認知科学ワークショップ 第4回:復習編.

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認知科学ワークショップ 第4回:復習編

先週の復習 場面の理解に対するスキーマの影響 目的: スキーマが場面記憶の再生・再認に与える影響を調査(Brewer & Treyens (1981)の研究より) 刺激材料: 刺激材料の(A)期待性、(B)顕在性を操作する為に、本実験の参加者に対して予備実験を行う( 6段階で38項目を評価) 期待性:この部屋の中にありそうな度合い 顕在性:この部屋の中で存在すれば目立つ度合い 手続き: 部屋の設定を「大学院生の研究室」であることを参加者に知らせた後、2枚の部屋の写真を35秒見せる 再認課題(何があったか/どこにあったか)を行う 2

大学院生の研究室

場面の理解に対するスキーマの影響 分析: 実際に存在していた項目と実際には存在していなかった項目を別々に分析 Present:存在していたに関わらず見落とした人の数を算出 Absent:実際にはなかったにも関わらずあったとした人の数を算出 期待性と顕在性とそれぞれの誤認数などを照らし合わせてどのような傾向があるのか確認した後、相関分析を行う 相関分析をエクセルで行うには、エクセルを起動し、「ツール」→「分析ツール」→「相関」を実行 「ツール」の中に「分析ツール」がない場合には、「ツール」の中の「アドイン」を実行して見て下さい。

場面の理解に対するスキーマの影響 分析 ポイント: 実際にあったものでないと判断されたもの(誤答)と実際にはなかったのにあると判断されたもの(誤答)のデータそれぞれで期待性と顕在性との相関を見ること その理由として、実際にあったもので正確に再認されたものや実際になかったものを正確になかったと答えた場合、どのような要素が影響しているのか判断しにくい。 結局、この実験で見たいものはスキーマの記憶に対する影響を考察することなので、誤答に注目した方が、いかに記憶がスキーマに引っ張られるのかを観察する上で見やすい

データ1: 実際にあったもので正確に再認されてるものに関しての期待性と顕在性との相関を見る! 但し、相関係数を分析する前に必ず生データ(raw data)をよくみることも大事

データ1 合計 期待性平均 顕在性平均 デスクトップPC 1 32 5.55 3.804878 ホワイトボード 4.8 3.926829 32 5.55 3.804878 ホワイトボード 4.8 3.926829 スニーカー 5 2.775 3.780488 机 35 5.85 3.097561 トイレットペーパー 2 2.825 1.97561 蛍光灯 14 5.325 2.146341 テレビ 7 3.7 ギター 1.975 1.707317 割り箸 8 3.275 1.878049 ヘルメット 17 1.95 2.585366 テレビゲーム機 24 2.225 4.292683 ケーキ 28 1.75 1.634146 包丁 29 1.85 1.780488 ボール 2.25 4.02439 壁 25 5.725 2.878049 鉛筆 3 4.85 3.414634 ペットボトル 13 4.5 4.341463 電子レンジ 3.560976 デジタルカメラ 20 4.1 3.390244 傘 4 3.65 3.243902 ノートブックPC

データ1: 実際にあったもので正確に再認されたものと期待性と顕在性の間には低いながらも正の相関がみられた。 この事は、期待性が高いもの、顕在性が高いものは正確に再認される傾向あるのではないかと考えられる。 合計 期待性 顕在性 1 0.298973 0.102779 0.200403

データ2: 実際にあったものでないと判断されたもの(誤答)と期待性と顕在性との相関を分析 その前にやはりraw dataを見ることも忘れずにしよう!

データ2:実際にはあったにも関わらずなかったと判断されたもの sum 期待性平均 顕在性平均 デスクトップPC 1 5.55 3.804878 ホワイトボード 4.8 3.926829 スニーカー 4 2.775 3.780488 机 5.85 3.097561 トイレットペーパー 3 2.825 1.97561 蛍光灯 2 5.325 2.146341 テレビ 3.7 ギター 1.975 1.707317 割り箸 3.275 1.878049 ヘルメット 1.95 2.585366 テレビゲーム機 2.225 4.292683 ケーキ 1.75 1.634146 包丁 1.85 1.780488 ボール 2.25 4.02439 壁 5.725 2.878049 鉛筆 4.85 3.414634 ペットボトル 4.5 4.341463 電子レンジ 3.560976 デジタルカメラ 4.1 3.390244 傘 3.65 3.243902 ノートブックPC

