生物学 第12回 体を守る免疫機構 和田 勝.

Slides:



Advertisements
Similar presentations

Advertisements

アメフラシ属 Aplysia Aplysia californica アメフラシ(雨降らし、雨虎、雨降)は、腹足綱後鰓類の無楯類 (Anapsidea, Aplysiomorpha) に属する軟体動物の総称。 より.
ワクチン療法の開発(ジェンナー) 英国のジェンナーは、牛飼いの女性から牛 痘に罹ったものが天然痘にならないことを 聞いて、牛痘の接種による天然痘の予防法 を思いついた。牛痘の膿を少年に接種し、 その後真性の凍瘡を接種しても発病を免れ たことから、予防接種の有効性が証明され た。(1796年)
小児の正常値 2003/05/14 - 第4学年 はじめに 患者の年齢によって正常範囲が異なる 通常、検査報告書に添えてある正常値 は成人のものである 医師が正常・異常を総合的に判断する.
1.異種移植の推進になぜ遺伝子改変が必要か. 2.マウスでの遺伝子改変 (gene targeting) 法. 3.ミニブタでの遺伝子改変 (gene targeting) 法. -マウスと異種移植用動物での gene targeting 法の違い- 4.異種移植用遺伝子改変ミニブタ開発における現在の問題点と解決の方.
質問・解答例.
1
血液・免疫学ユニット 第2回 免疫担当細胞の種類と機能.
遺伝子の解析 第2弾 DNAシークエンス法.
アレルギー・アナフィラキシー 山形大学輸血部 田嶋克史.
HLA マイナー組織適合性抗原 ナチュラル・キラー(NK)細胞 IPA/ NIMAコンセプト
個体と多様性の 生物学 第7回 体を守る免疫機構Ⅱ 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
RNA i (RNA interference).
輸血の適応/適正使用 新鮮凍結血漿 福井大学輸血部 浦崎芳正.
特論B 細胞の生物学 第2回 転写 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
タンパク質(Protein) ~基本的なことについて~.
第19課 人の寿命と病気 背景知識.
生物学基礎 第4回 細胞の構造と機能と      細胞を構成する分子  和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
動物への遺伝子導入 hGH 遺伝子 右:ひと成長ホルモン遺伝子を 導入したラット 左:対照ラット
活性化エネルギー.
肝炎の知識 担当:唐沢 治.
人工血液 神戸大学輸血部 西郷勝康.
牛の尿路コリネバクテリウムによる 血尿を主徴とする感染症
AIDS 学習目標の要点 病例分析 提示問題についての解答 PBLの流れ 免疫システムの組成と功能 リンパ組織の構造と功能
緩衝作用.
3)たんぱく質中に存在するアミノ酸のほとんどが(L-α-アミノ酸)である。
ウラン 例:閃ウラン鉱 UO2 (U238) 放射性のU235を0.7%含む。 六フッ化ウラン(液体、気体)→ 遠心分離法かガス拡散法で濃縮
中性シイステインプロテアーゼブレオマイシン水解酵素は、脱イミノ化されたフィラグリンをアミノ酸へと分解するのに不可欠である
高齢者の肺炎による死亡率. 高齢者の肺炎による死亡率 誤嚥のメカニズム 誤嚥は、脳卒中や全身麻痺、あるいは麻痺などの症状のない脳梗塞で、神経伝達物質の欠乏によって、咳(せき)反射や、物を飲み下す嚥下(えんげ)反射の神経活動が低下して起こる。
1月16日 免疫 免疫とは何か 抗体 アレルギー エイズ 遺伝子治療.
たんぱく質 (2)-イ-aーF.
キンギョにおける 全身性の炎症と免疫の誘導
生命科学基礎C 第9回 免疫Ⅱ 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
翻訳 5’ → 3’ の方向 リボソーム上で行われる リボソームは蛋白質とrRNAの複合体 遺伝情報=アミノ酸配列
生命科学基礎C 第4回 神経による筋収縮の指令 -伝達 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
個体と多様性の 生物学 第6回 体を守る免疫機構Ⅰ 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
非溶血性輸血副作用 神戸大学輸血部 西郷勝康.
コレステロール その生合成の調節について 家政学部 通信教育課程 食物学科 4年 大橋 万里子 佐藤 由美子 鷲見 由紀子 堀田 晴 子
高脂血症の恐怖 胃 基礎細胞生物学 第14回(1/22) 2. 胃酸の分泌 1. 胃 3. 消化管(小腸)上皮細胞の更新
農学部 資源生物科学科 加藤直樹 北村尚也 菰田浩哉
第19課 人の寿命と病気 背景知識.
コンゴー赤染色 (Congo red stain) アミロイド染色
樹状細胞療法 長崎大学輸血部 長井一浩.
国立がん研究センター・研究所腫瘍免疫研究分野/
個体と多様性の 生物学 第7回 体を守る免疫機構Ⅱ 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
DNAメチル化とクロマチン構造の変化による転写制御のモデル
特論B 細胞の生物学 第5回 エネルギー代謝 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
生命科学基礎C 第8回 免疫Ⅰ 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
血栓性血小板減少性紫斑病 TTP 溶血性尿毒素症候群 HUS
Central Dogma Epigenetics
生命科学基礎C 第1回 ホルモンと受容体 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
卒業研究進捗報告 2009年  月   日 研究題目: 学生番号:         氏名:          
個体と多様性の 生物学 第6回 体を守る免疫機構Ⅰ 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
からだをまもる免疫のふしぎ (日本免疫学会:羊土社).
自己紹介 1978年 北大医学部卒業 北大病院医師(血液内科) 1988年 オーストラリア国立大学研究員 1991年 北大医学部癌研病理講師
細胞の膜構造について.
1.細胞の構造と機能の理解 2.核,細胞膜,細胞内小器官の構造と機能の理解 3.細胞の機能,物質輸送の理解 4.細胞分裂過程の理解
国立がん研究センター・研究所腫瘍免疫研究分野/
血液製剤の種類・特徴 琉球大学輸血部 佐久川 廣.
免疫機能と機能低下.
タンパク質.
新興感染症の病原体 再興感染症の病原体 病原体の種類 病原体名 ウイルス ロタウイルス、エボラウイルス、T細胞性白血病ウイルス
合成抗菌薬 (サルファ剤、ピリドンカルボン酸系)
不規則抗体の意義・ 検査法 名古屋大学輸血部 山本晃士.
1月28日 内分泌・免疫 内分泌 ホルモンの種類 ホルモンの作用 環境ホルモンとの違い 免疫 エイズ 遺伝子治療.
学習目標 1.細胞の構造と機能の理解 2.核,細胞膜,細胞内小器官の構造と機能の理解 3.細胞の機能,物質輸送の理解 4.細胞分裂過程の理解
生命科学特論B 第7回 免疫 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
特論B 細胞の生物学 第6回 エネルギーはどこから 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
細胞膜受容体-天然物リガンド間架橋に最適化した架橋法の開発
Pre-NK細胞 NK細胞 Pre-T細胞 Pro-T細胞 T細胞 形質細胞 Pro-B細胞 Pre-B細胞 B細胞 リンパ球系
Presentation transcript:

生物学 第12回 体を守る免疫機構 和田 勝

血液と血球細胞 好中球 好酸球 好塩基球 単球 リンパ球

血液と血球細胞 ●赤血球(red blood cell, erythrocyte) ●白血球( white blood cell, leucocyte) ●血小板(platelet) ●赤血球(red blood cell, erythrocyte) 酸素と二酸化炭素を運搬 ●血小板(platelet) 血液凝固

白血球 ●白血球( white blood cell, leucocyte) ●顆粒白血球(granulocyte)   =多型核白血球(polymorphonuclear leucocyte) ・好中球(neutrophil)  食作用が強い、バクテリアなどを貪食する ・好酸球(acidophil, eosinophil)  大型の寄生生物を攻撃、アレルギー性炎症に関与 ・好塩基球(basophil)    ヒスタミンを放出 ●単球(monocyte)   食作用が強い、組織へ入りマクロファージになる

白血球(続き) ●リンパ球(lymphocyte) ・B細胞(B cell) 抗体を産生 ・T細胞(T cell)  ウイルスに感染した細胞を殺す  他の白血球の活動を調節 ●ナチュラルキラー(NK)細胞  ウイルスに感染した細胞や腫瘍細胞を殺す

血球細胞の分化

生体防御 血球細胞のうち白血球が生体防御に はたらく ●非特異的防御機構 貪食細胞(マクロファージや好中球)による貪食 ●特異的防御機構 リンパ球が作用する、もっと複雑な過程

非特異的防御機構 皮膚は重要な障壁(バリアー)

非特異的防御機構

非特異的防御機構

非特異的防御機構 前のスライドにあったマクロファージは、 どうして細菌の侵入を認識しているの だろうか。 マクロファージにはToll様受容体という 蛋白質を細胞膜に持っていて、これで 細菌に特異的な糖タンパクなどを認識 していることが分かってきた。

