転倒予防と筋肉トレーニング (ロコモティブシンドロームとロコトレ)

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元気で長生き ― 運動器のこと知っています かー 佐々木整形外科麻酔科クリニッ ク 佐々木 信之 2007年9月9日 豊齢者の集い 国見ヶ丘5丁目町内会.
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少子高齢化社会と年金 澤崎 下村 戸田 山川 中京大学総合政策学部 大森ゼミⅱ. 労働力の枯渇 生産年齢人口の減少 参照 平成 25 年度総務省「人口統計」 現状 高齢者を労働力として活躍させよう.
さぁ、みんなで はじめましょう! 浜松市高齢者福祉課 P1. 長~い シニアライフ P2 ロコモティブシンドローム 加齢とともに働きの衰え・・・・運動器症候群 P3.
Clinical Rehabilitation 2004; 18: Would the addition of TENS to exercise training produce better physical performance outcomes in people with knee.
SSA湘南外科グループ 湘南鎌倉総合病院外科(血管外科) 荻野秀光
少子高齢化 高橋香央里 加藤裕子 松本結 海老澤優.
1. 動脈硬化とは? 2. 動脈硬化のさまざまな 危険因子 3. さまざまな危険因子の 源流は「内臓脂肪」 4. 動脈硬化を防ぐには
変形性膝関節症の治療 保存的療法 消炎鎮痛剤(飲み薬、はり薬、塗り薬) ヒアルロン酸関節内注入 外側楔足底板
老後をみんなで考え、共に生きるためのシンポジウム
今 日 の ポ イ ン ト 骨粗鬆症とは 1. 糖尿病と 骨粗鬆症・骨折の関係 2. 治療の目的は骨折を 防ぐこと 3
生活習慣病の予防.
脂肪 筋肉 骨 今回のテーマは、「体組成」です。 多 少 多 少 Q:体組成って何ですか?
膝関節内少量水症の診察法 5cc以下の水腫でも認識可能?
最新の人工股関節、膝関節置換術 より早く、自宅への快適な生活へ
無機質 (2)-イ-aーH.
「転倒予防のハツラツ体操」 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科  保健学専攻  井口 茂.
ロコモ度判定法 策定の背景 氏名:●●● ●●● (所属:●●●●●●).
第19課 人の寿命と病気 背景知識.
骨粗鬆症ってどんな病気? ~骨粗鬆症を予防しよう~
家族の介護負担とメンタルサポート (part II)
D18fu906pr102 社会保険制度 介護保険制度の概要.
学習目標 関節リウマチ患者,脊髄損傷患者について 1.姿勢保持訓練について説明できる. 2.移動訓練について説明できる. 3.作業療法について説明できる. 4.看護において,どのような社会資源を活用できるかを理解している. 5.看護において,どのような心理的援助が必要か理解している. 6.それぞれの家族へ,どのような介護指導をすべきか述べることができる.
キーワード 平均寿命・平均余命・乳児死亡率 感染症・生活習慣病
サラリーマンのリスク 万一の時のリスク 病気・ケガのリスク 長生きのリスク ―サラリーマンのリスクは大別して3つ!― 万一の時の
健康寿命について H27.1健康づくり課作成 ○健康寿命とは… 一般に、ある健康状態で生活することが期待される平均期間またはその指標の総称
ファーストエイド 傷害発生から傷害評価まで.
1. 糖尿病による腎臓の病気 =糖尿病腎症 2. 腎症が進むと、生命維持のために 透析療法が必要になります 3. 糖尿病腎症の予防法・治療法
自転車で転倒し    脾臓損傷した症例 ○○消防署 ○○救急隊  ○○○○.
【チーム及び必要に応じて、対象者情報に詳しい者】
汎用性の高い行動変容プログラム 特定健診の場を利用した糖尿病対策(非肥満を含む)
輸血の生理学 大阪大学輸血部 倉田義之.
生活習慣を変え、内臓脂肪を減らすことで生活習慣病の危険因子が改善されます
