コアB-1 個体の構成と機能(5)生体物質の代謝

Slides:



Advertisements
Similar presentations
1 先修科目 42 化学Ⅱ 高校で化学Ⅰ、Ⅱを履修した人が対象。 指定学科は医学部医学科。 定員 100 名を越えた場合は、指定学科 以外の学生は登録できない。 例外は 4 年次学生。 化学Ⅱは、月曜日の 2 限目、木曜日の 4 限目にも開講している。
Advertisements

序 論 生化学とは 生化学はbiochemistryという名で表したように簡単にいえば生命の化学である。ギリシャ語ではbiosは生命という意味である。つまり生化学は化学的理論と技術および物理学、免疫学の原理と方法を応用し、生体における化学構成と化学的変化を研究する学問である。
生物学 第4回 多様な細胞の形と働きは      タンパク質のおかげ 和田 勝.
環境表面科学講義 村松淳司 村松淳司.
生物学 第6回 転写と翻訳 和田 勝.
Post Source Decay: PSDとは?
生物学 第8回 代謝経路のネットワーク 和田 勝.
特論B 細胞の生物学 第2回 転写 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
化学的侵食 コンクリート工学研究室 岩城 一郎.
無機物質 金属元素 「金属イオンの分離」 3種類の金属イオン      をあてよう! 実験プリント 実験カード.
タンパク質(Protein) ~基本的なことについて~.
基盤科学への招待 クラスターの不思議 2005年6月3日  横浜市立大学 国際総合科学部  基盤科学コース 野々瀬真司.
生物学基礎 第4回 細胞の構造と機能と      細胞を構成する分子  和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
研究テーマ 福山大学 薬学部 生化学研究室 1) 脂質代謝を調節するメカニズムに関する研究 2) がん細胞の特徴と
活性化エネルギー.
特論B 細胞の生物学 第3回 タンパク質の形と働き 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
細胞と多様性の 生物学 第4回 細胞におけるエネルギー産生 と化学反応のネットワーク 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
脂肪の消化吸収 【3】グループ   ~
細胞と多様性の 生物学 第3回 転写と翻訳 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
HPLCにおける分離と特徴 ~逆相・順相について~ (主に逆相です)
1)解糖系はほとんどすべての生物に共通に存在する糖の代謝経路である。 2)反応は細胞質で行われる。
奈良女子大集中講義 バイオインフォマティクス (1) 分子生物学概観
好気呼吸 解糖系 クエン酸回路 水素伝達系.
代謝経路の有機化学 細胞内で行われている反応→代謝 大きな分子を小さな分子に分解→異化作用 第一段階 消化→加水分解
緩衝作用.
塩を溶かした水溶液の液性.
サフラニンとメチレンブルーの 酸化還元反応を利用
3)たんぱく質中に存在するアミノ酸のほとんどが(L-α-アミノ酸)である。
放射線(エックス線、γ線)とは? 高エネルギー加速器研究機構 平山 英夫.
22・5 反応速度の温度依存性 ◎ たいていの反応 温度が上がると速度が増加 # 多くの溶液内反応
F)無節操的飛躍と基礎科学(20世紀~) 1.原子の成り立ち:レントゲン、ベックレル、キューリ(1911) 、ラザォード、モーズリー、ユーリー(重水素、 1934)、キューリ(1935)、チャドウィック(中性子1935)、ハーン、シーボーグ 2.量子力学 :プランク(1918), アインシュタイン(1921)、ボーア(1922)、ドブローイ(1929)、ハイゼンベルグ(1932)、ゾンマーフェルト、シュレーディンガー(1933)、ディラック(1933)、ハイトラー、ロンドン、パウリ(1945)、ボルン(1
たんぱく質 (2)-イ-aーF.
