6 鳥獣捕獲事業における安全確保の実際 6.1 鳥獣捕獲事業における捕獲従事者の安全管理に関する心構え 6.2 銃器による捕獲の安全確保 6.3 わなによる捕獲の安全管理 ここからは、実際にわなによる捕獲を行う際に必要となる安全の確保について詳しく見ていきます。 ここでは、特に安全確保に注意が必要な大型哺乳類の捕獲を想定しています。中小型哺乳類や鳥類のわな捕獲に関しては、適宜安全の確保をお願いします。

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6 鳥獣捕獲事業における安全確保の実際 6.1 鳥獣捕獲事業における捕獲従事者の安全管理に関する心構え 6.2 銃器による捕獲の安全確保 6.3 わなによる捕獲の安全管理 ここからは、実際にわなによる捕獲を行う際に必要となる安全の確保について詳しく見ていきます。 ここでは、特に安全確保に注意が必要な大型哺乳類の捕獲を想定しています。中小型哺乳類や鳥類のわな捕獲に関しては、適宜安全の確保をお願いします。 また、「狩猟読本」の該当箇所は、必ず改めて再読してください。

6.3.1 わなの作動に関する注意 大型動物を拘束できる強力なわなは、人にとっても 危険 仕組みや取扱いに習熟する テキスト 101ページ 6.3.1 わなの作動に関する注意 大型動物を拘束できる強力なわなは、人にとっても 危険 仕組みや取扱いに習熟する 誤作動による危険を回避する 誤って人が近づいて作動しないように、設置場所を 工夫したり、標識等で注意喚起を行う わなによる捕獲の安全確保おいて、最も注意が必要なのは、わなが作動するときと、捕獲された後の鳥獣による危害、殺処分のときの安全の確保などになります。 そこでまず、わなが作動するときの注意について見ていきましょう。 シカやイノシシのような大型の鳥獣を拘束するための強力なバネや、重い扉は人にとっても危険なものです。 設置者がわなを誤作動させて怪我をする場合や、設置したわなに一般の人が誤って近づき作動させて怪我をする場合もあります。 従事者は、わなの仕組みや取り扱いに十分習熟するとともに、一般の人が誤ってわなを作動させないように、わなの設置場所を工夫したり、注意を喚起する標識を立てて事故の防止に努める必要があります。 このように、安全を確保するためにも、わなは人にとっても危険だということを強く認識してください。

くくりわなで捕獲されたイノシシ くくりわなで捕獲されたシカ 捕獲後の状況 近づく際には次のことを確認すること ・周囲の安全確認 また、見回りに行く際は、鳥獣が捕獲されていることを想定して、わなに近づくようにしてください。 捕獲されている鳥獣に不用意に近づくと危険ですし、幼獣が捕獲された場合には、近くに親が潜んでいる可能性もあります。 設置したわなに近づく際は、安全な場所から捕獲の有無や周囲の状況を注意深く確認しながら近づくようにしてください。 特に、クマなどが生息している場所で捕獲を行う場合は、十分な注意が必要です。 見回りで、わなの周辺を確認する際は、対象鳥獣の痕跡だけでなく、対象外の鳥獣の痕跡の有無についても確認するようにしましょう。 捕獲してはいけない鳥獣や間違って捕獲されると危険な鳥獣の痕跡があれば、一旦捕獲を休止するなど、錯誤捕獲防止の対策をとってください。 このように設置したわなを毎日見回ることは捕獲や安全確保のために必要なことです。設置するだけでなく、必ず毎日見回りをするようにしましょう。 近づく際には次のことを確認すること ・周囲の安全確認 ・くくられた足・根付の確認

6.3.2 捕獲された後の鳥獣に関する注意 しっかりと鳥獣が拘束されているか確認す る 一般の人が近づく危険も想定する テキスト 101ページ 6.3.2 捕獲された後の鳥獣に関する注意 しっかりと鳥獣が拘束されているか確認す る 一般の人が近づく危険も想定する 自分が近づく時にも細心の注意を払う ※ わなの選定、設置場所、設置方法など準備段階 から注意をする 次に、捕獲された後の鳥獣の注意です。 わなの捕獲においては、逃げようとする動物をきちんと拘束できるかどうかが、重要なポイントになります。 特に、大型鳥獣では、人が近づいたときに暴れて、わなの拘束が外れ、人に怪我を負わせてしまうこともあります。 捕獲従事者が止めさしのために近づく場合も注意が必要ですが、一般の人が不用意に近づく危険も想定しておく必要があります。 捕獲後の鳥獣を確実に拘束し、周囲の人や従事者の安全や止めさし時の安全を確保するには、わなの種類の選定や設置場所の選定、設置の方法など、準備段階からの注意が重要です。 このように、捕獲された後の鳥獣は、しっかりと拘束されていれば安全ですが、そうでない場合には危険性が高いということを強く意識してください。

