医療安全管理部門の基本的活動は何か? -医療事故調査の方法を含む 医療安全基礎講座2014 医療安全管理部門の基本的活動は何か? -医療事故調査の方法を含む 福井大学医学部 国際社会医学講座 医療倫理・医療安全学領域 井隼彰夫
安全とは何か 広辞苑: 安らかで危険のないこと。平穏無事 物事が損傷したり危害を受けたりするおそれのないこと JIS規格:(製品や機械等の人工物に対する安全) 人への危害または損傷の危険性が許容可能な水準に抑えられている状態 ISO/IECガイド51(国際安全規格をつくるためのガイドライン) 受容できないリスク*がないこと (リスク*=危害の発生確率 X 危害のひどさの組み合わせ)
毎日、リスクの環境下で生活 9.11 朝食の準備中に包丁で指を切る。 玄関で足が滑って転倒する。 エレベーターが途中で止まる。 毎日、リスクの環境下で生活 9.11 朝食の準備中に包丁で指を切る。 玄関で足が滑って転倒する。 エレベーターが途中で止まる。 通勤途中に交通事故に会う。 火災、地震、津波、犯罪・テロ・・・・・・・・・・・・・・・ ひとたび発生すると、 障害が発生し、生命・日常 生活に重大な支障を来す 可能性がある 3.11
安全とリスク そもそも絶対的安全などは存在しない *原発の安全神話の崩壊 常に存在するのはRiskである *原発の安全神話の崩壊 常に存在するのはRiskである 危険を的確に予測し、確実に防止すること が安全である 安全は待っていても得られない 一人一人が協力して創りだすもの Risk:事故発生の可能性(リスクマネージメント論)
安全のルーツは? 安全は事故の教訓から生まれた 安全は事故防止のために生まれた #労働災害から労働安全 #交通事故から交通安全 #労働災害から労働安全 #交通事故から交通安全 #そして、医療事故から医療安全 安全と事故とはまさに表裏の関係 安全の歴史はまさに事故の歴史
我が国の医療安全の誕生 重大な医療事故の発生が契機 医療事故 社会問題 医療安全 1999.1.11
1999.1.11 医療界を震撼させた医療事故 横浜市立大学附属病院第1外科 心臓手術患者と肺手術患者を取り 1999.1.11 医療界を震撼させた医療事故 横浜市立大学附属病院第1外科 心臓手術患者と肺手術患者を取り 違えて手術しICUで二人の取り違 えに気付く 1月13日新聞が事故を報道 病院は看護師が引き継ぎミスを犯 したことが原因と発表 事故調査委員会が報告書を発表 1.11
大学病院における医療事故報道 (特定機能病院) H11.01 横浜市大 患者取り違え 11.02 京大 輸血ミス発覚 11.10 東大 手術部位の左右間違い(顔面) H12.02 京大 エタノール誤注入(人工呼吸器) 12.04 東海大 経口投与剤静注 12.05 東京医歯大 鎮静剤過量投与 患者・国民の信頼を失う
国立大学付属病院長会議の取り組み H 11.07 医療事故防止対策についての検討を開始 (作業部会) H 12.05 中間報告 (作業部会) H 12.05 中間報告 -医療事故防止のための安全管理体制の確立について- H 13.06 最終報告 医療事故防止のための安全管理体制の確立に 向けて(提言)
医療の安全確保のための戦略 最終報告による提言- 「人間は誰でも間違える」が大前提 To Err is Human ・病院内緊急総点検 ・「個人の問題」から「組織の問題」へ ・インシデントレポートの活用 ・事故防止委員会の設置と リスクマネージャーの任命 ・患者への説明 ・社会に対する説明(公表) ・マニュアル作成 ・病院間相互チェック 米国医療の質委員会1999.11
医療事故に対する厚生労働省の対応: 2001.3 患者安全推進年 2001.4 医療安全推進室設置 2002.4 医療安全推進総合対策 2001.3 患者安全推進年 2001.4 医療安全推進室設置 2002.4 医療安全推進総合対策 【医療安全管理者】 医療機関の管理者から安全管理のために必要な権限の移譲と、 人材、予算及びインフラなどの必要な資源を付与されて、組織 管理者の指示に基づいてその業務を行うもの 2002.10 医療法施行規則改正 医療機関における安全管理体制の強化 2004.10 医療安全管理体制未整備減算 2006.4 医療安全対策加算の新設
