まだ壊れていない土構造物の 予防保全対策について

Slides:



Advertisements
Similar presentations
2004 年新潟県中越地震と スマトラ沖巨大地震の 震源で何が起こったのか? 八木勇治 (建築研究所・国際地震工学セン ター)
Advertisements

土木構造物の点検の流れ 平成24年11月28日 大阪府都市整備部 事業管理室 平成24年11月28日(水) 09:30 ~ 第1回南海トラフ巨大地震土木構造物耐震対策検討部 会 資料-3 1.
1 設計基礎コース もう一度学ぶ材料力学の基礎 座屈 ( Buckling ) 長軸に軸方向圧縮力を作用させると、ある荷 重で急に軸が曲がる。 この急に曲がる荷重条件を探る。 X の位置での曲げモーメントは たわみの微分方程式は.
模型を用いたジェットコターの 力学的原理の検討 06522 住友美香 06534 秦野夏希. 平成22年度 卒業研究発表 山田研究室 研究目的 ジェットコースターのコースは、どのような計算に 基づいて作られているのか、研究を通じて理解し、 計算を用いた模型製作を行う。
新型鳥インフルエンザが発生 したらどうなるか 2008 年 5 月 7 日 Masa. 発表することはあくまで予想で す.
(より良いものを・より目的に合致したものを)
土木基礎力学2・土質 圧密現象と圧密試験.
円形管における3次元骨組解析への適用事例 平成16年9月17日 (株)アイエスシイ 犬飼隆義.
データ分析入門(12) 第12章 単回帰分析 廣野元久.
電子社会設計論 第9回 Electronic social design theory
労働市場マクロ班.
地すべり解析における 有限要素法の利用 群馬大学建設工学科 教授 鵜飼恵三.
 軟弱な地盤では、地盤が徐々に沈下し、その上の建物が地盤に追随して傾き外壁にヒビや亀裂が生じたり、ドアの開閉がスムーズでなくなったり、雨漏りが発生したりなど、いろいろな障害が現れます。この様な現象を不同沈下といいます。  実際、住宅に関するトラブルの7割近くが地盤に関係していると言われ、不同沈下が原因と見られる深刻な被害報告は跡を絶ちません。
Excelによる統計分析のための ワークシート開発
中学生のための 租 税 教 室 南九州税理士会 はじまりはじまり!.
就活中の学生に対し、 日経新聞はどんなサービスを 提供することが有効か
ゲーム理論・ゲーム理論Ⅰ (第6回) 第4章 戦略形ゲームの応用
・ダムを効率的に建設する技術 ・既存のダムを有効利用する技術.
分布の非正規性を利用した行動遺伝モデル開発
化学的侵食 コンクリート工学研究室 岩城 一郎.
社会基盤保全工学 ガイダンス コンクリート工学研究室 岩城 一郎.
B.WピプキンとD.D.トレント著佐藤・千木良監修:環境と地質
情報処理学会・経営情報学会 連続セミナー第3回 情報システム構築アプローチ 主旨
社会心理学のStudy -集団を媒介とする適応- (仮)
土木って何? コンクリート工学研究室 岩城 一郎
ステップガーデンを有する建物と その周辺市街地の熱環境実測
日本の少子化問題:その原因と対策 ~県別のパネルデータでの分析~.
木造住宅の 常時微動観測 05TC012 押野雅大 05TC021 川村潤也.
洪水の基礎知識 ※このスライドは非表示になっています 小高・洪水①・10分
洪水の基礎知識 ※このスライドは非表示になっています 中学・洪水①・10分
名古屋市内の地下水の 有効利用について 第11班 C07053 山下 芳朋 C07056 吉田 昴平
ストレスケア:ストレスを感じてからではなく、予防のためできるだけ早い時期からストレスケアを実施してください。
(仮称)東部小学校新設工事 淺川道路株式会社
インフレはなぜ止まらないのか?.
介護予防サービス・支援計画表 記入のポイント.
化学的侵食 コンクリート工学研究室 岩城 一郎.
ドローン(UAV)とPhotoScanを用いた 3次元データの作成・活用及び業務 対策セミナー アンケート集計
地域における危険性の確認 資料3 前の時間で地震・津波に関する知識を学びました。
自由席にしています。 資料のある席へお座りください.
土砂災害について.
地質工学及び演習 海外の岩盤分類.
データ解析 静岡大学工学部 安藤和敏
化学的侵食 コンクリート工学研究室 岩城一郎.
主成分分析 Principal Component Analysis PCA
社会基盤保全工学 ガイダンス コンクリート工学研究室 岩城 一郎.
電気抵抗を用いた養生終了時期判定手法の提案
信頼性設計法を用いた構造物の 崩壊確率の計算
日本のゴルフ場の環境破壊 中神 徹.
「選挙の大切さについて」 資料モデル 1 選挙制度の意義や目的について、選挙の歴史や制度の特徴 などを踏まえてわかりやすく説明する。
環境情報学部2年 中本裕之 総合政策学部2年 千代倉永英
4.「血液透析看護共通転院サマリーVer.2」
環境・エネルギー工学 アウトライン 序 章 環境・エネルギー問題と工学の役割 第1章 バイオ技術を使った環境技術
DR-Info 防災 減災 少子 高齢 産業 創出 DR-Info 誕生の キッカケ DR-Info でこう 変わった!
点検商法.
4号機の使用済み核燃料移動.
配偶者選択による グッピー(Poecilia reticulata)の カラーパターンの進化 :野外集団を用いた研究
本当は消去できていない!? ~データを完全消去する方法~
本当は消去できていない!? ~データを完全消去する方法~
水平井戸による循環式浄化システム 解 析 事 例 マルチ水平ウェル研究会.
確率と統計2007(最終回) 平成20年1月17日(木) 東京工科大学 亀田弘之.
プレゼンテーション資料の事例紹介 事例紹介 アニメーションの作り方.
ジオシンセティクスを用いた埋立地キャッピング層における水分移動数値シミュレーション
水道施設のあらまし 配水池編 みんなで配水池のことを 学んでみましょう! 作成日 平成27年3月17日 改 訂
第7回 Q&A メール講座 Next Stage:翻訳力アップ自己トレ(1)
わかりやすいパターン認識 第6章 特徴空間の変換 6.5 KL展開の適用法 〔1〕 KL展開と線形判別法 〔2〕 KL展開と学習パターン数
回帰分析入門 経済データ解析 2011年度.
自由席にしています。 資料のある席へお座りください.
・ガイダンス ・地盤の生成 ・土の材料としての特性
自然・環境ブック 新潟県 地下の世界を守ろう <内容> ・地下の世界のようす 2ページ ・地盤沈下のしくみ 4ページ
プログラミング入門 -「計算」に注目して考える-
Presentation transcript:

