耳穴装着型中空骨伝導スピーカの開発  金沢大学 三浦英充,上野敏幸,山田外史.

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耳穴装着型中空骨伝導スピーカの開発  金沢大学 三浦英充,上野敏幸,山田外史

骨導音 通常の音「気導音」 空気の振動 感知、集音 骨の振動音「骨導音」 骨の振動 感知、集音 図1 音の伝達経路 骨導音の特徴 図1 音の伝達経路 骨導音の特徴 引用:ゴールデンダンス株式会社 騒音下でも明瞭に感知、集音 装着位置の自由度が高い 骨導音を利用した機器→「骨伝導デバイス」

軍事、災害現場用では既に普及が進んでいる 骨伝導デバイスの現状 軍事、災害現場用では既に普及が進んでいる マスクやヘルメットと一体型構造 図2 災害現場での使用例 一般用の普及はまだ途上 振動伝達にバンドが必要 耳穴を塞ぐ→気導音が遮断 図3 一般用の使用例 引用 株式会社ゴールデンダンス

本研究の目的 骨伝導スピーカ 耳穴装着+中空構造 脱着容易で軽量 気導音を遮断しない 現行のイヤホンと遜色ない使用感 クラクションなどの危険信号を聞き逃さない

Step1 試作機の製作及び評価

製作した骨伝導スピーカ 鉄ガリウム合金「Fe-Ga」 (Fe-81.6%, Ga-18.4%) デバイスとしての小型化が容易 特徴 現行のイヤホンと同等の装着性を実現 中空構造で耳を塞がない 素材は全て鉄系材料で頑強 磁歪材料「Fe-Ga」を振動子として使用 鉄ガリウム合金「Fe-Ga」 (Fe-81.6%, Ga-18.4%) 図5 Fe-Ga 延性材料 加工性が良い 形状の「小型化」 に優れた材料 高機械強度 大応力に耐える 高比透磁率 駆動電圧が低い 5V程度の駆動源で駆動可能 デバイスとしての小型化が容易

骨伝導スピーカの構成 Vibration Ring(Fe) Spacer(Fe) Fe-Ga Coil 図6 製作したスピーカの寸法と形状 図6 製作したスピーカの寸法と形状 Fe-Ga:音声信号→音声振動 スペーサとFe-Gaで閉磁路を構成 振動リングの振動が骨に伝達

駆動原理 「磁歪材料」Fe-Ga 磁歪効果 内部磁束の変化に応じて伸縮する 図7 磁歪効果 縦振動 曲げ振動 図7 磁歪効果 縦振動 曲げ振動 図8 駆動時のスピーカの振動原理

物理量評価 周波数帯域 音声認識に必要な範囲:300Hz-3.5kHz 音楽鑑賞に必要な範囲:20Hz-20kHz 縦振動 曲げ振動 図9 測定系 20Hz-20kHzの帯域で 変位と加速度を評価

電流-変位 図10 励磁電流ー変位 縦振動 最大変位:2μm 曲げ振動 最大変位:16μm 縦振動の約8倍の変位量

変位の周波数応答 縦振動 周波数による変動が少ない 曲げ振動 500Hz以上で大きく減衰 図11 変位の振幅応答 曲げ振動 図11 変位の振幅応答 曲げ振動 共振点を高域にする必要がある 図12 変位の位相応答

振動加速度レベル 振動加速度レベル 20log10(a/a0) 加速度 a 基準加速度レベル a0 = 10-5[m/s2] 60dBが人間の感知する最小の振動加速度 20Hz-20kHzの帯域で加速度を測定 上式により振動加速度レベルを算出

