光化学 6章 6.1.4 Ver. 1.0 FUT 原 道寛.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
物理化学 福井工業大学 工学部 環境生命化学科 原 道寛. 物理化学: 1 章原子の内部 (メニュー) 1-1. 光の性質と原子のスペクトル 1-2. ボーアの水素原子モデル 1-3. 電子の二重性:波動力学 1-4. 水素原子の構造 1-5. 多電子原子の構造 1-6.
Advertisements

無機化学 I 後期 木曜日 2 限目 10 時半〜 12 時 化学専攻 固体物性化学分科 北川 宏 301 号室.
1 今後の予定 8 日目 11 月 17 日(金) 1 回目口頭報告課題答あわせ, 第 5 章 9 日目 12 月 1 日(金) 第 5 章の続き,第 6 章 10 日目 12 月 8 日(金) 第 6 章の続き 11 日目 12 月 15 日(金), 16 日(土) 2 回目口頭報告 12 日目 12.
光・放射線化学 4章 4.4 FUT 原 道寛.
学年 名列 名前 福井工業大学 工学部 環境生命化学科 原 道寛
原子核物理学 第3講 原子核の存在範囲と崩壊様式
生体分子解析学 2017/3/2 2017/3/2 機器分析 分光学 X線結晶構造解析 質量分析 熱分析 その他機器分析.
光化学 6章 6.1.2 Ver. 1.0 FUT 原 道寛.
光化学 6章 6.1.3 FUT 原 道寛 名列__ 氏名_______.
効率を改善 人工系に接続 CO2還元 ATP生成 低効率 高効率.
光化学 5章 5.2 Ver. 1.0 FUT 原 道寛.
学年 名列 名前 福井工業大学 工学部 環境生命化学科 原 道寛 名列____ 氏名________
学年 名列 名前 福井工業大学 工学部 環境生命化学科 原 道寛 名列____ 氏名________
単一分子接合の電子輸送特性の実験的検証 東京工業大学 理工学研究科  化学専攻 木口学.
α α 励起エネルギー α α p3/2 p3/2 α α 12C 13B 12Be 8He α α α
活性化エネルギー.
HPLCにおける分離と特徴 ~逆相・順相について~ (主に逆相です)
学年 名列 名前 福井工業大学 工学部 環境生命化学科 原 道寛
好気呼吸 解糖系 クエン酸回路 水素伝達系.
福井工業大学 工学部 環境生命化学科 原 道寛 名列____ 氏名________
Real Time PCR Ver.1.00.
サフラニンとメチレンブルーの 酸化還元反応を利用
3)たんぱく質中に存在するアミノ酸のほとんどが(L-α-アミノ酸)である。
TTF骨格を配位子に用いた 分子性磁性体の開発 分子科学研究所 西條 純一.
平成18年度 構造有機化学 講義スライド テーマ:炭素陰イオン&二価炭素 奥野 恒久.
光化学 6章 6.1.5 FUT 原 道寛 名列__ 氏名_______.
Ⅰ 孤立イオンの磁気的性質 1.電子の磁気モーメント 2.イオン(原子)の磁気モーメント 反磁性磁化率、Hund結合、スピン・軌道相互作用
基礎無機化学 期末試験の説明と重要点リスト
●電極での化学変化 電子が移動するから 電子が移動するから 電流が流れる! 電流が流れる! 水素原子が 2個結びつく
原子核物理学 第4講 原子核の液滴模型.
Thanks to Klaus Lips, Prof. Thomas Moore
Real Time PCR Ver.2.00 R Q TaqManプローブ法.
有機バイオ材料化学 2. 様々なアルケンおよびアルキンの反応.
光化学 6章 6.1.4 FUT 原 道寛 名列__ 氏名_______.
平成18年度 構造有機化学 講義スライド テーマ:芳香族性 奥野 恒久.
原子核物理学 第8講 核力.
平成18年度 構造有機化学 講義スライド テーマ:炭素陽イオン 奥野 恒久.
情報化社会を支える量子ビームと化学 大阪大学産業科学研究所 古澤孝弘 ナノサイエンス・ナノテクノロジー高度学際教育研究訓練プログラム
前回の講義で水素原子からのスペクトルは飛び飛びの「線スペクトル」
22章以降 化学反応の速度 本章 ◎ 反応速度の定義とその測定方法の概観 ◎ 測定結果 ⇒ 反応速度は速度式という微分方程式で表現
量子力学の復習(水素原子の波動関数) 光の吸収と放出(ラビ振動)
発光量絶対値測定 - ホタル- ルミノールの発表は無し …
分子軌道理論(Molecular Orbital theory, MO理論)
カルビンーベンソン回路 CO23分子が回路を一回りすると 1分子のC3ができ、9分子のATPと 6分子の(NADH+H+)消費される.
有機バイオ材料化学 5. カルボニルの反応 5-1 アルデヒド・ケトン.
生体親和性発光ナノ粒子の医薬送達担体への応用
星間物理学 講義2: 星間空間の物理状態 星間空間のガスの典型的パラメータ どうしてそうなっているのか
FUT 原 道寛 学籍番号__ 氏名_______
福井工業大学 原 道寛 学籍番号____ 氏名________
学年   名列    名前 物理化学 第2章 2-1、2-2 Ver. 2.1 福井工業大学  原 道寛 HARA2005.
学年   名列    名前 物理化学 第1章5 Ver. 2.0 福井工業大学 原 道寛 HARA2005.
第6回講義 前回の復習 ☆三次元井戸型ポテンシャル c a b 直交座標→極座標 運動エネルギーの演算子.
中性子過剰F同位体における αクラスター相関と N=20魔法数の破れ
化学1 第12回講義        玉置信之 反応速度、酸・塩基、酸化還元.
機器分析学 赤外吸収スペクトル ラマンスペクトル.
近代化学の始まり ダルトンの原子論 ゲイリュサックの気体反応の法則 アボガドロの分子論 原子の実在証明.
福井工業大学 原 道寛 学籍番号____ 氏名________
学年   名列    名前 物理化学 第1章5 Ver. 2.0 福井工業大学 原 道寛 HARA2005.
課題研究 P4 原子核とハドロンの物理 (理論)延與 佳子 原子核理論研究室 5号館514号室(x3857)
原子核物理学 第6講 原子核の殻構造.
物質とエネルギーの変換 代謝 生物体を中心とした物質の変化      物質の合成、物質の分解 同化  複雑な物質を合成する反応 異化  物質を分解する反応 
好気呼吸 解糖系 クエン酸回路 電子伝達系.
特論B 細胞の生物学 第6回 エネルギーはどこから 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
化学1 第11回講義 ・吸光度、ランベルト-ベールの法則 ・振動スペクトル ・核磁気共鳴スペクトル.
生体分子解析学 機器分析 分光学 X線結晶構造解析 質量分析 熱分析 その他機器分析.
現実的核力を用いた4Heの励起と電弱遷移強度分布の解析
好気呼吸 解糖系 クエン酸回路 電子伝達系.
有機バイオ材料化学 3. アルコールの反応.
学年   名列    名前 物理化学 第2章 2-1、2-2 Ver. 2.0 福井工業大学  原 道寛 HARA2005.
FUT 原 道寛 学籍番号__ 氏名_______
Presentation transcript:

光化学 6章 6.1.4 Ver. 1.0 FUT 原 道寛

光化学I 序章 1章 2章 3章 4章 5章 6章 7章 8章 9章 10章 “光化学”を学ぶにあたって 光とは何か 分子の電子状態 電子励起状態 3章 分子と光の相互作用 4章 光化学における時間スケール 5章 分子に光をあてると何が起こるか 1化学反応機構の概略 2光反応とポテンシャルエネルギー曲線 6章 光化学の観測と解析 7章 どのように光を当てるか 8章 光化学の素過程 9章 光化学反応の特徴 10章

6.1.4.消光と光増感 ベンゾフェノンの光還元反応を空気飽和下で行う 反応効率は低くなる. 水素引抜き反応と競争して酸素がベンゾフェノンのT1を失活させるため 第三物質による反応効率の低下や蛍光・りん光などの発光効率が減少すること 消光(quenching)といい,その第三物質を消光剤(quencher)という. 励起分子が基底状態分子と相互作用することによって, その励起エネルギーを失うorその励起分子が消失する現象 消光という. A B C D E

6.1.4.消光と光増感 励起分子が第三物質によって消光され, その第三物質の反応が誘発された場合, これを光増感反応(photosensitized reaction)という(図6.8参照). 光増感反応が起こるには,光増感剤の励起状態が 反応基質の一つによって消光されることが必要 言い換えると光増感と消光は表裏一体となっていることである. 光増感反応において三重項エネルギー移動機構がもっとも一般的。 エキシプレックスまたは励起状態電子移動を経由する光増感反応もある,表6.2. A B C D

6.1.4.消光と光増感 A B C D

6.1.4.消光と光増感 酸素 酸素による励起分子の消光には 基底状態で三重項(T0,3Σg‾)をとる特異な常磁性分子であり, 多くの光反応や蛍光およびりん光に対する典型的な消光剤となる. 酸素による励起分子の消光には 複数の機構が可能, もっとも重要な機構は三重項エネルギー移動である. 200 nm以下にT0→Tn(n≥1)遷移による吸収を示し, エネルギー的に低い一重項状態への遷移, T0→S1(1△g、~95 kJmol-1)およびT0→S2(1Σg+,~157 kJmol―1)遷移はスピン禁制となるので,これに相当する光吸収は事実上ない. A B C D E

6.1.4.消光と光増感 一重項酸素(1O2)を発生させるには直接光励起ではできない. 一方,95 kJmol-1以上のエネルギーを もつ三重項励起分子(3M*)は, T0酸素分子にエネルギー移動を行うことができる. エネルギー移動による 一重項酸素(1O2)の生成過程 3M*+3O2→M+1O2 スピン保存則からも許容であり, 1O2の発生にもっともよく用いられる. A B C