場所に関する誤答例 スキーマに影響を受けた結果 包丁 Ex)ケーキの上/ケーキと一緒 割り箸 Ex)皿の上 ボール Ex)箱の中/床 テレビ

データ2 実際にあったものにも関わらずないと判断されたもの(誤答)と期待性と顕在性との間には負の相関が見られた この事は、期待性や顕在性の高いものほど見落とされずに正確に再認されたのに対して、期待性や顕在性の低いものほど見落とされたことを示していると思われる 合計 期待性 顕在性 1 -0.29439 -0.11627 0.200403

実際にあったにも関わらずないと判断されたものの結果 問題点 写真が不明瞭なことが原因となり、顕在性とは関係なく見落とし数が増大したことが考えられる。 テレビとデスクトップPCのように外見の類似したものがあったため、参加者の中で認識に差が出た。 次に、実際にはなかったにも関わらず再認されたものの分析を同じように行った。 誤認数と期待性などの関係に特に注目! まず再認された数を見た後で、実際にはなかったのにあると判断されたもの(誤答)と期待性と顕在性の相関を見る

誤認数 A B C D E F G H I J K L M N O P Q R S T U 合計 たんす 1 3 椅子 7 こたつ 懐中電灯 1 3 椅子 7 こたつ 懐中電灯 爪楊枝 雪だるま ゴミ箱 窓 マグネット 9 腕時計 ドア 2 風鈴 ベッド バイク 漫画 粘土細工 饅頭

場所に関する誤答例 スキーマ 空欄 その他 合計 例 椅子 4 2 1 7 机の近く マグネット 9 ホワイトボードの上 漫画 3 本棚      例 椅子 4 2 1 7 机の近く マグネット 9 ホワイトボードの上 漫画 3 本棚 ドア 右の写真の右 (実際にドアのある場所) 腕時計 机の上

データ3:実際にはなかったにも関わらずあると判断されたもの 主な結果: 誤認数と期待性の間には中程度の正の相関が見られた。 この事は、期待性の高い項目ほど誤って再認される傾向があることを示していると思われる。 すなわち、スキーマが記憶の再認に影響を与えている可能性がある 但し、顕在性とは負の相関がみられたことから、目立つものほど、正確にないと判断されたと思われる 合計 期待性 顕在性 1 0.529119 -0.27487 -0.07342

データ3:実際にはなかったにも関わらずあると判断されたもの 問題点 ソファを椅子、本棚をたんす、と捉えてしまうような、解釈に曖昧性が生じるものが再認リストの中にあった。 誤認数のデータが少なかった。

データ4:実際にはなかったもので正確にないと判断されたもの 実際にはなかったもので正確にないと判断されたものの数と期待性と顕在性の相関には正の相関と負の相関がそれぞれ見られた この事は、期待性が高いものほど、正確に実際にはなかったと判断され、顕在性との負の相関は、顕在性が高いものほど正確になかったと判断されたことを示していると思われる 合計 期待性 顕在性 1 0.559906 -0.25029 -0.02602

目撃者の記憶はどれだけ信頼できるのか 今回の授業では、 目撃者の証言 目撃者の証言に関して理解を深めた後、 人間の潜在的な記憶や反応をさぐる為の実験方法などに関して学習します! 目撃者の証言 誘導尋問、誤った情報、質問の際の微妙な言い回しが記憶に影響を与えるか Loftus:記憶は変容する

誤誘導情報の効果 Loftus(1975)の実験(1) 実験の手順 自動車事故のような出来事の映画か一連のスライドを見る 目にした出来事についての事後情報を与えられる(質問をされたり、その出来事の物語的記述を読まされたりする) 最初の出来事についての記憶について調べる

誤誘導情報の効果 Loftus(1975)の実験(2) 第2段階で被験者は2つにグループ分けされる 首尾一貫条件(正しい情報) 「白いスポーツカーが停止標識を通り過ぎたときに、それはどのくらいの速さで走っていましたか?」 誤情報条件(誤った情報) 「白いスポーツカーが田舎道を走っていて農家の納屋を通り過ぎたときそれはどのくらいの速度で走っていましたか?」(実際には映画には納屋はでてこない) 記憶テストで納屋を見たといった被験者 首尾一貫条件群:3%以下 誤情報条件群:17%

誤誘導情報の効果 Loftus, Miller, Burns(1978)の実験(1) 実験の手順(1) 被験者に自動車事故についてのカラースライドを見せる 被験者の半分:停止標識で停車した赤のダットサンのスライド 残りの半分:前方優先道路ありの標識のところで停車した赤のダットサンのスライド

