長周期地震動対策関係省庁連絡会議(第5回) 資料1-2 (非公開資料) 長周期地震動対策関係省庁連絡会議(第5回) 平成19年度長周期地震動対策に関する調査 各種構造物の揺れの推計と 補強対策の検討 2008年11月20日 日本建築学会 小鹿紀英 (小堀鐸二研究所)
実施内容 ①予測長周期地震動を用いた各種構造物の揺れの推計 ・大都市圏で予想される長周期地震動に対して複数の超高層ビルを設定し、揺れの傾向を把握、損傷箇所と程度を推定 ・大型タンクのスロッシング挙動 ②各種構造物の揺れを減衰させる補強対策の検討 ・損傷低減に必要な付加減衰量と制震化による損傷低減効果の確認
超高層建物に対する長周期地震動の想定レベル1) 検証用長周期地震動:目標スペクトル 超高層建物に対する長周期地震動の想定レベル1) 標準波・ 告示波 地震動S 巨大地震による長周期地震動 平均的 地震動L 特定の周期帯 地震動LL 速度応答スペクトル SV(cm/s) SV=80~ 120cm/s SVm1=80~120cm/s SVm2=120~180cm/s エネルギースペクトル VE(cm/s) VE=120~180cm/s VEm1=180~270cm/s VEm2=270~400cm/s 文献1) 日本建築学会:長周期地震動と建築物の耐震性、2007.12
検証用長周期地震動の位置づけ 地震動S : 標準波・告示波 地震動L : 「平均的」長周期地震動 地震動LL :「特定の周期帯」長周期地震動 現行の超高層ビルの設計用地震動 地震動L : 「平均的」長周期地震動 一般的な超高層建物や免震建物用の目標スペクトル 地震動LL :「特定の周期帯」長周期地震動 固有周期が特定の周期帯にある超高層建物や免震建物あるいは特別な用途の建物用の目標スペクトル
超高層モデル建物の設定 S30 121.5m S50L 197m S50T 197m RC30 91.5m RC40 129m T1=4.5s 対象建物は既存の超高層を念頭に、鉄骨系3種、RC系2種のモデル建物を作成 T1=3.8s T1=6.2s T1=2.8s T1=1.8s S30 121.5m S50L 197m S50T 197m RC30 91.5m RC40 129m
「平均的」長周期地震動L に対しては、部材降伏割合は高いものの層間変形角、塑性率は小さく、現状でもほとんど被害は生じない。 応答値の判定は、建物機能(設備系、2次部材、家具什器など)に関わる建物挙動(層間変形角、加速度)と、建物損傷度(部材塑性率や累積部材塑性変形倍率) に注目して判定 S30 S50L S50T RC30 RC40 層間変形角R(rad) 1/118 1/128 1/114 1/123 加速度a(cm/s2) 399 254 247 413 252 判断値λ 2 建物の機能 指定機能 確保 最大部材塑性率 1.14 2.70 1.15 2.31 1.16 (参) 梁の降伏割合 50% 95% 3% 100% 22% 最大部材累積塑性変形倍率 JASS6型 0.6 8.4 0.2 ― ノンスカラップ 梁端混用 (参)梁部材破断割合 0% 3 建物の損傷度 軽微 小破 「平均的」長周期地震動L に対しては、部材降伏割合は高いものの層間変形角、塑性率は小さく、現状でもほとんど被害は生じない。
「特定の周期帯」地震動LL の機能・損傷判定 S30 S50L S50T RC30 RC40 層間変形角R(rad) 1/72 1/137 1/70 1/98 1/69 加速度a(cm/s2) 495 360 352 430 349 判断値λ 2 1 建物の機能 機能確保 困難 指定機能 確保 限定機能 最大部材塑性率 3.26 3.72 1.99 2.42 2.33 (参) 梁の降伏割合 100% 95% 46% 累積塑性変形倍率 JASS6型 12.6 43.2 10.3 ― ノンスカラップ 梁端混用 梁破断割合 0% 36% 3or2 建物の損傷度 中破 大破超 小破 軽微・小破 万が一、「特定の周期帯」長周期地震動LLに遭遇した場合、被害パターンは異なるものの、いずれの建物も何らかの被害が生じる可能性が高い