振動加速度レベルの周波数応答 図13 振動加速度レベルの周波数応答 曲げ振動>縦振動 全域にかけて60dB以上の高レベル

まとめ 縦振動 最大変位:2μm 変位:可聴域全域でフラット 振動加速度レベル:全域にかけて60dB以上 曲げ振動 最大変位:16μm 周波数特性 変位:可聴域全域でフラット 振動加速度レベル:全域にかけて60dB以上 曲げ振動 最大変位:16μm 周波数特性 変位:500Hz以降で大きく減衰 振動加速度レベル:全域にかけて100dB以上 変位量、加速度レベルが共に大きい曲げ振動を採用 共振周波数を高域にすることで変位の減衰を防ぐ

実装 実際に耳に装着し、音声を再生 (曲げ振動) ポータブルデバイスで十分な出力 楽器の音は明瞭に感知 音声の感知に難がある 微少ノイズが常時発生 音声認識に必要な周波数帯域をカバーしきれていない

官能評価 各周波数における「聞こえ方」を検証する 周波数100Hz-20kHz 最小可聴値測定 骨導音を人がどのように知覚するかを検証 ラウドネス比較実験 骨導音、気導音の「音の大きさ」を比較

最小可聴域測定 可聴可能である最小レベル 入力電圧値を測定 可聴不可である最大レベル 1.0V = 1dB 使用音源 正弦波 測定周波数 0.02-20[kHz]の1/3.oct. 設置部位 耳穴 電圧(音量)   調整 測定 可聴不可能な最大電圧 可聴可能な最小電圧 図14 測定方法

測定結果 図15 最小可聴域測定 2-10kHzまでは駆動電圧2mVで感知 12.5kHz以上で必要電圧が440倍に 図15 最小可聴域測定 2-10kHzまでは駆動電圧2mVで感知 12.5kHz以上で必要電圧が440倍に 500Hz以下で必要電圧が急激に上昇 音声認識に必要な範囲:300Hz-3.5kHz

研究の流れ Step1 バイモルフ型スピーカを試作評価 大きなノイズが発生 Step2 構造、電子制御両面から改善策を検討 Step3-1 構造改善 制御回路設計 →共振周波数の高域化 →線形化処理 ユニモルフ型スピーカ フィードバック制御回路

Step2 ノイズ除去手法の検討 バイモルフ型スピーカで発生するノイズの原因を検証 構造からのアプローチ 共振周波数の再設定 電子制御からのアプローチ セルフセンシング 両方を平行して行う

Step2 構造からのアプローチ バイモルフ型 Galfenolが二本 縦振動と曲げ振動が混在する 変位大 パワー大 ユニモルフ型 曲げ振動のみ存在 縦振動型 縦振動のみ存在 共振点の高域化 (4kHz以上)

Step2 電子制御からのアプローチ 変位‐電流が非線形 電子制御で線形化 IIRフィルタ

Step3-1 構造改善 強度が明らかに足りない Galfenol幅0.5mm ヨーク幅 0.3mm コイル幅 0.5mm パラメータの再設定

ヨーク部の素材選定

振動リングの素材選定 音響インピーダンス 皮膚:1.52×106 頭蓋骨:3.75~7.38×106 媒質名 密度[g/cm3] 縦波音速[m/s] 横波音速[m/s] 音響インピーダンス[kg/m2s] SUS304 7.7 5960 3240 46×106 / 25×106 A2024P 2.8 6420 3040 18×106 / 8.5×106 シリコン 2.2 8433 アクリル 1.2 2735 1397 3.3×106 / 1.68×106 音響インピーダンス 皮膚:1.52×106 頭蓋骨:3.75~7.38×106

改良型の構造 Galfenol幅1mm ヨーク幅 1mm 梁間隔 0.5mm ヨーク幅と梁間隔を変えて 等価バネ係数を変化

製作したヨーク ヨーク幅1mm コイル幅1mm ヨーク幅0.7mm ヨーク幅[mm] 梁間隔[mm] Y0.7-W0.5型 0.7 0.5

測定準備 変位測定用のターゲット:0.019×10-3 アルミ:非磁性低密度 振動子の質量[kg] 0.077×10-3 ヨークの質量 0.35×10-3 振動リングの質量 1.16×10-3 磁石の質量 0.4×10-3 アルミ:非磁性低密度