非特異的防御機構 一方、ナチュラルキラーセルは、ウイルス が感染してMHCクラスⅠタンパク質の 発現量が減少した細胞を変質したと 認識して殺している。 マクロファージは、次に出てくる特異的な 防御機構と非特異的な防御機構の 橋渡しをしている(後述)。

特異的防御機構 脊椎動物では、さらに特異的な防御機 構が発達する。 それが免疫機構である 免疫機構にはリンパ球が重要な役割を 果たす。

リンパ球の役割 こうして、免疫機構にはリンパ球が重要な 役割を果たすことが明らかになる。

免疫には二種類ある 体液性免疫 B細胞が関与 抗体による攻撃 細胞性免疫 T細胞が関与 キラーT細胞による攻撃

体液性免疫と細胞性免疫

リンパ系器官

リンパ球の分化・成熟

リンパ球の分化・成熟 どうして多種類の外来物質(抗原)を 見分けることができるのだろうか。 外来物質(抗原)が体内に侵入した 後に、これを鋳型として抗体が作られる という考えが、はじめは支配的だった。 クローン選択説が提唱された。

クローン選択説

クローン 選択説 クローン選択説の 証明実験2つ

抗原とは 抗原となりうるものはタンパク質や多糖類 で分子量がある程度以上の大きさのもの 細菌の外皮タンパク 質や多糖類 タンパク質の表面の 特定部位 抗原決定基 (エピトープ)

抗原とは したがって、下の図のタンパク質が異物と 認識されて抗体ができるときには、7つの エピトープに対して、7つのクロ-ンが選択 される。 その結果、7種 類の抗体が作 られる。 ふつうはこのよ うにポリクロ- ナルの免疫応答

抗原とは 本来、抗原とならない低分子(ハプテン)も、タンパク質に結合すると、この部位に対する抗体を作ることができる。

モノクロン 抗体の 作成 単一のエピトープ に対する抗体を 人工的に得ること ができる。 モノクロン抗体

抗体とは 血清タンパク質を電気泳動で分けると、次のようなパターンが得られる。 γグロブリン分画に抗体がふくまれる イムノグロブリン(Ig)と呼ぶ。

抗体分子の構造 抗体は抗原との結合部位を2つ持つ 抗体分子の水素結合とS-S結合を切ると、2本づつ同じ4本のポリペプチド鎖になる。

抗体分子の構造 H鎖、L鎖とも、N端側は多様性が大きく、C端側はほぼ一定である。 N端側を可変領域(variable region)と言い、続くC端側を定常領域(constant region)と言う。 可変領域はどちらもアミノ酸110で、定常領域は、L鎖でアミノ酸110、H鎖で330からなる。

抗体分子の構造

抗体分子の構造

抗体分子の構造 S-S結合を一つ含む、アミノ酸110が一つの単位となっている。

抗体分子の構造 多様な形の抗原と結合する抗原結合部位は、、

抗体分子の構造 可変領域のアミノ酸配列を知らべて、個々の抗体で比べて見たら、 特に変異の大きい3か所が見つかった 超可変領域

抗体分子の構造 抗原結合部位

抗体分子の種類 H鎖の定常領域によってIgにはいくつかの種類がある IgM IgD IgG IgA IgE H鎖 μ δ γ α ε L鎖 すべてκかλ 二量体を1とした単位数 5 1 1か2 全Ig中の割合 10 <1 75 15 半減期(日) 3 25 2 6 補体活性化 +++ - ++ 貪食細胞との結合 + 肥満細胞との結合

抗原結合部位多様性 抗体もタンパク質なのだから、遺伝子の 情報から作られる。 抗原の数は無限に近い種類があるのに どうして抗原結合部位の形が違う抗体を 作ることができるのだろうか。

免疫系に必要な機能 特異性 多様性 抗体の構造とクローンが用意 されていることで説明できる。 記憶する能力 自己と非自己を見分ける能力 これは後で説明する。

抗原結合部位多様性 抗体もタンパク質なのだから、遺伝子の 情報から作られる。 抗原の数は無限に近い種類があるのに どうして抗原結合部位の形が違う抗体を 作ることができるのか。 この謎を明らかにしたのは次の実験で あった。

抗体遺伝子 の再編成 この実験結果は、胎児 の時に離れた位置に あったVとCが、成獣で は近づいたことを示す

抗体遺伝子の再編成 L鎖 多数のV 4つのJ 1つのC 分化の過程 でVとJの間 がランダムに 切り取られる

抗体遺伝子の再編成 H鎖も同じで、V,J,Cに加えて、D領域 がある H鎖でもこれらの領域の組み替えが起こる 多数のV 12のD 4つのJ 1つのC H鎖でもこれらの領域の組み替えが起こる L鎖とH鎖の組み合わせによって、多数の クローンが作られる