医療安全対策加算とは? 国(厚生労働省)主導 組織的な医療安全対策を実施している保険医療機関を評価する目的 診療報酬上のインセンティブ A234 医療安全対策加算(入院初日) 1 医療安全対策加算1 85点 2 医療安全対策加算2 35点
医療安全対策加算とは? 厚生労働大臣が定める組織的な医療安全対策に係る施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関に入院している患者について、当該基準い係る区分に従い、入院初日に限りそれぞれ所定点数に加算する。 医療安全管理者(看護師、薬剤師等)の配置 「1」は専従(兼任不可) 「2」は専任(兼任可)
組織的な医療安全対策とは? 医療安全管理部門に所属する医療安全管理者が、医療安全管理委員会と連携しつつ、当該保険医療機関の医療安全に係る状況を把握し、その分析結果に基づいて医療安全確保のための業務改善等を継続的に実施していることをいう 必要要件: ① 医療安全管理委員会との連携 ② 医療安全の状況把握と分析 ③ 医療安全確保のための業務改善(継続的)
医療安全対策加算の施設基準 (1)医療安全管理体制に関する基準 (2)医療安全管理者の行う業務に関する基準 (3)医療安全管理部門が行う業務に関する基準
(1)医療安全管理体制に関する基準 ①当該保険医療機関内に、医療安全対策に係る適切な研修を修了した専従(あるいは専任)の看護師、薬剤師その他の医療有資格者が医療安全管理者として配置されている 適切な研修とは? 1.国及び医療関係団体が主催するもの 2.医療安全管理者としての業務を実施する上で必要な内 容を含む通算して40時間以上又は5日程度のもの 3.研修内容とは?
研修内容 ①医療安全の基礎的知識 ②安全管理体制の構築 ③医療安全についての職員に対する研修の 企画・運営 ④医療安全に資する情報収集と分析 企画・運営 ④医療安全に資する情報収集と分析 ⑤対策立案、フィードバック、評価 ⑥事故発生時の対応 ⑦安全文化の醸成等
1)医療安全管理体制に関する基準 ②医療に係る安全管理を行う部門(医療安全管理部門) を設置している ②医療に係る安全管理を行う部門(医療安全管理部門) を設置している ③医療安全管理部門の業務指針及び医療安全管理者 の具体的な業務内容が整備されている ④医療安全管理部門に、診療部門、薬剤部門、看護部門 事務部門等のすべての部門の専任の職員が配置され ている ⑤医療安全管理者が、安全管理のための委員会と連携し、 より実効性のある医療安全対策を実施できる体制が整 備されている ⑥当該保険医療機関の見やすい場所に医療安全管理者等 による相談及び支援が受けられる旨の掲示をするなど、 患者に対して必要な情報提供が行われている
(2)医療安全管理者の行う業務に関する基準 ① 安全管理部門の業務に関する企画立案及び評価を行う ② 定期的に院内を巡回し各部門における医療安全対策の 実施状況を把握・分析し、医療安全確保のために必要な 業務改善等の具体的な対策を推進する ③ 各部門における医療事故防止担当者への支援を行う ④ 医療安全対策の体制確保のための各部門との調整を行う ⑤ 医療安全対策に係る体制を確保するための職員研修を企 画・実施する ⑥ 相談窓口等の担当者と密接な連携を図り、医療安全対策 に係る患者・家族の相談に適切に応じる体制を支援する
(3)医療安全管理部門が行う業務に関する基準 ①各部門における医療安全対策の実施状況の評価に基づき、医療安全確保のための業務改善計画書を作成し、それに基づく医療安全対策の実施状況及び評価結果を記載している ②医療安全管理対策委員会との連携状況、院内研修の実施、患者等の相談件数及び相談内容、相談後の取り扱い、その他の医療安全管理者の活動実績を記録している ③医療安全対策に係る取組みの評価を行うカンファレンスが週1回程度開催されており、医療安全管理対策委員会の 構成員及び必要に応じて各部門の医療安全管理の担当者が参加している
