRテキストⅡ疾病と治療(基礎)P18