転倒予防と筋肉トレーニング (ロコモティブシンドロームとロコトレ) 新潟県立看護大学 教授 中野正春
ロコモティブシンドロームとは 運動器の障害により、介護・介助が必要 あるいはそうなるリスクが高い状態 あるいはそうなるリスクが高い状態 ・ 運動器の機能低下⇒歩行機能低下 あるいはそうなる危険がある ・運動器(骨・関節、筋、椎間板、神経系)
ロコモティブシンドローム(ロコモ) ロコモティブシンドローム サルコペニア 変形性膝関節症 骨粗鬆症 筋量↓ 骨量↓ 関節軟骨↓ 神経活動↓ サルコペニア 変形性膝関節症 骨粗鬆症 変形性腰椎症 骨量↓ 筋量↓ 神経活動↓ 関節軟骨↓ 歩行障害 運動器不安定症 歩けない、立ち上がれない(要支援・要介護)
運動器不安定症の診断 日常生活自立度 J 生活自立 A 準寝たきり (B・Cの寝たきりは非該当) あるいは 1)開眼片脚起立:15秒未満 ①脊椎圧迫骨折 ②下肢の骨折 ③骨粗鬆症 ④下肢の変形性関節症 ⑤腰部脊柱管狭窄症 ⑥脊髄障害 ⑦神経・筋疾患 ⑧関節リウマチ(関節炎) ⑨下肢切断 ⑩長期臥床後の運動器廃用 ⑪高頻度転倒者 の11疾患の既往があるか 罹患しているもの 日常生活自立度 J 生活自立 A 準寝たきり (B・Cの寝たきりは非該当) あるいは 1)開眼片脚起立:15秒未満 または 2)3mTimed up and go test: 11秒以上
3m Timed up and go test 椅子に座った状態から立ち上がり、3m先の目印点で折り返し、再び椅子に座るまでの時間を測定します。危険のない速度で出来るだけ早く歩くように指示します。転倒に対する予防がとくに大切で、医療・介護施設職員が付き添っておくなどの予防策が必要です。 3m
ロコモティブシンドロームの重症度 歩行機能の低下の程度で判断する (膝や腰などの局所の重症度とは別) ①軽症 歩行が自力で可能 ②中等症 歩行に杖・歩行器等の介助が必要 ③重症 歩行にヒトの介助が必要 歩けない
ロコモティブシンドロームの背景 超高齢社会の到来 平均寿命(2008)男性79.3歳、女性86.1歳 男性5人に1人、女性4人に1人が高齢者 平均寿命(2008)男性79.3歳、女性86.1歳 男性5人に1人、女性4人に1人が高齢者 要介護者の増加(平成19年国民生活基礎調査) 要支援・要介護者この6年間で約2倍(450万人) 5人に1人が「運動器」の障害が原因
日本の超高齢化社会 (千人)% 実績値 推定値
日本の人口ピラミッド(推計値) 2010年 2055年 65歳 以上 男 女 男 女 国立社会保障・人口問題研究所
介護認定者(年度末現在)の推移 厚生労働省 平成20年度介護保険事業状況報告 介護認定者(年度末現在)の推移 厚生労働省 平成20年度介護保険事業状況報告 (千人) 要介護
表 要介護者別に見た介護が必要となった主な原因の構成割合 表 要介護者別に見た介護が必要となった主な原因の構成割合 要介護 総数 脳血管疾患 (脳卒中) 認知症 高齢による 衰弱 関節 疾患 骨折・転倒 心臓病 パーキンソン病 その他 100.0 25.7 14.8 136 12.2 9.3 4.3 2.8 20.4 要支援者 14.9 3.2 16.6 20.2 22.5 7.4 2.3 22.8 要支援1 12.5 2.5 16.9 18.9 12.9 8.3 27.5 要支援2 17.8 17.1 22.4 6.6 2.1 18.4 要介護者 1.00.0 27.3 18.7 9.1 8.4 3.1 17.6 経過的要介護 13.5 1.6 18.1 25.0 1.8 9.7 30.2 要介護1 21.4 16.2 14.2 8.0 2.0 18.8 要介護2 26.4 12.8 26.5 7.7 3.6 18.5 要介護3 25.2 9.4 5.1 9.5 3.4 4.8 15.5 要介護4 36.3 17.7 9.8 4.7 3.5 13.8 要介護5 34.5 4.2 4.5 2.9 19.9
15 脳血管 疾患 21.4 脳血管 疾患 23.6 その他 28.2 その他 老衰 16.6 骨折・転倒 認知症 16.2 7.4 8 心疾患 12.6 関節疾患 20.2 関節疾患 14.2 老衰 16.6 骨折・転倒
・変形性膝関節症 ・変形性脊椎症 特に腰部脊柱管狭窄症 ・骨粗鬆症による骨折 ロコモの原因となるおもな疾患 ・変形性膝関節症 ・変形性脊椎症 特に腰部脊柱管狭窄症 ・骨粗鬆症による骨折