薬剤投与時の事故(ショック状態)対応 (1)患者の救命処置 (2)応援依頼:救急コール (コードブルー、ファーストコール等) (コードブルー、ファーストコール等) (3)薬剤部に薬剤情報を確認(薬剤除去、中和薬剤投与等) (4)所属リスクマネージャーに連絡 (5)医療安全管理部に連絡 (6)患者・家族への事実関係の説明・謝罪 (7)診療録への事実の記載 (事故発生時の事実、患者状態、患者・家族への説明内容等)
緊急時の対応後の次のステップ 『事件は現場で起こっている』 根本原因分析(RCA等)と再発予防対策 ①有害事象(事故)は、まさに医療現場で発生している。 『事件は現場で起こっている』
②該当部署が主体的に原因分析し再発防止対策を立案 すべきである。 ③医療安全管理対策委員会構成員の意見も聞き、幅広い 視野から検討し、実行可能な対策にする必要がある。 ④週1回の定期カンファレンスは再発防止対策の有用性、 妥当性を吟味する場として有効に利用すべきである。 ⑤医療安全管理部門による実施状況のモニタリング、一定 期間後に有効性の検証が不可欠 ⑥再発防止対策のデーターベース化と一元管理(記録)
重大事故発生時には 原因分析と再発予防に関して: 院内事故調査委員会(外部委員を含む)の開催 (1)事故に至った詳細な時系列の記録 (1)事故に至った詳細な時系列の記録 (2)事故に関連する医療器具等の保全 (3)外部委員(専門家、有識者、法律家等)の人選 ①利害関係がないこと ②関連学会や国立大学附属病院医療安全管理 協議会に適切な委員の斡旋を依頼
医療安全管理対策委員会との連携: ①毎月定期的に委員会を開催 ②院内で発生した有害事象等の情報提供 ③研修会等の企画、マニュアル改正案の審議、 修正の後、承認を受ける ④リスクマネージャーへの周知事項の決定 ⑤委員の出席状況の記録と委員会議事録作成 (医療監視の際に提示が求められる)
院内研修の実施: ①医療法では年2回程度と記載されている ②全職員が対象のため、参加率向上のためには 複数回(>2回)の開催が必要となる現状 複数回(>2回)の開催が必要となる現状 (1)出席し易い開催日時の設定 (2)興味ある研修内容の選択(外部講師の人選) (3)eラーニングの手法等の導入(阪大病院等) ④研修会開催記録: 開催日時 参加者氏名 研修内容等
患者窓口相談: 時にクレームから医療安全に繋がる事例も見受けられる 記録すべき内容: ①相談件数 ②相談内容 ③相談後の取り扱い ④医療安全管理部門との連携状況
その他の医療安全管理者の活動実績 活動内容の詳細な記録 医療安全管理日誌(日報)の形態で記録する ことが推奨される ①定期的院内巡回(院内パトロール) ②有害事象報告時の現場調査 ③当事者からの聞き取り等 ③各部署からの相談、患者クレームの相談等 医療安全管理日誌(日報)の形態で記録する ことが推奨される
定期カンファレンスの開催 (1)参加メンバーの事前割り振り(当番制)で出席 を容易に(業務調整が可能) (2)カンファレンス記録: を容易に(業務調整が可能) (2)カンファレンス記録: ①開催日時 ②参加者氏名 ③検討事例等
①オカレンス報告を受けての対応: 電子カルテを開き該当患者のモニタリング開始 事故発生場所の検証と関係者の聞き取り調査 電子カルテの記録内容の検証 関連医療器具等の保全(必要時) 影響度3b以上の事例の場合には: 医療安全管理部長・病院長へ報告(24時間体制) 重大事故の場合には: 日本医療機能評価機構等、法令上の報告義務がある関係機関へ速やかに届け出
②各種委員会・定例カンファレンス等の開催 1.医療安全管理委員会 2.医療安全管理部会 3.リスクマネージャー会議 4.定例カンファレンス(週末) *影響度3b以上の場合: 5.緊急性判断会議# 6.オカレンス審議委員会 **病院の過失が疑われる場合: 7.医療事故調査専門委員会 #病態が重篤でチーム医療が必要と判断: 病院長主導院内横断的治療チームの編成