血管と理学療法 担当:萩原 悠太  勉強会.
T2WI,T1WI-矢状断、水平断、STIR-冠状断
仙腸関節.
「こどもの整形外科的疾患 てなんですのん?」
汎用性の高い行動変容プログラム 特定健診の場を利用した糖尿病対策(非肥満を含む)
循環器疾患領域の代表目標項目(17) 8 循環器疾患、9 糖尿病 循環器疾患の減少に関する代表目標項目(5)
1. 糖尿病の患者さんは、脳梗塞や 心筋梗塞に注意が必要です 2. 脳梗塞と心筋梗塞の原因は どちらも動脈硬化です 3.
こける(転倒) よろめく (バランス能力の低下) 入れ歯の問題 噛む力が落ちる 食いしばれない 歯がぐらぐらする 入れ歯を使用しない
肥満の人の割合が増えています 肥満者(BMI≧25)の割合 20~60歳代男性 40~60歳代女性 (%)
メタボリックシンドロームはなぜ重要か A-5 不健康な生活習慣 内臓脂肪の蓄積 高血糖 脂質異常 高血圧 血管変化の進行 動脈硬化
メタボリック シンドローム.
脂質異常症.
75歳以上高齢者の増大 1 1 実績値 (国勢調査等) 平成18年推計値 人口(万人) (%) 人口ピーク(2004年) 12,779万人
SAMPLE 1.人間の活動・運動の意義が理解できる. 2.随意運動の成り立ちが理解できる. 3.同一体位による身体への影響が理解できる.
ロボットスーツHALとは… ?? <HALを体感した患者さんの喜びの声> <らいおんHALの訓練内容>
【チーム員及び必要に応じて、対象者情報に詳しい者】
「糖尿病」ってどんな病気?? ★キーワードは・・・「インスリン」!!!
第19課 人の寿命と病気 背景知識.
4.生活習慣病と日常の生活行動 PET/CT検査の画像 素材集-生活習慣病 「がん治療の総合情報センターAMIY」 PET/CT検査の画像
健診結果から考える 健康寿命の延ばし方 ~加齢現象は足腰から 早めに始めるロコモ予防~ 梅田スカイビル NIPPON DATA調査(※)
素材集 コピー&ペーストして使用してください。 すべて著作権のないもの、またはNCGMオリジナルのものです。
知っとく情報<春号> ○○○保険事務所 ★CONTENTS★ ■代理店●●●●情報 保険募集には無関係な代理店情報が掲載されます(写真含む)
歯科健診で、 健康寿命を延ばそう! (健診概要)
骨粗鬆症治療薬のスクリーニング系 ライフ 主たる提供特許 技術概要 応用分野
Nature De’Pain for Animals
骨量は、25−30さいころに最高値となり、以降は徐々に減少する。女性の場合には閉経による急激な減少がこれに加わる。
A-2 男性用 健診結果から今の自分の体を知る 内臓脂肪の蓄積 ~今の段階と将来の見通し~ 氏名 ( )歳 摂取エネルギーの収支
体力測定会 平成27年 11月21日(土) 9:30~16:00 測定所要時間 約1時間 中部大学55号館 5階 5552・5553実習室
マムシに咬まれたらどうする? 適切な対応をしないと・・・.
経過のまとめ 家族歴、基礎疾患のない14歳女性 筋力低下、嚥下障害を主訴としてDM発症 DMは、皮膚症状と筋生検にて確定診断
重症心身障害児者等 支援者育成研修テキスト 5 ライフステージにおける支援④ 学齢期における支援
骨粗鬆症.
法別番号21 自立支援医療 (精神通院医療) 自己負担上限管理票の管理について 患者、保護者、指定医療機関と話し合い、患者ごとに合った
A-3 女性用 健診結果から今の自分の体を知る 内臓脂肪の蓄積 ~今の段階と将来の見通し~ 氏名 ( )歳 摂取エネルギーの収支
1. 糖尿病による腎臓の病気 =糖尿病腎症 2. 腎症が進むと、生命維持のために 透析療法が必要になります 3. 糖尿病腎症の予防法・治療法
1. 糖尿病の患者さんは 血圧が高くなりやすい 2. 糖尿病に高血圧が併発して 合併症が早く進行する 3. 血圧コントロールの 目標と方法
総合事業 【事例集】 H 追加版.
老年看護学概論 第2回 「高齢者の理解」 担当:鈴木直美.
Presentation transcript:

転倒予防と筋肉トレーニング (ロコモティブシンドロームとロコトレ) 新潟県立看護大学 教授 中野正春

ロコモティブシンドロームとは 運動器の障害により、介護・介助が必要 あるいはそうなるリスクが高い状態   あるいはそうなるリスクが高い状態 ・ 運動器の機能低下⇒歩行機能低下 あるいはそうなる危険がある ・運動器(骨・関節、筋、椎間板、神経系)

ロコモティブシンドローム(ロコモ) ロコモティブシンドローム サルコペニア 変形性膝関節症 骨粗鬆症 筋量↓ 骨量↓ 関節軟骨↓ 神経活動↓      サルコペニア        変形性膝関節症         骨粗鬆症                       変形性腰椎症 骨量↓ 筋量↓ 神経活動↓ 関節軟骨↓ 歩行障害 運動器不安定症 歩けない、立ち上がれない(要支援・要介護)

運動器不安定症の診断 日常生活自立度 J 生活自立 A 準寝たきり (B・Cの寝たきりは非該当) あるいは 1)開眼片脚起立:15秒未満 ①脊椎圧迫骨折 ②下肢の骨折 ③骨粗鬆症 ④下肢の変形性関節症 ⑤腰部脊柱管狭窄症 ⑥脊髄障害 ⑦神経・筋疾患 ⑧関節リウマチ(関節炎) ⑨下肢切断 ⑩長期臥床後の運動器廃用 ⑪高頻度転倒者 の11疾患の既往があるか 罹患しているもの 日常生活自立度 J 生活自立 A 準寝たきり (B・Cの寝たきりは非該当) あるいは 1)開眼片脚起立:15秒未満 または 2)3mTimed up and go test: 11秒以上

3m Timed up and go test 椅子に座った状態から立ち上がり、3m先の目印点で折り返し、再び椅子に座るまでの時間を測定します。危険のない速度で出来るだけ早く歩くように指示します。転倒に対する予防がとくに大切で、医療・介護施設職員が付き添っておくなどの予防策が必要です。 3m

ロコモティブシンドロームの重症度 歩行機能の低下の程度で判断する (膝や腰などの局所の重症度とは別) ①軽症 歩行が自力で可能 ②中等症 歩行に杖・歩行器等の介助が必要 ③重症 歩行にヒトの介助が必要 歩けない

ロコモティブシンドロームの背景 超高齢社会の到来 平均寿命(2008)男性79.3歳、女性86.1歳 男性5人に1人、女性4人に1人が高齢者  平均寿命(2008)男性79.3歳、女性86.1歳  男性5人に1人、女性4人に1人が高齢者 要介護者の増加(平成19年国民生活基礎調査)  要支援・要介護者この6年間で約2倍(450万人)  5人に1人が「運動器」の障害が原因

日本の超高齢化社会 (千人)% 実績値 推定値

日本の人口ピラミッド(推計値)     2010年             2055年 65歳 以上   男            女            男             女 国立社会保障・人口問題研究所

介護認定者(年度末現在)の推移 厚生労働省 平成20年度介護保険事業状況報告 介護認定者(年度末現在)の推移 厚生労働省 平成20年度介護保険事業状況報告 (千人) 要介護

表 要介護者別に見た介護が必要となった主な原因の構成割合 表 要介護者別に見た介護が必要となった主な原因の構成割合 要介護 総数 脳血管疾患 (脳卒中) 認知症 高齢による 衰弱 関節 疾患 骨折・転倒 心臓病 パーキンソン病 その他 100.0 25.7 14.8 136 12.2 9.3 4.3 2.8 20.4 要支援者 14.9 3.2 16.6 20.2 22.5 7.4 2.3 22.8 要支援1 12.5 2.5 16.9 18.9 12.9 8.3 27.5 要支援2 17.8 17.1 22.4 6.6 2.1 18.4 要介護者 1.00.0 27.3 18.7 9.1 8.4 3.1 17.6 経過的要介護 13.5 1.6 18.1 25.0 1.8 9.7 30.2 要介護1 21.4 16.2 14.2 8.0 2.0 18.8 要介護2 26.4 12.8 26.5 7.7 3.6 18.5 要介護3 25.2 9.4 5.1 9.5 3.4 4.8 15.5 要介護4 36.3 17.7 9.8 4.7 3.5 13.8 要介護5 34.5 4.2 4.5 2.9 19.9

15 脳血管 疾患    21.4 脳血管 疾患 23.6  その他 28.2 その他 老衰 16.6   骨折・転倒 認知症      16.2 7.4 8 心疾患 12.6 関節疾患   20.2 関節疾患   14.2 老衰 16.6 骨折・転倒

・変形性膝関節症 ・変形性脊椎症 特に腰部脊柱管狭窄症 ・骨粗鬆症による骨折 ロコモの原因となるおもな疾患 ・変形性膝関節症 ・変形性脊椎症  特に腰部脊柱管狭窄症 ・骨粗鬆症による骨折

ロコモの原因疾患の頻度 ROAD(Research on Osteoarthritis Against Disability) プロジェクト 3040人(男性1061人、女性1979人)平均年齢70.3歳    変形性膝関節症       40歳以上全体 男性43%、女性62%    変形性腰椎症        40歳以上全体 82%、女性66% ・ 40歳以上山・漁村住民1690人(男性596人、女性1094人)    骨粗鬆症      腰椎(L2~4) 男性3%、女性19%      大腿骨頸部 男性12%、女性27%

