サリドマイド 2005/4/3
サリドマイドという薬 スイスのチバ製薬で1953年にグルタミン酸誘導体として誕生⇒薬理的効果がない 西ドイツ:グリュネンタール社1954年合成 1957年「コンテルガン」という名で睡眠薬、精神安定剤として発売 速効性があり、持ち越し作用がなく、大量でも致死的でない
日本での製造 大日本製薬が、グリュネンタール社と異なった合成法でサリドマイド剤を独自に合成 (日本では、当時物質特許がなく、薬剤製法が特許の対象となっていた) 1958年「イソミン」という名前で発売
事件 1960年前後には、サリドマイドが妊婦のつわりの薬として使われた 1960~1961年:末梢性多発神経炎の発生 1961年:サリドマイド胎芽病の発生
警告と回収 西独:1957.10.1発売、1961.11.15レンツ警告、出荷停止、1961.11.25回収決定、1961.11.27回収終了 日本:1958.1.20発売、1962.5.17出荷停止、1962.9.13回収決定、1963年半ばから末頃(推定)回収終了
薬の評価 1965年イスラエルの皮膚科医シェスキンが掻痒感に対する沈静のために、6名のハンセン病患者にサリドマイドを投与したところ、ハンセン病の活動性病変が消失した 難治性の全身性エリテマトーデス(SLE)のデスコイド型皮疹、全身性アフタ症、結節性痒疹、ベーチェット病、エイズによる潰瘍などの難治性粘膜皮膚病変の治療に有効
現在使われる 1994年6月13日号の『タイム』は、ブラジルで少なくとも46人のサリドマイド児の発生を報告 ブラジルで年間800万錠の生産 ブラジルで30万人いるハンセン病患者にサリドマイドが使われている 自己免疫疾患や慢性炎症性増殖疾患に対する治療薬
血管新生阻害作用 このために、ガンなどが拡大するのを防ぐ しかし、この作用のために、胎児に手足ができることが妨げられる 難治性皮膚病に効果があるのも同じ作用に関わる
右手形(立体異性体) サリドマイドの右手形はすぐれた鎮痛剤・睡眠誘導体 左手形に、胎児に奇形の発生をうながす性質(催奇性)がある 人工的に合成された医薬のほとんどは、右手形と左手形が50対50で混ざりあった「ラセミ体」 選択的につくるのが重要:野依良治
医学的実験 個体によって生物学的変異のある人間や動物を対象とした薬剤の試験 ☆実験対象のグループの全員が同じ程度にその薬の影響を受ける、のでない ☆実験的に明瞭なイエス、ノーが得られない⇒数理統計的方法(実験群と対象群の間に観察された差が真実か、偶然か)
薬の認可問題 認可を厳しくする ⇒ 有用な薬の発売が遅れ、発売される薬の総原価を大幅に引き上げる 認可を厳しくする ⇒ 有用な薬の発売が遅れ、発売される薬の総原価を大幅に引き上げる 認可をやさしくする ⇒ 副作用のある薬、有効でない薬が発売される可能性が増す ☆製造物責任法
無害第一 安全第一 無害第一 ★いらないことには、口を挟まない ★失敗の可能性のあることはやらない ★自分の専門分野でない救急医療はやらない 専門家⇒専門分野だけに発言を限る
薬の名称 サリドマイド胎芽病は『ランセット』などの雑誌に掲載されていた サリドマイドという成分表示で、「イソミン」や「プロバンM」という商品名が出なかった⇒多くの医師は関連性に気づかなかった スウェーデンでも「コンテルガン」が、「ニューロセデーン」や「ノクソデーン」の別名だと気づかなかった よく似た薬の名前によって、現在でも間違いが起こっている
薬の治験 ①薬の候補物質の合成、スクリーニング、選択、物理・化学的性状の研究 :2~3年 ②動物実験:毒性試験、薬効試験:3~5年 ①薬の候補物質の合成、スクリーニング、選択、物理・化学的性状の研究 :2~3年 ②動物実験:毒性試験、薬効試験:3~5年 ③治験:第一相試験(100人程度の健康な成人を対象、安全性、副作用を調べる) 第二相試験(患者に投与、使い方を決める) 第三相試験(既存の薬より優れているか) 3~7年 ④企業が厚生労働省に承認申請、審査:1~2年 10年以上、100億円以上
日本の現状 サリドマイド:2002年度44万錠が個人輸入(抗ガン剤などに使用) 飲み残しのサリドマイドを回収している医師は4割のみ(日経2003.9.19) コントロールを厳密にすることによって、危ない技術を使う 医師の裁量、自己決定⇒制度的コントロール 薬の問題はメーカーの治験問題だけでなく、裁量を持つ専門家の問題も含む(安全管理)