超高層モデル建物の補強検討例 オイルダンパ 鉄骨30階建(S30-D) オイルダンパによる補強
S30-Dのオイルダンパによる補強効果 「特定の周期帯」長周期地震動LL 入力 補強後 補強前 補強後 補強前 補強前 補強後 最大層間変形角 最大部材塑性率 最大部材累積塑性変形倍率 制震化により層間変形角のみならず、建物の損傷度も大きく低減でき、制震化の効果が顕著である
ダンパ設置により、大振幅の揺れの継続時間は大幅に短縮され、人の不安感の軽減にも大きく寄与する S30-Dのオイルダンパによる補強効果 長周期地震動LL 入力時頂部応答変形 S30(オリジナル) 建物種別によらず、頂部の片振幅で数十cmから1m超程度の揺れが長時間継続するため、在館者に非常な不安感を与える可能性が高い S30-D(オイルダンパ設置後) ダンパ設置により、大振幅の揺れの継続時間は大幅に短縮され、人の不安感の軽減にも大きく寄与する
制震化により層間変形角のみならず、建物の損傷度も大きく低減でき、制震化の効果が顕著 S30-Dのオイルダンパによる補強効果 「特定の周期帯」地震動LL入力 S30 original S30-D オイルダンパ 層間変形角R(rad) 1/72 1/111 加速度a(cm/s2) 495 424 判断値λ 2 建物の機能 機能維持困難 指定機能確保 最大部材塑性率 3.26 1.80 最大部材累積塑性変形倍率 12.6 7.5 (参) 梁部材の破断割合* 0% 2or1 建物の損傷度 小破~中破 小破 制震化により層間変形角のみならず、建物の損傷度も大きく低減でき、制震化の効果が顕著
長周期地震動に対する超高層の挙動まとめ ①長周期地震動として、「平均的」長周期地震動Lと、「特定の周期帯」長周期地震動LLの2種類を設定 ②応答値の判定は、建物機能(設備系、2次部材、家具什器など)に関わる建物挙動(層間変形角、加速度)と、建物損傷度(部材塑性率や累積部材塑性変形倍率) に注目して判定を行った。 ③対象建物は既存の超高層を念頭に、鉄骨系3種、RC系2種のモデル建物を作成した。 ④「平均的」長周期地震動L に対しては、部材降伏割合は高いものの層間変形角、塑性率は小さく、現状でもほとんど被害は生じない。
長周期地震動に対する超高層の挙動まとめ ⑤万が一、「特定の周期帯」長周期地震動LLに遭遇した場合、被害パターンは異なるものの、いずれの建物も何らかの被害が生じる可能性が高い。 ⑥建物種別によらず、頂部の片振幅で数十cmから1m超程度の揺れが長時間継続するため、在館者に非常な不安感を与える可能性が高い。 ⑦長時間の揺れに対して、RC造の梁は部材角1/100を越えるような大振幅を多数回経験することになり、部材の劣化等による損傷度への影響が懸念される。 ➇石油タンクは、巨大地震に対して、波高が新消防法に規定された側板余裕高を超える可能性もあることから、溢流と着火防止対策に十分留意することが重要である。
長周期地震動に対する補強対策のまとめ ①「平均的」長周期地震動L に対しては、補強は不要であるが、万が一の「特定の周期帯」長周期地震動LL に対しては、付加減衰2~4%程度が必要 ②制震化により層間変形角のみならず、建物の損傷度も大きく低減でき、制震化の効果が顕著である。 また、大振幅の揺れの継続時間は大幅に短縮され、人の不安感の軽減にも大きく寄与する。 さらに、梁部材角の大変形レベルでの繰返し回数が大幅に低減できる。
今後の課題 ○建物の構造部材、非構造部材、設備機器等の保有耐震性能の調査と損傷評価を行う方法の確立 ○多数回の繰り返しを受ける部材・骨組みの終局挙動と復元力特性を明らかにする ○地震後の被害の実態を把握するための手法の構造学的、建築学的見地からの検討 ○最適応答制御システムの技術開発の促進 ○既存超高層建物の耐震性向上技術の開発、耐震改修法のメニューの整備
