Journal Club 2013/11/19 聖マリアンナ医科大学 救急医学 吉田英樹
今回の論文の背景 【ARDSの問題点】 重症のARDSに罹患した患者の死亡率は依然高く、50%を超える! 生存したとしても、身体的、機能的、精神的障害が残る! →上気の問題を含め、重症のARDSに対する対策(治療)としてECMOの有効性が提案されている。
今回の論文の背景 【ECMO使用のメリット】 Ultraprotective mechanical ventilation を可能にする。(一回換気量を少なくできる) Ventilator-induced lung damageを軽減する 可能性がある。 ★さらに、ECMOの技術的な発展、CESAR trialの結果などから、ECMO使用が注目されている。
ちなみに、CESAR trialとは 180人の患者を対象に68施設で行われた、ECMOと通常の人工呼吸器治療とを比較した多施設無作為化比較試験 6か月の期間において、ECMOは通常治療に比べて死亡率を減少させる傾向がみられ、死亡率と重篤な機能低下の複合エンドポイントに有意な改善が認められた。
今回の論文の背景 【ECMO使用のデメリット】 →なんでもかんでもECMOを導入すればよいというものではない! 専門のスタッフ、装置が必要 費用がかかる →なんでもかんでもECMOを導入すればよいというものではない!
今回の論文の背景 ECMOの適応を適切に判断するために・・・ ● 死亡のリスクとなる因子の同定 ● 死亡のリスクとなる因子の同定 ● ECMO使用により生存した患者の長期予後に関する詳細な評価 が必要と考えられる。
今回のstudyの目的 ICU退室後6カ月の時点での死亡と相関する因子を特定する。 最新型のECMOでARDSの治療を受けた患者で ICU退室後6カ月の時点での死亡と相関する因子を特定する。 →ECMO適応の判断に役立つかもしれない、実用的な死亡リスクスコアを作る (PRESERVE score) *今回のstudyはスコアの作成が目的であり、このスコアの実用性を検討したstudyではないようです。
今回のstudyの目的 最新型のECMOでARDSの治療を受けた患者で 長期生存者のHRQL(health-related quality of life), 呼吸症状, 不安, 抑うつ, PTSDの頻度について評価する。
方法 2008年5月~2012年1月にかけて行われた Multicenter(多施設:フランスの3つの大学の成人ICU) Retrospective study(後ろ向き研究) 上記期間内に、上記施設にて、ECMOによる治療を受けたsevere ARDSの患者すべての患者を対象
ECMO導入の判断 【持続する低酸素血症】 ① FiO2≧80%で6時間以上 P/F<80mmHg の状態。 適切な呼吸器設定 の状態。 適切な呼吸器設定 →(Vt:6mL/kgかつPEEP≧10cmH2Oを試みた状態) 補助的治療を行っている状態 →(NO, prone position, HFO ventilation)
ECMO導入の判断 【持続する低酸素血症】 ② pCO2≧60mmHg以上でpH<7.25 が6時間以上 が6時間以上 Pplat≦32cmH2Oで調節されている状況下で。
Exclusion criteria for ECMO 酸素療法 and/or 長期間の呼吸補助により治療を受けていた、慢性呼吸不全のある患者 予後5年以内と考えられる致死的な悪性疾患のある患者 瀕死(moribund patients)あるいは不可逆的な神経疾患があり治療制限を決定している患者
今回のStudyの方法(死亡関連因子の同定) 【患者の臨床的特徴のチェック】 年齢、性別、BMIなど(後述の表参照) 【ECMO開始時の人工呼吸器の状態をチェック】 P/F, FiO2, PEEP, Tidal volumeなど(後述の表参照) →ICU退出後6カ月時点で、生存している患者と死亡している患者のデータを比較。 → ICU退室後6カ月の時点での死亡と相関する因子を統計学的に特定する。
今回のStudyの方法(死亡関連因子の同定) 【Out comeとして、ICU eventを記録】 心停止、出血、感染、ECMO関連の溶血、ECMOおよび人工呼吸器使用期間、ICUおよび病院滞在期間、死亡率 *本文中ではICU退出後6カ月時点での死亡に関してのみ焦点をしぼっている。
【患者にインタビュー】 今回のStudyの方法(長期予後) Long-term HRQL, 呼吸症状, 精神的評価 に関する質問を行う。 ICU退室後6カ月以上経っている状態で Long-term HRQL, 呼吸症状, 精神的評価 に関する質問を行う。 →同じ調査員が全患者をインタビュー。電話にて同じ質問順序で質問する。
今回のStudyの方法(長期予後) 【Long-term HRQL】 フランス版Medical Outcome Short-Form(SF)-36 →性別と年齢を合わせた、一般人と比較 【Pulmonary symptoms】 St George’s Respiratory Questionnaire(SGRQ) 【Anxiety and Depression symptoms】 Hospital Anxiety and Depression(HAD) Scale 【PTSD-related symptoms】 Impact of Event Scale (IES)
統計学的分析 【連続変数】 t検定あるいはマン・ホイットニーのU検定にて比較 【SF-36スコア平均値の比較】
統計学的分析 【臨床的特徴の検索】 死亡率に独立して影響を与える患者の臨床的特徴の検索には以下を使用。 ロジスティック回帰モデルを使用 その後、段階的な変数減少法を使用 Prone positionは強制的に含むこととした (最近のstudyですでに有効性が示されているため)