生物学 第10回 突然変異、ちょっと詳しく 和田 勝.
生物科学科(高分子機能学) 生体高分子解析学講座(第3) スタッフ 教授 新田勝利 助教授 出村誠 助手 相沢智康
2016年度 植物バイオサイエンス情報処理演習 第7回 情報解析(1) 配列相同性解析・1
翻訳 5’ → 3’ の方向 リボソーム上で行われる リボソームは蛋白質とrRNAの複合体 遺伝情報=アミノ酸配列
化学的侵食 コンクリート工学研究室 岩城 一郎.
まずはじめに、二次元電気泳動によって得られたタンパク質に酵素処理を行い、ペプチドを解離する。
微粒子合成化学・講義 村松淳司
個体と多様性の 生物学 第6回 体を守る免疫機構Ⅰ 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
基礎無機化学 期末試験の説明と重要点リスト
物理化学III F 原道寛.
●電極での化学変化 電子が移動するから 電子が移動するから 電流が流れる! 電流が流れる! 水素原子が 2個結びつく
微粒子合成化学・講義 村松淳司
緩衝液-buffer solution-.
有機バイオ材料化学 5. カルボニルの反応 5-1 アルデヒド・ケトンのその他の反応 5-2 カルボン酸やその誘導体の反応
有機バイオ材料化学 6. ニトリルの反応 7. まとめ~多段階合成~.
生物学基礎 第5回 遺伝子の本体を求めて  和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
SVMを用いた生体分子への 金属結合部位予測手法の提案
旭川医科大学教育研究推進センター 阿久津 弘明 化学 中村 正雄、津村 直美
神奈川科学技術アカデミー バイオインフォマティクスコース 蛋白質立体構造予測 I,II,演習
化学的侵食 コンクリート工学研究室 岩城一郎.
生命科学基礎C 第8回 免疫Ⅰ 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
生物学 第6回 遺伝子はDNAという分子だった 和田 勝.
生命科学基礎C 第1回 ホルモンと受容体 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
カルビンーベンソン回路 CO23分子が回路を一回りすると 1分子のC3ができ、9分子のATPと 6分子の(NADH+H+)消費される.
有機バイオ材料化学 5. カルボニルの反応 5-1 アルデヒド・ケトン.
学年   名列    名前 物理化学  第2章 1 Ver. 2.1 福井工業大学 原 道寛 HARA2005.
個体と多様性の 生物学 第6回 体を守る免疫機構Ⅰ 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
アミノ酸の分解とアンモニアの代謝 タンパク質やアミノ酸はどこにでもあるありふれた食材ですが、実は分解されるとアンモニアという、体に非常に有害な物質を産生します。これは、普段われわれが何も気にせずに飲んでいる水が、実はH+(酸)とOH-(アルカリ)で出来ているのと似ているように感じます。今回、アミノ酸の分解に伴って産生されるアンモニアを、生体はどのようにして無毒化しているかを考えましょう。
タンパク質.
化学1 第12回講義        玉置信之 反応速度、酸・塩基、酸化還元.
今後の予定 (日程変更あり!) 5日目 10月21日(木) 小テスト 4日目までの内容 小テスト答え合わせ 質問への回答・前回の復習
物質とエネルギーの変換 代謝 生物体を中心とした物質の変化      物質の合成、物質の分解 同化  複雑な物質を合成する反応 異化  物質を分解する反応 
好気呼吸 解糖系 クエン酸回路 電子伝達系.
中 和 反 応.
好気呼吸 解糖系 クエン酸回路 電子伝達系.
2018年度 植物バイオサイエンス情報処理演習 第9回 公共データバンクの代謝パスウェイ情報
有機バイオ材料化学 3. アルコールの反応.
学年   名列    名前 物理化学  第2章 1 Ver. 2.0 福井工業大学 原 道寛 HARA2005.
Presentation transcript:

コアB-1 個体の構成と機能(5)生体物質の代謝 分子生体防御学講座 糖鎖工学講座 伊東 健

講義を受けるに当たっての約束事 予習を少しでもいいから必ずする(教科書である一般 医化学の当該部分を30分以上かけて読む). 講義中でも積極的に質問すること.ただし,私語は慎む こと. 3. 机につっぷして眠らないこと. コーヒーを飲むなりしてして,目をさましてから授業に 臨むこと.

生化学とはどういう学問か? 巨視的な現象------目でみえる自然界で普通に観察できる現象.筋肉の収縮など. 微視的な現象------特殊な装置を通さずには,観察できない.または,現在の装置では観察できない現象.化学反応など. 基本的にすべての巨視的な現象は化学反応などの微視的な現象によっておきている. すなわち,すべての生物現象は化学反応である. 生化学は,生物現象を化学の言葉で語ることである.本講義の究極的な目的は, 生物現象を化学の言葉で語れる術を身につけることである. 生化学を理解せずに,生物学を学んでも,まずい水を使っていれたコーヒーといっしょである. 生化学を理解することは,よき医師になるための第一歩である.

2. アミノ酸同士は,アミノ基とカルボキシル基の 間のペプチド結合により結合する. R1 R2 脱水縮合 NH2 + C COOH NH2 C COOH H H R1 O H R2 NH2 C C N C COOH H H H 1. タンパク質はアミノ酸   の重合体 2. アミノ酸同士は,アミノ基とカルボキシル基の 間のペプチド結合により結合する.

20種類のアミノ酸:略号と性質 Asp D Ala A Glu E Gly G Arg R Val V Lys K Leu L His H アスパラギン酸 負電荷を持つ アラニン 非極性 グルタミン酸 Glu E 負電荷を持つ グリシン Gly G 非極性 アルギニン Arg R 正電荷を持つ バリン Val V 非極性 リジン Lys K 正電荷を持つ ロイシン Leu L 非極性 ヒスチジン His H 正電荷を持つ イソロイシン Ile I 非極性 アスパラギン Asn N 電荷を持たず極性 プロリン Pro P 非極性 グルタミン Gln Q 電荷を持たず極性 フェニルアラニン Phe F 非極性 セリン Ser S 電荷を持たず極性 メチオニン Met M 非極性 トレオニン Thr T 電荷を持たず極性 トリプトファン Trp W 非極性 チロシン Tyr Y 電荷を持たず極性 システイン Cys C 非極性 極性アミノ酸 非極性アミノ酸 原子間結合の電荷分布が不均等の場合,結合は分極する.このような分極した結合を持つ 官能基を極性基と呼ぶ. 特に,O-H, N-H, C=Oなどの結合は分極が大きい.

水は極性を持った分子である H2O CH4 CO2 Biochemistry, Cambell, 3rd

Electronegativity = 電気陰性度 Biochemistry, Cambell, 3rd

Biochemistry, Cambell, 3rd

ヴォート生化学

極性アミノ酸 非極性アミノ酸 疎水性のコアには非極性アミノ酸が含まれる 極性のアミノ酸は分子の外表面に並び、水素結合をつくれる

タンパク質の高次構造を支える比較的弱い結合 イオン結合 > 水素結合 > ファンデルワールス力

Biochemistry, Cambell, 3rd

Biochemistry, Cambell, 3rd

タンパク質の変成 高温または変性剤 を加える もとの条件にもどす 本来のコンフォメーション 正常なタンパク質 変性したタンパク質 非可逆的変性 凝集

タンパク質の表し方

タンパク質のサブユニット構造 2量体 4量体

アイソザイムとは H-H-H-H LD1 H-H-H-M LD2 LD3 H-H-M-M LD4 H-M-M-M M-M-M-M LD5 同一個体中にあり,化学的には異なるタンパク質分子が同じ化学反応を触媒する時,この酵素群をアイソザイムという. 乳酸デヒドロゲナーゼ LD1 H-H-H-H 心筋,赤血球 H-H-H-M 心筋,赤血球 LD2 LD3 H-H-M-M 肺組織 LD4 H-M-M-M 肝臓,骨格筋 LD5 M-M-M-M 肝臓,骨格筋 おのおのの酵素は,基質に対する反応性,阻害剤に対する感受性が異なり,組織に応じた反応を行っていると思われている.

さまざまなタンパク質 N r f 2 A R E / E p R E 酵素 構造タンパク 輸送タンパク モータータンパク 貯蔵タンパク シグナルタンパク 遺伝子調節タンパク 受容体タンパク N r f 2 s m a l l M a f R T G A C N A R E / E p R E

触媒(しょくばい、catalyst)とは、特定の化学反応を促進する物質で、自身は反応の前後で変化しないものをいう 1823年にデーべライナーは白金のかけらに水素を吹き付けると点火することに気が ついた。白金は消耗せず、その存在によって水素と空気中の酸素とを反応させることを明確にした。 後に反応によって消費されても、反応の完了と同時に再生し、変化していないように見えるものも触媒とされた. k+1 k+2 E + S ES E + P k-1 白金ランプ