誤誘導情報の効果 Loftus, Miller, Burns(1978)の実験(2) 実験の手順(2) 質問(半数は事後情報一致、半数は矛盾) 各グループの半分:「赤のダットサンが停止標識でとまっていたあいだに別の車がそれを追いこしたかどうか」 残りの半分:「赤のダットサンが前方優先道路ありの標識でとまっていたときに別の車がそれを追いこしたかどうか」 20分後に強制選択再認テスト 結果(正答率) 一致した情報を与えられた被験者:75% 矛盾した情報を与えられた被験者:41%

目撃者の証言 質問の言い回しによる目撃者の証言への影響(1) Loftus(1974) 多数の自動車の関わった事故の映画を見せたあと被験者に質問 Did you see a broken headlight? Did you see the broken headlight? →より多くの肯定的な答え

目撃者の証言 質問の言い回しによる目撃者の証言への影響(2) Loftus & Palmer(1974) 「自動車同士が激突した(smashed)ときに、車は大体どれくらいの速さで走っていましたか?」 「衝突した(collided)」 「どんと突き当たった(bumped)」 「接触した(contacted)」 「ぶつかった(hit)」 「激突した」と言われた被験者は「車はどれくらいの速度で走っていましたか?」という質問に対してスピードがより速いと評価 割れたガラスがなくても「割れたガラスを見ましたか?」に対してイエスと答える率が高かった

目撃者の証言 質問の言い回しによる目撃者の証言への影響(3)

先週の復習(2) 顔の再認実験(授業版) 目的:誤った情報・質問の際の微妙な言い回しが記憶に影響を与えるかどうか? 手順:学習者を2グループに分けた 実験群(17人):授業の最初に見せた写真の中で、SFCの先生でない、眼鏡をかけた男性はどの人ですか。 統制群(20人):授業の最初に見せた写真の中で、SFCの先生でない男性はどの人ですか。 分析:正答率とその割合などを分析した

顔の再認の分析結果 正解  不正解 合計 眼鏡あり 眼鏡なし その他 眼鏡教示あり 11 3 1 2 17 眼鏡教示なし 18 20

先週の復習(3) 顔の再認実験(授業版) 結果: 解釈(その理由): 正答率で若干の相違が見られたものの、天井効果が見られることから、今回の体験では「誤った情報・質問の際の微妙な言い回しが記憶に影響を与える」という結果にはならなかった。 解釈(その理由): 工夫はしたものの、学習者の授業に対する心的構えから単なる記憶課題となってしまったこと 学習者の記憶能力が非常に優れていたことなどが考えられる。

反応にかかる時間(反応潜時)を測る 反応時間から何がわかる? 意識することはできない脳内の概念ネットワークを探る

例1:語彙決定課題 文字列を一つずつスクリーンに短時間表示 被験者は文字列が単語か非単語かをできるだけ速く、正確に判断することを求められる 試行の半分は単語(YESが正解)、残りの半分は非単語

プライミング効果 語は脳内ネットワークで互いに関連付けられている ある単語がアクセスされるとその単語とネットワークの中で繋がっている他の単語も同時に活性化される ターゲットの単語と関連した語を直前に見ていると、ターゲットの単語はすでに活性化されているので、単語であるという判断が(関連語をみていないばあいに比べ)速くなる→プライミング効果

語彙決定課題例 「高齢者」関連の語をプライムとし、語彙決定にプライミング効果があるかどうかやってみよう。 心理学実験ソフト”Inquisit” (日本語版をダウンロード) http://www.millisecond.com/download.aspx Inquisit用プライミング実験プログラムhttp://cogpsy.sfc.keio.ac.jp/sfc/ld.zip (SFC学内限定です。学外からダウンロードしたい場合は以下のサイトを経由してアクセスしてください)https://vpn1.sfc.keio.ac.jp/webvpn.html

「高齢者」プライム効果実験 デザイン 全部で90試行。そのうち45試行は単語、残りの45試行は非単語 (1)中立語プライム非単語、(2)中立語プライム高齢者関係語、(3)中立語プライム無関係語、(4)高齢者プライム非単語、(5)高齢者プライム高齢者関係語、(6)高齢者プライム無関係語の6条件 (2)と(5) の比較がプライム効果

概念の構造を反応時間から探る 概念は典型(プロトタイプ)を中心にした、境界が曖昧なカテゴリーとして脳内に表象されている(Rosch) この仮説を検証するには 人がカテゴリーのメンバーか非メンバーを判断するとき、典型的なメンバーほど判断が速く、非典型的なメンバーは判断が遅れる

