2012年度 九州大学 経済学部 専門科目 環境経済学 2013年1月21日 九州大学大学院 経済学研究院 藤田敏之
9 地球温暖化問題 9.1 地球温暖化 地球温暖化・・・温室効果ガス(GHG)の濃度上昇によって地球の放射する赤外線の吸収が増加し,気温が上昇する現象 気温上昇そのものよりも,それにともなう気候変動およびその影響,つまり海面上昇や異常気象,生態系の混乱などが懸念される IPCC報告書によると,20世紀の間に気温は0.4~0.8℃,海水面は12~22cm上昇した.さらに21世紀末には平均気温は20世紀末水準よりも1.1~6.4℃上昇すると予測されている 地球温暖化問題の特徴 越境性・・・世界全体の問題であり,南北問題がからむ 長期性・・・被害のリスクを負うのは将来世代 不確実性・・・温暖化のメカニズムや被害の程度がはっきりしない
出典:気象庁(2007)『IPCC第4次評価報告書統合報告書政策決定者向け要約』p.7 気候変動の将来予測 出典:気象庁(2007)『IPCC第4次評価報告書統合報告書政策決定者向け要約』p.7 http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4th/syr_spm.pdf
出典:日本エネルギー経済研究所(2012)『エネルギー・経済統計要覧』 世界のCO2排出量(2009年) 出典:日本エネルギー経済研究所(2012)『エネルギー・経済統計要覧』 http://www.jccca.org/chart/chart03_01.html
主要国の1人当たりCO2排出量(2009年) 出典:日本エネルギー経済研究所(2012) http://www.jccca.org/chart/chart03_02.html
出典:環境省(2012)『2011年度(H23年度)の温室効果ガス排出量(速報値)について』 http://www. env. go
出典:環境省(2012)
9.2 国際的な取組み(1) 地球温暖化対策には国際協力が不可欠であり,1980年代から多数の国際会議が開催されている 9.2 国際的な取組み(1) 地球温暖化対策には国際協力が不可欠であり,1980年代から多数の国際会議が開催されている 1985年 フィラハ会議 1988年 IPCC設立,トロント会議 1990年 フィンランドで炭素税導入 → 現在8ヶ国で導入 1992年 国連環境開発会議(リオ・サミット) → 気候変動枠組条約 1997年 第3回締約国会議(COP3, 京都会議) → 京都議定書 2002年 ほとんどの先進国が京都議定書に批准 2005年 京都議定書発効,京都議定書締約国会合(MOP)始まる 2008-2012年 京都議定書第1次約束期間 2009年にGHG排出量に大きな減少がみられたがこれは不景気,原子力発電によるところが大きく,日本は国内の政策だけでは京都議定書の目標を達成するのが困難な状況である・・・炭素税,排出量取引が機能していない 京都メカニズム・・・国際排出量取引,JI,CDM 京都メカニズムにより海外から排出権を購入するのが最も効果的(これについては否定的なひとも多い)
9.2 国際的な取組み(2) COPは毎年開催され交渉が続けられているが,京都議定書の第1次約束期間が終了した2013年現在,「ポスト京都」についての実質的な合意は得られていない 「ポスト京都」に関する交渉は2007年にスタートした.すべての国が全世界の長期削減目標(2050年までに1990年レベルから50%削減)に合意しているが,短期・中期的な目標を設定することに否定的な国が多い 2011年のCOP17(ダーバン)において,法的拘束力をもった新しい協定を2015年までに採択し,2020年までに発効させるという計画が決定された.2012年のCOP18(ドーハ)において,2013年~20年には現状の京都議定書の枠組みが継続される(第2次約束期間)ことが決定したが,参加するのはEU加盟国以外の主要国ではオーストラリアのみ 先進国は途上国への資金援助を約束しているが,途上国は資金援助の上積みを求めている.交渉の進展があまりに遅く,深刻な気候変動を抑制することができないのではないかという懸念がある
9.3 今後の課題 1)京都メカニズムの積極的利用 各種モデル解析の結果は,京都議定書遵守の限界削減費用は国ごとに大きく異なることを示している.したがって少なくとも京都目標の達成に向けては京都メカニズムが積極的に活用されるべきである 2)世界全体での長期的取組み いまだにGHG主要排出国のアメリカおよび今後の排出の急激な増加が見込まれる中国,インドなど途上国に対する削減義務がまったくない.全世界の数値目標を盛り込むことになっている2020年協定に向けてのルール作りが非常に重要である(途上国に対する資源譲渡を内在させた協定でなければ受け入れられない) 3)不確実性の解消 温暖化の規模も外部費用も不確実であり,どの程度のGHG削減が必要なのかがはっきりしない.根強い温暖化虚構説も存在する.不確実性の幅をある程度狭くすべきであり,不確実性が大きいままであれば,上記1), 2)についての議論も無意味になってしまうおそれがある
京都議定書遵守の限界削減費用(ドル/1炭素t) 出典: IPCC (2001), Technical Summary of Climate Change 2001: Mitigation, p.56. http://www.ipcc.ch/ipccreports/tar/wg3/037.htm#tabts4
国内CDM制度の概要 出典:経済産業省HP http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g80908b02j.pdf