日本におけるオープンサイエンスの概要 2017.10.26 54th KLA general conference @KOREA International Exhibition & Convention Center (KINTEX) 日本におけるオープンサイエンスの概要 情報・システム研究機構 国立極地研究所 南山 泰之 minamiyama@nipr.ac.jp ORCiD ID:0000-0002-7280-3342
自己紹介 所属: 国立極地研究所情報図書室 役職: librarian 専門分野: Metadata Management Research Data Management 委員歴: オープンアクセスリポジトリ推進協会 (JPCOAR) ほか
目次 関係機関によるポリシー策定 コミュニティによる取り組み オープンサイエンスへ対応するためのインフラ構築 国際連携
1. 関係機関によるポリシー策定 国レベルのオープンアクセス戦略・ポリシー 内閣府 (Cabinet Office) 第5期科学技術基本計画 (2016.1.22) http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/index5.html 「国際的動向を踏まえたオープンサイエンスに関する検討会」報告書 (2015.3.30) http://www8.cao.go.jp/cstp/sonota/openscience/ 文部科学省 (Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology) 博士論文の公開義務化 (2013.4.1) http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/daigakuin/detail/1331790.htm 2015年に有識者会合によってまとめられたオープンサイエンスに関する報告書を起点に、日本でもオープンサイエンスが推し進められている。 2016年~2020年度における第5期科学技術基本計画では、科学技術イノベーションの基盤的な力の強化としてオープンサイエンスの推進が盛り込まれた。 また、電子データ公開の義務化については、2013年に博士論文が義務化されている。
1. 関係機関によるポリシー策定 助成機関 日本学術振興会 (JSPS : Japan Society for the Promotion of Science) オープンアクセスポリシー (2017.3.27) https://www.jsps.go.jp/data/Open_access.pdf 科学技術振興機構 (JST : Japan Science and Technology Agency) オープンサイエンスポリシー (2017.4.1) http://www.jst.go.jp/EN/about/openscience/index.html 2017年になり、助成機関が相次いでポリシーを発表した。 これにより、研究費の動きが研究成果のオープンアクセスに規律されつつある。
1. 関係機関によるポリシー策定 大学・機関 2017.9現在、15機関がオープンアクセスポリシーを採択 リンク集:https://jpcoar.repo.nii.ac.jp/index.php?page_id=53 大学・機関では、現在15機関がポリシーを採択。 もっとも、全てが研究成果のオープンアクセスを義務化している訳ではない。 研究者自身ではなく、大学・機関が主体的に研究成果を収集することを定めている点に特徴がある。
1. 関係機関によるポリシー策定 ・ROARMAPへの登録は6件 → 大学・機関は4 / 15件 (約25%) → 登録率の上昇が課題 → 大学・機関は4 / 15件 (約25%) → 登録率の上昇が課題 機関リポジトリの収集ポリシーがまとまっているサイト、ROARMAPには、日本から6件しか登録されていない。 大学・機関に限定すると、15機関のうち4件。国際的に可視化されていない。 登録率の上昇が今後の課題。 https://roarmap.eprints.org/
オープンアクセスリポジトリ推進協会 (JPCOAR), 2016年7月設立 II. コミュニティによる取り組み デジタルリポジトリ連合 (DRF), since 2006 JAIRO Cloudコミュニティ, since 2012 機関リポジトリ推進委員会, since 2013 続いて、オープンアクセスに関するコミュニティの紹介。 日本では、これまで大きく3つの団体が活動していたが、予算規模、人員、運営面などで各々課題を抱えていた。 各団体の良さを持ち寄って、より国内外にアピールしよう、ということで、オープンアクセスリポジトリ推進協会が2016年に立ち上がった。 2017年6月現在、490機関が参加している。 オープンアクセスリポジトリ推進協会 (JPCOAR), 2016年7月設立 https://jpcoar.repo.nii.ac.jp/ 490機関が参加(2017年6月現在)
II. コミュニティによる取り組み JPCOARのミッション 1. オープンサイエンスを含む学術情報流通の改善 2. 機関リポジトリシステム基盤の共同運営と有効活用 3. 機関リポジトリ公開コンテンツのさらなる充実 4. 担当者の人材育成のための研修活動 5. 国際的な取組みに対する積極的連携 JPCOARのミッションは、大きくこの5つになる。
II. コミュニティによる取り組み 組織体制 研究データ 研究者ID OAポリシー メタデータ スキーマ タスクフォース 戦略の決定と運営 運営委員会 総会 報告 会長 幹事 5つのミッションを具体的な活動に落とし込むため、JPCOARはこの図のような組織体制を構築している。 戦略は運営委員会で決定され、具体的なタスクとしてタスクフォースとワーキンググループに振り分けられている。 リポジトリ運営に必要な定常的業務3つはワーキンググループが担当し、先進的な取り組みについてはタスクフォースが担う。 承認 JAIRO Cloud 運用 研修 広報 ワーキンググループ
