欧州統合とフランス- 「政策の失敗」による推進?

Slides:



Advertisements
Similar presentations
制度経済学Ⅰ ①. 制度経済学とは何か 制度 institutions 最も根本的な制度は・・・・ 言語、法、貨幣 いずれも経済、そして経済学に関係する それらなしに、経済は成立しない.
Advertisements

1.欧州. 特許会社  特許会社とは …. 経営権が国に保留されている事業の、 一部または全部の経営権を、法律などに より付与された会社。  世界で最初の特許会社 モスクワ会 社.
第9回(11/20)  立憲制度と戦争.
通貨統合と平和の構築 (総合講座「平和構築の社会科学」)
15 パクス・アメリカーナの時代 1 アメリカの戦後構想とIMF体制 2 IMF体制の成立と発展,ドル危機 3 固定相場制の崩壊と変動相場制
大阪大学法学部 国際公共政策学科3回 山下汐莉
Web.sfc.keio.ac.jp/~thiesmey/shakainote.htm.
モンロー主義からの脱却 Manifest Destiny 戦後のアメリカ外交
公共政策大学院 鈴木一人 第12回 各国比較:EU 公共政策大学院 鈴木一人
ECの成立へ マーストリヒト条約の成立 通貨統合
米ソ 冷戦       ~今現在とのつながり~       11-3      福島 愛巳.
In larger Freedom 平和構築・人権擁護・開発援助 日本から国際社会へ
地質地盤情報協議会案 仮称・地質地盤情報協議会の提案
援助は現場で起きている ODAの現地機能強化を どのように推進すべきか FASID国際開発援助動向研究会 2005年7月22日
『手に取るように金融がわかる本』 p.202~p.223 part1~5
EUにおける通貨同盟(ユーロ) 一橋大学大学院商学研究科 小川英治 2016/5/13 EU入門.
4 第3次障害者基本計画の特徴 障害者基本計画 経緯等 概要(特徴) 障害者基本法に基づき政府が策定する障害者施策に関する基本計画
第12章 現在のグローバル化を考える.
現代のグローバル化を考える 冷戦体制解体 民主主義とグローバル化.
第7章 どのように為替レートを 安定化させるのか
世界に広がるフランス語: 5大陸で話されるフランス語ーその経緯と現実
アジア恊働大学院(AUI)構想 AUI推進機構/設立趣意書
民営化とグローバリゼーション 国家の役割は何か.
第1章 地域の政治力学と日本 ~東亜共同体への動き~
失われた10年 日本経済の現状と課題 日本の平和への貢献
日本学術会議の新しいビジョンと課題 学アカデミア信頼の確立: 21世紀のパラダイム
日本はTPPに参加すべきか 【否定派】 長谷川 元田 田中 松村.
公共政策大学院 鈴木一人 第7回 政治と経済の関係 公共政策大学院 鈴木一人
手に取るように金融がわかる本 PART6 6-11 09bd139N 小川雄大.
地政学2 「新しい地政学」の登場 政治地理学の理論と方法論 第3週.
フランスの年金調整会議 年金調整会議は、2000年に創設された。常設の団体であり、メンバーは国会議員、経営者・労働組合の代表、専門家、国の代表である。その主たる目的は、フランスの年金制度を監視すること、年金に関連する公的政策への勧告をすることであり、専門的知識と全ての参加者による協議に基づいている。
通貨統合と最適通貨圏 一橋大学商学部 小川英治 マクロ金融論2016.
資源ナショナリズムについて 2012/01/20 長谷川雄紀.
『ギリシャはユーロから          離脱すべきか?』 【否定派】 長谷川 雄紀 田中 道信 山本 恵美.
日本の自由貿易 ~日中韓FTA、RCEP、TPP~
公共政策大学院 鈴木一人 第10回 各国比較:アメリカ 公共政策大学院 鈴木一人
公共政策大学院 鈴木一人 第7回 政治と経済の関係 公共政策大学院 鈴木一人
社会主義の教育理論.
ペルー経済の特徴 -2015年の生産量で,銀が世界2位,銅,亜鉛が3位,鉛,錫が4位,金が6位。 ○定着した民主主義
国際的な情報セキュリティへの取り組み 各国の対応とサイバー犯罪条約 インターネット時代のセキュリティ管理.
フランスと欧州統合- 「機会」あるいは「拘束」?
グローバリゼーションは 国際的画一化なのか
ソーシャルワークの価値と倫理 ~国際ソーシャルワーカー連盟の議論を踏まえて~
国家.
平成29年度 WPI新規拠点公募のポイント (採択数・支援規模・ホスト機関の要件 等) (研究領域) (ミッション) (その他) 1
日本政治の第一歩 第1章 戦後の日本政治.
民主主義ってどういうこと? 1、始まり 2、見方 3、政治 4、課題 5、これから.
①新規の需要を求めた海外展開(自国内展開 →EU域内展開 →EU域外展開) ②収益性の高い事業への参入・集中(再エネ電源への投資 等)や、
世界から見たら? サンフランシスコ講和条約 敵国条項 日米地位協定 日米安保条約 日米原子力協定 憲法改正 基地問題 経済問題 原発問題
社会主義の教育理論.
結論 菅久・笠原・新実・伊藤・藤矢 2018/1/10.
イクレイの発展とローカルアジェンダ21 岸上 みち枝 2006/11/29
グローバリゼーションは 国際的画一化なのか
グローバリゼーションは 国際的画一化なのか
SCS研修「高等教育における障害者支援(2)」 国際的な障害者の権利保障と教育
総選挙後の日本の進路 情報パック11月号.
地域の課題解決に向けた 事業を戦略として構築する JC地域総合戦略 各地の自治体の地域総合戦略を分析・研究し、
アフリカ連合 (AU: African Union)
5本柱 運動推進の 時代の変化に即応した、金属運動のさらなる強化と発展の追求 勤労者に安心・安定をもたらす雇用をはじめとする生活基盤の確立
中朝はトランプを狙う 情報パック2月号.
CI 誕生50周年! CI is 50! グローバルな消費者活動・50年のあゆみ
中選挙区制と政党政治 一つの選挙区から複数の議員 派閥政治を生み出す構造 限られた有権者からの支持固め
英国のEU離脱 平成30年2月 在英国日本国大使館.
戦争と平和 正義の戦争は 戦争で利益を得る者は.
新しい日本の安全保障戦略ー多層協調的安全保障戦略
アフリカ開発の国際的枠組み AU NEPAD TICAD アフリカ自身の オーナーシップ 準地域機関 国際社会の パートナーシップ
平成から「令和」へ 日本の針路 情報パック4月号.
経済学入門 ミクロ経済学とマクロ経済学 ケインズ経済学と古典派マクロ経済学 経済学の特徴 経済学の基礎概念 部分均衡分析の応用.
「フランスの有権者はなぜEUに背を向けるのか ーー欧州懐疑主義台頭の原因ーー
公共政策大学院 鈴木一人 第9回 各国比較:アメリカ 公共政策大学院 鈴木一人
Presentation transcript:

欧州統合とフランス- 「政策の失敗」による推進? 関西大学/法学部学術講演会 欧州統合とフランス- 「政策の失敗」による推進? 吉田 徹 yoshidat@juris.hokudai.ac.jp 北海道大学公共政策大学院(HOPS)

1. 問題の再定位 はじめに 「外交的資源」としてのヨーロッパは本当か? (S.Hoffman,1993) 内政と外交とのリンケージに焦点  「内政・外政の<政策の失敗>に対する解決として、   欧州統合という政治的企図を利用するアクターの 戦略」 ⇒「統合の先導役」ではなく「政策の失敗の補完」を行う構造の摘出・・・21世紀における「停滞」?

2. 「統合理論との接合」 ➣「経済的リベラリズム」の系譜 -「新機能主義(neo-functionalism)」     P.Schmitter 「経済的技術者」     E.Haas 「スピルオーバー」 ➣「経済的リアリズム」の系譜     - 「政府間主義(intergovermentalism)」      A.S.Milward 「国民国家の救済」      A.Moravscik 「商業的利益」 ➣「政治的リベラリズム」      K.Deutch  「安全保障共同体」 ➣Where is the “Political Realism”?

3.「フランスと欧州統合過程」再論 ➣ 「躁鬱」としての欧州統合(R.Frank,2003) -影響力希求と主権喪失の危惧のサイクル  -影響力希求と主権喪失の危惧のサイクル   「しばしば自分を孤立させるヨーロッパの危機の当初に、フランス人はヨーロッパの『再発進』に参加し、あるいは大いに貢献しようとする」 ➣「機会/拘束」のサイクル(Cole&Drake,2000)   -国益の機会 ←→ 拘束の道具としての欧州統合 ⇒EDC否決(54年)⇒「フーシェ・プラン」(62年)⇒スネーク離脱(74年)⇒EMS創設(79年)⇒「一国社会主義」(81年)⇒SEA(86年) ⇒ ……ブレーキとアクセルの相互反復 ➣「統合の揺らぎ」の説明可能性 →加盟国における「デモクラシー」の編成のあり方と規範的理念との関係(V.A Schmidt)  ドイツ: 「埋もれたアイデンティティ」  英 国: 「議会主権」VS「経済的利益」