まだ壊れていない土構造物の 予防保全対策について 平成25年度 第1回ジオテクセミナー 平成25年9月13日(金)14:00~17:20                     主催:公益社団法人 地盤工学会中国支部 場所:島根大学総合理工学部3号館301号室 超ダイジェスト版 まだ壊れていない土構造物の 予防保全対策について 2012年12月の笹子トンネル天井版崩落事故を契機に、社会インフラの老朽化が大問題となってきました。2013年8月4日のNHKスペシャルでは「調査報告 日本のインフラが危ない」という番組が放送されました。1984年の「コンクリートクライシス」と同様に、造ったはいいけれど、維持管理のことなど考えていなかった、というようなことが問題になってきたわけです。国は2013年を「メンテナンス元年」と命名し、社会インフラの維持管理に本格的に乗り出す構えです。しかし、報道等をみても、橋梁やコンクリート構造物に偏っており、実際最も障害発生頻度の高い土構造物や自然斜面には、いまだにあまり注目されていないようです。 有限会社太田ジオリサーチ 太田英将

どういう方法論がありますか? あなたは、田舎の家に住んでいるとしましょう。 その背後には自然斜面が存在しています。 そこで表層崩壊が起きたら、土砂が家に飛び込んできます。夜間であれば、死ぬかもしれません。 事前に調査・解析して、安全なのか危険なのかを評価しましょう。 そして危険と評価できたら予防対策をしましょう。

土層強度検査棒 換算N値ではなく直接c・φ計測へ 実際に起きた現象ですら再現できないのに、現状評価や将来予測など夢のまた夢です。 何故こんなことが起きるのかというと、N値からの強度換算式が「新設のルール=安全側のルール=最低値」で造られているからです。もともと維持管理するつもりがあってつくられたものではありません。 現状の評価は、現状の状態をデータとして取り込まないとできません。土木研究所の佐々木靖人さんがその解決方法法として、「土層強度検査棒」を開発されました。これは、ベーンコーンに荷重を掛けて回した時のトルクを計測することによってc・φを求めるというものです。三軸圧縮試験的です。実際、換算するもとになっているデータは同じ場所の三軸圧縮試験結果です。三軸試験結果との相関関係を利用するという、土質力学の王道を行く人にとってはあまり受け入れたくない方法が用いられています。 相関関係を取るデータが三軸試験結果なので、その精度以下にしかならないのは当然のことです。しかし、安全側という立場で超単純化した換算N値よりは相当マシです。精度としては「換算N値以上、土質試験以下」という位置づけです。利点は、短時間に計測できるので、沢山のデータが得られるということです。それらは統計処理に活用できます。 精度は換算N値以上、土質試験以下