II. コミュニティによる取り組み 第1回年次総会の様子 ・2017年3月開催 ・358館が参加
II. コミュニティによる取り組み JPCOARの活動紹介 “JPCOAR schema”策定 研究データ管理 (RDM : Research Data Management) トレーニングツール開発 JPCOARの活動紹介 ここからは、最近の活動としてJPCOARのタスクフォースの成果を2つ紹介する。 1つ目はメタデータ検討タスクフォースによる成果、2つ目は研究データタスクフォースによる成果となる。
II-1. “JPCOAR Schema”策定 “JPCOAR Schema”策定の趣旨: 国際的なスキーマとの相互運用性 代表的な識別子と語彙の採用 オープンサイエンス対応要素の拡張 Open Repositories 2017 Conference Poster presentations (Brisbane) JPCOAR schema : New Japanese Metadata Schema for Open Science https://or2017.net/wp-content/uploads/2017/06/131.pdf 1つ目、JPCOAR schemaの策定について。 これまで、日本では独自のメタデータ交換フォーマットである”junii2”がスタンダードであり、機関リポジトリはほぼ全て対応している。 しかし、オープンサイエンスが目指すところは国際的なデータ交換を前提とした世界。スムーズなデータ交換のためには、国際的なスタンダードを意識したスキーマ設計が必要である、と考え、junii2を改訂することになった。 改訂の指針は、大きく3つ。相互運用性(Interoperability)の確保、代表的な識別子と語彙の採用、オープンサイエンス対応要素の拡張。 EUの研究成果を検索できるOpenAIREの関係者と情報交換しながら改訂作業を進めた。スキーマの検討状況については、ブリスベンで開催されたOpen Repositories 2017でも紹介し、10月20日に詳細が確定した。
II-1. “JPCOAR Schema”策定 Dublin Core [dc] title language publisher rights [dcterms] temporal COAR resourceType [in process] accessRight OpenAIRE versionType DataCite fundingReference funderIdentifier funderName awardNumber awardTitle identifier version date geolocation description Bibliographic Ontology journal volume issue pageStart pageEnd RIOXX apc 国際的なスキーマとの相互運用性について。 大きく6つのスキーマから、リポジトリにおけるデータ交換に必要な要素を抽出した。 一点、Bibliographic Ontologyについて訂正がある。雑誌論文に関する情報については、当初OpenAIREに倣いBIBOを採用していた。その後、OpenAIREがBIBOを採用しないことに決定したため、JPCOAR schemaでも採用を見送ることにした。
II-1. “JPCOAR Schema”策定 e-Rad ; ORCID ISNI ; VIAF Researcher ID datacite:identifier DOI ; Handle ; URI resource ID jpcoar:creator jpcoar:contributor jpcoar:rightsHolder resource ID Kakenhi ; ISNI Ringgold ; GRID Affiliation ID arXiv ; ISBN PISSN ; EISSN PMID ; WoS … coar:resourceType 2つ目、代表的な識別子と語彙の採用について。 日本では、研究者名の識別子としてe-Radが広く使われているものの、国際的には対応していない。 JPCOAR schemaではORCIDを推奨し、e-Radとマッピングすることでこの問題に対応している。 また、機関リポジトリのコンテンツが何か、を示すresourceTypeについては、国際的なオープンアクセス団体であるCOARの語彙を採用し、junii2の語彙をマッピングした。 日本固有の語彙も存在するため、COARに語彙の採用を提言している。 jpcoar:relation COAR Controlled Vocabularies CrossrefFunder funder ID datacite: fundingReference
