相互作用模型の理解へむけて (II) QGSJET

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相互作用模型の理解へむけて (II) QGSJET 板倉数記 KEK 2008年12月26日 ICRR

おことわり 20年以上の歴史があるQGSMや、その応用であるQGSJET、QGSJET-IIの詳細を、(短期間で、かつ一人で)理解することは困難を極める この発表は、あくまでも「現時点での」、板倉の(批判的かつ個人的な)理解に基づくものであり、不正確な点や、誤解のある可能性は十分にあります

References QGS model QGSJET (proceedings of ISVHECRI 96) QGSJET-II Kaidalov, PLB 116 (’82) 459, Kaidalov and Ter-Martirosyan, PLB 117 (’82) 247, Sov.J.Nucl.Phys. 39 (’84) 979. Kalmykov and Ostapchenko, Phys. At. Nucl. 56 (’93) 346 (MC realization of QGSM) * Kaidalov, “Soft Interactions of Hadrons in QCD”, Surv. in High Energy Phys. 13 (’99) 265 * Kaidalov, “High-Energy Hadronic Interactions (20 Years of the Quark-Gluon Strings Model)”, Physics of Atomic Nuclei, 66 (’03) 1994 – 2016 * Engel, “Soft Interactions”, hep-ph/011139 (proceedings of ISMD 01) QGSJET (proceedings of ISVHECRI 96) * Kalmykov, Ostapchenko and Pavlov, Nucl. Phys. (Proc. Suppl.) 52B (’97) 17 QGSJET-II * Ostapchenko, Nucl. Phys. B (Proc.Suppl.) 151 (’06) 143 (proceedings of ISVHECRI04) * Ostapchenko, “Nonlinear Effects in High Energy Hadronic Interactions”, hep-ph/0501093 (proceedings of QCD at Cosmic Energies) Ostapchenko, PLB636 (’06) 40 , PRD74 (’06) 014026 * Ostapchenko, “Hadronic Interactions at Cosmic Ray Energies”, hep-ph/0612068 (proceedings of ISVHECRI 06) * Ostapchenko, “Status of QGSJET”, arXiv:0706.3784 [hep-ph] (proceedings of C2CR07) ( Ostapchenko, PRD77 (’08) 034009 (for QGSJET-III???) ) *は今回、目を通したもの、太字は今日の発表が依拠しているもの

Quark-Gluon Strings Model QCDに根ざした模型をRegge理論に組み込み、 Regge理論のもつparameterの間の関係をつけたもの 1/N expansion and Reggeon/Pomeron QGS model Comparison with experiments Pomeron interactions 主に次のレヴューから A.B.Kaidalov, “High-Energy Hadronic Interactions (20 Years of the Quark-Gluon Strings Model)”, Physics of Atomic Nuclei, 66 (’03) 1994 – 2016   http://www.springerlink.com/content/p2v2k2x288455878/

1/N expansion in QCD Large Nc limit by ‘t Hooft (1974) カラーの数Nc=3を可変だと考えて、Nc  infinity, with g2Nc = fixed 典型的な非摂動的手法 1/Nc expansion = topological expansion Leading = gluon のみからなる planar diagrams

1/N expansion in QCD Alternative 1/N expansion (Veneziano, PLB52 (1974), NPB 117 (1976) ) さらにフレーバー数 Nf も大きい極限を考える    Nc, Nf  infinity, with g2Nc = fixed, Nc/Nf ~ O(1)  Leading は、fermion loopを含んだplanar diagrams この考え方を高エネルギーハドロン散乱に応用する 例えば、メソン・メソン散乱 Valence quarks = border lines S-channel cut  多重粒子生成 “Reggeon exchange” 一方で、t-channel に何の量子数も  交換しない散乱もある “Pomeron exchange” 1/N expansionの leadingではないが  高エネルギーで重要

Pomeron exchange in 1/N expansion Valence quarkを交換しないleadingダイアグラムは、planar diagramがvalence quark のつくる境界を「膜」のようにつなげたもの=“cylinder diagram” 二つの粒子生成の chainが生成 一般のトポロジーを持ったダイアグラムの振幅 nb : # of boundaries nh : # of handles Reggeon exchange nb =1, nh =0 O(1/N) planar diagrams Pomeron exchange nb =2, nh =0 O(1/N2) cylinder diagrams 2Pomeron exchange nb =2, nh =1 O(1/N4) nPomeron exchange nb =2, nh = n-1 O(1/N2n) Pomeron exchange は1/N展開の高次だが、エネルギー依存性を考慮すると重要になる > 0

Quark-Gluon Strings model Regge的な描像をcolor tube (string)の生成と関係づけて理解する   (1)衝突するハドロン中のvalence 粒子(quark-antiquark)が対消滅する場合   (2)diffractiveな場合 [(1)が起こらない場合] (1)の場合 (Reggeon exchangeに相当) カラーチューブの生成 → 崩壊 対消滅 Q-qbar の消滅を含む過程のハドロンa, b の散乱断面積 ハドロン中にrapidity yq をもつvalence quarkを見出す確率 断面積はrapidity yqbar(a) ~ yq(b) の値によらないはず。それを満たすw(y)は => 一方、Reggeon交換なら Impact parameter dependence  slope parameter a’R(0)