ロコモの原因疾患の頻度 ROAD(Research on Osteoarthritis Against Disability) プロジェクト 3040人(男性1061人、女性1979人)平均年齢70.3歳 変形性膝関節症 40歳以上全体 男性43%、女性62% 変形性腰椎症 40歳以上全体 82%、女性66% ・ 40歳以上山・漁村住民1690人(男性596人、女性1094人) 骨粗鬆症 腰椎(L2~4) 男性3%、女性19% 大腿骨頸部 男性12%、女性27%
変形性腰椎症の有病率
骨粗鬆症の有病率 第2~4腰椎 大腿骨頸部
変形性膝関節症
関節の構造 関節: 骨と骨を連結 一般的には可動性を有する(滑膜関節)・・・筋・腱 関節の構造 関節軟骨(厚さ2~4㎜) 関節包(最内層に滑膜があり関節腔に滑液:関節液を分泌している) 筋肉 滑液包 関節包 骨 滑膜 半月板 靭帯 腱 関節軟骨 骨
関節軟骨の構造(厚さ2~4mm) 細胞は2~3%
軟骨基質の微細構造① 軟骨基質により関節軟骨の弾性・荷重緩衝能力・高い耐久性がもたらされる コラーゲン(C)は網目構造により軟骨に対する張力に抵抗する プロテオグリカン(P)はヒアルロン酸と共に軟骨の弾性に付与する 水分(W)が70~80%を占める
軟骨基質の微細構造② プロテオグリカンはムコ多糖(グリコサミノグルカン)が結合したもの 関節軟骨のムコ多糖はコンドロイチン硫酸とケタラン硫酸でできている。これが電気的に反発することで間隙を保つ。これにより荷重圧で狭くなった構造がもどる
軟骨の栄養・代謝 関節液(滑 液) 軟骨には血管・リンパ管がなく、軟骨細胞は酸素や栄養を滑膜から産出され関節腔に分泌される関節液(滑液)から得ている 滑液は正常では0.5~4ml程度の量がある 関節の潤滑作用も持つ 成分にヒアルロン酸を含有する ヒアルロン酸もムコ多糖類でグルクロン酸とグルコサミンでできている
膝関節の関節面
膝関節にかかる負担 歩行時 FTJには体重の2~3倍の荷重 (大腿ー脛骨関節) PFJには体重の0.5倍の荷重 (膝蓋ー大腿関節) (大腿ー脛骨関節) PFJには体重の0.5倍の荷重 (膝蓋ー大腿関節) 走行・階段昇降時 歩行時よりさらに負担が増加する 特にPFJには体重の3.3倍の荷重 (膝蓋ー大腿関節)
変形性膝関節症の特徴 50歳代以上の肥満した女性に多い (女性:3~4倍) (女性:3~4倍) 外傷などが原因の二次性関節症は少なく、原因が不明な一次性の関節症が多い (一次性90%以上) 大部分は膝の内側の関節軟骨の摩耗で始まる内側型関節症でO脚となる 進行すると関節全体が破壊してくる
変形性(膝)関節症の発症 関節軟骨の加齢の原因として素因・肥満・性ホルモンの影響・血流障害などが考えられているが決定的な証拠はない 関節に加わる機械的ストレスの異常も重要な要因である 最初は軟骨基質のプロテオグリカンの生化学的変化である。その結果関節軟骨の弾性が低下し、表面に障害がおこる 関節軟骨は次第に摩耗し、その下の骨にも影響が出てくる⇒レントゲン写真でもわかる
X線写真 正常 変形性膝関節症
変形性膝関節症
膝関節の痛み 初期 正座時の痛み 階段の昇降時の痛み(特に降りる際の痛み) 長距離歩行時の痛み 安静時にはほとんどない、運動時痛である 正座時の痛み 階段の昇降時の痛み(特に降りる際の痛み) 長距離歩行時の痛み 安静時にはほとんどない、運動時痛である 病変の進行 痛みが次第に増強する 膝内側の圧痛
変形性膝関節痛 内反(O脚)変形 Lateral Thrust 膝の内反変形
変形性膝関節症のX線写真
運動制限 初期 長時間の正座ができない 次第に運動制限 完全な曲げ伸ばしができなくなる(屈曲・伸展制限) 痛みのため長距離歩行ができない
関節の腫れ 炎症による腫れ 水がたまる(関節水腫)による腫れ(約30%に見られる) 関節液 粘張度 ヒアルロン酸 正常 変形性関節症 235 関節液 粘張度 ヒアルロン酸 正常 変形性関節症 235 20~30 0.41% 0.12%
変形性膝関節症の悪化予防 太りすぎに注意⇒膝関節は荷重関節である つえの使用(荷重の分担) 重い荷物をもたない 長時間歩行しない つえの使用(荷重の分担) 重い荷物をもたない 長時間歩行しない 坂道・階段は特に負担がかかる 正座はなるべく避ける 膝を冷やさない(サポーター使用)