法とコンピュータ(第2回) 場所 慶大法学部(三田校舎教室) 期間 2004/4/20 講師 吉野一
テーマ 表計算 法的判断と法適用ー法的推論の構造
表計算 Microsoft Excel 目標:基本的な使い方をマスターする
法的判断と法適用ー法的推論の構造 概要 法的判断は出来事に法を適用することによってなされる。 この法的推論の正当化の側面は法的三段論法の構造であることを示す。すなわち、 適用される法を確定し、 事実を確定すると、 法的判断はそれらから論理的に演繹される結論として示されうる。 ⇒法的正当化の推論 しかし、法的正当化の推論が成立する過程では、創造的推論がなされる。すなわち、 事実を記述する文の創設 結論としての法的判断を記述する文の創設 適用法規の選択と解釈命題の創設がなされる。 ⇒法的創造の推論 この二つの推論は相互に関係している。
1 事実の記述 設例8f_a (1)4月1日、ニューヨークの農業機械メーカー安西が、日本商社バーナードのハンブルク支店に対して、申し込みの手紙を発信した。手紙の内容は、安西がバーナードに農業耕作機械一式(トラクターとレーキからなる)を売る、トラクターの代金は5万ドル、安西はその機械をバーナードに5月10日までに引き渡す、バーナードは代金を安西に5月20日までに支払う、機械はアメリカの貨物船で運ぶ、というものであった。 (2)4月8日、その手紙はバーナードの郵便受けに届いた。 (3)4月9日、バーナードは安西に電話をした。「申し込みは承諾。但し、日本のコンテナ船で運ばれたし。」 (4)5月1日、安西は農業耕作機械をニューヨーク港において日本のコンテナ船に引き渡した。
2 制定法 International Convention on Contracts for International Sale of Goods国際物品売買契約に関する国連条約(CISG) 第14条 (1)一又は複数の特定の者に向けられた契約締結の申入れは、それが十分明確であり、かつ、承諾があった場合には拘束されるとの申込者の意思が示されているときは、申込となる。申入れは、物品を示し、かつ、明示又は黙示に数量及び代金を定め又はその決定方法を規定している場合には、十分明確なものとする。 第15条 (1)申込は、被申込者に到達した時にその効力を生ずる。 (2)申込は、たとえ取消不能のものであっても、申込の撤回通知が申込の到達前又はそれと同時に被申込者に到達する場合には、撤回し得る。 第16条 (1)契約が締結されるまで、申込は取消すことができる。ただし、この場合には、被申込者が承諾の通知を発する前に取消の通知が被申込者に到達しなければならない。 第17条 申込は、たとえそれが取消不能であっても、その拒絶通知が申込者に到達した時は、その効力を失う。
第18条 (1)申込に同意する旨を示す被申込者の陳述その他の行為は、承諾とする。 (2)申込に対する承諾は、同意の意思表示が申込者に到達した時にその効力を生ずる。 第19条(1)承諾の形をとっているが、付加、制限その他の変更を含んでいる申込に対する回答は、申込の拒絶であり、反対申込となる。 (2)しかしながら、承諾の形をとった申込に対する回答が、付加的条件や異なった条件を含んでいても、申込の内容を実質的に変更するものでない場合には、申込者が不当に遅滞することなくその相違に口頭で異議を述べ又はその旨の通知を発しない限り承諾となる。申込者が異議を述べない場合には、契約の内容は申込の内容に承諾中に含まれた修正を加えたものとする。 (3)付加的条件又は異なった条件であって、特に代金、支払、物品の品質及び数量、引渡の場所及び時期、一方当事者の相手方に対する責任の限度、又は紛争の解決方法に関するものは、申込の内容を実質的に変更するものとして扱う。 第23条 契約は、申込に対する承諾がこの条約の規定に従って効力を生じた時に成立する。
3 法的推論の構造 法的三段論法 その例 修正された法的三段論法 正しく理解された法的推論の構造 大前提:法規 小前提:事実 結 論:決定 3 法的推論の構造 法的三段論法 大前提:法規 小前提:事実 結 論:決定 その例 修正された法的三段論法 解釈などで具体化の諸命題が創設追加される 正しく理解された法的推論の構造 体系化の解釈命題(法原則)も追加される。
2 法的三段論法 法規 法的正当化の推論 認定された事実 法的判断
法的三段論法の例 申込効力発生←申込到達15(1) 法的正当化の推論 4/8に申込到達 4/8に申込効力発生
修正された法的三段論法論の構造 法的正当化の推論 法的創造の推論 法規 法概念の常識 解釈(事例向き) 認定された事実 記述された事実 法の目的 法規 視線の往復 法概念の常識 法的正当化の推論 創設 解釈(事例向き) 法的創造の推論 創設 認定された事実 創設 記述された事実 出来事 具体的妥当性 創設 法的判断
法的正当化の推論 修正された法的三段論法の例 出来事 Case8f_a2 申込効力発生←申込到達15(1) 意思表示←申込 創設 意思表示到達←郵便受けに入る 4/8に申込到達 創設 申込の通知が4/8に郵便受けに入る 出来事 Case8f_a2 創設 4/8に申込効力発生
法的推論の構造 法的正当化の推論 法的発見の推論 法原則 法規 解釈(判例) 法概念の常識 解釈(事例向き) 認定された事実 記述された事実 法の目的 法規 解釈(判例) 視線の往復 法概念の常識 法的正当化の推論 定立 解釈(事例向き) 法的発見の推論 定立 認定された事実 定立 記述された事実 出来事 具体的妥当性 定立 法的決定
宿題 「契約成立」の例を考える 事例8f_aにおいて「4/9に契約が成立した」という結論が出てくるためのルールを検討し追加せよ。「正しく理解された法的三段論法の例」の図の空欄を埋めなさい。 提出方法: 電子メールに当該のパワーポイントのスライド添付して送付する。 件名のところに「法とコンピュータ」と必ず記入すること。 氏名と学籍番号およびメールアドレスは必ず記入すること 締め切り 今週木曜日18時まで
法的正当化の推論 正しく理解された法的三段論法の例 出来事 Case8f_a2 申込効力発生←申込到達15(1) 意思表示←申込 創設 意思表示到達←郵便受けに入る 申込の通知が4/8に郵便受けに入る 創設 4/9にBは電話で「承諾する」と言う 出来事 Case8f_a2 創設 4/9に発契約成立