保定作業 ・2人以上で、動物が動ける範囲を計算して 保定作業を行う ・斜面の場合は上方から近づく 捕獲後の状況 (左の画像) これはシカの保定作業です。 このように保定作業は2人以上で行いましょう (右の画像) 保定作業の際には、斜面の上方から近づくようにしましょう。 止めさしはわなによる捕獲においてもっとも危険な作業ですので、しっかりと安全を確保してください。

6.3.3 わなの選定 対象動物をしっかりと拘束できる機構や強度を持っ たわなを選ぶ 安全に操作や管理ができるものを選ぶ テキスト 102ページ 6.3.3 わなの選定 対象動物をしっかりと拘束できる機構や強度を持っ たわなを選ぶ 安全に操作や管理ができるものを選ぶ 現時点では、わなの強度や仕様について、対象動 物ごとに明示できる基準はない →経験則に基づいて判断することと、各事業者の報 告に基づき客観的な情報を蓄積することが重要 先ほど、捕獲後の鳥獣を確実に拘束し、周囲の人や従事者の安全や止めさし時の安全を確保するには、わなの種類の選定や設置場所の選定、設置の方法など、準備段階からの注意が重要だという話をしました。 そこで、わなの選定について見ていきましょう。 わなの選定で重要なことは、対象鳥獣をしっかりと拘束できるわなを選ぶことです。 わなの強度には明確な基準がない、というのが現状です。わなを購入する際には、メーカーに対象鳥獣を伝えるなどして、強度や使用実績についての確認してください。 また、わなごとに特徴などが異なる場合も多いので、マニュアルの有無などについても確認しておくと良いでしょう。 重い扉を使用した箱わなや囲いわななどでは、足や体が挟まった場合に大きな事故につながる危険性がありますので、足詰め防止機能や人が扉の下にいる時にはわなが作動しない安全装置が備わっているものを選んでください。 ここでも対象鳥獣によって、どのわななら大丈夫という確固とした基準はありません。 したがって客観的なデータを蓄積し、こうした基準をつくっていくことも認定鳥獣捕獲等事業者の重要な役割です。 また、わなに用いる材料は、野外での設置や使用により強度が劣化していくことにも注意が必要です。 例えば、くくりわなで一度使ったワイヤーは強度が落ちますので、新しいものに交換するなど、常に損傷や劣化の程度を点検したり、正常に動作することを確認して、安全の確保に努めてください。 このようにわなには明確な基準が少ないのが現状ですが、安全確保のために十分注意してわなを選定してください。

6.3.4 わなの設置場所の選定 (運用面) 捕獲しやすい場所 見回りのしやすい場所 処分、搬出がしやすい場所 テキスト 102ページ 6.3.4 わなの設置場所の選定 (運用面) 捕獲しやすい場所 見回りのしやすい場所 処分、搬出がしやすい場所 土地占有者の承諾が得られる場所 (安全面) 一般の人があまり出入りしない場所 標識等により設置がわかりやすい場所 見通しが良い場所 など ここでは、準備段階に注意が必要な項目のうち、わなの設置場所の選定について見ていきましょう。 わなは、対象鳥獣がよく出没する、捕獲しやすい場所に仕掛けるのが基本です。 ただし、毎日見回りする必要があるので、見回りのしやすさも考慮する必要があります。 また、安全面では、一般の人があまり出入りしない場所や近づきにくい場所、人が近づく場所であっても標識等によりわなが設置してあることがわかりやすい場所を選定してください。 わなの設置場所は、わなの種類の選定とも関連します。 鳥獣は人が近づくと興奮し暴れることがあるため、人が近づきやすい場所では、捕獲された鳥獣が動くことのできるくくりわなは避けるべきです。 箱わなや囲いわなの場合でも、人が近づきやすい場所では強度に注意しましょう。 見回りの際には、捕獲従事者が安全な場所から捕獲の有無を容易に確認でき、不用意に捕獲された獲物に近づくことがないよう、見通しがよいところに設置することも重要です。 また、捕獲された際には、殺処分や搬出をする必要があります。安全に殺処分の作業ができる足場やスペース、殺処分した個体を搬出するルートが確保できる場所を選んでください。 わなを設置する場合は、土地の占有者に、十分な説明した上で、承諾を取ることも重要です。 わなに近づく可能性の高い人への注意喚起や説明も、必要に応じて適切な方法を選んで行いましょう。