変形性腰椎症の有病率

骨粗鬆症の有病率 第2~4腰椎 大腿骨頸部

変形性膝関節症

関節の構造 関節: 骨と骨を連結 一般的には可動性を有する(滑膜関節)・・・筋・腱 関節の構造 関節軟骨(厚さ2~4㎜) 関節包(最内層に滑膜があり関節腔に滑液:関節液を分泌している) 筋肉 滑液包 関節包 骨 滑膜 半月板 靭帯 腱 関節軟骨 骨

関節軟骨の構造(厚さ2~4mm) 細胞は2~3%

軟骨基質の微細構造① 軟骨基質により関節軟骨の弾性・荷重緩衝能力・高い耐久性がもたらされる コラーゲン(C)は網目構造により軟骨に対する張力に抵抗する プロテオグリカン(P)はヒアルロン酸と共に軟骨の弾性に付与する 水分(W)が70~80%を占める

軟骨基質の微細構造② プロテオグリカンはムコ多糖(グリコサミノグルカン)が結合したもの 関節軟骨のムコ多糖はコンドロイチン硫酸とケタラン硫酸でできている。これが電気的に反発することで間隙を保つ。これにより荷重圧で狭くなった構造がもどる

軟骨の栄養・代謝 関節液(滑 液) 軟骨には血管・リンパ管がなく、軟骨細胞は酸素や栄養を滑膜から産出され関節腔に分泌される関節液(滑液)から得ている 滑液は正常では0.5~4ml程度の量がある 関節の潤滑作用も持つ 成分にヒアルロン酸を含有する ヒアルロン酸もムコ多糖類でグルクロン酸とグルコサミンでできている

膝関節の関節面

膝関節にかかる負担 歩行時 FTJには体重の2~3倍の荷重 (大腿ー脛骨関節) PFJには体重の0.5倍の荷重 (膝蓋ー大腿関節)         (大腿ー脛骨関節)          PFJには体重の0.5倍の荷重         (膝蓋ー大腿関節) 走行・階段昇降時          歩行時よりさらに負担が増加する          特にPFJには体重の3.3倍の荷重          (膝蓋ー大腿関節)

変形性膝関節症の特徴 50歳代以上の肥満した女性に多い (女性:3~4倍)         (女性:3~4倍) 外傷などが原因の二次性関節症は少なく、原因が不明な一次性の関節症が多い         (一次性90%以上) 大部分は膝の内側の関節軟骨の摩耗で始まる内側型関節症でO脚となる 進行すると関節全体が破壊してくる 

変形性(膝)関節症の発症 関節軟骨の加齢の原因として素因・肥満・性ホルモンの影響・血流障害などが考えられているが決定的な証拠はない 関節に加わる機械的ストレスの異常も重要な要因である 最初は軟骨基質のプロテオグリカンの生化学的変化である。その結果関節軟骨の弾性が低下し、表面に障害がおこる 関節軟骨は次第に摩耗し、その下の骨にも影響が出てくる⇒レントゲン写真でもわかる

X線写真 正常 変形性膝関節症

変形性膝関節症

膝関節の痛み 初期 正座時の痛み 階段の昇降時の痛み(特に降りる際の痛み) 長距離歩行時の痛み 安静時にはほとんどない、運動時痛である  正座時の痛み  階段の昇降時の痛み(特に降りる際の痛み)  長距離歩行時の痛み  安静時にはほとんどない、運動時痛である 病変の進行  痛みが次第に増強する  膝内側の圧痛

変形性膝関節痛 内反(O脚)変形 Lateral Thrust 膝の内反変形

変形性膝関節症のX線写真

運動制限 初期    長時間の正座ができない 次第に運動制限 完全な曲げ伸ばしができなくなる(屈曲・伸展制限) 痛みのため長距離歩行ができない

関節の腫れ 炎症による腫れ 水がたまる(関節水腫)による腫れ(約30%に見られる) 関節液 粘張度 ヒアルロン酸 正常 変形性関節症 235 関節液         粘張度  ヒアルロン酸 正常 変形性関節症 235 20~30 0.41% 0.12%

変形性膝関節症の悪化予防 太りすぎに注意⇒膝関節は荷重関節である つえの使用(荷重の分担) 重い荷物をもたない 長時間歩行しない   つえの使用(荷重の分担)   重い荷物をもたない 長時間歩行しない   坂道・階段は特に負担がかかる 正座はなるべく避ける 膝を冷やさない(サポーター使用)