~飲酒のリスクと節酒支援のポイント~
飲酒量と中性脂肪・がん等との関係 飲酒量 リスク・検査値 中性脂肪: 10㎎↑ ( ビール1ℓ) 乳がん: 6%↑ ( ビール0.25ℓ) 中性脂肪: 10㎎↑ ( ビール1ℓ) 乳がん: 6%↑ ( ビール0.25ℓ) 直腸・大腸がん: 50%↑ ( ビール1ℓ) リスク・検査値 アルコール摂取量と病気との関係は大別すると2種類に分けられます。一つが飲酒量に比例して病気のリスクや検査値などが悪化するもので、中性脂肪や乳がん、直腸・大腸がんとの関係がこれにあたります。 飲酒量 Higuchi S et al. Addiction, 2007ほか
飲酒量と虚血性心疾患、 糖尿病、脳梗塞、認知症との関係 飲酒量 リスク・検査値 虚血性心疾患:ビール1ℓ 糖尿病: ビール1ℓ 脳梗塞: ビール0.5ℓ 認知症: ビール0.5ℓ~1ℓ 一方で、少量の飲酒により、病気のリスクが下がる、つまり全く飲まないより少し飲む方が病気のリスクが下がるものもあります。これは飲酒量とリスクとの関係のグラフがアルファベットのJに似ていることからJカーブとも呼ばれます。 糖尿病や、脳梗塞、認知症などがこれにあたります。ただ、いずれの病気でも、飲酒量がある一定量を超えるとリスクは上昇しはじめ、過量飲酒になると全く飲まない人よりリスクが高くなります。 飲酒量
アルコールと死亡率 飲酒量 女性 死亡率 男性 ビール1.5ℓ以上 女性:1.6倍 男性:1.4倍 ビール(5%)換算 0.25ℓ未満 女性:0.88倍 死亡率 男性 1 ビール(5%)換算0.25ℓ~0.5ℓ未満 男性:0.84倍 飲酒量と全死亡率についても、同様にJカーブを示します。ただ、死亡率が一番低くなる一日あたりの飲酒量は、女性では0~9g(=ビール(5%)250ml未満)、男性でも10~19g(=ビール(5%)250ml以上500ml未満)と、かなり低い値となっております。また、その量を超えて飲み過ぎれば、死亡率は飲酒量に比例して上昇し、一日あたり30g(ビール(5%)1.5ℓ)以上飲む人では、全く飲まない人に比べ、女性で1.6倍、男性では1.4倍の死亡率となります。 飲酒量 出典:Holman CD et al. Meta-analysis of alcohol and all-cause mortality. MJA. 1996.
飲酒量の目安 男性 女性 節度ある適度な飲酒 ・男性:20g/日 ・女性:男性の1/2~2/3 リスクの高い飲酒 ・男性40g/日以上 5%ビール500ml 4% 発泡酒350ml 5% ビール500ml 5%ビール500ml では保健指導を行う際には、具体的にどのような量を目安にすればよいのでしょうか。健康日本21(第一次)では節度ある適度な飲酒として、男性で一日あたり20g(=ビール(5%)500ml)を提案していました。女性は、男性の1/2~2/3が望ましいので、男性の2/3としても、アルコール度数の低い発泡酒(4%)のレギュラー缶(350ml)が上限となります。 また健康日本21(第二次)で定義されている生活習慣病のリスクの高い飲酒量としては、男性は40g(=ビール(5%)500ml×2)、女性はその半分の20g(=ビール(5%)500ml)となります。これ以上の飲酒者は、飲酒量を減らす必要があります。
飲酒指導の目標 危険の少ない飲みかたを知ってもらう 自分の飲みかたの危険度を知る 飲酒量の減らし方を学ぶ 飲酒指導を行う際の目標は、①危険の少ない飲みかたを知ってもらう、②自分の飲みかたの危険度を知る、③飲酒量の減らし方を学ぶということです。 ①を具体的にいうと、節度ある適度な飲酒や生活習慣病のリスクのある飲酒の量を知ってもらうこと、②は、スクリーニングテストを用いて、自分の飲酒の危険度を測ること、③は簡易介入を通して、具体的な飲酒量の減らし方を習得することです。
AUDIT(アルコール使用障害同定テスト)① 質問1 あなたはアルコール含有飲料(お酒)をどのくらいの頻度で飲みますか? 0 点 飲まない 1 1ヶ月に1度以下 2 1ヶ月に2~4度 3 週に2~3度 4 週に4度以上 質問2 飲酒するときには通常どのくらいの量を飲みますか? 0 点 0~2ドリンク* 1 3~4ドリンク 2 5~6ドリンク 3 7~9ドリンク 4 10ドリンク以上 (注) ○「ドリンク」は純アルコール換算の単位で、 1ドリンクは純アルコール換算で10グラムです。 ○1ドリンクは、ビール中ビン半分(250ml)、 日本酒0.5合、焼酎(25度)50mLに相当します。 *通常のAUDITは「1~2ドリンク」ですが、すべてを分類できるよう、本手引きでは敢えて「0」の場合を含めています。 特定保健指導では、スクリーニングテストとしてAUDIT(オーディット、アルコール使用障害同定テスト)を用いています。AUDITはWHOによって開発された、世界中で使われている、さまざまなレベルの過剰な飲酒を評価するのに用いられているテストです。通常は、その中の、10項目の質問からなるCore AUDITのことを指しています。各質問の選択肢に、点数がつけられており、合計点がAUDITの点数となります。 質問3 1度に6ドリンク以上飲酒することがどのくらいの頻度でありますか? 0 点 ない 1 月に1度未満 2 月に1度 3 週に1度 4 毎日あるいはほとんど毎日 (注) ○「6ドリンク」とは、ビールだと中ビン3本、 日本酒だと3合、焼酎(25度)だと1.7合(300mL) に相当します。