カテゴリ判断実験で典型性効果を検証してみる 実験は2段階で構成される カテゴリーのメンバーの典型性の評定 反応時間の測定 カテゴリ判断実験ソフト(Windows版Microsoft Excel 2003以降で動作 *ダウンロードは学内限定です)http://cogpsy.sfc.keio.ac.jp/sfc/te.zip カテゴリーメンバー判断の反応時間が典型性の評定値と相関しているかどうかを見る

カテゴリーメンバー判断課題 最初にカテゴリーの名前がスクリーンに表示され、次にターゲット語が表示される。 被験者はターゲット語がカテゴリーのメンバーかどうかをできるだけ速く、正確に判断する 試行の半分はYESが正解、後の半分はNOが正解 典型性評定値をとった語をYES試行で使う単語とし、両者の相関を取る。

もっと高度な反応時間をつかった実験例 物体の絵の判断における上位概念概念の影響をみる (ネガティヴプライミング) 物体の絵の判断における上位概念概念の影響をみる (ネガティヴプライミング) 助数詞が意味ネットワークに影響を与えるかみる

概念的なつながりがある物体同士を否と答えるのは二つの物体に概念的なつながりが無い場合に比べ時間がかかる 物体認知における高次認知の影響 Yokosawa&Imai(1997)の研究 二つの物体の同異判断課題 概念的なつながりがある物体同士を否と答えるのは二つの物体に概念的なつながりが無い場合に比べ時間がかかる 概念的なつながり 上位概念のつながり 連想的なつながり  

物体認知における高次認知の影響(2) Yokosawa &Imaiの研究から示唆されること →物体の知覚的な認識(例:ウサギを表す絵を「ウサギの絵」として同定すること)の際に概念知識が自動的に働く

助数詞の意味ネットワークへの影響 Yokosawa & Imaiの実験の応用 ターゲットの認識において、プライムがターゲットと意味的に関連している(意味ネットワークの中で同時に活性化される)と無関係の場合より反応が遅れる 同じ助数詞で数えられるモノは負のプライム効果を及ぼすか

デザイン 半分は正反応が正解の試行(分析しない) 残りの半分がNoが正解の試行(分析対象) 4種類のプライム 上位語を共有(にんじんとじゃがいも) 連想関係(にんじんとうさぎ) 助数詞共有(にんじんと鉛筆) 無関係(にんじんとコップ)

+ + Procedure of the priming for Object Picture recognition Cloud Mask until response Picture 200ms Fixation 500ms + Cue Word 1000ms Fixation 1500ms Cloud The object identification task was a reaction time study. The participants sat at a computer. They were first shown a cue for 1 second. The cue was presented in word. Then a target was presented in a picture image. The subject were asked to judge whether the word and the picture matches. If they match, they should answer yes, if the do not match, they should answer no. In the previous study done by Yokosawa & Biederman using the same paradigm, it was demonstrated that both American and Japanese subjects took longer took longer to judge No when the cue and the target were from the same taxonomic superordinate category than when they were not taxonomically related. Borrowing the logic, we could test whether the priming effect could also be obtained when the cue was thematically related to the target, and when the cue and target were from the same classifier category. If we see the delay, we could conclude that the thematic relation and or classifier category membership affects our thought even at this low level of cognition, that is, object identification. +

負のプライミング 無視しようとした情報の行方は? 先行提示された情報が後続の情報の処理を妨げること 代表的なプライミング実験(Tipper, 1985) 以下URLにウェブブラウザ上で動作する実験プログラムが置いてあります http://www.l.u-tokyo.ac.jp/AandC/HLV/DataBase/NP/intro.html

例、図形判別課題 重なり合う赤と緑の線で描かれた2つの図形を同時に提示する(先行画面“プライム”と後続画面“プローブ”の2回 ) 被験者は1回目のプライムでは、緑の図形を無視し、赤の図形の名前を覚える 2回目のプローブでは、緑の図形を無視し赤の図形の名前に対応するキーをできるだけ速く正確に押す

図形判別課題(Tipper, 1985) デザイン 全部で72試行 刺激の図形は4種類(イヌ、足、椅子、ギター)、各2色(緑、赤) プライムで表示された緑の図形(無視すべき情報)と同一の図形がプローブで赤の図形として表示されると、そうでないときよりも判断が遅れる 例、プライムで赤のギターと緑のイヌが提示されたあとにプローブで赤のイヌと緑の椅子が提示されると、他の赤の図形が表示されたときよりも反応時間が長くなる

負のプライミング (Tipper & Driver, 1988) プライムで無視される緑の図形が、プローブで表示される赤の図形と全く同一ではなく、意味的に関係がある図形でも、負のプライミング効果が得られる。 これは、無視される図形が意味レベルの高次処理を受けている可能性を示唆している