体液性免疫と細胞性免疫

細胞性免疫 やけどで皮膚が損傷されたので、それを 補うために他人の皮膚を移植したとする 移植された皮膚はやがてはげ落ちてしまう 拒絶反応(rejection)である ある個人の細胞には、その個人であること をしめす「表札」のようなものがあることが わかってきた

細胞の「表札」 すべての 細胞に 備わって いる 抗原提示 細胞だけ にある

MHCクラスⅠタンパク質 他人の皮膚の細胞には非自己のMHC クラスⅠタンパク質(+ペプチド断片)が ある T細胞は表札が異なるのを見て、攻撃 する このようなT細胞を、細胞損傷性T細胞 (キラーT細胞、CD8+T細胞)と言う

MHCクラスⅠタンパク質 MHCクラスⅠタンパク質の溝を真上から 見たところ(卵白アルブミン323-334がはさまっている)

ウイルスに感染すると ウイルスの外被タンパク質は感染した 細胞の中で脱ぎ捨てられる 外被タンパク質は分解され、断片は合成 中のMHCクラスⅠタンパク質に取り込まれ 溝に挟み込まれて細胞表面に提示される こうなるとMHCクラスⅠタンパク質は自己 ではなくなる(表札に泥が塗られた)ので

感染した細胞を攻撃 キラーT細胞はこれを見て細胞を攻撃する

T細胞受容体 どうやって「表札」を見ているのだろうか

T細胞受容体 T細胞の表面にはT細胞受容体という膜タン パク質が埋まっていた T細胞受容体は、抗体のY字型の腕の部分 と似たような構造で、α鎖とβ鎖の2本の ポリペプチド鎖が、S-S結合で結合している α鎖もβ鎖もN末端側は可変領域、C末端 側は定常領域である。

T細胞受容体

もう一つのT細胞 すでにB細胞による抗体の産生について は説明したが、、、 じつはB細胞による抗体産生は、B細胞だ けでは不十分であることがわかった 次の実験がそのことを示している

抗体産生にはT細胞が必要

クローン選択説

ヘルパーT細胞 B細胞は表面受容 体と結合した可溶性 の抗原と結合し、 細胞内へ取り込む MHCクラスⅡタン パク質に挟み込んで 表面へ提示

B細胞は抗原を提示 T細胞がこれをT細胞受容体で見る

ヘルパーT細胞 このようなT細胞を、ヘルパーT細胞 (CD4+T細胞)と言う。 CD4によって結合がしっかりとできると、 ヘルパーT細胞はインターロイキンをだし てB細胞を刺激する。 インターロイキンは受容体に結合し、細 胞内にセカンドメッセンジャーをつくる その結果、B細胞はG0から脱して細胞 周期へ復帰し、増殖分化する。

マクロファージの役割 非特異的防御機構のところで出てきた マクロファージは、特異的防御機構でも 重要な役割を演じる。 マクロファージは、細菌やカビなどの病原 体を貪食し、分解して断片ペプチドをMHC クラスⅡタンパク質に挟み込んで細胞表面 へ出して提示する。 ヘルパーT細胞がこれを認識し、活性化し インターロイキンを分泌する。

記憶細胞 すべてが形質細胞 になるのではなく、 一部は記憶細胞 として残される 同じ抗原に2回目 に出会うと速やかに 増殖して形質細胞 をつくる

一次および二次免疫応答

リンパ球の分化・成熟

胸腺での訓練 B細胞やT細胞は、遺伝子の再編成に よってランダムにつくられる。 だとしたらあらゆる抗原に反応するB細胞 やT細胞が作られてしまうはず。 これは不都合であるから、どこかで「自己」 抗原に対するB細胞やT細胞を消去する はず。

胸腺での訓練

自己免疫疾患 自己に対しては免疫機能が働かないように、 自己を認識するリンパ球は除去されている。 このことを免疫学的自己寛容 (immunological self tolerance)と言う。 何らかの原因で自己抗原を非自己と認識 して攻撃してしまうことがある。これを自己 免疫疾患と言う。

Igスーパーファミリー

細胞間の情報交換 ギャップジャンクション 膜表面上分子が直接 このやり方に該当する。 情報分子を分泌

哺乳類の免疫機構まとめ 情報分子を分泌