生物学基礎 第3回 メンデルの遺伝の法則 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.

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生物学基礎 第3回 メンデルの遺伝の法則 和田 勝 東京医科歯科大学教養部

自然選択による進化 1)生物の集団には変異(variations) が存在する 2)変異は親から子に伝わる  が存在する 2)変異は親から子に伝わる 3)すべての子が、生まれ出た生息環  境で生き残ることはできない 4)変異によって、生き残る確率に差   がある

自然選択による進化 自然選択による進化の根底にあるものは、 ●変異が存在すること ●それが親から子へ伝わること しかしながら、ダーウィンは変異の原因は説明できなかったし、遺伝については誤った考えをもっていた。

生物学の基本的な枠組み 3.遺伝の法則 変異があり遺伝するとはどういうことか。 メンデル(1822-1884)は粒子的な遺伝子を仮定して見事に遺伝の法則を説明。

遺伝 子が親に似る遺伝(heredity)という現象は、認識されていた。 Kirk Douglas (father) and Michael Douglas (son)

遺伝 佐田啓二 (father) と中井貴一 (son)、中井貴恵(daughter)

遺伝 三國連太郎 (father) と佐藤浩市(son)

遺伝 有名な例はHapsburg lips and jaw Ferdinand II Hapsburg’s pedigree

遺伝 ダーウィンのところで述べたように、すでに品種改良がおこなわれていた。有用な形質(character)を選び出して、かけ合わせがおこなわれていた。 多くの人は、形質はペンキのようにかけ合わせると混ざってしまうと考えていたので、遺伝現象をうまく説明できなかった(例:隔世遺伝)。

雑種の研究 すでに述べたように、花が生殖器官であることがわかったので、かけ合わせて雑種を作ることが盛んにおこなわれた。 Joseph G. KoelreuterやF. Carl Gaertnerは、たくさんの雑種をつくった。

メンデルの実験 メンデルの発表した論文のタイトルも“Versuche uber Pflanzen-Hybriden” (1865)という。 メンデルは予備的な観察によって、形質がペンキのように混ざってしまうのではないことを確信して、実験を開始した。

メンデルの実験 メンデルはエンドウを選んで実験をおこなうことにした。 ●簡単に見分けられる安定した形質を持つこと ●他の花からの受粉の影響がないこと ●世代を経ても安定した繁殖力を有すること このような条件を満足していたからである。さらにメンデルは何代にもわたって自家受粉を繰り返し、純系を得た。

メンデルの選んだ形質 こうして34の中から、次の7つの形質を選びました。 1)丸い種子としわのある種子(seed shape) 2)黄色と緑色の種子(seed color) 3)花の色が紫色か白色か(flower color) 4)さやが膨らんでいるか平たいか(pod shape) 5)緑色と黄色のさや(pod color) 7)花が茎全体につくか茎の頂端につくか           (flower position on stem) 6)背丈が高いか低いか(stem length) 論文では3)は種皮の色となっている。

メンデルの選んだ形質

形質とは 形質とは、表現型として観察できる遺伝的な性質を言います。たとえば3)の「花の色」がこれに当たります。 花の色には紫と白があり、これらを対立形質と言います。 純系というのは、たとえば花の色に関して、自家受粉をすると紫の花あるいは白い花しかつかない系統を言います。

交配実験 最初に、メンデルは紫色の花をつける純系のエンドウと白い花をつける純系のエンドウを交配しました。 人工交配

優劣の法則 対立形質は混ざるのではなく、優性の形質が劣性の形質を覆い隠す。 たとえば、花の色は紫と白があり、これらは花の色という対立形質(character)であり、紫と白はそれぞれtraitと言う。 紫の花の色というtraitが優性(dominant)で、白い花の色というtraitが劣性(recessive)である。

優劣の法則 実験をおこなってみると、次のような結果となる。 他の6つの形質についても同じであった。

分離の法則 劣性の形質は覆い隠されたのであって、なくなってしまったのではない。F1を自家受粉すると、次のような結果となった。 紫の花:白い花=705:224=3.15:1。これは整数でほぼ3:1。

分離の法則 その他の6つの形質でも結果は同様で、整数比3:1に極めて近い値が得られた。

分離の法則

メンデルによる結果の説明 これらの結果を説明するために、メンデルは粒子的な要素を考え、これが1つの形質に対してペアで存在すると考えた。 花の色という形質をFとすると、純系の紫の花のtraitはFFとなり、白い花はffとなる。