バイアス磁石の選定 電流ー磁束密度 電流ー磁束密度 パラメータ:磁石の断面積 パラメータ:磁石の長さ

磁歪特性 電流ー変位 時間ー変位 パラメータ:励磁電流 パラメータ:励磁電流 線形領域のみで約6μmの変位(縦振動の4倍)     (0.4App(66.8AT)の励磁電流)

磁束密度ー変位 磁束密度ー変位 パラメータ:励磁電流

変位の周波数応答 共振周波数約2kHz (バイモルフ:約500Hz)

まとめ 残りのパターンの物理量評価、比較 共振周波数を4kHz以上にするためのパラメータの推定 官能試験→音響的な評価 ヨーク幅[mm] Y0.7-W0.5型 0.7 0.5 Y1-W0.5型 1 Y1-W1型 残りのパターンの物理量評価、比較 共振周波数を4kHz以上にするためのパラメータの推定 官能試験→音響的な評価

縦振動構造のバイアス

電流-変位,電流-磁束密度

変位の周波数応答

縦振動構造 バイモルフ構造の部品で 製作可能

伝達関数の決定 発生力 22.4 等価バネ係数[N/m] 0.15×106 等価質量[kg] 2.5×10-3 減衰比 0.05 磁歪素子の挙動をシミュレーションに組み込むためには 入力:信号電圧 出力:変位 の伝達関数を求める必要がある デバイスを一次機械モデルと近似 運動方程式から伝達関数を算出 各等価係数を実験的に求めた 発生力 22.4 等価バネ係数[N/m] 0.15×106 等価質量[kg] 2.5×10-3 減衰比 0.05 臨界減衰定数 38.7 粘性減衰定数 1.9 カップリング係数 41

デバイスの等価パラメータ 発生力 22.4 等価バネ係数[N/m] 0.15×106 等価質量[kg] 2.5×10-3 減衰比 0.05 臨界減衰定数 38.7 粘性減衰定数 1.9 カップリング係数 41

ステップ入力時の遅延

入出力の時間波形(正弦波1kHz)

入出力の時間波形(正弦波5kHz)

今後の課題 構造 残りのパターンの物理量評価、比較 官能試験

御清聴ありがとうございました

Step3-2 電子制御 音声信号波形に変位波形が追従しているかを検知 フィードバック回路によって補正を行う サーチコイル 検知にはセンサが必須: ひずみゲージ

サーチコイルによる変位検知 サーチコイルをGalfenolの主磁路に巻く Galfenolの変位変化に応じて磁路内で磁束変化が発生 サーチコイルに誘導電圧が発生する これをセンサとして利用 誘導電圧(磁束密度)と変位の線形性を調べる

磁束密度-変位特性(正弦波入力) 相関性99.9%を確認

回路概要 オペアンプ電源 フィードバック制御部 センサ信号増幅部 制御信号出力部 位相反転出力

センサ信号出力部 センシング信号としてフィードバック部に入力 サーチコイル信号 反転増幅により微少信号を増幅

フィードバック制御部 センシング信号 音声信号 差動回路により差分を出力

制御信号出力部 音声信号 音声信号と センシング信号の差分値 加算回路により音声信号+差分値を 制御信号として出力

回路概要(再掲) オペアンプ電源 音声信号との 差分値を出力 微少なセンサ信号を増幅 制御信号として出力 位相反転出力

シミュレーションによる動作確認 センサ信号波形(10Hz):実際の測定データにより入力 音声信号:10Hzの正弦波と仮定 制御信号が 音声信号+(音声信号ーセンサ信号) となっているか確認

シミュレーション結果

シミュレーション結果

まとめ 共振周波数以上の周波数では共振音が支配的 ノイズの主原因? 伝達関数の整合性を実験的に検証(周波数、波形) 実際の音声信号でシミュレーション 回路制作