③医療安全に係る研修会の開催 研修会の年間スケジュールの企画 研修会開催の周知(各種委員会、ポスター掲示、 院内一斉メール等) 院内一斉メール等) 不参加者への対応策: 名札シール発行(参加状況の可視化) イエローカード発行 電話作戦(参加要請アピール)
④各種医療安全活動の実施 医療安全月間(11月)の活動(感染制御部と合同) 院内展示: 安全標語・安全川柳、各部署の安全対策紹介 心肺蘇生・AED講習会、感染対策(手洗い法) 患者、医療者アンケートの実施 アンケート集計・分析結果を全職員にフィードバック
⑤患者相談窓口との連携 定例の患者相談窓口の連絡会議へ出席(GRM) 情報収集 医療安全に係る事例の場合: ①メディエーターとの連携 ②事実確認 ③早期対応
⑥医療安全・質向上のための相互チェック 訪問大学 率直に問題点を指摘 優れた取り組みを学び、自院でもトライ 佐賀医大 愛媛大学 新潟大学 京都大学 東北大学 香川大学 広島大学 山口大学 率直に問題点を指摘 優れた取り組みを学び、自院でもトライ
医療事故調査の方法 きわめて重大な有害事象が発生した場合には、その原因分析と再発予防に関して、既に院内に取り決められている手順にのっとって、院内事故調査委員会を開催する必要がある 医療事故には必ず医療者個人の関与があるが、医療者個人の過失として個人の責任を追及したのでは病院組織としての真の問題解決とはならない 「who?」ではなく「why?」事故が発生したのかを究明し、再発防止対策を提言する委員会であることをしっかりと認識しなければならない
調査の方法(1) 事故の連絡を受けた場合: ①初期情報の収集(急務) ②医療安全管理者(GRM)は速やかに現場に赴い て現場を検証 ②医療安全管理者(GRM)は速やかに現場に赴い て現場を検証 ③事故に係る医療者等のリストアップ ④関係者にメモの作成依頼 (記憶の確かな早い段階で) ⑤関係する医療機器・物品、監視カメラ映像の保全 ⑥必要な検体の保存
調査の方法(2) ①各種医療機器からの情報*抽出をME管理部等に依頼(記録が自動消滅する前に) *患者の生体情報、医療機器の作動記録 *患者の生体情報、医療機器の作動記録 ②関係者の聞き取り調査: 複数の担当者で実施 調査目的の説明 発言内容の記録(ICレコーダー等)の承諾 発言により不利益は受けない旨の宣言 十分な倫理的配慮の下に実施すること
調査の方法(3) ①関係者全員からの聞き取り調査終了後、診療 録の記載内容と対比させ情報の統合作業 ②最終的には、時系列相関図の作成 録の記載内容と対比させ情報の統合作業 ②最終的には、時系列相関図の作成 ③事故に至る経緯が理解し易い形に整えて事故 調査委員会の委員に情報提供
調査の方法(4) ①医療事故調査委員会の開催は、外部委員の 決定後、日程調整を行い可及的速やかに実施 決定後、日程調整を行い可及的速やかに実施 ②各委員からの疑問点の指摘があれば、再度関 係者から追加の聞き取り調査を実施 ③複数回の委員会開催で十分な審議 ④最終的には、医療事故調査報告書を作成 ⑤報告書(案)の加筆修正後、委員全員の承認 で完成
医療事故調査報告書の様式 内容: ①委員会の設置目的 ②委員構成(氏名公表には委員の承諾が必要) ③委員会開催日時 ④事故に至る診療経過 ⑤事故発生時の対応 ⑥発生要因とその検証 ⑦再発防止策の提言
事故調査報告書完成後 患者側への説明会の開催 報告書の内容説明 記載内容公表について了解を得る (プライバシーに十分配慮した上で) (プライバシーに十分配慮した上で) 公表は病院として説明責任を果たすのみでなく、我が国の医療機関に向けて広く情報発信するこ とで類似の事故の再発予防策として役立つ
医療事故に係る調査の仕組み
医療事故に係る調査の仕組み 今後、医療事故に係る調査の仕組みが法制化 (医療法)されると、医療事故が発生した医療 (医療法)されると、医療事故が発生した医療 機関において院内調査を行い、その調査報告 を民間の第三者機関(医療事故調査・支援センター)が収集・分析することになる。 新制度の下、この院内事故調査委員会の果た すべき役割はますます大きくなると思われる。
医療安全川柳 思いやる心重ねてミス防ぐ