「今のままお酒と上手に付き合っていきましょう」と伝える(介入不要) AUDITの判定方法 質問1 点 【判定】 問題飲酒は ないと思われる 「今のままお酒と上手に付き合っていきましょう」と伝える(介入不要) 質問2 点 質問3 点 ~7点 質問4 点 減酒支援 対象者自らが減酒目標を立て、飲酒日記をつけて減酒に取り組むことを支援する。 合計 質問5 点 【判定】 問題飲酒はあるが 依存症には至らない 点 8~14点 質問6 点 (0~40点) 質問7 点 15点~ 特定保健指導ではAUDIT8点~14点の対象者が、問題飲酒者だがアルコール依存症までは至っていないとして、減酒支援の対象になります。 15点以上の対象者は、アルコール依存症の可能性が高く、減酒は難しいため、専門医療機関での断酒治療を勧めています。 質問8 点 アルコール依存症の疑いがあるため、可能なら精神保健福祉センター等と連携し、専門医療機関での治療(断酒等)につながるよう支援する。 質問9 点 【判定】 依存症が疑われる 質問10 点
減酒支援の具体的な手順 【ステップ1】 普段の飲酒の評価 支 【ステップ2】 飲酒問題の評価と整理 援 初 日 【ステップ1】 普段の飲酒の評価 【ステップ2】 飲酒問題の評価と整理 支 援 初 日 【ステップ3】 減酒の提案と目標設定 目安:2~4週間後 【ステップ3】 フォローアップ支援 減酒指導は2日に分けて行います。支援初日は3つのステップに分かれており、ステップ1では普段の飲酒状況を評価します。AUDITの質問1~3の内容を活用しながら、なるべく具体的に聞いていきましょう。ステップ2では、飲み過ぎによる問題を質問していきます。もし対象者が問題を認識していれば、整理して共有しましょう。問題を認識していないのであれば、飲酒の害に関する教材を活用して気付きを促しながら問題点を整理していきます。ステップ3では、減酒を提案し、対象者に合う方法をともに考え、対象者に自ら書き出してもらいます。週に二日休肝日を設ける、飲んでも3合までにするなど具体的な飲酒目標を立てます。また、その日から「飲酒日記」をつけることを促します。最後に、次回面接日を設定し、その日まで日記をつけ、目標の達成を目指すよう励まします。 支援初日の面接後、2~4週間後に2回目の面接を行います。ここではステップ4として、初回から今までの飲酒状況について「飲酒日記」を見ながら話しあいます。減酒できていれば努力を称賛し、できなかった場合はその理由を話し合います。飲酒日記をつけていなかった場合には、「なぜつけなかったか、なぜつけたくないのか」という点に立ち返って話し合い、再度の取り組みにつなげます。 支 援 2 回 目
飲酒日記 自分の飲酒習慣を変えたいと思っている方は、毎日の飲酒を正直に記録していくことが手助けになります。 自分が立てた目標を記録することで、少しずつ目標に向かっていることが確認でき、励みにもなります。 ここでまず、あなたが立てた飲酒目標を確認しましょう。 私の飲酒目標は です。 ( ) 週目 飲んだ種類と量 飲んだ状況 飲酒目標 達成 月 日( ) 月 日( ) 月 日( ) 月 日( ) 飲酒日記では、最初に本人と話し合って決めた飲酒目標を記入します。それから、次回支援まで日記をつけてもらいますが、つけ方としては①「飲んだ種類と量」をできるだけ具体的に記入し2種類以上のお酒を飲んだ場合には、それぞれ記載する、②飲酒した時は「飲んだ状況」を記入する、③お酒を飲まないで済んだ日には、その理由や飲まないために対象者が使った方法を「飲んだ状況」に記入する、④「飲酒目標達成」には、全く飲まなかった場合「◎」、飲んだが飲酒目標以下だった場合「〇」、飲酒目標を超えてしまった場合「×」を記入する、となっています。 また、血圧やγ-GTPなど減酒によって改善する項目も併せて記入することも、モチベーション向上につながります。
減酒支援のポイント 何らかの形で始める 共感することが重要 目標は達成可能なものにし、対象者が自ら設定する 初回支援後、2~4週間後にフォローアップ支援を行う フォローアップ支援時に飲酒量が減っていなくても、再度 のチャレンジを支援する 酒量が増加するなどアルコール依存症が疑われる対象 者には、精神保健福祉センターなどと連携して専門医療 機関での治療につなげる 減酒支援のポイントです。①何らかの形で始めましょう。評価のための聞き取りだけでも酒量が減ることもあります。②共感することが重要です。飲酒習慣を変えることの困難さ、日常生活における苦労を受け止めて共感する姿勢を示しましょう。③飲酒目標は達成可能なものとし、押し付けることなく対象者が自ら設定することを支援しましょう。③一回目の支援から、2回目の支援(フォローアップ支援)までは、2~4週間後としましょう。ただ期間や回数については柔軟に考えましょう。④フォローアップ支援時に飲酒量が減っていなくても、再度のチャレンジを支援しましょう。高すぎる目標であれば目標を見直すことも可能です。⑤アルコール依存症では減酒支援の効果が期待できないため、支援開始後4~6週間たっても酒量が減らない、あるいは増えた場合、精神保健福祉センター等と連携して専門医療機関での治療に結びつけるようにしましょう。