見通しの悪い場所にわなを設置すると 危険が増す 見通しの悪い場所にわなを設置すると 危険が増す これは見通しの悪い場所にわなを設置した場合の危険性をあらわしたイラストです。 クマなど対象外の鳥獣が生息している場所では注意が必要です。子グマがわなの近くにいて、周囲に親グマがいる場合などは、見通しが利かないことで大きな危険につながることがあります。 わなの設置場所によっては一般の人に危害が加わる可能性もありますので、安全を確保するためにもわなの設置場所の選定には十分な配慮しましょう。

6.3.5 わなの設置方法 箱わなや囲いわなは適切に組立て動作確認をする テキスト 103ページ 6.3.5 わなの設置方法 箱わなや囲いわなは適切に組立て動作確認をする イノシシのような土を掘る対象に対しては、床面と 壁面の接続部を補強する くくりわなはワイヤーの端をしっかりと固定する 事業者の名称を書いた標識を、見やすい場所に設 置してください。 ここでは、準備段階に注意が必要な項目のうち、わなの設置方法についてみていきましょう。 適切なわなを選び、適切な場所に仕掛けたとしても、設置の仕方が適切でなければ捕獲した鳥獣の拘束が外れてしまうことがあります。 箱わなや囲いわなにおいては、マニュアルに従い、しっかりと組み立てること、扉の動作確認などをきちんと行うことが必要です。 イノシシなど地面を掘って逃走しようとする鳥獣を捕獲する場合には、床面と壁面の接続部を補強するなど、あらかじめ対策を講じておきましょう。 くくりわなにおいては、ワイヤーの端を丈夫な立木や構造物に固定してください(根付け)。 捕獲等しやすい場所でも、しっかりと固定するものがない場合は、捕獲できません。強度が弱いものに固定してしまうと、捕獲した鳥獣に逃亡されたり、事故の危険が高くなります。 このように、鳥獣をしっかりと捕獲し、安全を確保するためにもわなの設置方法には注意してください。

6.3.6 毎日の見回りの徹底 捕獲個体を早期に発見し、適切に処理することで安 全性を確保する 捕獲効率の向上のためにも、見回りは必要 テキスト 104ページ 6.3.6 毎日の見回りの徹底 捕獲個体を早期に発見し、適切に処理することで安 全性を確保する 捕獲効率の向上のためにも、見回りは必要 わなに近づく際は、捕獲された鳥獣に注意が必要 錯誤捕獲の防止のためにも、見回りを徹底する。 わなを適切に設置したら、わなの見回りを毎日することも安全確保のためには必要なことです。 鳥獣が捕獲された場合にも、長く放置しておくと暴れて周辺に害を及ぼしたり、逃亡の危険が高まりますし、捕獲した鳥獣を放置しておくことは、いたずらに鳥獣に苦痛を与えることになります。捕獲後できるだけ速やかに処理するためにも、毎日の見回りを確実に行うことが重要です。 また、餌を使うわなでは、捕獲の効率を上げるために、毎日新鮮な餌を補充して誘引することや、わなへの誘引の状況を、餌の減り具合や足跡などで確認することが重要です。 餌を使わないくくりわなでも、足跡などの痕跡を確認しながら設置場所の変更を検討したり、風雨等で露出したわなを埋め戻すなどの作業をきちんと行うことが捕獲効率の向上につながります。  

見回りで改善が必要 ← 露出したわな 作動しないわな ↓ 左の写真を見てください。    ↓ 左の写真を見てください。 赤い点線が囲まれた部分をよく見ると、わなが風雨などで露出した状態になっています。 また、右の写真を見てください。 黄色の矢印のところにわながありますが、風雨などでわなの中の土が固まっています。 これではわなは正常に稼働しません。 このような状態にならないためにも、毎日の見回りが必要です。