Quark-Gluon Strings model (2)の場合 (Pomeron exchangeに相当) Valence quarkは対消滅しない  color exchangeが起こる (1)と同様に考えるなら、二つのハドロンからグルーオンが出てきて対消滅する color octet ~ (q qbar)octet in the large Nc limit カラーチューブ2本 (1)Reggeonの場合 このようにして、Reggeon・Pomeron交換と カラーチューブ描像を関係付けていく。 詳細は文献を参照のこと 対消滅 ここにカラーチューブが生成

Quark-Gluon Strings model QGSMでは、cylinder type diagram で表される「ポメロン」は、aP(0) > 1の simple poleであると仮定する(supercritical Pomeron) D= aP(0) –1 > 0 なので、多重Pomeron交換の寄与 snD が重要になる n Pomeron exchangeの unitary cut  2k chains が生成 (1 cut  2 chains) AGK cutting rule n Pomeronの前方弾性散乱振幅 がわかれば、それをカットして、 様々な断面積を求めることが可能

Cuts and multi-Pomeron diagrams 様々な断面積が 多重ポメロン交換の カットとして表現できる (この図のポメロンはBFKL ポメロン(2 gluon ladder)で あることに注意。 Cylinder Diagram では、 カットに伴って2つのチェイン が生成する) 図はEngelの講演から

AGK cutting rules ↓ 1ポメロンの寄与 2ポメロンの寄与は負になる

Multiple Pomeron exchange One Pomeron contribution uncut Pomerons

Multiple Pomeron exchange Coefficient = 0.4 GeV-2 = 0.155 mb (cf Froissart bound p/mp2 = 62 mb, COMPETE = 0.308 mb, rNLOBFKL = 0.446 mb at as=0.1 )

Comparison with experiments

Pomeron interactions Diffraction General Pomeron interactions (n  m Pomerons) パイオンが まわると考える Cardy, NPB75 (’74) Kaidalov, et al (’86) モデル化

QGSJET 「ハードプロセスを含まない」という、QGS model の 最大の欠点を「改良」したもの Kalmykov, Ostapchenko and Pavlov, Nucl. Phys. (Proc. Suppl.) 52B (’97) 17 「ハードプロセスを含まない」という、QGS model の   最大の欠点を「改良」したもの やり方は minijet modelとよく似ている   eikonal = soft eikonal + semi-hard eikonal 正しくやればそれなりに意味のあるものになるはず

QGSJET Impact parameter representation of 1 pomeron contribution Total cross section (remember Durand-Pi) Minijet modelでやったように、eikonal の部分を変更する 非摂動的ソフトなカスケード  Qt < Q0 ~ 2 GeV 摂動的ハードなカスケード  Qt > Q0

Semihard part in QGSJET Semihard part は、ソフトなpomeron emission を伴う (!?) (DGLAP) “Status of QGSJET”

Semihard part in QGSJET  一見、理解不能だが、以下のように表現すると正しそうにも思える   (Ostapchenko PRD 2006より) パートンのpdfを摂動的スケールQ0まで発展させるのを ポメロンを用いて表現したということか? ( Q0 より上のスケールはDGLAPを使う) ちなみに、pdfとしては、HERA以前(small-x でgluon 分布は増加せず)を用いている

QGSJET-II QGSJETでは、多重ポメロン交換のみ。QGSJET-IIでは、 高エネルギーで重要になる「ポメロン相互作用」を取り入れた   Multi-Pomeron vertex (n m Pomerons) only soft Pomerons at the vertex (why???calculability?) No Pomeron loops (why???)  Only Net diagrams are summed

QGSJET-II Simplest example of resummation  “Fan” diagrams Pion model For the vertex (Cardy ’74)

QGSJET-II

まとめ QGS模型は、Regge理論とストリングダイナミクスに基づいた非摂動的な多重粒子生成を記述する描像であり、低エネルギー反応をよく記述するべきもの QGSJETは、QGS 模型にハードパートを付け加えたものなので、原理的にはQGS模型より高エネルギーへ適用可能。基本的には多重ポメロン交換に基づき、ポメロンにソフトとハードな部分を持たせる QGSJET-IIは、さらにポメロン相互作用を入れたもの、但し、ポメロンがループを作らないで網目状に張りめぐらされたもののみを取り入れた 個人的な感想:面白い試みだし、様々な仮定のもとで最終的なところまで持っていくのは評価できる。しかし、やったことの気持ちはわかるが、やり方が良くない(正当化が難しいことが多い)。この模型が多くの実験データを説明できるとしても、過大に評価してはいけない。