II-1. “JPCOAR Schema”策定 - jpcoar:accessRights For open access status closedAccess embargoedAccess restrictedAccess openAccess - rioxxterms:apc For APC status Paid Partially waived Fully waived Not charged Not required Unknown - datacite:fundingReference For funding information - jpcoar:rightsHolder - dc:rights For license information - datacite:version - datacite:geolocation For research data 3つ目、オープンサイエンス対応要素の拡張について。 オープンサイエンスの文脈では、オープンアクセスの進捗状況の把握、オープンアクセスのコスト、データのライセンス、研究データの流通といった様々な課題が挙がっている。 こういった問題を解決するために必要なメタデータとして、新たに多くの要素を採用するに至った。 時間の関係もあり簡単にしか紹介できないが、関心のある方は是非お問い合わせいただきたい。
II-2. 研究データ管理トレーニングツールの開発 活動の2つ目、研究データ管理トレーニングツールの開発について。 オープンサイエンスを推進する上で、研究データに関する知識は必須となる。 既存の論文とは大きく取扱いが異なるため、既存のトレーニングツールを調査・分析し、日本の実務担当者向けにトレーニングツールの開発を行った。 スライドとスクリプトは6月にウェブサイトで公開している。 ・各国のトレーニングツールを調査・分析し、日本用のツールを開発 ・スライドとスクリプトは2017年6月にCC-BYで公開 http://id.nii.ac.jp/1458/00000023/
II-2. 研究データ管理トレーニングツールの開発 JMOOC「gacco」で公開予定(2017/11/15開講) https://lms.gacco.org/courses/course-v1:gacco+ga088+2017_11/about また、作成したスライドとスクリプトを元に、トレーニングツールを動画コンテンツとしても作成した。 11月に開講予定で、およそ1か月のスケジュール。 10月時点で1000人以上の受講予定者がいる。多くの方々に最後まで受講してもらえるよう、タスクフォースとして支援していく予定。
II-2. 研究データ管理トレーニングツールの開発 研究データ管理トレーニングツールの開発 (2016-) 日本のURA (University Research Administrator), 図書館員など研究支援職を対象 RDMの基礎的な知識を提供 各機関によるRDMサービス展開の足がかりに 今後の課題:コンテンツのアップデート、ツールの拡張、他のツールとの連携など トレーニングツールの内容について。 メインターゲットとしては、日本のURA、図書館員など研究支援職を対象としている。 既に紹介したように、研究データ管理に関する基礎的な知識を提供し、各機関によるサービス展開の足掛かりになることを目指している。 もっとも、研究データ管理については各国で様々な取組みが進められており、情報が古くなるのが早い。今後の課題としては、コンテンツのこまめなアップデートや、動画以外の見せ方の検討、あるいはウェブサービスとしてデータ管理計画作成支援ツールなどと連携させる、といったアイディアが挙げられている。
II. コミュニティによる取り組み 研究データ利活用協議会 ・2016年6月に設立 ・研究データへのDOI登録実験プロジェクトを契機に設立 ・日本版RDA (Research Data Alliance)を志向 JPCOARの紹介が長くなったが、それ以外の取り組みも一点紹介したい。 2016年より、研究データ利活用協議会という団体が立ち上がった。 研究データに関する国際団体RDAの日本版を志向しており、日本国内における研究データの知見を共有し、新たな取り組みを推進することを目的としている。 最近はデータリポジトリの動向、ライセンス、データ管理計画等について議論が進んでいる。 http://japanlinkcenter.org/rduf/index.html
III. オープンサイエンスへ対応するためのインフラ構築 JAIRO Cloud ・2012年4月にNIIよりサービスイン ・SaaS (Software as a Service)型の共用リポジトリシステム ・コンテンツ登録(各機関)とシステム保守(NII)を分離し、小規模館(担当者1~2名)でも運用が可能に 3点目、日本におけるインフラの構築状況について。 日本の国立情報学研究所によって開発されたリポジトリソフトウェアとして、JAIRO Cloudというものがある。 クラウドベースのシステムであり、小規模館でも運用が可能という特徴がある。
III. オープンサイエンスへ対応するためのインフラ構築 http://irdb.nii.ac.jp/analysis/index.php JAIRO Cloudの登場によって、日本のリポジトリ構築数は飛躍的に伸びた。 2017年9月時点では、712機関が機関リポジトリを持っており、半数以上がJAIRO Cloudを利用している。 比例して、リポジトリのコンテンツも増加し、全国で267万件以上が保有されている。 2017年9月現在: ・712機関が機関リポジトリ構築済み ・全国で267万件のコンテンツ数 https://www.nii.ac.jp/irp/archive/statistic/
III. オープンサイエンスへ対応するためのインフラ構築 IRDB (Institutional Repositories Database) によるメタデータ流通 機関リポジトリ構築への要望 A Univ. B Univ. C Inst. JAIRO Cloud D Univ. E Univ. Institutional Repositories in Japan メタデータの集約 国立国会図書館 博士論文コレクション メタデータハーベスト IRDB ジャパンリンクセンター (JaLC) DOI登録システム この図は、日本の大学・研究機関が保有するリポジトリのメタデータ流通を示している。 リポジトリに登録されたメタデータはIRDBというデータベースに集約され、博士論文データベース、DOI登録システム、横断検索システム等に送られる。 今年になって、ドイツのBASEやヨーロッパのOpenAIREとも連携を試行しており、各国のサービス展開に貢献している。 JPCOAR Schemaが実運用されることによって、さらに多くのサービスへ展開できることを期待している。 NII CiNii Articles: 学術論文データベース NII JAIRO: 機関リポジトリ横断検索システム junii2 JPCOAR schema (近日対応予定) 学術情報流通による付加価値を提供