4.政策の失敗-植民地問題(1) ➣「フランス共同体(Union Française)」の問題 →50年代半欧州統合の本格的推進(「欧州合衆国のための行動委員会」/「共同市場設立構想」) →海外領土と欧州共同体との「共存」の模索・・・「帝国」か「欧州統合」か? ➣計画庁/省庁間委員会/G.ドフェール:フランス共同体と欧州統合のリンケージ ➣「ユーラフリック(Eurafrique)」構想 -「ヨーロッパの6カ国と海外領土の間で共同市場を目指すよりも共同市場加盟国と海外領土の連合を目指すことが適切」(「フランス代表団の宣言,1956年) →特恵関税・農業保護・共同体支援制度の実現 -モレ首相「アフリカとの協力は欧州が得たかつてないチャンスであり、共同市場の経済的次元でこれが基礎付けられた後に二つの大陸による連合は、世界的な勢力の均衡によって重要な政治的・経済的次元を持つようになる」(1957年)

4.政策の失敗-植民地問題(2) ➣1958年アルジェリア危機と仏共同体の崩壊 →ド・ゴールの登場と新生ユーラフリック構想 英米仏のトロイカ体制の模索と大西洋同盟構想の失敗 →ユーラフリック、ヨーロッパ、世界政策の「3つのサークル」 →独仏機軸の完成による新たな欧州統合 ➣「植民地問題」と欧州統合   ①植民地に対する管理政策   ②欧州統合の中でのフランスの影響力拡大   ③対米・対ソに対する第三勢力形成   ④文明化・近代化の使命

5.政策の失敗-社会主義(1) ➣1981年ミッテラン大統領、社共政権の誕生 「資本主義システムの代替策」としての社会主義 →有効需要管理策と国有化 →スタグフレーションの発生、財政赤字、フラン安 ➣「82年と83年にグローバル化は存在した」(J.ドロール) →EMS(欧州通貨制度)からの離脱圧力 ➣「欧州建設と社会正義という二つの野心の間で揺れ動いた」(F.ミッテラン)

5.政策の失敗-社会主義(2) ➣1984年前期EC議長国 →「ヨーロッパの再興」:英還付金問題、新規加盟、人・モノの自由移動、ソーシャル・ヨーロッパ、EMS制度の強化  「乳製品、ワイン、魚、予算といった問題から離れて共同体の未来について話合う時代を迎えた」(H.ヴェドリーヌ) ➣「フランスの独立と欧州の建設が相互補完的になるような方法」(F.ミッテラン) →80年代前半のコミットメントが1992年TEUへと結実 ➣「社会主義」と欧州統合   ①「責任回避」戦略の貫徹   ②社会党政治の覇権   ③「前方への逃避(flucht nach vorn)」

6.政策の失敗-ドイツ統一(1) ➣東西ドイツ統一、ソ連ブロックの消滅、米国の覇権 →89年11月コール首相の「10項目提案」 →オーデル・ナイセ国境線問題の危惧 ➣欧州統合の進展と表裏一体のプロセス →「脅威の再生」の回避・・・ドイツの「囲い込み」  「ドイツという現象を無力化する制度的防壁」の構築(E.Guigou) ➣欧州委員会・議会の権限強化、閣僚理事会意思決定の範囲拡大、   社会憲章策定、EBRD創設、EMUの早期具体化

6.政策の失敗-ドイツ統一(2) ➣ドイツ統一に対する出口戦略としての「欧州の創出」 cf.「欧州国家連合」構想 ➣ドイツ統一に対する出口戦略としての「欧州の創出」                                  cf.「欧州国家連合」構想   →「ドイツ国民が自由な自主的決定を通じて統一できる欧州における和平の状態の強化を模索する(略)欧州統合のパースペクティブのもとに展開されなければならない」(ストラスブール欧州理事会) ➣「ドイツ統一」と欧州統合   ①「1913年への回帰」の回避   ②統一プロセスの制御   ③ポスト冷戦構造における「欧州協調」シナリオの優先

7.おわりに ➣内政・外政における<政策の失敗>を欧州統合の次元へと<プロジェクション>する構造・・・「Fiction/Myth」としての欧州統合 →植民地問題:海外領土維持と国際社会の地位 →社会主義:国内改革アジェンダを欧州次元へと棚上げ →ドイツ統一:欧州統合への枠内への封じ込め ➣「経済力」でも「恒久平和」でもない政治によって生じるリアリズム・・・「希望」による「権力体」 ➣アクターの<合理的行動>が欧州統合という<非合理的>な政治的構想を支持する ➣「歴史の終焉」時代におけるQuo Vadis Europa?