凍害 コンクリート工学研究室 岩城 一郎
凍害とは 劣化要因:凍結融解作用 劣化現象:コンクリート中の水分が凍結と融解を繰り返すことによって,コンクリート表面からスケーリング,微細ひび割れおよびポップアウトなどの形で劣化する現象. 劣化指標:相対動弾性係数(コンクリート標準示方書〔施工編〕),凍害深さ(同〔維持管理編〕)
凍害による劣化機構 三浦尚著,土木材料学,コロナ社より抜粋 三浦尚著,土木材料学,コロナ社より抜粋 コンクリート中のペーストおよび骨材に含まれている水分が凍結すると,体積が増大し,それによって発生した圧力は,近くに空げきがあって緩和されない限り,まわりのペーストを破壊し,コンクリートにすき間(細かいひび割れ)をつくる.その後,水が供給されてそのすき間が水で満たされた後,再び凍結すると,膨張によってそのすき間がさらに広がる.そして,このようなことが繰り返されることによって劣化は進行する. コンクリートの間げき中の水はアルカリ溶液であるため,コンクリートの温度が下がると,大きな間げきの水の一部が氷になる.すると,同じ間げき中の未凍結部分ではアルカリ濃度が高くなり,浸透圧の関係で周辺の凍結していない水を引きよせる(その結果,一部の間げきの脱水により,コンクリートは凍結初期には収縮する).そのため,氷の体積はますます増大し,その膨張圧によってコンクリートが破壊される.ただし,多くの気泡がある場合には,水の移動が妨げられ,このようなことは起こらない. コンクリート中にある過冷却の液体と氷との蒸気圧の違いによって,大きな間げき,あるいはコンクリート表面などのような凍結可能な所への水分の移動が起こる.その結果,ペースト中に部分的な脱水が起こり(この結果,コンクリートは凍結の初期には収縮する),また,裂け目やひび割れ中への氷の蓄積が起こる.
凍害による劣化機構の概念図 図:日本コンクリート工学協会,「融雪剤によるコンクリート構造物の劣化研究委員会報告書」より抜粋
凍害による劣化形態 (1) ひび割れ D-cracking Map-cracking (1) ひび割れ D-cracking Map-cracking 写真:土木学会,コンクリートライブラリー109, 「コンクリートの耐久性に関する研究の現状とデータベース構築のためのフォーマットの提案」より抜粋
(2) スケーリング(scaling) (3) ポップアウト(pop out) 縁石のスケーリング(融雪剤の影響) スケーリング 鋼材の露出 腐食の促進 (3) ポップアウト(pop out) 低品質粗骨材の使用 写真:土木学会,コンクリートライブラリー109, 「コンクリートの耐久性に関する研究の現状とデータベース構築のためのフォーマットの提案」より抜粋
凍害に影響を及ぼす要因 内的要因 水セメント比:細孔組織が緻密で凍結可能な自由水が少ない. 空気量:AEコンクリート(微小な気泡を人工的に連行させたコンクリート)とすることにより耐凍害性が飛躍的に改善 飽水度(コンクリート中の空隙にどれ位水分が満たされているか?):ある値以下であれば,優れた耐凍害性を示す.一般にNon-AEで80%程度,AEで90%程度(理論上は飽水度91.7%以下であれば氷の形成に伴う膨張圧は作用しない.) 気泡間隔係数 ASTM C 457:200-250μm以下とすることにより優れた耐凍害性を示す. 外的要因 気象条件(最低気温,日射量,凍結融解回数),水の供給条件 最低気温:冷却最低温度が低いほどより小さな細孔径まで凍結可能. 日射量:凍害は凍結作用だけでなく融解作用が不可欠. 水の供給条件:乾燥していれば凍害は発生しない.
凍害に影響に影響を及ぼす要因 Referring to Properties of Concrete, 4th Edition by A. M. Neville
凍害に対する劣化対策 水セメント比を下げ,組織を緻密化する AEコンクリートとすることによりコンクリート中に所定の空気量を連行する. 良質な骨材を使用する. 水分の供給を遮断することにより,コンクリート内部の飽水度の上昇を防ぐ.
凍害による劣化の考え方 耐久性(機能性) 美観 構造物本体の耐荷性能に影響を及ぼすことは稀. コンクリート塊の落下等第三者被害は重要な問題. 塩分環境下においては鋼材腐食を促進させる恐れあり. 美観 スケーリング,ひび割れ等 が卓越すれば,市民に 不安感,不快感を与える. →資産価値の低下 転載不可
庄谷,月永:コンクリート工学,Vol.42,No.12,pp.3-8,2004. 凍害に関する研究 ・北海道内陸ほどではないが,凍害 危険度 高 ・JCI東北支部「東北地方におけるコンクリート構造物の凍害に関する調査研究委員会(2001年)」(委員長:庄谷先生):凍害の実態調査 長谷川・藤原著:コンクリート構造物の耐久性シリーズ 凍害 より抜粋 凍結繰返し回数:氷点下,日照の影響考慮,湿潤の影響 融雪剤の影響を加味するともっと深刻. 庄谷,月永:コンクリート工学,Vol.42,No.12,pp.3-8,2004.
三浦尚:コンクリート工学,Vol.38,No.6,pp.3-8,2000. 融雪剤の散布による劣化の促進 1991年スパイクタイヤの規制:融雪剤(主にNaCl)の散布量急増(規制前の約10倍) JCI「融雪剤によるコンクリート構造物の劣化研究委員会(1999年)」 (三浦尚委員長) 劣化の特徴 - コンクリート表面の激しいスケーリングとして現れる凍害 - アルカリ骨材反応の促進 コンクリート中の鋼材の急速な腐食(塩害) およびこれらの複合劣化 三浦尚:コンクリート工学,Vol.38,No.6,pp.3-8,2000.
凍害に関する今後の検討課題 ・凍害による劣化を他の劣化要因 (例えば中性化や塩害)との複合劣化 問題として捉える. 凍害の発生 中性化及び塩分浸透の促進 CO2及びCl-のコンクリート内部への浸透 鉄筋腐食の促進 耐久性の低下 スケーリング及び 微細ひび割れの進展 設計時のかぶり 設計時のかぶり ・凍害による劣化を他の劣化要因 (例えば中性化や塩害)との複合劣化 問題として捉える. ・凍害を受けたコンクリート内部の 物質移動性の把握→モデル化 スケーリング スケーリング 深さ 深さ 健全部 健全部 劣化深さ 劣化深さ 元の 元の 鉄筋 鉄筋 微細ひび割れ 微細ひび割れ コンクリート コンクリート 表面 表面 凍害による劣化形態の概念図