C・φを計測すれば順算で再現できる 土層強度検査棒のc・φを利用してみる 実際に先の現場で土層強度検査棒で得られたc・φを使ってみます。小数点以下1位までの数値があるのは、平均値だからです。少なくとも同じ地層で3点以上の計測を行えば、ばらつきなどの統計値が得られます。「土の強度はばらつく」ということは、日常的に枕詞として使われますが、それに配慮した解析が行われる例はほとんどありません。それは強度計測が、不撹乱試料採取+土質試験という高いハードルのものだからです。 実測されたc、φを使って計算すると、それらしい値になります。少なくとも地下水が無い時にはFs>1.0で、「現存して良い」条件となっていますので、逆算法に回らなくて済みます。水圧を掛けてみると、Fs<1.0となりました。実際に崩壊した形状は黒の点線です。これは最小安全率ではありません。Fs<1.0となれば崩壊し、崩壊すれば水圧が除圧されますので、最小安全率の形状が崩れるまで他のFs<1.0の円弧が踏ん張って待っている必要はないのです。

土質工学は崩壊時水圧を極めて甘く評価している、と思う 被災箇所の再現の場合 C・φがわかると水頭だけが未知数になる 土質工学は崩壊時水圧を極めて甘く評価している、と思う 某鉄道 そもそも、斜面の安定には地下水圧が重要であると口では言いながら、決め方はいたっていい加減です。「安全側を見て地表まで地下水が満たされた」という条件を使う場合がありますが、本当にそれが「最も安全側」かどうかは極めて疑わしいと思います。ただ、いままでは、安定計算でφしか換算N値から決まらないので、cと地下水圧の2つが未知数として残っていたので、適当なバランスで設定するしかなかったわけです。 Cがわかるとどうなるかというと、実際に崩壊した箇所であれば、Fs<1.0となる水圧を逆算することができます。そうすると地表面よりも高い水圧でないと崩れないという斜面が存在する(しかも珍しくない)ことがわかります。被圧水化した地下水が崩壊の直接的誘因になっているということです。 災害調査に行くと、爆裂したような穴や、円形崩壊地を見ることがしばしばあります。高い水圧で吹き飛ばされたように見えるのですが、従来型の逆算法では、cが調整要因になってしまうので、水圧の情報が「逆算による推定レベル」であっても得られませんでした。 Cが得られるようになると、水圧が推定できるようになります。そして、それらは被圧水であって、災害調査時のイメージにとても良く合います。また、いわゆるパイプ流がその水圧の元になっているようです。 これらは、従来型の解析方法は、崩壊の原因すらちゃんと求められていなかったことを意味し、原因がわからなければ対策もまたトンチンカンになる宿命を持っていたことになります。 庄原 自然斜面は「安全側を見て地表まで地下水が満たされた」くらいでは容易に崩壊しないことが順算でわかる。被圧水頭がかかって初めて崩壊するようだ。

被災箇所の再現の場合 残るは水圧だ! そもそも、斜面の安定には地下水圧が重要であると口では言いながら、決め方はいたっていい加減です。「安全側を見て地表まで地下水が満たされた」という条件を使う場合がありますが、本当にそれが「最も安全側」かどうかは極めて疑わしいと思います。ただ、いままでは、安定計算でφしか換算N値から決まらないので、cと地下水圧の2つが未知数として残っていたので、適当なバランスで設定するしかなかったわけです。 Cがわかるとどうなるかというと、実際に崩壊した箇所であれば、Fs<1.0となる水圧を逆算することができます。そうすると地表面よりも高い水圧でないと崩れないという斜面が存在する(しかも珍しくない)ことがわかります。被圧水化した地下水が崩壊の直接的誘因になっているということです。 災害調査に行くと、爆裂したような穴や、円形崩壊地を見ることがしばしばあります。高い水圧で吹き飛ばされたように見えるのですが、従来型の逆算法では、cが調整要因になってしまうので、水圧の情報が「逆算による推定レベル」であっても得られませんでした。 Cが得られるようになると、水圧が推定できるようになります。そして、それらは被圧水であって、災害調査時のイメージにとても良く合います。また、いわゆるパイプ流がその水圧の元になっているようです。 これらは、従来型の解析方法は、崩壊の原因すらちゃんと求められていなかったことを意味し、原因がわからなければ対策もまたトンチンカンになる宿命を持っていたことになります。