メンデルによる結果の説明 FFxff 親 雑種第一代 雑種第一代はすべて紫色の花となり、中間の形質になるのではない。 F F f Ff F

メンデルによる結果の説明 FfxFf 雑種第一代 雑種第二代 雑種第二代は紫色と白色が3:1になり、白色の形質は消滅したのではない。 F f

独立の法則 二つの形質の雑種の場合はどうなるか。花の色に加えて種子の形をRとする。 雑種第二代は FfRrxFfRr FR Fr fR fr

独立の法則 二つの形質は独立に生殖細胞へ分配される。 その結果、それぞれの表現系の組み合わせの比率は、9:3:3:1となる。 ただし、この場合、2つの形質を支配する遺伝子座は、別々の染色体にあることが前提となる。

メンデルの法則は、、 遺伝の実験に適したエンドウを使ったこと、実験準備を周到にしたこと、実験技術が確かだったこと。 多数の資料を収集し、数量的に取り扱い、粒子的な要素を仮定して実験結果を数量的に解釈した。 しかしながら、メンデルのこの発表はまったく理解されなかった。

メンデルの法則は、、 メンデルの法則は、1900年、彼の死後16年(発表から35年後)に、3人の研究者により独立に再発見される。 他の生物でも成立すること、また1902年のSuttonとBoveriによる遺伝の染色体説により、メンデルの法則は広く受け入れられるようになる。

メンデルの法則が あてはまらない場合 二つの遺伝子が同じ染色体に載っている場合は、メンデルの独立の法則は当然、当てはまらない。     あてはまらない場合 二つの遺伝子が同じ染色体に載っている場合は、メンデルの独立の法則は当然、当てはまらない。 このような時、二つの遺伝子座は連鎖(linkage)していると言う。

連鎖している場合 二つの遺伝子が隣どうしで、常に一緒に行動するなら、両者を一つの遺伝子のような考えることができる。 このような完全連鎖が上の例でもしも起こっていたとすると、紫の花で丸い種子:白い花でしわの種子が3:1になるだろう。

連鎖している場合 染色体は長さがあるので、二つの遺伝子座は一定の距離をおく場合がほとんどである。 その結果、9:3:3:1とは異なる比率となり、当然のことながら、独立の法則はあてはまらない。 後にこれを利用して連鎖地図(染色体地図)が作られる。

伴性遺伝 今まで性のことは考えなくても良かったが、動物では性を伴う。遺伝子が性染色体上にあると、性とリンクした遺伝となる(伴性遺伝、sex-linked heredity)。 ヒトの性染色体は、男がXYで、女がXXである。

伴性遺伝 血友病が伴性遺伝 XAXaxXAY XA Xa XA XA XA Xa Y XA Y Xa Y 保因者の女性と健常者の男性の場合、男性の半数は発病する。

遺伝子の本体 メンデルの想定した要素は、後に遺伝子となり、遺伝子は染色体に線状に配列しているということが明らかになっていく。 遺伝子の本体はDNAあることが、さらに後に明らかになる。

遺伝の本体 遺伝子型   →    表現型 (genotype)        (phenotype) DNA     →    タンパク質

生物学の基本的な枠組み 4.細胞説 すべての生物は細胞からできている。 細胞には核があり、その中の染色体上に遺伝子がある。

細胞説 いろいろな植物を顕微鏡で観察して、植物は細胞という基本構造からできていることを述べる(1838)。 いろいろな動物を顕微鏡で観察して、動物は細胞という基本構造からできていることを述べる(1839)。 細胞説(cell theory)

細胞説 1850年代になってから、ヴィルヒョーが、すべての細胞は細胞からのみ生じる、と明確に表明。 現在ではこれも加えて、細胞説は、 1)すべての生物は細胞から構成されている 2)細胞はすでに存在する細胞からのみ生成される 3)細胞は生命の最小単位である

20世紀に向かって 細胞説に触発されて、体細胞分裂、減数分裂、染色体の発見など、細胞の重要性に関する発見が続いていく。 前の章で述べた、メンデルの法則の再発見と結びついて、20世紀へ突入する。

生命の連続性 ヒトの一生 赤丸は1対の染色体。配偶子は対の片方を持つ。

生命の連続性 僕(君たち)は両親から半分ずつの染色体をもらい、半分の配偶子を作って子へ伝える。

生命の連続性 ずっと連続してきたし、これからも連続していく。

細胞、組織、器官、器官系 膵臓の細胞と外分泌腺組織

細胞、組織、器官、器官系 器官系 器官 個体 組織 細胞

細胞、組織、器官、器官系 具体例: 心筋細胞からシマウマへ

細胞より下位へ 細胞 細胞小器官 分子 原子

個体より上位へ 器官系 器官 個体 組織 細胞

個体より上位へ 個体群

個体より上位へ 生物圏=地球 生物群集

個体より上位へ 具体例:  シマウマを取り囲む生物群集