統計学的分析 【臨床的特徴の検索】 多変量解析に含まれたすべての説明変数は共線性を解析するために相関行列に含まれた。 変数の相互関係は多変量モデルには含まれなかった。 最終的に、単純で実用性のあるスコアシステムを作るために、連続変数をカテゴリー変数に変えて再度ロジスティック回帰を行った。
統計学的分析 【PRESERVE score】 PRESERVE scoreのdiscriminative performanceはROC曲線により評価し、曲線下面積と95%CIにて定量化した。 PRESERVE scoreで4つの群に分類し、ECMO導入後の生存確率をKaplan-Meier法による生存解析で評価した。
結果
140人の患者が難治性ARDSによりECMOの治療を受けた ICU退出時生存:64% ICU退出後6カ月で60%の患者が生存(84人)
長期のQOL評価が行えたのはそのうちの80%。 全体の48%(67人)
ICU入室時の患者の特徴
ECMO開始時の呼吸器管理の特徴
ECMO開始時の呼吸器管理の特徴
結果 多変量解析にて、下記の要因が独立して6カ月までの死亡と相関していた 高齢 Immunocompromised(免疫不全) SAPSⅡ score高値(年齢を除いて計算した値) Pre-ECMO Pplat高値 Pre-ECMO PEEP低値 Pre-ECMOで腹臥位を行っていない ECMO開始までの人工呼吸器継続日数 BMIが高いと死亡率が低い傾向にあった(後述)
ICU退室6ヶ月後の死亡と関連する因子
SOFA scoreの方がSAPSⅡよりも簡便で使いやすいためSOFAを適用している The PRESERVE score SOFA scoreの方がSAPSⅡよりも簡便で使いやすいためSOFAを適用している スコアが高いほど ICU退出6カ月後の死亡率が高くなる
ECMO開始から6カ月までの生存累積確率
ECMO開始から6カ月までの生存累積確率はPRESERVE scoreによるクラス分類で順に97, 79, 54, 16%である
P/Fについて(考察) 今までのstudyと違いpre-ECMOのP/Fは生存率と関係なかった。 →酸素化の程度よりも肺の力学的変化の方がより重要であることが示唆された。 腹臥位療法の患者はECMO開始前に、有意に高いPEEPと低いPplat, driving pressureであった。 腹臥位療法では、2/3の患者で難治性の酸素化予防にはならなかった(今までの報告で最多)。→人工呼吸器による肺障害を防ぐことで長期予後の改善が得られているのかもしれない。
BMIと死亡率の関係についての考察 BMI>30がpre-ECMO PplatとPEEPに関係なく、独立して予後良好と相関しているという結果になった。 ICU患者において肥満患者が通常の患者と比べて予後がよいことはよく報告されていることである。これは、測定されたPplatが実際の肺内圧を反映していない可能性がある(おそらくは胸郭の圧が大きいため?)。そのため、呼吸不全の重症度が過大評価されてる可能性が考えられる。
長期予後に関する詳細な評価 ICU退出後平均17(11-28)カ月で行われた。 HQOLと精神社会的(psychosocial)な質問が67名(ICU退出後6カ月生存した患者のうち80%)に行われた。
SF-36 score PF:physical functioning RP:role-physical
長期予後に関する詳細な評価(補足) 身体的なことに関する項目でコントロール群と比べて著明に低かった Role-emotional componentを除くとpsychologicalに関する項目ではそれほど大きな差はなかった。 長期follow-up(>503日)された患者では、role-physicalとrole-emotionalに関する項目は著明な改善を認めた。
長期予後に関する詳細な評価(補足) SGRQについては、ECMO使用期間が長いほど呼吸器症状が強かったという結果であった。(本文内にこのコメントのみ。)
長期予後に関する詳細な評価(補足) HAD-A/Dで subscale scores≧8/21 の割合
長期予後に関する詳細な評価(補足) PTSDについては、11人(16%)で認められた。 MCA:mechanical circulatory assistanceにて治療を受けた心筋梗塞患者、conventionallyな治療を受けたARDS患者、他の疾患でICUか生存退室した患者と比べて大きく違いはなかった。
Studyのlimitation ① 筋弛緩薬の使用についての記録がない。→多変量解析に組み込まれていない。 ② PRESERVE scoreは、今回のstudyの患者群だけでなく、他の、ECMO治療を受けたsevere ARDSの患者群にも適応して検討が必要。 →今回だけのstudyではover estimateされているかもしれない。
Studyのlimitation ③ 疾患発症前のHRQLを測定できない。 →もともとのHRQLが良かったかも。ARDSやECMOに関係ないかも。 ④ ARDS特異的なものでなく、ICU入室が必要な重症疾患に共通した結果かもしれない。
まとめ 今回の目的は、重症ARDS患者に対してECMO導入を適切に判断(予後が見込める症例を選んで適応)するのに役立つスコアリングシステムを作ることであった。 臨床的に利用が簡便な、8つの項目からなるPRESERVE scoreにより、予後が有意に異なる4つのグループに分けることが出来る可能性がある。
結び 今回のstudyで、ECMOで治療されたrefractory(難治性)ARDS患者の長期生存者は60%であった。 6か月時点での生存者のうち80%の患者でのHRQLの評価では、anxiety, depression, PTSDが34%, 25%, 16%で認められた。 さらなる検討が必要であるが、PRESERVE scoreはsevere ARDSの患者に対するECMO適応の判断に役立つかもしれない。
考察 統計学的な数値計算から出てきたものであること、retrospectiveであることから、実際に有用なスコアリングであるのか、 今後prospectiveな研究が期待される。