岩は水圧で吹き飛ばされた(仮説) アニメーション

土質工学は崩壊時水圧を極めて甘く評価している、と思う C・φがわかると水頭だけが未知数になる そもそも、斜面の安定には地下水圧が重要であると口では言いながら、決め方はいたっていい加減です。「安全側を見て地表まで地下水が満たされた」という条件を使う場合がありますが、本当にそれが「最も安全側」かどうかは極めて疑わしいと思います。ただ、いままでは、安定計算でφしか換算N値から決まらないので、cと地下水圧の2つが未知数として残っていたので、適当なバランスで設定するしかなかったわけです。 Cがわかるとどうなるかというと、実際に崩壊した箇所であれば、Fs<1.0となる水圧を逆算することができます。そうすると地表面よりも高い水圧でないと崩れないという斜面が存在する(しかも珍しくない)ことがわかります。被圧水化した地下水が崩壊の直接的誘因になっているということです。 災害調査に行くと、爆裂したような穴や、円形崩壊地を見ることがしばしばあります。高い水圧で吹き飛ばされたように見えるのですが、従来型の逆算法では、cが調整要因になってしまうので、水圧の情報が「逆算による推定レベル」であっても得られませんでした。 Cが得られるようになると、水圧が推定できるようになります。そして、それらは被圧水であって、災害調査時のイメージにとても良く合います。また、いわゆるパイプ流がその水圧の元になっているようです。 これらは、従来型の解析方法は、崩壊の原因すらちゃんと求められていなかったことを意味し、原因がわからなければ対策もまたトンチンカンになる宿命を持っていたことになります。

高水圧こそが崩壊原因のような気がする 見るからに高い水圧が土中にかかり、表層部の相対的な難透水層を突き破って、崩壊が発生している例が多くあります。これらが、被圧水の仕業である可能性が高いということをあぶり出すには、少なくとも現地盤のc・φは実計測値である必要がありました。地震時の場合には、被圧水と言うよりも「過剰間隙水圧」かもしれません。過剰間隙水圧の最大値は自重分ですが、被圧水は斜面上方から作用する可能性があるので、むしろ豪雨時の被圧水の方が地震時の過剰間隙水圧よりも多気かも知れません。

でも結局パイプ流じゃん!地下流水音計測 地下水流を「耳」で探る 水 水音のパワーレベル 透水性を原位置で調査しても、でも結局地下水流はパイプ流が8割方占めるのだからあまり意味が無い、ということもあり得ます。平均透水性が全く意味が無いとは思いませんが、浸透流解析が間隙流(マトリックス流)で行われ、実際の地盤内はパイプ流が主体という矛盾は、いまも未解決のままです。 森林総研の多田さんが開発された、地下水音計測によるパイプ流探査は、パイプ流の存在位置を的確に把握するのに好都合です。音を聞くので、「解釈」など不要です。崩壊がパイプ流位置で起きているということまで突き止められていますので、パイプ流の位置を把握できれば「ピンポイント対策」も可能になります。この調査法も簡単で安価です。ただし装置は少し高価です。 水

最重要なこと 理屈では良く説明しきれないが、どうも パイプ流の水圧が斜面の崩壊に大きな影響を与えているようだ!

土壌雨量指数の示す意味 その地域の第1~3位で崩壊が発生する <仮説>その地域最大の雨は、その地域のパイプ流路のキャパシティに対応している・・・それを超えると被圧水化する

鋼製パイプドレーン工 排水補強パイプ 道路盛土 河川堤防 高速道路 自然に形成される地中パイプは「自然の地下水排除工」の機能を持ちますので、斜面の安定上重要だと言われます。これが閉塞したり、過剰供給による排水能力オーバーになると高い水圧が発生し崩壊が引き起こされます。このため、閉塞しない安定的な地中パイプを人工的に形成するということが斜面の安定に寄与すると思います。 血管に血栓の出来た人に、カテーテルでスプリング補強するようなものです。 健全な地下水の排水ができている斜面には崩壊は起きません。自然斜面でも、人工盛土でも、河川堤防でも同様です。 高速道路 自然のパイピングホールは自然の地下水排除工の役割を果たしているが、時々閉塞して背後に高水圧を発生させる。人工的なパイピングホールを形成させ、かつ地盤を補強する