一重項酸素 酸素分子 基底状態で三重項状態の特異な分子である 分子軌道は下式に示されるとおり最高被占準位(HOMO)が縮重. 二つの縮重した2pπg軌道に2個の電子を配置するには右図のように,三とおりの方法. A B C C

一重項酸素 2個の縮重した2pπg軌道(πxとπy)それぞれに電子が1個ずつ, スピンを平行にして入る三重項状態(3Σg‾)がもっとも安定(基底状態). 他の二つの状態は2個の電子の スピンが対になった一重項状態 (1Σg+および1△g)であり,励起状態 ローズベンガルなどの色素類への光照射により右式のようなエネルギー移動で一重項酸素が生成. A B C D E

6.1.4.消光と光増感 一重項酸素は多くの不飽和有機分子と速やかに 反応して酸素付加体を与える. その反応形式にはいくつかのタイプがあるが,式(6・13)にG.Schenckが提案した著名な古典的反応例を示す. A

光を吸収し自らは反応に直接関与しないクロロフィルのような分子 6.1.4.消光と光増感 式6.13 ホウレン草から抽出したクロロフィルを α-テルピネンのエタノール溶液に少量加え, 酸素を通しながら 太陽(可視光)にさらす α-テルピネンと酸素の付加体 (アスカリドール)が高収量で生成 特徴 この反応は クロロフィルが存在しないとまったく起こらず. クロロフィルが可視光を吸収、 光を吸収しないα-テルピネンと酸素の 光増感反応が起こった 光を吸収し自らは反応に直接関与しないクロロフィルのような分子 光増感剤(photosensitizer) 光増感剤:ローズベンガルやメチレンブルーなどの色素も有効 E C A D B

6.1.4.消光と光増感 一重項酸素による酸素付加反応 エン反応とよばれるヒドロペルオキシドの生成(式(6・14)). A エン反応:アリル位に水素をもつアルケンと、アルケン、カルボニル基などの2π電子系との間でσ結合の形成を伴う水素移動が起こる反応のことである。

6.1.4.消光と光増感 式(6・15) したがって, 増感剤(Sens):電子受容性 反応基質:ジフェニルシクロブタン(CB):電子供与 シクロブタン環の電子密度が減少 結合が弱くなる. A B C D E F

6.1.4.消光と光増感 電子移動光増感反応の例:式(6・16) 1,1-ジフェニルエチレン(DPE)へのメタノールの反Markovnikov付加反応を示す. 励起一重項状態の電子受容性光増感剤(1Sens*):極性溶媒中で電子供与体DPEから電子を引抜き, 増感剤のラジカルアニオン(Sens・一)と オレフィンラジカルカチオン(DPE・+)を与える A B C D

6.1.4.消光と光増感 電子移動光増感反応の例:式(6・16) この反応 DPE・+にメタノールが求核付加し,安定な中性ラジカルを与え, Sens・―がこの中性ラジカルを一電子還元し, 続いてプロトンが付加し, 増感剤の再生とともに反応 この反応 実際には化学収率が悪く,また量子収量も低い. 種々の複雑な副反応や失活過程が関与するため A B C

マルコフニコフ則 ハロゲン化水素が非対称なアルケンへ付加した場合の主生成物について触れられていた。より多くの水素が結合しているsp2炭素(二重結合を持つ炭素)にハロゲン化水素由来の水素が結合するというものである。一般的に、非対称形の反応剤が非対称形のアルケンに付加するときは、二重結合の二個の炭素のうち水素原子数の多いほうの炭素に反応剤の電気的に陽性な部分が結合する、という規則に拡張できる。 具体例を挙げれば、プロペン (CH3CH=CH2) に酸触媒で水を付加すると2-プロパノール (CH3CH(OH)CH3) が選択的に生成し、1-プロパノールは生成しない。1-ペンテン (CH2=CHCH2CH2CH3) に光触媒で塩化水素を付加すると2-クロロペンタン (CH3CClHCH2CH2CH3) が選択的に生成する。 これは反応中間体であるカルボカチオンが結合している炭化水素基が多いほど超共役効果で安定化されるからである。より安定な中間体を形成する生成物のほうが生成に有利である。

逆マルコフニコフ則 マルコフニコフ則が成立するのは、親電子的付加反応の場合のみである。ハロゲン化水素付加の場合でも、条件をラジカル付加反応が起こるようにすると、マルコフニコフ則と逆の生成物を与える。これも超共役によって説明でき、より安定なラジカル中間体が生成するように反応が進むのでマルコフニコフ則とは逆の反応が起きる。 これを逆マルコフニコフ則(反マルコフニコフ則)、またはアンチマルコフニコフ則という。

参考文献 光化学I 井上ら 丸善(株)