6.3.7 止めさしの方法 止めさしの際は、危険性が高い 止めさしは必ず2人以上で作業する 状況に合った適切な止めさし方法を選択する テキスト 104ページ 6.3.7 止めさしの方法 止めさしの際は、危険性が高い 止めさしは必ず2人以上で作業する 状況に合った適切な止めさし方法を選択する くくりわなでは必ず斜面の上方から近づく 捕獲個体の動きを、確実に保定して行う 相手の動きをよく見極めて対処する 初心者は、経験者の処置を十分に 見学してから実施する。 わなによる捕獲で最も注意が必要なのは、わなが作動するときと、捕獲された後の鳥獣による危害、殺処分のときだという話をしました。 そこで、殺処分、止めさしの方法について見ていきましょう。 捕獲された鳥獣は、人間を見ると逃げようとして暴れることがあるので、止めさしのために近づくときには、最も注意が必要です。 まずは離れた安全な場所から、捕獲個体が十分に拘束されているか、わなが壊れたり、鳥獣を拘束しているワイヤーや足が切れそうでないか、鳥獣が過剰に興奮していないかなどを確認して、状況に合った適切な止めさし方法を選択するようにしてください。 とくに、くくりわなで鳥獣を捕獲した場合は、万が一わなによる拘束が外れた時の危険性を考えて、必ず斜面の上方から近づくようにしてください。 そして捕獲個体の止めさしを行う場合は、必ず2人以上で作業をするようにします。 銃器によって止めさしを行う場合は、銃器を発砲する場合の基準を満たすことが必要です。 特に、止めさしの際は、至近距離で射撃することが多いので、背後や周辺に人や施設がないことを確認し、跳弾や貫通弾には十分注意してください。 刃物など、銃器以外での止めさしは、対象鳥獣を動けなくしてから、行うことで安全を確保します。 わなでは動きを止めるための方法がいろいろありますが、その際には危険性が高いので、捕獲個体の動きをよく見て対応する必要があります。

6.3.8 錯誤捕獲の危険性への対応 錯誤捕獲を防ぐ方法 ・わなの形状や作動条件等を工夫する ・餌を使う場合は、餌の種類を工夫する テキスト 105ページ 6.3.8 錯誤捕獲の危険性への対応 錯誤捕獲を防ぐ方法  ・わなの形状や作動条件等を工夫する  ・餌を使う場合は、餌の種類を工夫する  ・日々の見回りで対象外種の接近を事前に察知する 万一、錯誤捕獲が起こった時の対応  ・対応方法を、あらかじめ発注者と取り決めて置く 対象鳥獣の捕獲効率を高める上でも、他の鳥獣への負荷や事故発生の危険性を最小限に抑える上でも、錯誤捕獲を防ぐことは重要です。 錯誤捕獲を防ぐ方法のひとつに、対象鳥獣の身体的な特徴に応じて、わなの形状、作動条件を工夫する方法があります。 餌を使って捕獲するわなでは、餌の種類を工夫することで錯誤捕獲を防止できることがあります。対象鳥獣の食性や嗜好性を学ぶことで、より効率的に対象鳥獣だけを捕獲できるようになります。 また、上述した「毎日の見回りの徹底」も錯誤捕獲の予防には効果的ですので、見回りは徹底してください。 しかし、これらの工夫によっても、完全に錯誤捕獲を防ぐことは難しいです。 したがって錯誤捕獲があった場合の準備や体制をあらかじめ整えておくことが重要です。 安全を確保するために、錯誤捕獲が起こらない工夫と、万が一起こった場合の対応を事前に準備しておきましょう。

6.3.9 捕獲期間終了後や捕獲しない期間 のわなの取扱い テキスト 106ページ 6.3.9 捕獲期間終了後や捕獲しない期間 のわなの取扱い 捕獲を終了するときは、わなを確実に撤去する。 捕獲を中断する場合で、設置しておくことが可能な 場合も、確実に動作しないように固定し、関係者以外 が操作できないようにする 最後に、捕獲事業終了後や捕獲をしない期間にわなをそのままにしておくことは、危険が伴いますので、安全の確保を行ってください。 使用しないわなは撤去するのが基本ですが、囲いわなや箱わななどについては、移動が困難であったり、再稼動の予定があるため、設置したままにする場合があります。その際は、わなが作動しないように扉を閉めてください。 人の出入りのある場所では、南京錠などで扉を固定したり、扉をはずして持ち帰るなど、関係者以外に操作されないようにしてください。 以上のように、わなによる捕獲を行う際に必要となる安全の確保には様々なものがあります。 これらをしっかりと守り、各自安全の確保に努めてください。

テキスト 107ページ 最後に巻末の事故事例を確認し、 安全確保に努めてください

2日目終了 写真・イラスト・動画 提供 兵庫県森林動物研究センター・香川県