以 上
以下、参考
検証用長周期地震動:模擬地震波 地震動L:「平均的」長周期地震動→ 告示波+告示波 地震動LL:「特定の周期帯」長周期地震動 → BCJ-L2+BCJ-L2
検証用長周期地震動:SVとVEスペクトル 地震動LL 地震動LL 地震動L 「特定の周期帯」レベル 「特定の周期帯」レベル 「平均的」レベル 「平均的」レベル 「標準波」 地震動L SVスペクトル VEスペクトル
出典:北村他、性能設計における耐震性能評価基準値の関する研究、AIJ、No.604 建物機能・損傷度判定 性能評価項目 損傷限界 安全限界 余裕度Ⅰ 余裕度Ⅱ 超過 判断値λ 4 3 2 1 建物の機能 建物の損傷度 機能維持 無被害 主要機能確保 軽微 指定機能確保 小破 限定機能確保 中破~大破 機能確保困難 大破以上 挙動 層間変形角 <1/200 1/200-1/150 1/150-1/100 1/100-1/75 1/75以上 床加速度 (Gal) - 250以下 250-500 500-1000 1000以上 骨組 層塑性率 1.0以下 1.0-2.0 2.0-3.0 3.0-4.0 4.0以上 ヒンジ発生率(%) 0-30 30-60 60-100 100 構造部材 部材塑性率 1.0-2.5 2.5-3.75 3.75-5.0 5.0以上 累積塑 性変形 倍率 JASS6型 0-5.4 5.4-12.0 12.0-21.5 21.5以上 ノンスカラップ 0-9.0 9.0-20.5 20.5-36.5 36.5以上 梁端混用 0-3.5 3.5-7.5 7.5-13.5 13.5以上 出典:北村他、性能設計における耐震性能評価基準値の関する研究、AIJ、No.604
S50Lの付加減衰による応答低減 「特定の周期帯」地震動LL入力 *はJASS6型スカラップで判定している Original +2% +4% +6% 層間変形角R(rad) 1/137 1/159 1/172 1/182 加速度a(cm/s2) 360 246 223 207 判断値λ 2 3 建物の機能 指定機能 確保 主要機能確保 最大部材塑性率 3.72 2.86 2.27 2.03 (参) 梁の降伏割合 95% 最大部材累積塑性変形倍率 43.2 23.9 13.1 6.8 (参) 梁部材の破断割合* 36% 14% 0% 1or2 建物の損傷度 大破超 中破・小破 小破 *はJASS6型スカラップで判定している
RC40の付加減衰による応答低減 「特定の周期帯」地震動LL入力 Original +2% +4% +6% 層間変形角R(rad) 1/69 1/85 1/102 1/117 加速度a(cm/s2) 349 312 270 242 判断値λ 1 2 建物の機能 機能確保 困難 限定機能 確保 指定機能 最大部材塑性率 2.33 1.82 1.45 1.22 (参) 梁の降伏割合 100% 72% 28% 3or2 3 建物の損傷度 軽微・小破 軽微
地震動LLに対する必要付加減衰 「特定の周期帯」長周期地震動LL 入力 S30 S50L S50T RC30 RC40 +2 0~+2 機能 層間変形角1/100以下 加速度500gal以下 +2 0~+2 +2~4 損傷度 部材塑性率3.75以下 部材累積塑性12.0以下 +4 (参)梁降伏割合60%以下 4~6 +6上 +4強
制震装置での応答低減効果 制震装置の種類 必要付加減衰を与える方法としては制震装置が最適 1) 制御力型:屋上付近に設置した重りを駆動することにより、建物に制御力を与えて応答低減をはかる 2) エネルギー吸収型:層間に配置され、建物の応答に応じてエネルギーを吸収し、応答低減を図るもので、使用する材料と機構により以下の各種あり a.弾塑性ダンパ:鋼材ダンパ、鉛ダンパなど b.粘性ダンパ :オイルダンパ、粘性壁、MRダンパ等 c.粘弾性ダンパ d.摩擦ダンパ