DG < DG > E + S ES E + P 遷移状態説(Henry Eyring) 遷移状態 活性化エネルギー 反応すすむ 触媒は、自発的に起こり得る反応の反応速度を増加させる。本来、自発的に起こり得ない反応は、触媒を用いても進行するわけではない。たとえば、水素と酸素を混合して水が生成する反応は、触媒を用いて効率を上げることができる。これは、水が安定な物質で生成しやすいからである。しかし、水を触媒によって水素と酸素に分解することは、より不安定な物質を作り出すことになるので、触媒反応によって達成できない。つまり、触媒は化学平衡そのものには影響を与えない。このような反応を実現するには、電気や光などのエネルギーを与える必要がある。また反応に必要なエネルギーを与えたとしても有意な速度で反応が進行するとは限らず、その場合にも触媒が必要とされる 遷移状態説(Henry Eyring) 遷移状態 DG < 活性化エネルギー 反応すすむ DG > E + S 反応すすみにくい または、反応がすすむためにエネルギーを必要とする。 E + P E + S ES E + P ヴォート生化学

eDDG #cat/RT 速度促進度(触媒反応と非触媒反応 の速度の比) したがって,反応速度を10倍に するにはDDG #catがたった 5.71kJ・mol-1減ればよい.この値は 普通の水素結合の半分でしかない. 同様に反応速度を百万倍に するにはDDG #catが34kJ・mol-1で よい.この値は共有結合の エネルギーの数分の一でしかない. ヴォート生化学

一般医化学

A I P

基質が特異的に結合し,触媒作用を受ける部位. 活性中心とは? 活性中心 = 基質結合部位 + 触媒部位 基質が特異的に結合し,触媒作用を受ける部位. 活性中心は,酵素タンパク質の分子表面に存在することが多く,必要に応じて補酵素や補欠分子族あるいは金属などを含んでいる. 現代の生化学第2版

酵素反応の機構 1. 酸塩基触媒 2. 共有結合触媒 3. 金属イオン触媒 4. 静電気触媒 5. 近接効果と配向効果 6. 遷移状態優先配合 ヴォート生化学

酸性アミノ酸 塩基性アミノ酸 グルタミン酸 アスパラギン酸 リシン アルギニン ヒスチジン COO- CH2 COO- CH2 CH2 H3N+ C COO- H3N+ C COO- H H グルタミン酸 アスパラギン酸 塩基性アミノ酸 NH3 NH C NH2 CH2 CH2 N+ H2 CH N CH CH2 CH2 C N H CH2 CH2 CH2 H3N+ C COO- H3N+ C COO- H3N+ C COO- H H H リシン アルギニン ヒスチジン

一般酸触媒の作用機構(ケトエノールの異性化機構を題材に) (a)触媒なし (b)一般酸触媒 ヴォート生化学

一般塩基触媒の作用機構(ケトエノールの異性化機構を題材に) (a)触媒なし (c)一般塩基触媒 ヴォート生化学

カルボニックアンヒドラーゼの活性中心の構造 CO2 + H2O HCO3- + H+ ヴォート生化学

カルボニックアンヒドラーゼの触媒機構 Im O . . Im Zn2+ O- + C O Im H Im O Im Zn2+ O C O- 赤色の部分が第4のHis(His64) の塩基触媒作用でイオン化する (ヴオート第3版には詳しい機構 が記載しています)。 . . Im Zn2+ O- + C O Im H Im そこで、Zn2+に結合したOH-イオン が酵素に結合して近くにあるCO2 を 求核攻撃してHCO3-にする。 O Im Zn2+ O C O- Im H Zn2+に結合した生成物HCO3-は H2Oと交換する。 H2O Im O H C O- Zn2+ O- + H+ + Im Im H

勉強の指針 酵素の授業の初回にお渡ししたプリントに1回目から3回目の講義までの達成目標を書いています。そのうちで、今回の授業でマスターすべきことは、 1)触媒作用とは何か? 2)活性中心とは何か? 3)酵素がタンパク質であることに帰因する性質は何か? 4)サブユニット構造の意味は何か? 5)アイソザイムとは何か? です。触媒作用の分子メカニズムを理解するというのは、課題には入って いませんが、酵素を勉強する上で最も面白い部分の1つです。是非、勉強して みて下さい。(試験に出るとこだけを勉強するのが、生化学ではありませんよ!)