III. オープンサイエンスへ対応するためのインフラ構築 for Data DOI Discovery Service International Metadata Aggregator Metadata Management ● Linking Func between Article and Data ● Researcher and Research Project Identification and Management Func ● Data Exchange with International Discovery Service Subject Repository Data Depositor Archive Exp/Store Search/Find Data User Article Discovery Service Metadata Aggregation User Flow Data Flow Re-use Journal Article Supplemental Data Research Data Mng User Interface 今後の展開として、JAIRO Cloudを研究データに対応させるための検討状況を紹介する。 国立情報学研究所では、研究データ管理のための基盤として3つのシステム構築を検討している。 JAIRO Cloudはそのうちの公開基盤として拡張される予定であり、データリポジトリとして必要な機能を備えることになるだろう。 Access Control Metadata Mng Institutional Research Data Mng Research Data Management System Research Data Repository RDM Platform Exp Data Publication Platform Private Shared Public ● High Speed Access using SINET5 ● Data Sharing Func using Virtual NW and ID Federation ● Effective Data Storage Switcher Hot Storage Hot Storage Hot Storage for Data ● Data oriented Self-Archiving Func ● Versioning and auto-Packaging Func Cold Storage Cold Storage Cold Storage
III. オープンサイエンスへ対応するためのインフラ構築 J-STAGE ・1999年に科学技術振興機構(JST)よりサービスイン ・日本の電子ジャーナル公開システム。 主に学協会が利用 ・2,089誌、300万記事以上を収録(2017年9月現在) ・2017年11月末に新インターフェース切替予定 ここまでは大学・研究機関中心のインフラ構築状況だったが、もう一つ学会・協会のインフラ構築状況を紹介する。 J-STAGEという、科学技術振興機構という日本の助成機関が運営している電子ジャーナル公開システムがある。 2017年9月現在、2100誌弱、300万記事以上を収録しているデータベースとなっている。 11月末には新たなインターフェースに変わり、より使いやすいサイトを目指すとのこと。 https://jstagebeta.jst.go.jp/
III. オープンサイエンスへ対応するためのインフラ構築 J-STAGEによるメタデータ流通 この図は、J-STAGEによるメタデータ流通を現している。 JAIRO Cloud同様に日本における様々なサービスへメタデータを提供しているほか、Scopus、Summonといった商業ベースのシステムにもデータを提供しており、国際的に視認性の高いデータベースとなっている。
IV. 国際連携 1st Asia OA summit 第2回:2017年12月5~6日 カトマンズ(ネパール)で開催 2016年11月14~15日 クアラルンプール(マレーシア) で開催 8カ国、150人以上が参加 アジア地域のオープンアクセス に関する情報共有が目的 最後に、国際連携について。 2016年3月に、研究データに関する国際団体RDAの会合が日本で開催されたが、その際にアジア圏でのオープンアクセスを推進するための方策が検討された。 背景には、英語圏と非英語圏の文化の違いや、英語圏中心で物事が進んでしまうことへの危機感がある。 その結果、オープンアクセスに関する団体COARの賛同を得て”COAR Asia”が設立され、昨年は第一回のAsia OA summitがマレーシアで開催された。 8カ国から150人以上が参加し、アジア地域のオープンアクセスに関する情報共有がなされた。 その際のレポート等もウェブサイトから確認できるので、是非ご一読いただきたい。 また、第2回は12月にネパールで開催される予定。ご関心のある方には、是非ご参加をお願いしたい。 https://www.coar-repositories.org/community/asia-oa/meeting-of-asia-oa/